ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百二十話

 老人会の催し物ではちょっとした見世物の鑑賞会が行われるとのことで、私の他に大道芸や手品師などお呼ばれしているとのこと。私は音楽パフォーマンスのパートを担当するとのことだ。

 さて、と私は頭を悩ませる。音楽は流行廃りはあれど素晴らしいものは素晴らしい。けれど、やっぱり自分と縁のある音楽は特別な響きがするものだ。

 だからなるべくその年代にマッチした曲目にしたいのだが、イマイチイメージが湧かない。恐らくは1940年代、1950年代だとは思うけれど、よくよく考えると半世紀以上前の流行、私が知るよしも無い。

 レパートリーを増やさなければ、と動画サイトを回る。やはりオリジナルよりカバー曲がいいだろう。私もそれくらいの分別がある。

 

「お、Saint Snowの予備予選の動画だ」

 

 道民、道産子等々、色々と言い方はあるけれど、とにかく北海道が誇るスクールアイドルデュオだ。順調に予備予選を通過したらしい。

 予備予選に引っ提げてきたのは“CLASH MIND”。その歌詞からは彼女達の生の感情が読み取れる。更なる高み、輝きを模索するために今一度スタートラインにたったという、その等身大の姿が凄くこちらを引き込む。

 そして前作“SELF CONTROL”のお客様がコールするような構成とは違い、聴き入らせる構成となっているが、聖良さんの圧倒的な歌唱力が説得力を持たせている。きっと生で見ていたとしたら聞き惚れてブレードを振ることすらままならないことになっていただろう。

 そんな人達がジェミニのアカリを知っていた。それがちょっとむず痒い感じがする。

 

「案外知っていたりするかも」

 

 私達のようやマイナーな存在すら認知しているほどスクールアイドル活動に熱心な聖良さんならばもしかしたら良い楽曲知っているかもしれない。

 

「もしもし、千歌先輩?」

 

「星ちゃんどうしたの?」

 

 ちゃっかり聖良さんと連絡を取り合っているという千歌先輩に説明し、聖良さんへの連絡を仲介して貰った。千歌先輩は二つ返事でOKしてくれて、聖良さんに許可を取り、晴れて直接連絡することとなった。

 

「こんばんわ、鹿角聖良さん」

 

「こんばんわ、黒松星さん」

 

 どうも聖良さんは直接相手の顔が見えるテレビ電話が好みらしく、私は今、パソコンのディスプレイ上に映し出された聖良さんと顔を合わせた。

 

「東京で顔を合わせて以来になりますね」

 

「じっくりと話はできませんでしたけどね」

 

「しかし、幅広いレパートリーが売りのジェミニのアカリから相談を受けるなんて、思っていませんでした」

 

「幅広いって言っても限度はありますから。私達のことを知っているくらいに情報通な鹿角さんの知識、当てにさせて貰いますよ」

 

「聖良で良いですよ。理亞も居ますからね」

 

 では聖良さん、と言うと聖良さんは満足げに頷いた。

 千歌先輩から既に話は聴いているとのことだったが、改めて事のあらましを説明した。

 

「地域の人との交流ですか。いいイベントですね」

 

「流石にジェネレーションギャップがありすぎますよ」

 

「確か。案外音楽の教科書に載るような曲は認知されていたりしますよ」

 

 山口百恵の“秋桜”、“いい日旅立ち”なんかは確かに誰もが知る曲だろう。確かによくよく考えれば分かることだが、生まれた年の音楽とは案外知らないもので、そこから音楽を意識するようになるには最低でも5年、少なくとも10年は経過してからだろう。細かい時代背景は分からないけれど、1950年代は徐々にラジオからテレビにメディアが移行しつつある時代で、ラジオでは音楽番組とは必ずしもメジャーでは無かったと思われる。すると、その年代に生まれた人か音楽に熱中するのは今の人よりも遅いかもしれない。

 

「1960年代は良いかもしれませんね」

 

「とは言え私はやっぱり最近の音楽の方が好きなんですけどね」

 

「どんなの聴きます?」

 

「もう解散しちゃいましたけど“BOYSTYLE”とか好きですね。理亞なんかは“BABYMETAL”が」

 

「BOYSTYLEが最近って、聖良さん歳幾つでしたっけ?」

 

「色々調べてると2000年代が最近に思えるの」

 

 確かに1990年代後半からの音楽は、広まった各音楽ジャンルが成熟し、より広くの人に受け入れられるようになった。現代音楽の形が出来た頃なのだ。だから2000年前後は最近と言っても違和感がない。

 

「星さんって基本的にJ-POPでしょ?」

 

「図星です」

 

「いいの、私もだから。でも、それこそ1960年代の流行なんて洋楽じゃない?ビートルズとか」

 

「良いですね。その辺りも探ってみますね」

 

「私も纏めてリスト化しておくから後で送るね」

 

「すみません。予選の準備もあるのに」

 

「いいんです。私達がラブライブを優勝するには多分、もっと多くの見識が必要なんだと思うので」

 

「前回大会は傍から見れば大健闘だと思いますが、Saint Snow的にはやっぱり?」

 

「それは頂点を目指していますからね」

 

 不覚にも私はその真っ直ぐな言葉にSaint Snowを応援したい気持ちが芽生えた。

 迷いもあろう、苦悩もあろう、けれど到達点はぶれないそのストイックさがとても格好いい。しかも、それをするのが聖良さんのような可憐な女子なのだから尚更だ。

 

「応援しますよ」

 

「Aqoursと決勝でぶつかっても?」

 

「そうなったらどうしましょうね?」

 

 私達はふふ、とお互いに笑い合う。少ないやりとりながらもこの人が気持ちの良い人物であるというのがよく分かった。流石に妹の理亞さんがお姉様と呼び慕うだけのことはある。

 

「私としてはジェミニのアカリの活動も気になるんだけど?」

 

 柔やかな表情も声のトーンも全く変えることなくしれっとぶっ込んでくるところなんか本当に食えない。

 

「絶賛活動休止中です」

 

「喧嘩でもしたの?」

 

「ノーコメントで」

 

「・・・お節介焼いちゃいましたね。その辺りは千歌さんに任せますよ」

 

 なんて、しれっと言うのだから毒気も抜けるというやつだ。

 聖良さんはそれではSaint Snowでした、と茶目っ気たっぷりに額の両サイドで開いた手の甲を見せつけるようなポージングを決めて通話は切れた。北海道は函館のヤバいスクールアイドルだと改めて認識させられる。

 

「気にされるってのは悪い事じゃないんだけどね」

 

 私も多少はキモが据わったらしく、その話題を出されただけで心がざわつく事も、人に八つ当たりすることもなくなった。聖良さんの期待や善意を感じ取ることが出来る程度には私も弁えられるが、だからといってすぐに相談できる内容でもない。

 

「あれ?善子ちゃんからだ」

 

 聖良さんとの通話を終えた後、一日の締めとしてメールやSNSのチェックをしていると善子ちゃんから連絡があることに気付いた。

 犬の名前に付いて、ライラプスとケロベロスのどちらがいいかとの内容だった。

 首輪が付いていた犬だから捨て犬ではないと思われるし、名前なんて気が早いのではないかと思うのだが。

 私は2、3秒考えてどうでもいいや、と思い適当にフェンリル、と返信した。

 よくよく考えれば首輪の付いている犬なのだから警察に拾得物として届け出ることも可能なのでは無いかとも思ったけれど、善子ちゃんはどうにも自分で何とかしたいと考えている節がある。

 変な騒動にならなければいいけど、と善子ちゃんが関わっている時点で既に無理なことを願うのだった。

 

 

 


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