ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
クリスマスイベントの運営と交渉した理亞ちゃんによると、意外なほど呆気なくOKが貰えたとのことで、私以外の四人はラジオCMに望むこととなった。
FMいるかは喫茶菊泉から徒歩5分程の場所にあり、ロープウェイ施設の中にある。
幸いそこのスタッフにも店の常連が居たため話は余計に早く、私達が訪れると待っていたと言わんばかりに収録ブースへと通された。
ブース内は公録できるようガラス張りで、外から見える構造となっていた。
「あの・・・」
収録ブースに四人が入っている間、私はブースの外から見学していると、理亞ちゃんと同じ学校の制服を着こなす女子生徒二名が恐る恐るというように私に声をかけてきた。
「どうしました?サインとかは事務所通して貰わないと困るのですが」
「え?いえ、そうじゃなくて、鹿角 理亞ちゃんとその、話がしたくて」
私がした適当な冗談をさらっと流し、続けられた言葉に私は首を傾げた。
理亞ちゃんと私が函館で絡む姿を見る機会はここ数日しかない。であるにも関わらず理亞ちゃんと話がしたいと私に切り出したということは、最近の理亞ちゃんの様子を見たということに他ならない。もう冬休みだというのにだ。
それがどういった理由からなのかは分からないけれど、こうして顔を晒して申し出た以上、少なくとも害意は無いのだろう。
「学校のお友達ですか?」
「クラスメートです。今までの学校で余り話したこと無いんだけれど」
「でも、ずっと応援してたんです。Saint Snowのことを」
「あんなことがあって、きっと落ち込んでるって思ったら、気持ちだけでも伝えないとって思って」
「Saint Snowは最高だって。遊びだなんて思ってないよって」
純朴そうな二人は小さな声で、だけれども、確かな意思を持ってそう言った。
きっと今まで学校で話す機会そのものは沢山あったのだろう。けれど、二人がちょっとした勇気が足りなかったことや、理亞ちゃんの人見知りがそれをさせなかったのだろう。
もしも、もっと早くこの二人が理亞ちゃんと話しをしていたら、もしかしたらあの失敗はなかったかもしれない。そう思うとネガティブに捉えてしまうけれど、行動を起こすことは遅い早いに関わらず次に繋がるのだ。
今そうしようとしている私達がこの二人の行動を否定することはない。
「うん。きっと理亞ちゃん凄く元気出ると思うよ」
「本当?」
「確かめたらいいじゃないかな」
きっと理亞ちゃんだけじゃないだろう。聖良さんだって知れば喜ぶはずだ。
親しい訳じゃない誰かからの言葉こそ信用出来ることもある。こと評価に置いては贔屓目というのが存在しないから尚更だ。
「今度のクリスマスイベントでライブをやります」
「グループ名は?」
「Saint Aqours Snowです」
「是非来るずら」
ブースから聴こえる声は簡潔で、それだけに聞き間違いの無い内容だった。勿論、二人にもそれが聞こえた訳で、
「ライブやるんですか!?」
「しかも、Saint・・・ Aqours Snow?」
「合同チームなんて、SUNNY DAY SONGみたい」
と驚きの声を挙げている。
それもそうだろう。多くのスクールアイドルはその活動をラブライブと共に推移させている。
三年生を擁するグループならラブライブに敗退した時点でそのグループとしての形での活動が終わることも珍しくない。だからこのタイミングでSaint Snowの活動が続いていること、それだけではなくAqoursという外地のスクールアイドルと合同でライブをするなど誰にも予想など出来なかっただろう。
「どんな魔法を使ったんですか?」
「魔法か・・・多分そうじゃないよ」
「どういうことです?」
「女の子はみんな魔法に掛かってるんだよ。ただそれを忘れてしまうだけで、理亞ちゃんもきっと見失っていた物をもう一度見つけただけなんだと思うよ」
それは時に信じられない行動力を生み出す。片田舎のスクールアイドルがラブライブ決勝に進むくらいに。
「あ、終わったみたいだよ」
録音も終わったようで理亞ちゃんたちかブースの中で一礼する姿が見える。
そして、みんなが出てきたところで私は理亞ちゃんに会いに来た二人に目配せした。
「あの、私達、ごめんね。応援行けなくて。本当はもっと前から話をしたかったの」
「でも嫌われてるのかなって思って・・・」
勇気を出して何とか伝えたい事を言った二人を前に理亞ちゃんは豆鉄砲を食らったかのような顔からちょっと気まずそうな顔をして目線をさ迷わせた。
「私も人見知りだから・・・嫌ってなんか無くて、その・・・そう言ってくれて嬉しいから」
「クリスマスのイベントでライブするんでしょ。皆で行っていい?」
「皆?」
「そうだよ。皆Saint Snowのこと凄く応援してたんだよ」
「Saint Snowは学校の誇りだって」
その言葉はきっと今までの理亞ちゃんに向けられたことのなかった称賛だったのだろう。
理亞ちゃんは人見知りだと言うのに剥き出しの感情をその瞳から流した。余り絡みのなかったクラスメートの前で。
「ごめんなさい。ラブライブ、失敗しちゃって・・・ごめんなさい」
「いいんだよ。だってまだ終わってないんでしょ。ならいいんだよ」
この後一番の大事が待っているというのに、理亞ちゃんは声を出して泣いた。でも、その涙はラブライブ決勝に進めなかった時のそれとは違う、とても温かな気持ちだったんじゃないかと、そう思った。
「花丸ちゃん、善子ちゃん、ルビィちゃん」
ポケットに入れていたスマホがメッセージを着信し、私はそれを確認すると三人に画面を見せた。
メッセージは千歌先輩からで、一言だった。
曰く、函館に着いたと。