ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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大凡週末に更新しておりますが、7/9、7/10はAqoursの福岡公演に現地参加するため恐らく執筆の時間が取れないと思われます。


第百二十一話

 翌日のことだ。どうにも一日を通して善子ちゃんがそわそわとしていて、非常に不気味だった。それを花丸ちゃんもルビィちゃんも察していたようで昼休みには、

 

「善子ちゃん今日はトイレ近いの?」

 

「違うわよ!」

 

「じゃあ貧乏揺すりずら?」

 

「それも違う!」

 

 なんて善子ちゃんを弄っていた。

 二人とも善子ちゃんから犬を預かれないかと連絡を受けていたとのことで、善子ちゃんが犬の件でそわそわしているのだろうとは検討が付いているらしい。

 と言うか、颯爽と自宅マンションに犬を引き上げていったクセに善子ちゃんのとこのマンションはペット禁止とは、いよいよどうするつもりなのだろうか?

 

「善子ちゃん、あの後犬どうしたの?」

 

「ど、どうもしないわよ。ライラプスなら今頃魔力を蓄えて居る頃よ。って、そういえばフェンリルってなによ!?」

 

「いやいや、善子ちゃんももう飼うつもりでいるの?」

 

「悪い!?」

 

「悪いとかじゃなくて、飼い主見つかったら返さなきゃいけないんだよ?」

 

 善子ちゃんは私の言葉に不満げな表情をしながらうー、と唸る。

 唸られてもどうしようもないし、どうしようもないことは善子ちゃんも理解している筈なのだ。

 

「飼い主なんて居ないかもしれないじゃない。そしたら私が面倒見るしかないでしょ」

 

「それにしても善子ちゃん家じゃ飼えないじゃん」

 

「あれは仮初めの仮宿。堕天使ヨハネにはもっと相応しい家がある」

 

「仮って二回言ってるずら」

 

「うるさい」

 

 善子ちゃんはそう言ってこの日は放課後まで私に口を聴いてくれなかった。

 なぜこんなに入れ込んでいるのだろう?私はペットを飼ったことがないからそれが分からない。やたらハマる人が居ることは分かっているけれど、動物を可愛いと思えどそこまで夢中になったことのない私にはその気持ちか分からない。

 確かに動物は、特に哺乳類は多少はコミュニケーションを取ることが出来る。その中でも犬は奇跡的に人間に寄り添って生きることを選んだ、或いは選ばされた種族で、飼い主に信頼を注いでくれる。単に私がその実感をしたことがないから淡白に捉えてしまうのだろうか?

 善子ちゃんが入れ込む理由を知るには私もそれを実感しなければならないのだろう。知りもしないのに知ったような口を聴かれたら善子ちゃんだって腹も立つ。そう思い、放課後はとっとと練習を切り上げた善子ちゃんを追うように沼津市街地に出掛けた。

 流石にアポ無しで善子ちゃんの家に飛び込むのは気が引けたため、今からどれだけ犬が素晴らしいのか確かめに行きたいと連絡したところ、少し間があってから、彼の流れの杜にて待つ、と返信があった。

 

「いや、どこって話よ」

 

 確か自宅の事を仮初めの仮宿と言っていたから多分自宅ではない。杜、というくらいだから奉っている系の物がある印象だけど、彼の流れって何だ?

 流れ、時、流行?いや、多分もっとシンプルで、彼の流れ、狩野流れ、狩野川ではないかと推理し、私は狩野川沿いに出ると善子ちゃんのマンション付近まで川沿いを下る。すると、

 

「善子ちゃん、それに梨子先輩?」

 

 珍しい組み合わせだ、と思った。この三人だけで集まったのはカラオケに一緒に行った時以来ではないだろうか?

 

「星ちゃん、助けて!」

 

「ほあっ!?」

 

 二人を見付けて早々、ライラプス(仮)に追い掛けられている梨子先輩は私の後ろに回り込み、容赦なく盾にした。

 幸いライラプス(仮)は出来た犬のようで追い掛けてはいるものの無闇矢鱈に飛びついてこなかったのでホッとした。

 小型犬と言えども侮れない力があり、完全に野生化した戦闘態勢の犬ならば小型犬でも成人男性を軽く殺害しうる殺傷力を持っているのだ。

 

「ってあれ?」

 

 飛びついてこないことに心を撫で下ろしている間に、私達を通り越したライラプス(仮)がマンションの植栽に頭を突っ込んだかと思うと、Uターンして戻って来て私の前で止まった。

 

「私?善子ちゃんでも梨子先輩でもなく?」

 

 思わず二人を指差してしまったけれど、ライラプス(仮)は首を振って私のことを見詰める。

 愛らしい眼差しは確かに心くすぐられる。

 

「どうしたの?って何か咥えてるじゃない」

 

 梨子先輩にライラプス(仮)をけしかけた善子ちゃんが近づいてくると、ライラプス(仮)の口から何かを取り出した。

 

「こ、これは彼の魔術王の!?」

 

「はいはい。でも、指輪ね」

 

 善子ちゃんの妄言を軽く一蹴して梨子先輩が冷静に指輪を検分する。

 見た感じ特に意匠に特徴の無いシルバーリングだ。

 誰かが落っことして転がってしまったのだろうとは思うけれど、周囲には私達しか居ないため何時から落ちていたのか分からない。案外若い人が買った安物なのかもしれない。

 

「後で交番に届ければいいよ。ここからだったら帰りの道中に交番あるから私預かるよ」

 

 そう申し出ると、何故か善子ちゃんがライラプス(仮)を抱きかかえ私に押し付けてきた。

 

「え?交番に届け出ていいの?」

 

「そうじゃなくて!預かって」

 

「いやいや、そう言われても・・・この子梨子先輩のことが好きみたいだし?」

 

「はい?」

 

「やっぱり梨子先輩は犬から好かれるタイプなんだよ。だから梨子先輩が適任だと思うよ」

 

 丁寧にそう言って善子ちゃんと指輪と交換でライラプス(仮)をお返しする。善子ちゃんは「ギラン」なんて態々口に出して梨子先輩を次なるターゲットとして見据える。

 どうやら既にそんな話を二人はしていたようで、がやがやと協議を始めた。

 まだ状況を掴みきれて居ないけれど、どうやら善子ちゃんは自宅で犬を飼えず、屋外でこっそりと面倒を見ていたのだろう。けれど、そんなもの長くは続けられないためみんなにヘルプを出していたようだ。

 なんとも行き当たりばったりだと思いつつ、私は押し付けられぬよう、しれっとこの場を立ち去った。

 殆ど一瞬の対面だけど、どうやらあの犬と私との間には運命の糸は結ばれていないらしい。

 ただ可愛がるだけなら良い。けど、善子ちゃんから預けられそうになった時、一瞬でも飼うことに面倒くさいと思った私には多分無理なのだと思う。常に可愛らしい犬を愛でることが出来るのと引き換えるにはちょっと自分の時間を私は愛しすぎているようだ。

 

「じゃあまた明日ね」

 

「星ちゃん!?は、薄情者ー」

 

 そんな梨子先輩の悲鳴を背に私はクールに立ち去るのであった。

 

 


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