ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百三十一話

 オレンジ、いや、みかん色に輝く光の海のただ中で私は彼女達のパフォーマンスをその目に焼き付けた。

 波を作る八人による連動ドルフィン、そこから繫がる千歌先輩のアクロバットはそのパフォーマンスを目にしたみんなの心を惹きつけた。

 何をするのか知っていた私はステージの上でドルフィンを決めた直後の八人と同じように胸の前で手を合わせて成功を祈った。千歌先輩がアクロバットを決めた瞬間は感情の爆発をおさえられなかった。けれど、それは私だけでは無いはずだ。

 会場のみんなも千歌先輩が何かをするただならぬ気配を察して、好奇心から一時ブレードを振る手が止まった。アクロバットが成功した瞬間、会場はみかん畑に変貌した。本当はレギュレーション的には良くないけれど、UO(ウルトラオレンジ)を折る人もいた程だ。

 曜先輩でも果南さんでもない、また、一部からカルト的な人気のあるルビィちゃんでもない、千歌先輩が決めたからこそ、Aqoursの底力を垣間見た。

 それを見てしまったら結果発表される前に結果など分かってしまうようなものだった。

 おめでとう、そしてありがとう。私は心の中で賛辞を送り続けた。

 今回のこの“Aqours WAVE”というフォーメーションを巡る練習の日々で私なりに分かったことがある。

 千歌先輩が劣等感に苛まれてもなお、曜先輩や果南さんと一緒に居られた理由。それはいつの日か千歌先輩自身が二人に並び立っても恥じない自分になろうと常に先に先にと突き進む心を持っていたからだと。もちろん、これは私がそう思っているだけで、千歌先輩に確認を取った訳では無いけれど、スタンスの方向性としては合っているはずだ。もっとも、千歌先輩は無自覚にそうしている可能性があるため確認しても答えは返ってこないかもしれないが。

 千歌先輩のそんなスタンスに気付いたことで私自身のことも見つめ直せた。

 私は多分、穹と肩を並べられていなかったのだと思う。そして、穹が居なければ私は輝けない。そう思っていたのだ。

 私は穹と出逢わなければ誰かに音楽を届けたいと思わなかった。きっと一人で奏でては満足していたに違いない。

 私にとって、誰かに聴かせる音楽の始まりは穹で、だからこそ特別であり、穹と一緒なら輝けるって、私の輝きはそうやって誰かに依存していたものだった。

 自らの秘められた輝きを信じて、遂にはその輝きを煌めかせた千歌先輩とは違う、外からの光を反射させて輝いていたと勘違いしていたのが私だった。

 だから私は次に穹に会うまでに自ら輝きを放つ、そんな存在になりたい。だってジェミニのアカリは一等星の二つ星。同じ等級の恒星なのだから。

 

「やりましたね」

 

「ありがとう。決勝だって」

 

 地区予選の結果は文句なし、ぶっちぎりの1位通過で、いよいよラブライブ決勝に進むこととなったみんなは何処かぼうっとしていた。まるで夢の中にいるような、ても確かにやりきったような、そんな感じだった。

 

「秋葉ドーム、どんなところだろう?」

 

「私も野球の試合とか、ライブで観客席からしか見たこと無いですけど」

 

 とにかく広い。ただただその一言に尽きる。

 野球の試合を見に行った時は三塁側の下の方だったし、ライブを見に行った時は、スタンド席の前の方だったけれど、見た限り奥まで行くと凄く遠いし、上は凄く高い所に席があった。

 ライブで行ったときはJPOPアーティスト複数組のフェスだったからブレードとかを振るようなライブでは無かったけれど、ラブライブ決勝はどんな景色が広がるのか、未知の領域だ。

 

「星ちゃんも知らない景色」

 

「そんなの今までだってそうだったでしょ?」

 

「でも、私達の知らないこと星ちゃんは沢山知ってたでしょ?」

 

「お互い様ですよ。私の知らないこと、気付いていなかったこと、沢山みんなから教わりました」

 

「人の数だけ見聞はあるものですわ」

 

「人の数だけ、か・・・」

 

 ラブライブ地区予選の様子はライブ中継され、アーカイブにも動画が残っている。その再生数は今もまだ凄い勢いで伸び続けている。

 丁度私達の居るセントラルパークの特設モニターにAqoursのパフォーマンス映像が流れた時には再生数は4万を超えていた。

 それだけの人が見て、聴いて、何を思っただろう?私も頑張ろうとか、私がやるのはこれだとか、そんな風に気持ちを動かしたり、夢を見せたりしているのだろうか。

 

「まだ80人。入学希望者、増えないですね」

 

 だから入学しようとか、そう考える人が居てもおかしくない。だと言うのに、入学希望者の数は増えない。

 日本ガイシホールから学校に戻ってからもその人数は変わらない。期限は明日の0時、つまりは後4時間ほどしかないというのに、だ。

 このラブライブ地区予選が最後のアピールポイントだったけれど、やはりそれを終えてからの猶予時間は短いに過ぎる。

 

「見て!今一気に増えた」

 

「本当だ!」

 

 現在86人。あと14人増えれば統廃合は無くなる。偶々なのかもしれないけれど、今の延び方を鑑みればあと一日、二日あれば越えられるのではないかと思える。

 鞠莉さんはみんなと顔を見合わせると、経営者である父親と話すと、理事長室を出て行った。

 

「これが本当に最後のチャンス」

 

「みんなやれることはやったと思います」

 

「今からでもまだ!」

 

「気持ちは分かるよ、千歌ちゃん。でも今はもう」

 

「ビラ配りとか、ライブとか、もうそんな時間はないですし、ホームページにはでかでかと期限のカウントダウンバナーを付けました。迷ってる人は必ずその時間内に結論を出すように、見落とさないように」

 

 多分先程一気に増えたのもAqoursのパフォーマンスを切っ掛けにし、ホームページを見て駆け込みで応募したからだろう。

 

「今はどんと、腰を下ろして待っていてください」

 

 ラブライブ地区予選を無事に突破した今、今までなんとか心配するこの頃に蓋をしていた問題と向き合わざるを得なくなった。

 浦の星女学院統廃合問題。今まではそれを阻止すべく、最大限のアピールが出来るようにとスクールアイドル活動をしていたけれど、今、この時はもう出来ることはない。ただ待つしか無い身となってしまったのだ。急に拠り所がなくなり不安になっているみたいだ。

 私はといえば不安だ。けれど、案外何とかなるのではないかとも敢えて楽観していた。というかそう思うしかないのだ。

 この問題に対し、私ははじめ、みんなから一歩引いた場所にいた。それは傷付くことが怖かったから。一途になればなるほど、その気持ちと相反する結果になった時、絶望は大きくなるから。でも、私はみんなの立ち向かう姿に感化され、立ち向かうことを決めた。

 予備予選、学校説明会、アルバイト、老人会などみんなと一緒に頑張った。けれど、どうしても思ってしまう。私はみんなに並び立って、この問題に真剣になっていただろうかと?

 

「そうだね。不安に震えるだけが真剣って訳じゃ無いしね」

 

「みんな晩ご飯まだでしょ。私達買い出し行ってくる」

 

 そう行ってルビィちゃんは善子ちゃんと花丸ちゃんの腕を引いてそそくさと理事長室を後にした。

 

「星ちゃんも」

 

 と思ったら、ルビィちゃんに引っ張られ私も買い出し行くことになった。

 

「心配?」

 

 外はすっかり夜だ。それもそのはず、既に21時を越えている。

 誰が言い出すでも無く今日は帰らないとみんな決めていて、すでに保護者から了解は貰っているのだから容易周到だ。

 けど、ルビィちゃんが提案するまでお腹が減っていることすら誰も気付かなかったあたり、やっぱりみんな何処か平静ではないのだ。

 

「そりゃ秒読みの段階になったら流石に実感するよ」

 

「そうじゃなくて、星ちゃんが自分自身を疑ってないかってこと」

 

「あんたまた難しいこと考えてたでしょ」

 

 見事に図星を突かれて私は返答に窮した。本当にエスパーかと思うほどよく気付く。

 

「星ちゃんも仲間ずら。まる達が保証するずら」

 

 なんてことないようにそう断言する花丸ちゃん。

 けど、みんなは分かってるのだろうか?この統廃合問題に対し真剣になろうとしても、他の問題とかに頭を悩ませたりしていたことを。

 

「花丸ちゃん達に分かるの?」

 

 そんな私と花丸ちゃん達中心人物は取り組み姿勢が違いすぎる。だから私は花丸ちゃんの言葉をそのまま鵜呑みには出来なかった。

 

「分からないずら」

 

「でも、ずっと一つのことばかりに気持ちを置くことはできない。堕天使だってそうなのよ」

 

「みんなそれぞれ大きいこと、小さいことで悩むことだって沢山あって、気持ちもふらふらしちゃうかもだけど」

 

「それでもおら達は真剣だったと思うずら。星ちゃんは違うずら?」

 

 学校のこと、みんなのこと、穹のこと、自分のこと、悩むことは沢山あって、誰かにとっては取るに足らない事かもしれないけれど、私にとってそれは大きな事だった。どれも大切で、だからルビィちゃんのいうように気持ちもその時その時でふらふらしたけれどーーー

 

「真剣だった。真剣だったよ」

 

「なら自信持ちなさい」

 

 バシッと背中を叩く善子ちゃんの姿には入学当初屋上にいた頃とは違う逞しさがあった。

 

「そうだねっ!」

 

 そんな姿に少しだけ対抗心が湧いたからか、私もバシッと善子ちゃんの背中を叩いたら当たり所が悪かったのか善子ちゃんは盛大に咽せた。それを私達は堪らずに笑ってしまった。

 

 


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