ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百五十一話

 私はいつから夢を見ているのだろうと現実を疑うような出来事が最近多々ある。それは本当に信じられない出来事が起きているからなのか、それとも私が現実を見切っていたからなのか?

 とにかく私はまた夢のような出来事の渦中にちいる。

 

「星!ぼさっとしてないで手を動かして」

 

「ごめんご、めんご」

 

 生徒が企画・立案して開催されることとなった閉校祭。その準備に駆り出され、今まさに入場門の設営をしているのだ。

 終わりをこんな風に前向きに迎えようとする気持ちは私では辿り着けなかった境地だ。そして、私自身、そうしたいと心から思えるようになっていたことに一番驚いている。

 自分達の気持ち、近隣の人など今まで関わってきた人達の気持ちを込めて開催される1日限りの祭。心の底から楽しみに思う自分がいるのだ。

 

「オッケー。固定完了」

 

 いつになく晴天のもと、季節に似合わず汗を掻きながらの力仕事はだが、誰一人として不平不満を漏らす人はいなかった。

 

「随分立派な門を作ったね」

 

「この学校でやり残しのないようにする。それが閉校祭のテーマだからね」

 

 これは統廃合が決定し、Aqoursが停滞した時に学校の皆で話したことの実現の機会だ。

 今回の閉校祭のプランはAqours主体ではないのもまた誇るべきことだと思う。

 最近はAqoursの活動ばかりに目が惹かれがちだけれど、浦の星女学院を想っているのは彼女達だけではない。そういう気持ちに溢れた企画は正式な形として全生徒の意見を集約し、理事長である鞠莉さんに提出され、晴れてゴーサインを貰ったのだ。だから誰もが主役で、誰もが誰かの脇役。そんなお祭りにしようと皆頑張っている。

 

「星ちゃんは何かやるの?」

 

「ふぇ?」

 

 ふと掛けられた言葉に私はただ戸惑うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が浦の星女学院生徒としてしたいこと。それはなんなのだろう?

 思えば私は音ノ木坂学院で穹としようとしていたことばかりに思いを馳せて今ここですること、したいことに目を向けていなかった。

 

「それで私に相談に来たって訳?」

 

「一番と言っていいくらいにこの学校の事を考えてる鞠莉さんなら適任かなって」

 

 私は理事長室の来客用ソファに座り、自分のデスクで書類に目を通している鞠莉さんを見上げた。

 折角なら私も楽しみたいのだけれど、どうにもフィルターが掛かったように良い案が浮かばないのだ。

 その点、鞠莉さんは自分のしたいことは即実行の人だ。良い案はともかくとして思考方法なんかでアドバイスが欲しい所だ。

 

「それは間違えてないけど、人に聞くことじゃないんじゃないかしら?」

 

「それはまぁそうなんですけど・・・」

 

「それに、私がしたいことは今もしている。それは分かってるでしょ?」

 

 はっきりと言葉として聞いたことはないけれど、鞠莉さんがこの学校を大切にする気持ちはダイヤさんや果南さんにあるということは分かる。そして、鞠莉さんが今みたいなことを言ったということは特に語るべきものは無いということなのだろう。

 

「分かりました。他を当たります」

 

 私は諦めて理事長室を出ると、三年生のクラスに向かった。

 道中、廊下のそこかしこに備品が転がっていたり、人が転がっていたりと、足元が油断ならないことになっていた。

 皆、自分のしたいことのため、誰かのしたいことのために力を尽くす。全校生徒がそうなっている学校など、他のどこにもないだろうなと思う。だから夢を見ているみたいに思うのだ。

 

「ダイヤさん」

 

 私は三年生の教室の入り口から中を覗き、クラスで一番髪の毛が綺麗なダイヤさんの後頭部を見つけ、早速声を掛けた。

 

「あら?星さん。どうされたのです?」

 

「ちょっと意見求むって感じなんですが・・・ちなみにダイヤさんは閉校祭で何かされるのですか?」

 

「ええ。折角ですので生徒会長という御役職も忘れて一スクールアイドル好きとして催しものをしようかなと」

 

 ダイヤさんは一年生の頃、そして今スクールアイドルとして活動しているけれど、一ファンとして気兼ねなく誰かと語ったりはしてこなかった。だからその反動なのだろう。というか、ルビィちゃんがダイヤさんと催しものをすると言っていたのを忘れていた。

 

「星さんは何をするのか決めてないのですか?」

 

「余り大きな声で言えないですが、何かをしたくて浦の星女学院に入学した訳ではなかったですからね」

 

「初めはそんなものですよ。閉校祭を企画してくださったこの学校の生徒の大半はきっと同じです。でも、きっと心のどこかにあったんです」

 

 子供の頃は出来るとか、出来ないではなく好きか嫌いかで夢を見た。でも成長するに連れて色々なことでその夢を信じられなくなるのだ。自分には無理だとか、他人と違う趣向だからと人目を気にしたり、受験勉強があるからとか。

 でも蓋をしても無くなる訳ではない。そして、形が変わったとしても望み、願いは誰にしもあるのだとダイヤさんは言った。

 

「星さんにもきっとあると、私はそう思います」

 

 そう言われると不思議とその通りなのかもしれないと思えてしまうのだから、我ながら単純なのかダイヤさんの説得力があるのか。

 

「ちょっと考えてみます」

 

 私は最後に一言、感謝の意を込めてこう告げた。

 

「ありがとう。ダイヤちゃん」

 

 呼び慣れないからか気恥ずかしさに私はそそくさと三年生の教室を後にした。

 去り際に三年生の教室の中から「ダイヤさん顔が赤いけど、大丈夫?」と聞こえた。

 私は少し考えを纏めようと勝手知ったる屋上に行こうと校内を歩く。

 大雑把に工程を思い出すけれど学校全般の設営をした後にクラス単位、生徒単位での設営をすることになっている。一年生のクラスは割と個人単位での出し物が多く、クラスとしては出し物が無いためこうして手が空いているのだ。

 勿論、誰かの手伝いをすることで自分の願望を成就させる人もいる。花丸ちゃんなんか良い例で、善子ちゃんの占いの館を手伝っている。私も手伝おうと思ったけれど、花丸ちゃんから「星ちゃんはもっと考えてから決めないと駄目ずら」と断られてしまった。

 はぁ、とため息を吐き出すとふと視界の隅に丸っこいナニかが通りすぎた。見たことがあるような、ないようなそれが気になったため、私はそのナニかの後を追うと、普段は使われていない空き教室にナニかは入っていった。

 あのドラえもんのように丸っこい、そして茶色いフォルムは我らが伊豆三津シーパラダイスのセイウチ型マスコットキャラクターこと、

 

「うちっちー?1号とか2号なんていたっけ?」

 

 がらり、と教室の扉を開けると中には丁度その着ぐるみの頭を脱いだ果南さんと曜先輩がいた。

 

「あれ?どうしたの星?」

 

「それはこちらのセリフです。どうしたんです、それ?」

 

 果南さんは苦笑いしながら説明してくれた。

 

「海を紹介したくてさ」

 

 果南さんは実家がダイビングショップ。その関係からか自身もまたダイビング、いや、海そのものが好きなのだ。だから海の魅力を直接紹介したくてクラスメートとかをダイビングに誘ったりとしてきたけれど、中々ハードルが高いようで、余り潜りに来てくれる人は少なかったのだという。そこて、誰にでも気軽に足を運べる海を教室に作ることにしたのだという。尚、うちっちーはその宣伝用だ。

 

「新旧うちっちーが見られるのは世界の海が広くてもここだけ、なんてね」

 

「曜先輩はどうしてまた?」

 

「三年生の三人が仲良すぎて忘れられがちだけど、果南ちゃんと私と千歌ちゃんは幼馴染なんだよ。それでね。私、千歌ちゃんと何かしたいって思ってたのと同じように果南ちゃんとも何かしたかったんだよね」

 

 けれど、実家の手伝いとかで中々その機会を得られなかったのだという。

 

「曜と千歌が梨子をダイビングに連れてきてくれた時とか、星が来てくれた時嬉しかったんだよ?」

 

「私も果南ちゃんと潜るの昔から好きだったし」

 

 自分の好きなことを広める。昔から好きなことのために協力する。それは悩んでいた私の心の水面に小さな波を起こした。

 

「何か少し分かったかも」

 

「星?」

 

「ありがとうございます」

 

 私はその思いつきに居ても立ってもいられず走り出した。

 そうだ。私にはずっと昔から好きなことがあった。それは自分だけで満足出来ることではなかった。誰かと共有したいことだった。

 例えそこに穹が居なかったもしても、それは私の中に確かに存在した。

 

「千歌先輩!」

 

 私は真っ直ぐ二年生の教室に飛び込むと太陽見たいな髪色の素敵な頼れる先輩を呼び掛けた。

 

「はぇ?」

 

「閉校祭のテーマソング」

 

 勢い余って言葉が続かなかったけれど、千歌先輩は驚いた顔をしたものの、力強く、うんと頷いた。

 

 

 


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