ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
オラずらペテン師、国木田花丸の弱点を遂に突き止めたルビィちゃん。だが、その弱点を突くには特定の条件を満たさなければならなかった。
だが、ルビィちゃんは信じてる。二人なら乗り越えられない壁はないと。
今日も元気に頑張ルビィ、はじまるよ。
とまあ、適当な導入はさておき山に来た。理由はそこに山があるからだ、嘘だ。
いや、全面的には嘘ではない。スクールアイドルにはダンスをしながら息切れすることなく歌い上げる体力が必要なのだ。だからこその山ダッシュ。かのμ’sも階段ダッシュしていたらしく、ならば山ダッシュしようというのが高海先輩の談だ。実にシンプルな答えだ。
そんなこんなでスクールアイドル部一同は学校の近所にある山まで来ていた。標高はせいぜいが数十メートル。山というより小高い丘だ。
だが納得いかない。何故私も連れて来られなければならないのか?
「乗りかかった船だよ」
「私は乗ってないんですけど」
「大丈夫。牽引するから」
「それは拉致というのでは?」
とはいえのこのこと付いてきてしまったのは私だ。どうにも高海先輩の誘いは抗いがたい。断りにくいのではなく、誘いに乗りたくなるような楽しそうな響きがあるのだ。流石にスクールアイドルやろうだとか譲れないものの誘いには乗らないが。
「どう?黒松ちゃん運動不足解消にやってみない?」
「桜内先輩まで。私をインドア派と決めつけるのはやめてください」
「違うの?」
「違わないですけど」
「じゃあ、よーいどん」
「あ、ちょっと」
この先輩方は確信犯だ。そう確信した私は渋々先を走る先輩とルビィちゃん達の背中を追い掛けて歩いた。
先輩方はこれまでの積み重ねがある分ペースが良い。それに比べルビィちゃんは少し遅れているがガッツで食いつこうとしている。
花丸ちゃんはと言えばルビィちゃんからすら出遅れてヘロヘロだ。
この分ならば歩いていても追い付けるだろう。
私は山道の階段を歩きながらスクールアイドルについて考える。
煌びやかなイメージに反してその活動内容は非常に地味で世知辛い。
とにかく基礎が大切で練習の大半がひたすらの反復練習と体作りだ。
だからその活動の壁の一つとしていかにその地味な練習を乗り越えられるかが関わってくる。
地味な割にキツい。ニワカが中途半端な覚悟でやるとこの二重苦に挫折するのだ。
かくゆう私もその壁を味わったことがある。その時支えになったのが活動を一緒にする仲間の存在だ。お互いに支え合い、苦しみを共有し、喜びを分かち合う。そうやって壁を乗り越えて輝きを増していくのだ。
だが、私はその輝きを嘘で曇らせた。
「あれ、花丸ちゃんに追い付いちゃった」
気付けば全身で呼吸する花丸ちゃんの背中が見えるところまで来ていた。
「やっぱりマルには無理ずら」
花丸ちゃんは私に気付いていない。だからそのつぶやきは彼女の本心に他ならない。
彼女の口調からするとスクールアイドルに対して少なからず挑戦してみようという意思があったのだろう。
きっと花丸ちゃんはルビィちゃんに知らず知らずの内に感化されて、ルビィちゃんの為と言いつつ自分もスクールアイドルをやってみたかったのだ。
花丸ちゃんがルビィちゃん共々スクールアイドル部に、Aqoursに入ればきっと素敵だ。
なら私は花丸ちゃんにどう声を掛ける?
頑張れ、負けるな、なんて誰でも言えることしか私には口にすることが出来ない。きっと私の言葉じゃ彼女には届かない。
「ルビィちゃん」
「おおっとっと」
どうやらルビィちゃんは花丸ちゃんを待っていたらしく、悶々と後をつける間に追いついてしまったようだ。思わず私は隠れてしまった。いや、寧ろこれで良いだろう。
花丸ちゃんがルビィちゃんを長年の躊躇いから突き動かすことが出来たように、花丸ちゃんを突き動かすことが出来るのはずっと一緒にいたルビィちゃんしかいない。
私に出来るのことは言葉を伝えることじゃない。今までだってそうだった。いつだって私は伝えたいことは言葉じゃない。
私は山道を引き返すと胸ポケットからハーモニカを取り出した。
「自分勝手でごめんね。でも、私にはこれしかないみたいなんだ」
私自身の悩みは消えない。だが、この衝動は止められない。誰かに力をあげたいというこの気持ちは。
「ーーーーーーーー」
私は山道を下りながらハーモニカを吹き始めた。曲はbrave heart。宮崎歩の曲だ。
この曲に難しい言葉はない。小学生低学年で習い終える言葉しか使われていない。それだけに真っ直ぐで熱く、長きに渡り支持され続けている。もちもんメロディーも非常に格好良く、ギターやピアノのサウンドは耳に非常によく残る。
ハーモニカだけでは残念ながらその原曲の素晴らしさの全ては表現しけれない。だが、これ以上の応援歌を私は知らない。
どうかルビィちゃんと花丸ちゃんがよりより未来に進めますようにと私は願いを込めてハーモニカを奏で続けた。