ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百二十七話

 天気は快晴、気分は爽快、体調は快調と三拍子揃った練習日和。

 今日のAqoursの練習メニューは基礎トレ。学校周辺での練習に終始するそうで、放課後は着替えてから屋上に集合となった。

 私はみんなの部室にお邪魔して練習着に着替えながら鞠莉さんとダイヤさんに老人会でのことの結果報告をした。

 

「Thank you.私の所にも感謝の連絡が何件か入ってるわ。ジジババに好評だったみたいじゃない」

 

「こちらも労いと応援の連絡を受けています。星さんに頼んで正解でした」

 

 と概ね好評だったようで一安心だった。

 

「星さん、自分の曲を披露したとか?」

 

「・・・はい」

 

 当然ながらどんな様子だったのかも耳に入っているようで、私がジェミニのアカリの楽曲を披露したことも知っていた。

 

「後悔はありません。それに折角作った楽曲ですから。そのまま誰の耳にも入らないとそれこそ罰当たりです」

 

 もちろん穹に無断で、他の誰かと楽曲を披露したことについては後ろめたさもある。けれど、この機会があったお陰で少しだけ私は前進できた気がするのだ。

 だからこそ心配なこともある。それは穹が私とのことを気遣いすぎて生み出した楽曲を楽しめていないのではないかということだ。

 かく言う私が沼津に来てからしばらく自分達の曲を封印していたのだから。

 

「そう。ならまた聴ける機会もあるってことね」

 

「それこそ・・・いや」

 

 穹ともう一度、と言おうとして言葉を句切る。

 私にそれを言う資格があるのかと脳裏に過ぎったのだ。

 

「言いなさいよ」

 

「そうだよ。言葉にすると願いって叶うんだよ?」

 

 ぶっきらぼうに背中を圧す善子ちゃんと口に出して伝えることの大切さを身をもって知っている果南さんがそう私を促した。

 

「・・・また、穹と私達の曲を披露したいです」

 

 だからこそ観念したというか、私は私を誤魔化すことなく素直な言葉を言えた。

 

「凄いね星ちゃん。ちゃんと前向いてる。私達も負けてられないね」

 

 なんてルビィちゃんは関心したように言うけれど、全然そんなことはないのだ。本当に凄いのはAqoursのみんなの方で、私はそれに励まされて精一杯の強がりをしているだけなのだ。負けてられないのは本当は私の方なのだ。

 

「次はラブライブ東海地区予選」

 

「今更隠し事も何もないけど、東海地区予選の夜が入学希望者の応募の締め切り」

 

「事実上、この地区予選が私達に出来るアピールの最後の機会。最低でも東海地区予選通過」

 

「つまり東海地区予選の優勝」

 

 今更ながらその言葉は重くのしかかる。

 前回大会は絶対に負けない、というより精一杯輝く、という方向性で出場だった。それが悪い訳では無い。それに勝ち方は勝者の数だけあるのだ。Aqoursの前回の心の持ちようで勝ち進んだグループも中にはいるだろう。

 しかし、Aqoursは前回それで前に進めなかった。だから前と同じではたぶんいけないのだ。

 

「こないだね。私Saint Snowの聖良さんと電話で話をしたんだ。やっぱり聖良さんもいつかダイヤさんが話してたことと同じように言ってた。今のスクールアイドルはパフォーマンスのレベルだけで言えば先駆者達に引けを取らないって」

 

 アーティスティックさで世を魅了したA-RISE、見る人の多くを楽しませたμ’s、その他多くのスクールアイドル達の活躍によりラブライブは実力主義が進む結果となった。先駆者達の意図はどうあれそうなってしまった。

 傍目から見てAqoursのパフォーマンスはもう一線級だ。ラブライブ決勝に勝ち進むグループと遜色は無いだろう。

 

「そのなかでどうすれば良いか聖良さんも迷ってた。ラブライブを今の形にした人にまだ並び立ってないって。手の届かない光があるって」

 

「光・・・」

 

「私達、自分達の道を自由に進もうって、私達の輝きを見付けようってこれまでやってきたけど、まだそこに答えをだせてない。だから、私達Aqours“らしさ”を形にしなきゃいけないと思うんだ」

 

 その千歌先輩の言葉を聴いて私は真っ先に思い浮かんだAqoursらしさは千歌先輩だった。

 ぐいぐいと周りを巻き込み、でもとてもよく人を見ていて、ペースを合わせるAqoursの舵取り。今のAqoursの発起人。この人が居なければAqoursは無かったのだから。

 そして、ダイヤさんや鞠莉さんもまた同じ思いがあったのか、二人は顔を見合わせて言った。

 

「このタイミングで千歌さんからこんな話があるなんて運命ですわ。あれ、話しますわね」

 

 そう言ってダイヤさんは果南さんに一言確認を取り話を続けた。

 

「二年前、私達三人がラブライブ決勝に進むために作ったフォーメーションがありますの」

 

 ダイヤさん語ったのは、嘗て三人の関係に溝を作る要因になった事件の切っ掛けとなったものだった。

 この高難易度のダンスフォーメーションで鞠莉さんは足に怪我をし、それを見た果南さんが強引にスクールアイドル活動に終止符を打った。

 だからだろう。ダイヤさんが話している間、果南さんはずっと浮かない顔をしていたし、消極的には反対しているようですらあった。

 

「これはセンターに掛かる負担もみんなに掛かる負担も大きいの。今そこまで無理する必要があるの?」

 

 高いパフォーマンスを求めることが勝ち上がることと直結しない。そう話していたばっかりだろうと果南さんは言う。けれど、私は違うと、高いパフォーマンスの部分ではないのだと思う。

 

「果南さん達三人だけのAqoursの時にやろうとしたこと。それを今のAqoursがやるってことが大切なんじゃないですか?」

 

 その物語がAqoursらしさに繫がるのではないか?

 

「星はやらないからそんなことを言えるんだよ」

 

 果南さんは私を睨むようにそう言い捨てる。けれど、私もまた今回は忌憚のない意見を言おうと思う。どうにも果南さんは過去の体験から消極的になっているように感じられる。

 私がそうする必要は無いのかも知れないけれど、少しでも果南さんがいつもの感じになれるならと私も負けずに言う。

 

「そうかもしれないです。でも、だから無責任に言ってやりますよ。少なくとも私はそのフォーメーションを見たい」

 

 Aqoursの発起人で、今回の曲のセンターを務める千歌先輩が、先代Aqoursから引き継いだフォーメーションを引っ張る。それはとてもーーーー

 

 

「それが今のAqoursらしいと、私は思いますから」

 

「星・・・」

 

「果南ちゃん。今そこまでしなくて何時するの?」

 

 千歌先輩は果南さんの手を取って懇願するとも違う、真に問い掛けるようにそう口にした。

 

「千歌・・・」

 

 学校の存続を賭け、最後のチャンスに全力を注ぐ時は今しかない。それを分かっているから果南さんは最終的に折れた。

 

「もし危ないと思ったら、私はラブライブを棄権してでも止めるからね」

 

 果南さんはぶっきらぼうにそう宣言するが、気付いているのだろうか?その一言は、以前の失敗を繰り返さないとする果南さんの確かな前進だと言うことに。

 

「どれどれーーーーぅわ!」

 

 そう言って千歌先輩に手渡されたヨレヨレのノートをみんなで見て、みんな若干引いていた。

 確かにこれは一筋縄では出来ないフォーメーションであると。

 


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