ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
私が浦の星女学院に入学した時、やるべきこととやりたいことは決して一致していなかった。
意図的に目を逸らしていたし、諦めてもいた。
後悔と懺悔の日々。私には青春を華やかに送る資格など無い。そう自らの心に蓋をして。
それを引き上げてくれたのは間違いなく千歌先輩を筆頭とするAqoursのお陰だった。
何もAqoursのみんながずっと先にいた訳ではない。やりたいことはあっても、みんなはやりたいことが何か見えていたとは言えないし、迷わなかった訳でもない。でも、諦めなかったし目を背けなかった。
そんな姿に勇気を貰った。いや、私だけではないだろう。学校のみんなが勇気を貰ったはずだ。
その勇気が伝播して私は私の心に向き合えたし、外にも目を向けることが出来た。
だから今、私はこうして素直に言葉を出せるのだ。
「私からAqoursに依頼があります」
沼津駅の程近く、プラザヴェルデの中にある練習スタジオにお邪魔した私は、Aqoursがラブライブ決勝に向けての練習していると知りながらもそう切り出した。
「どうしたの?改まって」
「曲を完成させたいんです」
「穹さんに聴かせる曲ね」
先が見えなくても踏み出すこと、自分の無力を見つめること、道は一つじゃないと探すこと、心に沸き上がる情動を知ること、多様性を認めること、過去を見つめ直すこと、輝きを探すこと、諦めないこと、夢を叶えること。Aqoursと共に過ごした全部、全部を経て私はようやく、一つの曲を紡いだ。けれど、それはどうしても私だけの曲である筈が無かった。当然だ。これだけ多くのことを共有したから。それを踏まえたこの曲が私だけのものである筈がない。
「お願いしたいのは歌唱部分です」
私は自分の一番のパフォーマンスはハーモニカとタップダンスだ。当然、穹の前で私が直に披露するのはそれになるのだが、その都合上どうしても歌を一人では賄えないのだ。そして、この曲をにはどちらが欠けても足りない。
「ラブライブ決勝に向けて余計なことをしている時間は無いとは承知しています」
お願いします、と私は頭を下げた。
空気を読んでいないし、Aqoursとしての活動からすれば邪魔になるのも分かっている。
「それでも・・・・・・お願いします」
力を貸してください、と頼った。
これまで自分の力で何とかしようとしていた。一昨年の私が相方にすら相談しなかったように、引っ越してきてAqoursのみんなと出会ってからも、こと音楽に関しては何だかんだで自分の領域から出ていなかったと思う。だからいくら作曲しても腑に落ちない感覚が常に付きまとっていた。
でも私は漸く、仲間を頼れるようになった。
私の音楽は私だけのものじゃない。沢山の人の、沢山の音楽から影響を受けて形になっているのだ。閉校祭の時、みんなと“勇気はどこに?君の胸に”を歌って漸く気付いたのだ。
「星ちゃんはどうしたいの?」
千歌先輩からの問い掛けに私は本音で答える。
本気をぶつけ合わなければ手に入らないものがあるから。
「私の・・・みんなと作った音楽を届けたい、穹を驚かせたい」
「穹ちゃんがそれでも星ちゃんとは音楽を続けられないっていったら?」
重ねられる問い掛けに私もまた重ねて答える。
「それでも音楽から、穹から逃げません」
雨が降っていたって歌っていればいづれは晴れる。夢の後にはまた別の夢があるように、穹との決着は終りであると同時に次への始まりなのだ。
私の答を聞いてみんなそれぞれどう感じたのかまでは分からない。けれど、決してそれは悪いようには捉えられていないと思う。
「珍しく星ちゃんが頼ってくれてるし、やろうか」
「仕方ないですわね」
「我がリトルデーモンの頼みとあらば応えるのが主の役目、くくっ」
「この堕天使ときたら」
「善子ちゃんらしいずら」
「それで、どんな曲なの?」
「これです」
私が録音した仮歌に合わせて私は演奏する。床を傷付けては行けないのでタップシューズは履いていないけれど、リズムは刻めるのでタップダンスも込みだ。
「上手く言えないんだけど、星ちゃんっぽいね」
「何だか見てると私もタップしてみたくなる」
「結構難しそうだけどね」
今の私の全て。それを詰め込んだ曲はだけれど、私にはやっぱり物足りなかった。今目の前にいるみんながいなければこの曲は完成しなかったし、完成しないのだ。
「改めて、宜しくお願いします」
「Aqoursとして、確かに引き受けます」
私の依頼に自称“一応リーダー”の千歌先輩は居住いを直してAqoursを代表してそう言った。
そういう切り替えの真面目なところが頼れるし、一応なんて言葉は不要だとは思うけれど。
「そう言えばこの曲って何てタイトルなの?」
「これはーーーーー」
曲名を聞くとみんな顔が綻んだ。何だか背中合わせみたいだね、と。