ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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今更ながら2ndライブツアー編をちょびちょび書いていたりします。公開するかは未定ですが。


第百三十五話

 降り立った函館空港は予想に反して小さかった。

 飛行機など小さい頃に乗ったきりだっため羽田のイメージばかりあったけれど、日本全国に羽を伸ばす羽田と行き先の限られる地方空港では必要な敷地面積に違いがあることなど少し考えれば分かることだった。

 空港からバスに揺られて函館市内へと向かう。先ずはホテルに荷物を置いて、観光はそれからだ。

 バスから見る景色は思ったほど田舎では無いけれど、多分栄えているのは市内だけなのだろう。国道沿いでも個人経営のものと思われる食事処が疎らにある程度で全国チェーン店やコンビニなどはあまり見当たらなかった。

 ただ、函館に来たんだなと実感させられるのは雪がそこかしこにあることだ。

 沼津も埼玉の私が住んでいた地域も雪など滅多に降らない。だから綺麗に雪かきされているとはいえ、それがあるだけで異国に来たと、そんな気分になる。

 

「沼津は最後に雪降ったのいつだったっけ?」

 

「確か今年の初めにちょろっとだったかな」

 

「そう言えば、その日は曜ちゃんが家泊まったんだっけ」

 

「炬燵で寝落ちしちゃったんだよね」

 

 なんて、珍しいからこそそれに纏わるエピソードの一つや二つ、みんなあって、それを聴いている間にあっという間に空港から函館市内の栄えているところまで来た。

 

「私、路面電車って初めて見た」

 

「東京にもあるって話ですけど、私も」

 

 ホテルに荷物を置いて私達は街を散策する。

 ラブライブ北海道予選は夕方からだ。それまでは自由時間であるし、予選の行われる函館アリーナは路面電車やバスで行けるため、時間さえ気を付けていればそれなりに市内観光ができる。

 今の話のように日常的な景色からして函館は沼津とは違った。

 北海道という本格的に開発されたのが明治頃からとなった土地柄や、観光都市として整備されたためか利便性を優先するように密集していながらどこか整然として洗練されている。船着場なんかは特に綺麗だったし、赤レンガ倉庫の並びなんかは近所では見られない光景だった。

 また、函館山はあるけれど、地表付近はなだらかな勾配で、伊豆半島のように切り立った山のすぐそばに海岸線があるのとは違い、景色が広い。山の上から見たらそれは良く見える事だろう。

 

「取り合えずご飯食べようよ」

 

「何食べたい?」

 

「函館と言えばイカずら」

 

「蟹とかイクラじゃなくて?」

 

「イカずら。市の魚として盛り立てているくらいイカがお勧めなんだって」

 

「イカなのに魚なの?」

 

「イカが魚かなんだかは置いておいて他に食べたいのがないなら市場でも行こうか」

 

「ハセガワストアのやきとり弁当とか、ラッキーピエロのフトッチョバーガーとか言ってなかった?」

 

「それはおやつずら」

 

 どちらもガッツリとしたB級グルメの筈だけど、とイマイチ釈然としない気分になりつつも私達は函館を満喫する。

 そう言えばSaint Snowの二人は函館山の麓の坂道に実家件茶屋があるという。

 予選が近い今、二人とも既に家を出ているだろう。案外自転車に乗って会場に行っているのかなと思うと少し面白い。Saint SnowのPVだけ見ていると全然そんなイメージは湧かないから。

 そんなこんなで腹拵えもしつつ函館アリーナに足を運ぶと既に多くの人が会場に詰めかけていた。

 この北の果てでもまたスクールアイドルが流行っているのだと思うとちょっと感無量だった。

 今ではこの函館アリーナを満員出来るのはGLAYかスクールアイドルだと言うのだから凄い時代なんだと改めて思う。そりゃスクールアイドルのレベルがインフレを起こす訳だ。

 

「本番前だけど、会ってくれるって」

 

 千歌先輩が不躾な訪問にならないようにと事前に連絡を取っていたこともあり、私達は客席ではなく真っ直ぐに控え室へと向かった。

 控え室に向かうまでの廊下には本当に多くのスクールアイドルが思い思い過ごしていた。

 ストレッチしているスクールアイドル、イヤホンをしながら音程確認しているスクールアイドル、着ている衣装の最終手直しをしているスクールアイドル。誰を見ても東海地区予選の会場にいたスクールアイドル達と引けを取らなかった。

 

「失礼します」

 

 よくよく考えたらAqoursではない私がここに居るのもどうかとも思ったけれど、同好の士として激励はしたい。そんな思い出で控え室を覗き込むと、鹿角姉妹は落ち着いた様子で椅子に座ってメイクを整えていた。

 

「あ、お久しぶりです。Aqoursさん。それに星さん」

 

「ごめんなさい。本番前に」

 

「私も着いてきちゃいました」

 

 私達の訪問に快く挨拶を返してくれた聖良さんにホッとしつつ、私はじっと観察してしまう。

 白を基調としたライダース風のジャケット衣装とパンクなホットパンツ、あしらわれた赤い差し色のリボンと流石格好良さの中にキュートさを併せ持つSaint Snowに良く似合っていた。

 

「いえ。今日は楽しんでってくださいね。みなさんと決勝で戦うのはまだ先ですから」

 

「はい。そのつもりです」

 

「こないだ助けられましたからね。全力で応援しますよ」

 

 とは言えラブライブという特性上、曲はどのグループも初見。バッチリコールを決めるのは難しいからキラキラでそれを表現する。

 Saint Snowの二人は確か聖良さんがスカイブルーで理亞さんがピュアホワイトだったため、ラブライブレードの色をスマホのアプリで既に調整済みなのは言うまでも無い。

 聖良さんは既に決勝を見据えているような発言をするのにも驚いたけれど、千歌先輩もまた平然と返す辺り二人ともキモが据わっている。

 実際問題、下調べに北海道予備予選の様子を見た限りでは余程のことがなければ確かにSaint Snowの牙城を崩すグループはいなさそうなのは確かだ。

 柔やかに話す聖良さんの様子からどうやら緊張感を上手くコントロール出来ているのだろう。これなら確かにこの余裕さも頷けるというものだ。

 

「数日は滞在しますので、どこかのタイミングで打ち上げしましょうね。あとセッションも」

 

「良いんですか?言い出しっぺの星さんの奢りですよ」

 

「それは勘弁してくださいマジで」

 

 なんて軽口を叩いている間、理亞さんは黙って目を瞑り、イヤホンを外そうとはしなかった。

 完全に外界と自分を切り離すその様子は聖良さんとは対照的な集中の仕方だ。普段の集中の仕方がどうかは分からないけれど、今はあまり触れない方がいいのだろう。

 

「次に会う決勝は一緒にラブライブの歴史に残る大会にしましょう」

 

「うん」

 

 そう言って聖良さんは千歌先輩と握手を交わした。

 あまり本番前に長いする訳にもいかないためそれを最後に私達は客席へと移動した。結局最後まで理亞さんとは挨拶できなかったけれど、大会が終わればその機会もあるだろう。そう明るい未来を予想して私は純粋にラブライブ北海道予選を楽しんでいた。Saint Snowの二人のパフォーマンスを見るまでは、そう、楽しんでいた。

 

 


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