ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百三十六話

 その気持ちを私は経験したことがない。穹と二人でやっていたときは競技形式での大会に出たことはないからだ。だから新曲を配信して再生数が伸びなくて悔しい思いをしても、どこかマイペースだった。だってそれはまだ次があったから。改善の余地はあったから。

 だけど、ラブライブは負けてしまえばそれでお終い。改善の余地はあっても、次がある回数には限りがある。3年生のいるグループなら最大二回。それっきりだ。

 

「驚いたね」

 

「まさかあんな事になるなんてね」

 

 ラブライブ北海道予選終了後、会場から立ち去らずに口々に感想を言う客からそんな言葉が聞こえた。

 皆思ったことは同じだった。まさかSaint Snowが失敗するなんて、と。

 ラブライブ前期大会では新進気鋭のグループとしての新鮮さに後押しされながらもその完成度の高いパフォーマンスで決勝大会まで進んだSaint Snowは北海道のスクールアイドル中でも頭一つ抜けていた。だからこそ、期待されていたし、予選大会でもしSaint Snowが負けるようなことがあるならば、それは更にレベルの高いスクールアイドルの誕生だから寧ろ喜ばしいことだろうと、北海道のファンはそう思っていたに違いない。私だってそうだった。

 けれど、Saint Snowは失敗した。負けたのではなく失敗したのだ。

 パフォーマンスのド頭、接触による転倒により、最後まで二人は立て直せずに次に進む機会を逃した。

 そして、それはSaint Snowの終わりを意味するのだろうことは想像に容易かった。

 鹿角姉妹が長女、聖良さんは3年生。二人組で活動していた事を鑑みれば彼女が抜ければSaint Snowとは到底呼べない。実質、理亞さんのみとなってしまうのだから。

 それは私が引っ越すことになって訪れた終わりとは違う終わりの在り方。だから私はつい想いを馳せてしまうのだ。彼女達は今、どんな気持ちなのだろうかと。

 

「二人とも大丈夫かな?」

 

「控え室にも居なかったもんね」

 

 私達は大会終了後、控え室を尋ねたがそこはもうもぬけの殻だった。

 まるで風に乗って降った雪のようにそれは唐突で、消えるのも一瞬で、私達はそれを前にただ戸惑うことしか出来なかった。

 ある意味でAqoursにとってはためになっただろう。ステージの上で失敗するということが何を意味するのか、それを取り戻すにはどうすれば良いのか、考えさせられる旅になったのだから。

 

「二人とも仲良いから多分大丈夫だよ」

 

「そうだよね。姉妹のことは姉妹にしか分からないこともあるもんね」

 

 結局、私達はSaint Snowのことは当事者である二人に任せようという結論になった。けれど、姉妹のことだからこそ、外から見ないと分からないこともあるのではないかとも思ったけれど、私達には無かったのだ。今Saint Snowに掛けるべき言葉が。だから私達は無理に二人の行方を追おうとはしなかった。

 私はウォークマンからSaint Snowの曲を流しながら、みんなと乗り込んだ路面電車の車窓から空を見上げた。どんよりと曇る、今にも雪の降りそうな陰鬱な空を。

 北海道に住む人は冬の間、こんな空ばかり見ているのだろうか?もちろん、天気の好みなど人それぞれだけれど私はあまり好きになれそうにない。

 そんな気持ちで曲を聴いていたからなのか、どこかSaint Snowの曲から閉塞感を感じられた。

 

「ねえ、星ちゃん」

 

「どうしたの、ルビィちゃん?」

 

 ルビィちゃんは落ち着きのない様子で私だけに聞こえる位小さな声で言った。

 

「星ちゃんが穹さんと・・・ううん、ごめん。なんでもない」

 

 それっきりルビィちゃんは顔を伏せてしまい、私はその真意を読み取ることは出来なかった。

 質問の真意は読み取ることは出来なかったけれど、その意図はどこから端を発しているのかは分かる。

 きっとルビィちゃんはSaint Snowのことが心配なのだろう。

 けれど、終わりを迎えたグループがどうなるかなど、私に参考になるようなことは言えない。私の場合はあまりに身勝手で、一方的で、Saint Snowとは違う。

 二人はまだ姉妹として毎日顔を合わせているのだから、これから機会など幾らでもあるのだ。

 

「大丈夫だよ、ルビィちゃん。あの二人はまだ致命的じゃないと思うよ」

 

 けれど、渦中にある二人がそれが分かっているのか、私にはそれこそ判断できることじゃなかった。

 だから、そんな根拠の薄い励ましに、ルビィちゃんは顔を上げることはなかった。

 不意にスマホが着信を知らせる震えを私に伝えてきた。

 私はポケットからスマホを出して着信を見ると、それは驚くことに穹からのものだった。

 穹には今北海道に来ていることを一応連絡していたのだ。

 その着信メッセージにはこう書いてあった。

 

『蟹、イクラ、ホタテ、イカ』

 

 土産の注文にしては流石に多いよ、と苦笑いを噛み締めつつ、私は何となしに穹に今起きていることを書いて送った。

 するとすぐさま返信が来た。

 

『お前も終わりたくなければ早くしろ』

 

 流石にぐうの音も出ない催促だった。

 


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