ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百二十六話

「今日ね、あの後善子ちゃんとアンコの所までいったでしょ」

 

「どうでした?無事に捕獲できました?」

 

「それじゃ誘拐犯じゃない。全然無事じゃないでしょそれ!まあ、こそこそと待ち伏せはしてたんだけど」

 

「ストーカーさんですか?あ、こう犯罪的な言葉のあとに“さん”をつけると当事者は俄然やる気になるらしいですよ」

 

「そんなんじゃないよ、もう。でも、インターホン鳴らすのもちょっと違うでしょ?私達の線にまた交わるところがあるならって」

 

「出てきたんですか?」

 

「うん。それでね、呼び掛けたりはしてないんだけどこっちに振り向いてくれたんだーーーーって、言ってみるとこれだけ。意味分からないでしょ?」

 

「はい。たぶんそれは梨子先輩と善子ちゃんだけの世界なんだと思います」

 

 電話越しに話しをする梨子先輩からは妙にスッキリとした印象を受ける。

 きっと梨子先輩の言う“これだけ”がなにものにも代え難い体験だったのだろう。それは当事者にしか分からないし、 分かった風に同意することを梨子先輩が求めている訳では無い。

 伝えたいけど伝わらない感動、それでも誰かに話したいもどかしい微熱とでも言う気持ちだけは何となく分かるから、私はただそのあったという事実にのみ同意した。

 

「それでね、なんか触れる気がしてさっき帰ってきた時に千歌ちゃん家に寄って、そしたらしいたけに触れたの」

 

「遂に苦手克服ですね」

 

「今までの反動なのかな?今凄くハマりそう」

 

 梨子先輩は没入型のハマり方をするタイプだからちょっと大丈夫かなとも思いつつ、梨子先輩が犬を飼うことになったら、それはどんな出逢い、運命をもたらすのか楽しみになった。

 

「私思ったの。この世界には偶然ってないのかもって」

 

「・・・その心は?」

 

「いろんな人が色んな思いを抱いて、その思いが見えない力になって、引き寄せられて運命のように出会う。全てのものに意味はあるんだって」

 

 私は運命という言葉が余り好きでは無い。それは私が定義する運命とは“変えようのない決定された未来、自動的に人の意図とは関係なく決定づけられるもの”と思っているからだ。

 けれど、梨子先輩の言っていることはどちらかというと因果論に近いのだろう。偶然と思われる事象の中にも引き合う力はあった。それをロマンチックに捉えた言葉が梨子先輩の言う運命なのだろう。

 

「私、運命って言葉そんな好きじゃないんですよ。でも、梨子先輩の感じるような運命だったら、少し好きになれそうです」

 

「星ちゃんも結構ロマンチストなんだね」

 

「梨子先輩。それ自分がロマンチストって言ってるようなものですよ」

 

「いいじゃない。星だろうと犬だろうと導かれるものが時にはあるって信じたって。スクールアイドルなんだから。」

 

「犬も歩けば棒に当たる。今回の一部始終は正にそんな感じでしたね」

 

 落とし物は見付けるし、良い選曲はするし、タイミング良きに梨子先輩と善子ちゃんを連れてくるし、こっちが状況を掴むのに精一杯だったくらいだ。

 思えば私と穹がコンビを組むことになったのも穹が偶々犬の散歩をしていたことが切っ掛けだったのだから、犬の運ぶ縁とは馬鹿に出来ない。

 

「そんなのも悪くなかった、でしょ」

 

「はい」

 

 老人達の宴で“ジェミニのアカリ”の楽曲を披露出来たことは思い出すだけで未だに胸の奥が熱くなる。

 穹に対して申し訳ないとも思うけれど、やっぱり自分達の音楽を披露することの楽しさを再確認するためには必要なことだったのだろうと、後付みたいだけどそう思った。

 

「実はあれから曲作り、少しだけ進んだんです」

 

「そっか。うん。完成するのを楽しみにしてる」

 

 じゃあね、と通話を終え、私はベッドにゴロ寝した。

 目を閉じれば心に響く音がある程度の法則性を持つように感じられる。新しい、私の音が聞こえてきた気がする。それは大きなヒントだった。

 

「そうだ。聖良さんにもお礼しなきゃ」

 

 放り投げたスマホを再び取り、聖良さん連絡すると、聖良さんはワンコールで出てくれた。

 

「はい。茶房 菊いず・・・間違えました。鹿角です」

 

「すみません。仕事中でしたか?」

 

 鹿角姉妹の実家は古民家カフェ風のお店を経営していて、二人は看板娘としてお手伝いしているらしい。いや、看板娘ってのは私の勝手な想像だけれども。

 

「今は理亞の持ち時間ですから大丈夫です。それより上手くいきましたか?」

 

「はい、無事に。ありがとうございました」

 

「どう致しまして。私も良い息抜きになりました」

 

 聖良さんはSaint Snowの楽曲の作詞、作曲を一手に行っているためラブライブの予選前などは頭を相当に酷使するのだ。予備予選が終わった後だったからこそ今回手伝ってくれたのだろう。

 

「次の予選。頑張ってください」

 

「本戦に進んだら東京でまたお会いしましょう」

 

「楽しみにしてます」

 

「ところでAqoursのみなさんもそろそろ予選の準備をしていると思いますが、大丈夫ですか?なんだか千歌さん、悩んでたみたいですが」

 

「千歌先輩が?」

 

「やっぱりスクールアイドルの宿命というか、生徒数の少なさは小さくないハンデですから。それを覆すにはどうするかって」

 

 スクールアイドルの世界はパフォーマンスのレベルだけが勝敗を決する訳では無い。アイドルコンテンツであるため人気投票の側面もまた存在する。そして人気投票であるならば自分の所属する学校のスクールアイドル以上に認知しているアイドルはいないのだ。その差は馬鹿に出来ない。

 

「前回は超えられなかった壁ですしね」

 

「私から言える事は千歌さんに伝えました。だから、後は側にいる貴方達が力になってください」

 

 本大会に進んだらぶつかり合うことになるけれど、それまでは良きライバル。切磋琢磨する関係であるというそのスタンスは清々しい。

 ここ数日は自分の活動が忙しかったため、Aqoursの活動はあまり追えていなかった。

 明日は鞠莉さんとダイヤさんに報告がてらみんなと練習しようと、そう思った。

 

 


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