ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
来週も同じ様なペースの更新を目指します。
学校説明会も終わり、取り敢えずの一区切りが付くと、目を背けていたそれ以外の現実が急に気になってきた。穹から課題の出された私の音楽?それもある。けれど、もっと即物的で、けれど妥協出来ない問題だ。
「バイトしようかな」
そう、金がない。金がないのだ。
要所要所で節約はしていたつもりだが、方々走り回った結果、交通費でかなり持ってかれたようだ。
浦女は周辺に金を使うような場所がないため普通に学校に通うだけならば大して出費はない。けれど、一度沼津市内に行こうものならそれだけで金が掛かる。学校説明会の準備のために浦女生は今、皆金欠なのだ。
教室で皆でタウンワークなどの求人情報を精査する。
仕事を選ばなければアルバイトは正社員登用以上に世間に溢れている。
引っ越してくる前は、都心まで出ればリフレで高収入・短時間なんてのもあり、年齢を誤魔化して働こうとした同級生がいたが見事親バレしていた。散々説教されたのか、明るめに髪を染めていた彼女が翌日には黒髪の日本人形みたいになっていたが、そのイメチェンが功を奏したのか、翌週には彼氏が出来たのだから人生とは分からないものだ。
勿論私はリフレだとかで稼ぐつもりはない。現実的にそういう職業はあるし、必要とされてもいるとは納得しているけれど、あの職業は業務に関わる事故遭遇率が高いのだ。私は不必要なリスクを負うつもりは毛頭無い。探すならば収入と労働環境、確保できるプライベートの時間とのバランスを考える。
「だとすると無難に倉庫でのピッキングとかか」
「星ちゃん、人のこととやかく言うつもり無いけど、もう少し女子であることを楽しもうよ」
クラスメート数人で求人のフリーペーパーを覗き込みながらそんな話をすると、呆れたように返される。
確かに私も人並みにファッションには興味があるし、可愛い制服で仕事を出来るなら素敵だとも思う。けれどーーーー
「そういうのは接客でしょ?好んでしたくないのと、制服って洗ったりするの面倒だし。職場でクリーニングあるっていっても数回は着てからだったりするから案外良いものでもないよ」
「そ、そうなんだ」
とは言ったものの、公然と制服を着れることはやはり魅力的であることに変わりは無い。東京で見たことがあるけれど、喫茶店の椿屋珈琲なんかは大正ロマン風の給仕服を着ていたりしてシックに可愛かった。そういう出で立ちでスマートに仕事をする姿はさぞかし映えるだろう。
「とはいえ仕事してたら制服云々なんて余裕無いだろうけど」
「それもそっか」
「随分と詳しそうに語るけど、アンタバイト経験なんてあったの?」
一緒にバイトの求人を見ていた善子ちゃんが訝しげに尋ねてきた。
「んー職業体験ってやつだよ」
「ものは言いようね」
全くもってその通り。
私は沼津に来てからバイトはしていない。だとするとバイトが出来る時期など本来は無いのだ。あるとしたら年齢を詐称するか、個人経営の店のお手伝いという名目で働くかの二択だ。
回答を曖昧にしたことで察したのか呆れたように善子ちゃんは溜息を吐いた。
「真っ当なルートで働くのなら何処がいいかな?」
「果南ちゃん達に聴いてみるずら?」
「先輩だし、そういう経験もあるかも」
花丸ちゃんとルビィちゃんはそう提案するけれど、私はあまりそうは思わなかった。
鞠莉さんの実家は裕福で、ポケットマネーの心配は不要なくらいにお小遣いを貰っているようだし、ダイヤさんは実家が厳しいため、バイトをさせて貰えなさそうだ。どちらもバイトをするとしたら社会経験のため、となるだろう。
果南さんは家業のダイビングショップの手伝いがあるためバイトどころではないだろう。
「寧ろ二年生に聴いた方が良いんじゃ無い?」
「甘いわよ星」
「梨子ちゃんはピアノ一筋。千歌ちゃんは実家の手伝い。曜ちゃんは高飛び込みの練習」
「そうだった。って、それだとどっちも駄目じゃん」
「だけど、三年生なら自分がバイトをしてなくても友達になら居るんじゃ無いかな?私達くらいの時期にバイトし始めたって人が」
「じゃあ鞠莉ちゃん達に聴いてみるずら?」
「もう授業始まるわよ。ルビィ、ダイヤさんにメッセージ送っておいて」
「うゆ」
ルビィちゃんは掌を見せない肘を張った警察式の敬礼をビシッと決めると素早くスマホを操作してものの数秒でメッセージを送っていた。
因みに日本では掌を見せない敬礼が主流だそうだ。曜先輩の掌が見えるような敬礼も可愛いので好きだが。
「それにしてもみんな先輩達の呼び方変えたんだ」
「そうね。今まで変に意識し過ぎていたのかなって、そう思ったの」
「今までより気兼ねなく話せるようになったと思うずら」
困難を一緒に乗り越えたみんなの間に気付けば深い絆が芽生えたのだろう。
それにしても鞠莉ちゃんに果南ちゃん、か。警戒心の強い善子ちゃんや人見知りの花丸ちゃんがそう呼び慕う姿を想像すると微笑ましい。
しかし、何故ダイヤさんはダイヤ“さん”のままなのだろうと、それだけが気になった。