ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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今日はいよいよAqours 4th Love Liveです。東京ドゥームです。
先日沼津にも行けましたし雑記でも後程更新しようと思います。


第百四十一話

 ルビィちゃん達が理亞さんの部屋で楽曲テーマについて話し合いをしている間、私は聖良さんと店番をしていた。けれど冬の北海道は夏に比べるとやはり観光客も少なく、冬休み期間に入っているため夕方の時間帯でも街にいる学生も少ない。自然と店の客足も少なく、忙しいとは言えない時間を聖良さんとお茶を片手にお喋りしながら時間を過ごした。

 

「理亞が誰かをお招きするなんて初めてなんですよ」

 

「それはちょっと盛ってません?」

 

「そうですね。でも、それくらい理亞が人見知りってことです」

 

 人と連るむのは苦手と本人も口にしていたけれど、その理由が人見知りとは、まぁ分かりやすいというか、なんというか。

 けれど思い当たらないこともない。理亞さんは態度が幾分つっけんどんなところがあるため、初対面の人は印象を悪くする可能性があることは否めない。

 

「それ言ったって理亞さんに知れたらきっと怒りますよ」

 

「やだ、私ったら。こんなこと今までなかったからつい」

 

 親などが子供の黒歴史を何時まで経っても忘れずに笑い話にするのを誰もが経験したことがあると思うが、あれは正直たまったものではない。

 理亞さんの名誉のためにも、また姉妹仲を守るためにも今のことは黙っておこうと思った。

 

「理亞ったら店番を人に任せて何をしているやら」

 

「ホント何をしているんでしょうね」

 

 聖良さんは具体的には分からずとも流石に何かしらを察しているようだ。それを良い変化と捉えてくれているようなので一安心。また、理亞さんの口から話題にならない限り深堀りするような野暮なことはしないため有難い。

 

「いつも練習は夜にやっていたんですか?」

 

「そうですね。学校から帰ってきたらお店の手伝いをして、閉店してから練習。冬は死ぬほど寒いからもう大変で」

 

「その辺やっぱり地域性でますね」

 

「沼津はどうなんです?」

 

「私はもともと埼玉出身ですから、沼津を語れるほどでも無いですが、そうですね・・・日暮れが早い気がしますね。冬の寒さはここほどでないにしても、海側から冷たい風が来るときは激寒ですね」

 

 ずっと沼津に住んでいたらそんなことを思わないかもしれないけれど、埼玉県北部とはいえ平野部に住んでいた私からすると、山間にある沼津は太陽が山陰に隠れてしまうため夕方が早い、特に冬に入ってからはそれをよく実感する。

 

「それに地域が広い割には交通網が微妙で、全員がちゃんと帰れるように練習するってなると制約がありますね」

 

「九人となると大変なんですね。家は姉妹でやってたからそこは楽でしたよ」

 

「学校が徒歩1分とか、こっちとは大違い」

 

「近いと逆に気が抜けて遅刻しそうになるんですよ」

 

 流石にしたことはないですけどね、と言葉を添えて恥ずかしそうに聖良さんは笑った。

 

「全国津々浦々、色んなスクールアイドルがそれぞれの場所で、色んな折り合いをつけながら活動をしているんですね」

 

 私もまた聖良さんにつられてお茶を口にする。いつの間にか時間が経ったのか、お茶はすでに冷たくなっていた。

 

「才能を持っていても、身を置く環境によってその才能を開花させられない人もきっと居る。私は・・・私達Saint Snowはそうはなりたくなかった」

 

 練習時間、練習場所、作曲環境や資材調達環境、下積みする機会などやはり都心部で活動するスクールアイドルが有利であることは間違いない。けれど、それを理由に自分達の全てを出しきれないことを善しとしなかったのがSaint Snowで、そしてAqoursだ。

 

「周囲の言葉に惑わされずに私達は私達の道を行く。そうやって活動してきたのでAqoursとはアプローチが違ったと思いますよ」

 

「そうですね。自分達の道を行くというのはAqoursにとっては途中で獲得した価値観でしたよ」

 

「だから初めてAqoursを見たときは何て弱々しいんだって、そう思いました。でも、私達に無いものもありました。自分達の力だけじゃない、他の誰かと作るスクールアイドル像。“夢で夜空を照らしたい”のPVを見た時は少しそれを羨ましいとも感じました。あの空に昇っていったランタンにはきっと色んな人の願いとか想いが詰まっているんだなって、胸がドキドキしたのを覚えています」

 

 東京でのイベントにAqoursが参加する切っ掛けとなった楽曲は、けれど、そのイベントでは評価されることはなかった。それはPVあっての、皆の力があっての評価だったからだ。それをこのように誉められるのは、PV作りに協力した身として嬉しい限りだ。

 

「きっと理亞も同じことを感じたと思います。私達とは違うスクールアイドルの在り方・・・理亞もスクールアイドルを続けてくれるなら、今とは違うスクールアイドルになるかもしれませんね」

 

 どちらが優れているかではなく、スクールアイドルという時間を楽しんで欲しいと、聖良さんの言葉にはそんな響きがあった。

 今まさに理亞さんがしていることはそうなのだと、私の口からは言えず、誤魔化すように冷たくなったお茶を音を発てて啜った。

 

「星さんはスクールアイドルになろうとは思わなかったんですか?」

 

 色々と話をしているとやはり深い部分にも自然と話が流れていく。

 今まで聖良さんは突っ込んだ話をしてくれたし、自分の思っていることも隠さずに話してくれた。だから私も少しは自分の話をしてもいいかと、そう思えた。

 

「そう思っていた時期が私にもありました。 音ノ木坂学院に入学して音楽をしようって、場合によってはスクールアイドルとしてやっていくのも良いかもねって」

 

 でも、そうはならなかった。私の嘘が原因で、住む場所が離れる以上に心の距離が離れてしまったから。

 

「嘘を真に、ってそう思いたかったんです。でも、そうはならなくて」

 

「離れ離れになってそれっきりなんですか?」

 

「今はその嘘と向き合えていると思います。なんとか穹とも連絡できたのですが、答えは音楽で聴かせろって」

 

「その子も結構パンクな子ね」

 

「そうなんです。パット見はお嬢様のように澄ましてるのにもう活動的で、多趣味でーーーー」

 

 気付けば私は穹のことを聖良さんに話していた。会ったことのない、そしてこれからも会うことなどないであろう人のことなんて聴かされてもしょうがないだろうに、聖良さんは私の話を微笑ましく聴いてくれた。

 たぶん、理亞さんも自分の好きなことをこんな風に夢中になってお姉ちゃんに話しているのかな、と後になってそう思った。

 

「お土産まで請求してくるんだから、ちゃっかりしてますよね」

 

「函館滞在が延びることはもう連絡しているんですか?」

 

 そういえば忘れていた。

 私は閉店した後でお土産の配送を依頼しに行き、穹にお土産を送った件と、クリスマスまで函館にいる件を連絡した。

 


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