ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百三十九話

 聖良さんとそれはもう素敵な夜を過ごした次の日、私や花丸ちゃん、善子ちゃんはルビィちゃんに相談を持ちかけられ、函館が誇るファストフードの名店“ラッキーピエロ ベイエリア本店”にお邪魔していた。

 この店は外装からして攻めに攻め、その名の通り派手な黄色いピエロの看板がドデカく貼り出され、一見すると何の店か分からないデザインの店構えとなっている。

 その内装もユニークで、普通のカウンター席、ソファー席の他にブランコ席があるのだ。文字通り、天井からブランコが吊されている四人席。ソロでそこに通された暁には、間違いなく次の人に席を譲るだろう。もしくは別の席の人に相席を頼むだろう。幸いにして今回はソファー席に通されたけれど。

 

「一人じゃないならブランコでもよかったずら」

 

「私は嫌よ。子供じゃあるまいし」

 

「いや、子供というより寧ろパリピよね」

 

 花丸ちゃんの言うとおり女も三人集まれば姦しいと言われるように、複数名集まれば所謂ハイというやつになり多少の羞恥も楽しめるような異常な精神状態になれる。

 もっとも今日は私を含めた1年生ズと理亞さんの五人だから物理的にブランコ席は無理だったが。

 

「ああいう連んで騒ぐ連中って好きじゃないんだけど」

 

「まあそうだね」

 

 人にドン引きされない程度が丁度良いという点では理亞さんに同意だ。

 

「と言うかこんなに人が居るなんて聴いてない」

 

 そう言って理亞さんはルビィちゃんをジト目で見詰めると、ルビィちゃんは若干の後ろめたさがあったのか、頬を人差し指で掻きながら目を逸らす。

 

「ルビィちゃんはどうしても理亞ちゃんに協力したいずら」

 

「さっきも似たようなこと言ったけど、余り人と連むのって苦手なの」

 

「それなら安心してよ」

 

「マルもルビィちゃんもそうずら。善子ちゃんに至っては不登校だったずら」

 

「ヨハネよ」

 

「正確には屋上登校だったかな」

 

「何それ。というか、ずら?」

 

 怪訝な顔で花丸ちゃんを見詰める理亞さんの様子に、方言が出てしまったことを悟り、手で口を抑える花丸ちゃんは見ていて面白い。

 そんな仕草がまた可愛いのが相変わらずズルい。

 

「お、おら」

 

「おら?」

 

「まぁまぁ、コミュ障も四人集まれば何とやら」

 

「それ余計不安なんだけど。それに、誰か一人含まれて無いみたいなんだけど」

 

「星ちゃんも大概ずら。詳細は・・・省くずら」

 

「何それ。余計気になるんだけど」

 

「そうね。それが知りたければ我がリトルデーモンになるとここで誓いなさい」

 

「ならいいわ」

 

「こーら。人の秘密を勝手に出汁に使わないの」

 

「痛てっ!?」

 

 そう言って私は善子ちゃんの右側頭部にあるお団子に刺さっている黒い羽を取ったのだけれど、妙にリアルな反応を返されてしまって逆に関心してしまった。

 

「とにかく、私も理亞ちゃんと同じ。お姉ちゃんに私達は大丈夫って思って貰いたいの」

 

「それは・・・分かってる」

 

 昨日私が聖良さんと話をしている裏で、ルビィちゃんは理亞さんと1対1で話をしたらしい。

 秘密という訳では無いだろうけど、細かいことは二人だけの大切な思い出なのだろう。

 部屋に帰ってきてからルビィちゃんは概要を話ながらも皆まで言わなかった。けれど、ルビィちゃんが共感した気持ち、抱いた想いは伝わった。一番最年少の私達がしっかりしなければ、やれると見せつけなければいけないのだと。

 だから私達はルビィちゃんに協力することにしたのだ。

 人見知りで、ビビりで、でもこれと決めたら引かないルビィちゃんのことを信用して。

 理亞さんもそんなルビィちゃんのことをある程度信用しているからか、反感は尻すぼみになった。

 

「自己紹介は不要かもしれないけど、こう言うのは儀式みたいなものでしょ。ということで善子ちゃんからどうぞ」

 

「儀式、くくっ、良い響きーーーーって、だからヨハネよ」

 

「ーーーーーー」

 

 まるで不思議なものを見るかのような理亞さんの視線にいたたまれなくなったのか、善子改めヨハネちゃんは咳払いをして続けた

 

「こほん。ハァイ、堕天使のヨハネよ。リトルデーモン10号は、君に決定!一緒に堕天しよ」

 

「新興宗教とか、そういうのお断りのんですけど」

 

「ちーがーう!」

 

「津島善子ちゃんのアイデンティティずら。どうかご容赦いただきたい。因みに私は国木田花丸ずら」

 

「そのズラもアイデンティティなの?」

 

「そ、そんなことないず、ない、アル」

 

「何故中華風!?って言うか、それ無いの有るのどっちなの?」

 

「ない、ある・・・ないある、ナイアルラトホテプ!?」

 

「はいはい」

 

「はいはい・・・這い寄る混沌!?」

 

「もう、話進まないじゃない。それで貴女はーーー」

 

 どうも今日の善子ちゃんは絶好調な様子で一々反応するものだから、業を煮やしたのか理亞さんが無理矢理ぶった切り私に振った。

 

「私は黒松星。クロマツでもホシでもないからね」

 

「うん。よろしくホシさん」

 

「だから荒川アンダーザブリッジじゃねえっての!」

 

 なんて、少しは緊張も解れてきたのか、クスリと笑う理亞さんを見て、ふと気付く。この子のこんな表情を見るのは函館に来てから初めてだと。

 Saint SnowのPVなんかでは不敵に笑う表情をしていてもこんな風に可愛らしく笑う姿は無かっただけに新鮮だ。

 

「それで、今日は早速なんだけど、楽曲の方向性を決めたいなって思って」

 

「クリスマスイベントでライブするために新規で書き下ろすの?」

 

「うん。企画だけしてってのじゃイマイチやれたって気がしないと思うの」

 

 ルビィちゃんと理亞さんは函館市内で行われるクリスマスイベントに出てライブを行うという計画をしている。

 確かに既存楽曲を二グループでカバーコラボするのでは捻りがない。私にもそれは覚えがある。

 穹と文化祭の演し物に出ようとした時のことだ。

 それまでカバー活動を中心にやっていたけれど、完全オリジナルのものを披露するのは今しか無いと勇んでやったのは良い思い出で悪い悪夢だ。

 カバーはそれなりに好評だったけど、オリジナルはやはり耳慣れないからか、それほど反応は無かったのが正直なところだった。けれど、やりきった。それは自信に繫がったものだ。

 

「それで理亞ちゃんには試しに歌詞を書いてきて貰ったんだけど・・・」

 

「書いたわよ。悪い!」

 

「いや、何も言ってないずら」

 

「ねえ、本当に見るの?」

 

「見ないと意味ないでしょ」

 

「ぅううーはい!」

 

「ぶへっ!?」

 

 理亞さんから開いたノートを顔面に叩きつけられて、思わず乙女らしかなぬ声をあげてしまった。

 不器用そうな子なんだと諦めて、私達はノートに走る歌詞を読み進める。

 

「これはまた」

 

「うん。方向性はよく伝わるずら」

 

 それはとても熱く、前のめりで、そして、大好きが沢山詰まった理亞さんの想い。不器用で、何の捻りも無くて、だからこそ、その強さだけが胸に突き刺さる、そんな歌詞だった。

 私達は顔を見合わせて笑った。その歌詞の幼稚さではない。理亞さんとは上手くやっていける。そんな期待に胸を膨らませてだ。

 

 

 


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