ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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クリスマスイブに更新できたこともありますし、雑記でも書こうと思います。


第百四十七話

 薄い雲は星々の輝きを遮るには至らず、小降りの雨は輝きを求めて集う人の足を止め得ない。

 今日はクリスマスイブ。八幡坂の麓で二人のスクールアイドルが背中を合わせ、その時を待っていた。クリスマスイベントの開幕のその時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 FMいるかで収録のあった日、日が暮れた頃に函館山の展望台では二人のスクールアイドルが顔を合わせることとなった。片や沼津のスクールアイドル 黒澤ダイヤ。片や函館のスクールアイドル 鹿角聖良。

 万能とも言える才を持った二人には共通点も多く、特に一番の共通点はやはり妹という存在だ。

 

「そうでしたか。ルビィが大変お世話になりました」

 

「いえ。理亞のこと元気付けてくれたみたいで、お陰様で毎日とても生き生きしてるんですよ」

 

 なんて、妹談義に華を咲かせていた。なるほど、吐き出される息が白く揺らめき花に見えなくもないともとれる。それくらい寒い中、二人はそれを感じないくらい夢中で話しているのだから、好きなことを表現するというのは熱があるのだ。

 けれど二人がここに来たのはそんな話をするためではない。二人はそれぞれの妹に呼び出されてこの山の頂にいるのだ。

 そう、流石にクリスマスイブまで隠すことはできないし、準備期間が必要だったため、条件が揃ってすぐに計画を実行することになったのだ。

 

「お待たせ。お姉ちゃん」

 

「ルビィ」

 

「今日は来てくれてありがとう、姉様」

 

「理亞」

 

 物陰から顔を出したそれぞれの妹の姿を見て一安心した様子の姉二人は、お礼もそこそこに駆け寄る妹から差し出された手紙を見て驚きの表情を浮かべていた。

 

「これは?」

 

「クリスマスイブにライブをやります」

 

「姉様から教わったこと、想い、全部込めて作った曲」

 

「お姉ちゃんに見てほしいの」

 

 自分の妹が何かをしようとしている。それはなんとなく感じていただろうが、まさかライブをやるなど、しかもこの短期間で曲を作ったなど想像も出来なかっただろう。

 

「ーーーーーーー」

 

 ルビィちゃんと理亞ちゃんは背中を合わせると、早速その新曲を披露し始めた。

 とても伸びやかで、美しい導入。元気の出るストレートな歌詞、そして壮大な可能性を感じる締め。それはこの短期間で作り上げたものとは思えない程のクオリティだ。

 

「とても」

 

「ええ」

 

 難しい言葉など出せないくらいに二人の姉は心を震わせただろう。

 けれど、どこか物足りない。きっとダイヤさんも聖良さんも口には出さないけれどそう思った筈だ。事実、この曲はまだーーーー

 

「お姉ちゃん実は・・・」

 

「まだこの曲は完成してません」

 

「え?」

 

「二人だけじゃ歌えない」

 

「伝えきれない。だから」

 

「「一緒にライブをやりませんか?」」

 

 あと数日でイベント当日。準備期間など無いに等しいけれど二人の姉は己の妹を抱き締めて快諾した。

 

「なら、早速練習ですね」

 

 その様子を見守っていた私達や、こっそりダイヤさんとは別の便で来ていた千歌先輩達はようやくと言うように物陰から出た。寒かったためみんな重装備だ。

 

「はい。ダイヤさん、聖良さん」

 

 花丸ちゃんは包み紙を二人に手渡した。

 

「これは?」

 

「堕天使の祝福よ。さあ、封印から解き放つのです!」

 

 言い回しはともかく善子ちゃんに促され、包み紙を開けると、そこには対になるなるような衣装が入っていた。

 

「「「「メリークリスマス」」」」

 

 隠れていたみんなは上着を脱ぎ去ると、二人に手渡された衣装と同類のものを見にまとっていた。

 ダイヤさんも聖良さんも顔を見合わせて、目尻に涙を浮かべながら苦笑いした。完全にしてやられたと。

 こうして、練習に明け暮れる日々を過ごし、クリスマスイブを迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この寒空の下、静謐な薄明かりに包まれるルビィちゃんと理亞ちゃんにはその体の小ささを感じさせない力強さを秘めていた。

 時計の秒針は逸ることも遅れることもせずに確実に歩みを進めていた。

 周りを見渡せば歩道沿いには大勢の人がいた。あの日、理亞ちゃんに会いに来てくれたクラスメートや他のクラスメート。お店に足を運んでくれた近所のおばさん。ラブライブ北海道予選会場にいた他のスクールアイドルの姿まで。

 そして時刻は19時00分00秒。黄金の時が幕を上げる。

 

“始まるときは 終わりのことなど 考えてないからずっと”

 

 ルビィちゃんと理亞ちゃんの限界まで振り切った高音。そしてがむしゃらに駆け抜けてきたその先へ目指して、今、みんなの前で披露される一夜の夢。その名はーーーーー

 

 

“Come on!Awaken the power yeah!”

 

 Awaken the power。それは二人の姉だけじゃない。全ての人へと捧ぐ夢。

 

“Are you ready?Let's go!!”

 

 理亞ちゃんの誘いに誘われ、Saint Aqours Snowの他のメンバーがパフォーマンスの輪に加わる。そこには当然、聖良さんとダイヤさんの姿もある。

 

“がんばるって決めたら”

 

“絶対負けないんだ”

 

 Saint Aqours Snowだけじゃない。その決意は会場にいる人をも巻き込んで紡がれる。

 

“セカイはきっと”

 

「「「Hi Hi Hi!」」」

 

 それは地鳴りのようですらあって、小降りの雨の冷たさを感じさせないくらい熱かった。

 私はみんなのパフォーマンスの輪には入れないけれど、皆と一緒にコールは出来る。寧ろ、会場のモニターにコール部分の歌詞を表示させ、率先して煽る。

 皆、誰もが大きく口を開け、心からの声を挙げている。誰もが楽しそうで、本当に夢の中にいるかのような、そんな気持ちだった。

 

“Wake up wake up my new would”

 

 そして11人のコーラスで締め括られると共に作られた星はこの人数でなければ作れないフォーメーションだ。

 こうして水と氷の結晶が混ざりあって作られた夢はきっと見に来た人に忘れられない輝きを見せたと思う。

 ここには悲しい顔をした人は誰もいなかった。昨日の辛いことも、明日の辛いことも、今の楽しさで全て吹き飛ばした。だって、皆が笑顔だから。理亞ちゃんに会いに来てくれたクラスメートも、他のクラスメートも、店に来てくれた近所のおばさんも、他校のスクールアイドルも。そしてーーーーー

 

「メリークリスマス、星」

 

 埼玉にいる筈の穹もまた、穏やかな笑顔でそこにいた。

 

 


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