ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百四十四話

 Saint Aqours Snowと名乗ることとなった理亞ちゃん達は作詞を終え、作曲作業に取りかかっている。それと同時に衣装作りを行っている形だ。

 衣装について理亞ちゃんは以前から、それこそ聖良さんがソロでスクールアイドル活動をしていたころから主体として作成していたらしく、デザイン画も本格的で、素材の注釈など細かく書かれていてイメージが湧きやすかった。

 ルビィちゃんは言わずもがな、Aqoursが衣装担当である曜先輩と双璧をなす。

 そんな二人が組んだものだからかなりの力作となった。かなりの難易度と引き換えに。恐らくはAqours、Saint Snow含めていずれも過去最高だろう。

 幸いと言うべきか、衣装作りの手伝いをこれまで何度もしてきた善子ちゃん、花丸ちゃんが居るため、案外何とかなりそうなのが恐ろしい。何が恐ろしいかといえば、最高のものなのに工期まで含めて計算されていることがだ。商業デザイナーとしてやってけるのではと一瞬思った程だ。

 衣装の作成はだから何とかなりそうで、問題は作曲だった。

 主旋律は完成した。問題は所謂編曲部分で、ソフトの使い方から分からず、私も慣れないソフトだからおおよそ共通する操作方法しかアドバイスできず、とにかく弄って慣れてもらうことになった。ある程度慣れてからは私は別の仕事があった。

 

「もしもし千歌先輩」

 

「どうしたの?そろそろ帰ってくる?」

 

「いえ。ちょっとお願いが」

 

 そう。ルビィちゃんが発案したサプライズの準備の協力依頼だ。

 先ずはみんなで再び函館に来てもらうこと。そして、歌とダンスを密かに覚えてもらうことだ。

 ダイヤさんと聖良さんはスペックが高いため後追いでもパフォーマンスの準備は間に合うだろう。けれど、他のメンバーについては予め練習して貰っていたほうが話が早いし、実践することで微調整する点等を洗い出せる。

 私はルビィちゃんが函館に残った本当の目的、理亞ちゃんの願い、そしてルビィちゃんの妙案と合体グループSaint Aqours Snowのことを千歌先輩に電話越しに話した。

 

「すみません。勝手に話を進めていて。それにグループ名まで」

 

「いいんじゃない。ずっと続けていくならダメって言ってるかもしれないけど、夢を見るくらいなら良いと思う」

 

「夢、ですか?」

 

「うん、夢。もう一度って願って、それを叶えて貰って、新しい願いが生まれて、それでみんなで見る夢」

 

「叶える夢、ですね」

 

「そう。一瞬でしかないかもしれないけど、でも奇跡ってそういうものでしょ。だって函館と沼津のスクールアイドルがお互いの地元じゃない東京で出会って、それで同じグループとしてパフォーマンスをするんだよ。奇跡じゃなかったら、何て言っていいか分からないよ」

 

 改めて言われると数奇な巡り合わせだった。

 最初の出会いは決して良くなかったし、方向性は違った。けれど、お互いに認め合う関係となったのはきっとお互いの持つスタンスが近付いたからだと思う。

 たゆまない努力に裏打ちされた圧倒的パフォーマンスで勝ち輝きの正体を求めたSaint Snow。

 自分達の輝きを求めた結果、誰かを導ける光になり、勝利がついてくると信じたAqours。けれど、Saint SnowもAqoursも勝利することはなかった。自分達のスタンスは間違ってはいない。けれど、足りないのだと自覚して初めて、一度は否定したその存在が意識に浮かんだのだろう。

 そして今回、一緒にパフォーマンスをするというのだから偶然が生んだ必然なのかもしれない。

 

「サプライズかぁ」

 

「どうしたんですか?」

 

「されたことないから。もしされたならどんな気持ちになるかなって。星ちゃんならどう思う?」

 

「その時にならないと分からないですけど、取り敢えず驚きそうですね」

 

 そもそもどんなサプライズかにもよるだろう。けれど、誰かのためを思って仕掛けられたサプライズならば、きっと素敵なものなのだろうとだけ思った。

 

「今年は素敵なクリスマスになりそうだね」

 

 千歌先輩はきっととても優しい顔で微笑んでいるだろうなと思わせる声でそう言い電話を切った。

 これまでクリスマスに大した思い出などなかった。それもそうだ。小、中学生の子供のクリスマスの過ごし方など程度が知れている。

 女子も男子も外面が整った異性を侍らせるのを妄想したり、親にすら買ってもらえないような高額の物品を夢想したりするところだろう。

 私だってそうだ。そんなけったいな妄想を誰かと話しては無い無いと笑う、そんな感じだった。

 ちょっと違うとすれば去年のクリスマスだけだ。

 去年は穹と一緒に勉強をしていた。国立高校を受けるのだ。私立で早々に内定を貰っている受験生とは緊張感が違う。高難易度と言うほどではないけれど、自分の実力を間違いなく発揮しなければ受からない。

 だからクリスマスだと言うのに私達は炬燵に半身を突っ込み、勉強をしていたのだ。

 

「 東京まで通学するとか私達何時から意識高い系になったんだろうね」

 

「私達の言う意識と意識高い系のそれは多分別物でしょ。それにもう合格したつもりなの?」

 

「いやするでしょ。だって偏差値的にはもう半年前から合格ライン行ってるんだよ、私達」

 

「まあね。でもそう言いながらこうして勉強をしてるあたり穹って徹底してるよね」

 

「ま、張り合う人がいるお陰かな」

 

 なんて、何でもない一日を過ごした。特別ではない日常。けれど、今となってはそれこそが特別だった日常だ。

 一日だって同じ日は無いし、特別じゃないことなんてない。それを私は自分の過ちで気付いた。その気付きこそがプレゼントだというのならサンタクロースには遅延料金を請求したいところだ。

 

「千歌ちゃんどうだって?」

 

 理亞ちゃんの部屋に戻ると、開口一番ルビィちゃんが訪ねてきた。

 

「なんくるないってさ」

 

「なんで沼津飛び越えて沖縄なのよ。函館と真逆じゃない」

 

「クリスマスサプライズ協力してくれるって」

 

「じゃあ、せっかくだからサンタ衣装も作るずら?」

 

「そんな時間までないでしょ。それにサンタクロースは良い子の所にしか来ませんから。ヨハネの所には来ないんじゃない?」

 

「都合のいい時だけヨハネ言うな」

 

「そう言えば理亞ちゃんはサンタさんっていつまで信じてたの?」

 

「私は姉様もいたから早かったわよ。ルビィは?」

 

「私も実はそうなの。でもお姉ちゃんがね、サンタさんは居ないってことを私がきづかないように必死になってたから、なんとなく信じてる気持ちもあったかな。こんなに必死になるんだからもしかしたらって」

 

 なんとなく過ごしているけれどクリスマスがそもそもどんな起源か、サンタクロースとは何者なのか私達は知らないで過ごしている。けれど、一つ思うことがある。サンタクロースがプレゼントを配る以前に、クリスマスという日そのものがプレゼントであるのだろうと。

 誰かに抱く特別な感情、感謝の気持ちなど、伝えたくても切っ掛けがなければ行動に移せない人は多いのだ。そんな人の背中をそっと推してくれる魔法の日だと思える。それこそクリスマスツリーの頂点に輝いている星は迷えるクリスマスに勇気を、機会を貰った人たちの指標として燦然と光を放っているのかもしれない。

 そして今回、この日がなければイベントとという機会に巡り合う事もなかったのだ。

 私達はすでにプレゼントを貰っているのかもしれない。

 

「今度は私達が必死になってお姉ちゃん達に隠しておかなきゃね」

 

 そう悪戯っぽく笑うルビィちゃんは本当に楽しそうで、連れて私達も悪戯っぽく笑ってしまった。


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