ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百三十四話

 空を自由に飛びたいな、というフレーズに聞き覚えのある人も今ではだいぶ減りつつある。国民的アニメ“ドラえもん”も声優が代替わりしてからそれなりに時間も経過したからだ。件のフレーズのオープニングは私も小さい頃に聴いたきりだ。

 話が逸れたけれど、空を自由に飛びたいな、というフレーズは一見すると希望に満ち溢れているようであるけれど、実はそうではないのかもしれないとも解釈できる。なぜなら、“飛びたいな”から分かるように、彼ないし彼女はまだ飛べていないのだ。飛べていない者が空を、それも自由に飛びたいと言うことは現状に満足が出来ていない、或いは苦境に立たされて逃げ出したい状況なのではないだろうか。

 なんて、何故私がそんなことを考えているかというと、答えはいたってシンプルだ。私は今、空の上にいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二学期の期末テストも無難に終え、後は冬休みを待つばかりだとAqoursの基礎練に参加していた日のこと。

 私も体力が復活してきたからか、ランニングでは梨子先輩と良い勝負を出来るようになってきた。

 インドアな梨子先輩はああ見えてフィジカルが強く、最近ではピアノに次ぐライフワークは筋トレだと豪語している。流石に昔から体を動かしている果南さんや曜先輩、案外野生児な千歌先輩やルビィちゃん程ではないけれど、それなりに体力は付いてきている。

 

「そう言えばみんな予定は大丈夫だって?」

 

「うん。バッチリ」

 

「? 何かあるんですか?」

 

 特にライブが控えていることもなく、新年まで特に予定らしい予定に心当たりはないけれど、みんなはどうも違うらしく、果南さんの発した言葉に各々頷いている。

 

「ラブライブ決勝進出のチームだってことで、他の地方予選の観覧券を頂いたの」

 

「函館だよ、函館。HAーKOーDAーTE」

 

「美味しいものが呼んでるずら」

 

「ちょっとした旅行なんですね」

 

 いいな、と私は内心羨ましかった。このメンバーも恐らくは来年の卒業式を迎えたら揃うことも難しくなる。だからみんなで旅行に行く機会などもう無いかもしれないのだ。

 それに北海道が数多持つ観光都市が一つ、函館。いや、千歌先輩風に言うならばHAKODATEは私もまだ行ったことがない土地。興味が湧かない訳がない。

 

「星さんも来ますか?」

 

「自腹だけどね」

 

「・・・ちょっと調べさせて貰いますね」

 

 沼津から函館に行くには羽田から飛行機になりそうだ。新幹線という手段もあるけれど、LCCを使えば陸路に近い値段で移動出来そうだ。それも私からすれば決して安いとは言えない値段だが。

 これは稼いだバイト代の残りを使うときがいよいよ来たようだ。

 

「行きます!」

 

「ホテル代は?」

 

「何とかします」

 

「OK。じゃあーーーーー」

 

 そんなこんなで私はAqoursに同伴する形で函館に行く事となった。

 函館で行われるラブライブ予選にはSaint Snowが出場するし、彼女らの家も函館市内にあるらしい。挨拶くらいする時間も作れるだろう。

 そうだ、と私は沼津を出発する前に念のため穹に連絡を入れた。

 万が一、穹が沼津に来ようとしていたら擦れ違ってしまうためだ。

 

「これから少しHAKODATEに行ってきます、っと」

 

 返事など期待しない。けれど、もしお土産の催促があったなら、買って帰ろうかなと淡い期待を胸に沼津を出発し今に至る。

 思えば自分が手配して飛行機に乗るのは初めてだった。

 本当に乗れるのか不安があったけれど、今は随分と手続きが楽で、インターネットで予約してQRコードの付いたページを印刷して持って行くだけ。後は場所さえ間違えなければ問題ないのだから楽なものだった。

 しかし、羽田空港はやたら広く、移動が大変だった。海外やら国内をそこかしこと言ったことのある鞠莉さんがいたからスムーズに移動できたけど、あの広さは初見の人には絶対無理だ。

 

「星ちゃん、飛行機は初めて?」

 

「乗ったことはありますよ。小さい頃でしたけど」

 

「友達と旅行とかは?」

 

 千歌先輩からの問い掛けに、私はそう言えばと思い起こす。

 穹とは遠出はしたことはあったけれど、あれは旅行とは言い難い。もちろん修学旅行はノーカンだ。

 ならば、私が友人と呼べる人との旅行は今回が初めてになるのだろう。

 

「そう言えば初めてですね」

 

 そう思うと、なんだか少し気分がそわそわとしてしまう。

 これから降り立つ地ではどんな事が待っているのか。そして、願わくばそれが私の血となり肉となり、そして音になって表現できたらな、と少しずつ見え始めた大地を眺めながらそう思った。

 

 

 


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