ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
0時の影時間を越え、2時の丑三つ時を越え、そして朝日がおはようと顔を出した。その間、私達は一睡もすることなく入学希望者の人数を見ていた。
それが出来たのも他でもない、鞠莉さんの交渉の甲斐ありタイムリミットを朝6時まで引き延ばすことに成功したからこそだ。流石にラブライブ地区予選の動画の再生回数の上昇率、そして入学希望者の突発的な延びは運営サイドも無視出来なかったのだろう。実際、朝5時30分現在、入学希望者数は97名にまで延びた。
ここまで長かった。流石にみんな待つことに疲れた様子を隠せなくなっていた。当然だろう。よくよく考えるまでもなく私達は二徹しているのだ。
半ば意識が怪しくなり、目は開いて、周囲の状況変化にも反応しているけれど無意識であるという、支離滅裂で訳の分からない感覚があった。
現実感の欠乏する状態の中、97という数字だけが妙に頭にこびり付き、気付けば時刻はあと5分を切っていた。
「ーーーーーー」
窓から差し込む光がやけに明るくて、それでいて穏やかで、嫌味なくらい温かかった。
「ーーーーー」
残り時間が3分を切った。
やれることはやった。語る言葉は尽くした。祈りはとうに捧げ終えた。だから誰も何も言えなかった。
「ーーーーー」
残り時間、1分。入学希望者数は97のまま変動は無かった。
「大丈夫、届く!!」
遂に発せられたのは千歌先輩の祈りだった。それは届くと信じて、信じて、それでも足りないくらいの感情の発露。
私は思った。何故こんなに際どい数の入学希望者数にまでなったのだろうと。こんな気持ちになるくらいならいっそ圧倒的に少ない方がまだ諦めも付くのにと。そう、思ってしまった。
そして訪れた朝6時00分。入学希望者は97名から変動すること無く、募集終了の文字が97という数字を上書きした。
それを見て私は泣いた。ここに居る誰でも無く、私だけが泣いた。
それはみんなが薄情だとか、そう言う意味じゃない。みんなは何が起きたのか心が追い付いていないのだ。そして、私は、私だけは何が起きたのか理解している。最後の最後に諦めた私だけが感情の整理が出来てしまっている。
理解しているからこそ、悲しいという感情を素直に受け入れている自分が居て、それが本当に情けなくて余計に涙が出た。
終わったのだ。浦の星女学院は。みんなと出逢ったこの学び舎は。もう、来年にはみんなとここで会えないのだ。
流石に二徹など無茶が祟ったからなのだろう。疲れて爆睡した私は久し振りに夢を見た。
夜中の三時、近所のスーパーの駐車場となっている屋上で私は穹と何をとち狂ったのか線香花火をして遊んでいた。今にして思えば迷惑極まりない、というか幾らコンクリートで固めているとはいえ危険である。
これは確か去年の夏の終わり、穹が大処分の花火を大量に貰ってきた時のことだ。
「花火ってさ、儚いとか言う人いるでしょ?」
「いるいる。私だめなのよ、そういう良いこと言ったでしょ的なの」
「アンチ?」
「違うよ。だって、全然儚くなんて無いからさ」
「は?線香花火に見とれてる人がそれ言う?」
「だーかーら、綺麗だからだよ。燃えてるのが」
「それこそだからすぐ消えちゃうのが儚いってことでしょ?」
「そうなんだけど、そうじゃなくて、こう。ほら、火って怖いものでしょ?でも、凄く惹きつけられるのって分かる?」
「思わずライターで火を付けて遊びたくなるような?」
「そうそう。で、怖いんだけど、それを忘れさせるような、難しいことまとめて全部持ってっちゃうような、なんて言うんだろう、怪盗?」
「いや、聴かれても分からないって、アンタの頭の構造は」
「うん。怪盗だ。スカッとしたいときは打ち上げで、ストンと落としたいときは線香で、って感情をさ持ってっちゃうから怪盗なんだよ」
「つまり?」
「華麗で、鮮烈。そして当事者には激烈で、第三者には爽快感を与えるんだよ」
「何が言いたいかさっぱりなんだけど」
「だから、捉え方は立場で違うって事」
「それ、自分で言ってて纏めきれなかった感ない?」
「伝えたい気持ちも持ってかれちゃったんだよ」
「したり顔で言うな!」
「あれ?本当に私が分かってないと思ってるの、星?」
いつものような取り留めの無い会話。そしていつものようにオチの無い会話だと、私はそう思って聞き流していた。
今になってみれば立ち位置で見方が変わることを実感として知っている。けれど、穹はどうだったのだろう?そして、みんなはどうなのだろう?
「星ちゃん」
「へ?」
がばっと状態を起こすとそこは教室で、自分が教室の机で寝ていたことを思い出した。
流石に家に帰ってから再度来るのは手間しかないため、あのあと私達は学校に残ったのだ。
「起きた?」
「うん」
「鞠莉ちゃんが全校集会やるって」
学校の全員が既に知っているだろう事実を鞠莉さんは敢えて語らなければならない。
例えるなら身内が亡くなって心の整理も出来ぬまま葬式の準備に明け暮れるような、そんな感覚だろうか。そんな風に思えてしかたがない。
「ほら、二人とももう皆行くよ」
ぼさっとしている私やルビィちゃんを見かねてクラスメートが急かすように声を掛けてくる。
どうにも体に力が入らず、それでも行かなければとルビィちゃんと共に早足に廊下を歩く。
「おはよ」
「昨日寝てないんだって?大丈夫?」
クラスメートに追い付くと皆は口々にそう気を使ってくれた。それが有り難いと同時に申し訳なく思った。
皆だって学校を盛り上げようと頑張ってくれた。
ビラ配りもした。町役場や市役所に電話したり手続きをしに行った。資材を借りに頭を下げに行ったりもした。皆学校のためを思っていたのだ。だから今回のことはショックな筈なのに余計な心配をさせてしまって、それが申し訳なかった。
「ラブライブ決勝、ルビィ達三人は頑張らないとね」
「星も、応援隊長みたいな感じになってるんだから、秋葉ドームへの最安値のルート、探してよね」
事の大きさの余り見失っていたラブライブ決勝進出という事実。
「ねえ、三人とも」
「今はまだ何にも言えないずら」
このままAqoursはラブライブ決勝に出るのか?
みんなはどう思っているのか?
それを改めて考える必要がある。そう、みんな思っていた。そして放課後、千歌先輩が思った以上に心の整理が付いていなかったことから、Aqoursは結論を出すことになるのだった。
今後、スクールアイドルを、Aqoursを、ラブライブを続けるのか否かを。
入学希望者の人数がテレビアニメと違うのは私なりに理由があるので、活動報告の雑記にでも書こうと思います。