ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百四十三話

 函館で行われるクリスマスイベントには誰でも応募できるけれど審査がある。

 今まではそういった手続きは聖良さんが主体となって処理していたそうだけど、今回は頼る訳にはいかない。それではサプライズにはならないし、聖良さんがいなくても理亞ちゃんはやっていけると証明する主旨と合わなくなってしまう。

 そのため、作曲作業と同時進行でその手続きもしなければならない。

 

「ほらほら、早くやらないと締め切りきちゃうよ」

 

「でも、まだ曲も出来てないのに」

 

「絶対に出るんでしょ?なら今やっても同じでしょ。ね、ルビィちゃん」

 

「うゆ。えっと・・・はい、じゃあ名前は鹿角 理亞で、生年月日は・・・」

 

「分かった。やるわよ」

 

 貸しなさい、と理亞ちゃんはノートパソコンを自分へと向けると応募フォームのフォーマットに沿って入力を開始した。

 

「えっと、応募動機?そんなのも入れなきゃいけないの?」

 

「フッ、人はすぐに意味を求める。けど仕方ないわ。それが性なんですもの」

 

「流石は意味を突き詰めることに定評のある善子ちゃん」

 

「安易なネタに走るのはやめなさい。最近厳しいんだからそういうの。と言うか善子いうな」

 

 何だかんだ言いつつタイピングを続ける理亞ちゃんを他所に、花丸ちゃんと善子ちゃんは漫才のように言った。言い方こそ漫才のようだが、その言うこともまた一理あるのだ。

 自分の不運には何か理由があると原因を突き詰めて、堕天使ヨハネという暴論的結論で自分や置かれた状況と向き合っているのが善子ちゃんだ。私達には見えない角度から意見が出てくるかもしれない。

 

「先ずは書く。箇条書きで良いから書きたいって思うことを書く。とにかく書く。考えてるだけじゃこんがらがるだけなんだから」

 

 ほらほら、と善子ちゃんもまた理亞ちゃんにやらせる。そう。理亞ちゃん、そして残ると言い出したルビィちゃんが主体でなければこれは意味がない。私や善子ちゃん、花丸ちゃんはあくまでも協力者なのだから。

 

「今日は終わらせてから作曲だね」

 

「衣装も忘れずに」

 

「はぁ、何だか無理な気がしてきた」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「冗談よ」

 

 パソコンの画面を見たまま悪戯っぽく笑う理亞ちゃんはすっかり私達と馴染んだ様子だし、ラブライブ予選敗退のショックから立ち直りつつあるようだ。

 この時点で函館残留の目的の半分は達せられたようなものだ。

 

「それより、一つ提案があるんだけど」

 

 函館に来てからルビィちゃんは本当に積極的だ。勿論、奥ゆかしさは変わらないのだけれど、自分の意見を言うことに躊躇いがなくなった。

 もともとルビィちゃんが引っ込み思案だったのは相手の意思を尊重しようとする余りのことだったという。

 変わったのはその根本ではなく、それに対する考え方だ。

 自分の意思を伝えることが相手のためになると、そう考えられるようになったから言うべきだと思ったことは口にするようになった。

 そうなった理由は定かではない。けれど、きっとルビィちゃんにとってとても大切な切っ掛けがあったのだろう。

 

「私と理亞ちゃんでお姉ちゃん達に新曲を披露する。それは変わらないんだけど」

 

「だけど?」

 

「お姉ちゃん達と一緒にパフォーマンスをしたい。皆の前で!」

 

 それは私達が目標としていた以上の夢だ。

 只でさえ期限が迫っている。練習する時間だってあまり確保できないだろう。衣装だってまだ素材すら集めていない。現実的に言えば無理だ。無理だけどーーーーー

 

「・・・もう一度、姉様とーーーー?」

 

「どうするの理亞?」

 

「やめておくずら?」

 

 その光景はどこかで既視感があった。そう、千歌先輩だ。

 挫けそうになった時、千歌先輩にいつも“やめる?”と問うのが曜先輩だった。それにはやめないで、立ち直ってという願いがいつも込められていた。

 そして今、理亞ちゃんに向けられた問いにも同じ願いが込められていると、そう思った。

 

「ーーーやるわ」

 

 そして、その願いは理亞ちゃんも同じだった。

 

「本当に?」

 

「やる」

 

 私だってそうだ。蛇足的になってしまったけれど、言わずにはいられない想いだってあるのだ。

 

「あなた達にはかなり手伝って貰うことになると思う。でも、力を貸して」

 

「フッ、愚問ね」

 

「そのためにおら達はここにいるずら」

 

「絶対にあり得ないって、そう思っていた景色を見せてよ」

 

「任せない。先ずはこの応募フォームをーーーー出来た」

 

「早っ」

 

 会話しながらも着々と入力を進めていた理亞ちゃんは自信満々にパソコンの画面をこちらに向けた。

 

「どう花丸ちゃん?」

 

「えっと・・・うん。理亞ちゃんの熱意がよく伝わるずら」

 

「ホント!」

 

「うん。保証する。一番良いなって思ったのがここ」

 

 どれどれ、と私達は花丸ちゃんが指差した所を読むと、こう書いてあったーーーーSaint Aqours Snowと。


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