ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百四十八話

 地上に11人が作り出した星が舞い降りたその日、そこにいる筈のない人を見た。

 彼女は在りし日のように私に笑顔を向けているのだ。それは幻なのではないかと疑っても仕方ないだろう。

 

「幻じゃないよ、星」

 

 穹が、穹の顔で、穹の声で、私に語りかける。

 何故?一体どうして、と聞き出したいのに口も頭も回らない。

 

「難しいことはいいでしょ、別に。だって今日はクリスマスイブで明日はクリスマス。それ以外に理由がいる?」

 

 始まりを告げた夢の時間はどうやら私をも巻き込んで広がっていたようだ。

 完全に頭が真っ白になった私を他所に、ライブを終えた千歌先輩が私達に気付いて駆け寄ってきた。

 

「穹ちゃん。いらっしゃい」

 

「メリークリスマス、千歌さん。今日はお呼びいただきありがとうございます」

 

「突然ごめんね。遠かったでしょ。」

 

「いえ、沼津より寧ろ近いくらいに感じましたよ」

 

「む、それ沼津バカにしてる?」

 

「飛行機や新幹線とじゃ、バイクと比べ物になりませんよ」

 

 全然気付かなかったけれど、いつの間にか千歌先輩と穹は友好を深めていたようで、二人は普通に軽い口調で話している。

 どうやら今回の仕掛人は千歌先輩らしい。サプライズの共犯者が実はこんなサプライズを仕掛けていたとは、完全にしてやられた。

 

「その衣装とても素敵ですね。三角形を折り重ねたのは光が綺麗に反射するからですね。テレビの紙吹雪と同じ原理ですね」

 

「この衣装作りには星ちゃんも手伝ってくれたんだよね」

 

 へぇ、と意地悪く穹は笑うと挑発的に私に問う。

 

「人の手伝いする余裕あるんだ?」

 

「余裕は無い。けど、こういうの含めて音楽にしたいの。それにーーーー」

 

 Saint Aqours Snowが披露した“Awaken the power”は可能性を見せてくれた。「ほら、距離だって、グループだって、飛び越えられるんだよ」って言っているかのように感じた。だからインスピレーションはどんどん湧いている。後は形にするだけだ。

 私は率直に穹へと伝えると、穹は数瞬だけ試すように私を見詰めていたけれど、納得したように頷いた。

 

「そうでないと。なら一つ教えてあげるよ」

 

 今の私を、と穹は背負ったいたギターケースからギターを取り出し、演奏を始めた。特定の曲というわけではなく、即興での演奏だ。

 

「スラム奏法・・・」

 

 簡単に例えるなら演奏にギターを叩く要素を取り入れ、ドラム的な音を取り入れた奏法だ。これをすることで、音に多様性が生まれ、リズミカルになるのだ。ただ叩けば良いというわけではなく、力加減やタイミングが難しく、少なくとも私の知る穹はそれをしたことはなかった。

 

「どう?」

 

「ブラボー」

 

 まさか修得していたとは言葉もなかった。当然だけれど、私の知らない間に穹もどんどん上達しているのだ。

 

「あんたが居なくなったからね。リズム取る必要があったのよ」

 

 けれど、その上達の理由は私には後ろめたいものだった。

 

「サプライズ成功だったかな?」

 

 そんな微妙な空気を感じたのか千歌先輩が話題を変えるように尋ねてきた。

 

「これ以上ないくらいに」

 

 私はありがたくそれに乗っかると穹もまた会わせてくれた。

 

「本当、サプライズ過ぎですね。地方都市の地域振興イベントでこんなに人が集まるなんて」

 

 そう言って穹は周りを見渡す。

 若い人もお年寄りも、男の人も女の人も、もしかしたらどちらでもない人だっているかもしれない。ボーダーレスでこのイベントは成り立っている。

 もちろん、クリスマスイルミネーションを見に来た人も居るだろう。けれど、先程の“Awaken the power”の熱に浮かされている人も見受けられる。

 

「お姉さん楽器できるの?」

 

 穹がギターを持っているからか、熱に浮かされているか、幼稚園児くらいの女児が興味津々に穹に喋り掛けてきた。

 穹もまたしゃがんで目線を合わせてうれしそうに返事をした。

 

「弾けるよ。バッチリ弾ける。聴きたい?」

 

「いいの!?」

 

「いいの。子供は遠慮しちゃいけないよ」

 

 そう言って穹は立ち上がると私に目配せした。

 やれと、そう言っているのか?本気か、といぶかしんで身動きが取れなくなると、千歌先輩がそっと背中を撫でてくれた。

 

「今日は夢が叶っても良い日だよ」

 

「良い子じゃないとサンタさんは来ないですよ」

 

「サンタさんが来ないなら、代わりに私達が届けるよ」

 

 撫でていた手は気合いを入れるようにポンと背中を押して離れた。けれど、じんわりと残る温かさが力を貸してくれる。

 私は手袋を外してポケットに捩じ込むと代わりにハーモニカを取り出した。

 

「準備は良いね?」

 

「OK。どんな曲だって合わせてみせる」

 

「いいね。なら、行くよーーーーーー」

 

 軽快に掻き鳴らすそれは“シュガーソングとビターステップ”、UNISON SQUARE GARDENの楽曲だ。

 ポップで踊り出したくなりそうなリズムが自然と私のタップを動かす。

 一回聴けば耳に残るその曲は何度も聴いた。だからハーモニカだって自然に音を奏でられる。

 気分は正にI feel 上々 だ。

 例えこの一興の後に一難あるとしてもまた一興あることを信じて、私はこの小さなお客様に精一杯を届ける。他の誰でもない穹と共に。

 

 

 


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