ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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臨時更新


第百九話

 遂に迎えたラブライブ予備予選当日、そして学校説明会当日。しかし、前日に新たに発覚した問題によりAqoursは二手に分かれてパフォーマンスをすることとなった。新たに、というより完全に失念していた問題によりという方が正しいが。

 その問題とは、学校説明会の父兄に向けての挨拶だ。

 学校説明会があるというのに理事長や生徒会長が挨拶をしないなど有り得ないだろう。もちろん、浦女に足を運ぶ人も事情は多少は知っているだろう。けれども、生徒会長はともかくとして学校説明会の場に学校のトップが現れないとなると、学校のことより自分達のことを優先していると取られかねないのだ。学校に人を呼び込まなければならない今、その印象を与えることは得策ではない。

 挨拶をしてから予備予選会場に向かうとなると時間ギリギリになり、一つ歯車が狂うと予備予選に遅れ、更に学校説明会後のライブにも出られなくなる。

 やはりリスクを考えると二手に分ける事が一番のように思えるのだ。

 それらを踏まえて協議した結果、予備予選には二年生組と黒澤姉妹、学校説明会には花丸ちゃん、善子ちゃん、鞠莉さん、果南さんという割り振りになった。

 未来のことを語る上で絶対はない。正しいこともない。それを分かっていながら私は鞠莉さん達の選択をどうしても正しいと思えないでいた。そしてそう思ってしまう自分に戸惑っていた。

 私はどちらかと言えば合理主義の傾向があると自分を分析している。そのため、普通ならば低い可能性に賭けるよりも無難な方にと選択するだろう。けれど、それを出来ないと言うことは私が自分で思っている以上に感情的になっているか、合理的に見えるそれこそ合理的でないかだ。いや、いっそ両方なのかもしれない。いや、両方なのだ。私はそう思うことで、今まで背中を見ていたみんなと同じ立ち位置に並ぼうと思った。

 今こそ本当に示すのだ。心から私はみんなと、皆と同じ浦女生なのだと。

 

「アンケートのご協力をお願いします」

 

 私はムツ先輩達に相談し、そして学校説明会の人員を一部借りることとした。そして今、私は体育館に足を運んだ未来の後輩候補と親御さんにたった二問のアンケートを実施している。

 これはAqoursの活動に私が干渉することではない。ただ、皆の望み、それを伝えるだけだ。

 一心不乱に私を含め2名体制でアンケートを採り、それを纏める。たった今、最後の一人分が終わった。

 時間が無い。焦りからか暑さだけではない汗が額と背中に流れる。けれど、私は確かに今日、ここに来た皆の想いを預かったのだ。ならばそれを当事者に伝えなければならない。そう思うと体の奥からカッと別の熱が沸き上がるのを感じる。

 そして、熱に浮かされながら、私達は集計を終え、その結果に満足した。もちろん、私が満足してもしょうがない。この結果を前に、鞠莉さん達がどう感じるのかが大切なのだから。

 

「星ちゃん。後はこの結果、託したからね」

 

「うん。手伝ってくれてありがとうございました」

 

 名前は知らないけれど顔は知っている一つ上の先輩は私の名前を知っていたことに驚きながらも私は精一杯力強く頷いた。

 そして、始まった学校説明会。

 学校の代表としてステージに登壇する理事長 鞠莉さんは演台から語り掛ける。

 今日来てくれたこと、そして浦女に興味を持ってくれたことに感謝を。そして、今日は浦女の魅力を沢山見付けて欲しいと、要約するとそんなことを話していた。

 鞠莉さんが話す言葉は今日のために用意しただけの台詞ではない。言葉に嘘が無いのだ。本当に心の底からそう思っているから引き込まれる力を持つ。

 

「あの、質問いいですか?」

 

 だからこそなのだろう。私が司会進行のフリをして鞠莉さんへここに居る皆の気持ちを伝えようと口を開いた瞬間、想定外のことが起きた。それはステージの前に集まった受験生の一人から発せられた質問だった。

 

「はい。どうぞ。私に答えられることなら」

 

「理事長はAqoursでもあるんですよね?なら、今日は予備予選にAqoursは出ないってことですか?」

 

「そんな事ありません。どちらにも出ます。二手に分かれてね。私達は九人も居るのですから」

 

「それって、Aqoursなんですか?」

 

 仲間の夢を守るために梨子先輩が予備予選に不参加となったあの時とは事情が違う。今回のこれはただの消去法でしかない。それを自覚しているからこそ、鞠莉さんは言葉に詰まる。

 

「全員で予備予選に出られないんですか?」

 

「物理的には可能です。全員で予備予選に出て、学校説明会後のライブにも参加することが」

 

「星ちゃん!?」

 

「徹底的に調べました。可能です。今すぐに出発すれば」

 

「でもーーーーー」

 

「ここで『今から予備予選通過してくるから待ってて』って言って予備予選に出て、そのあとここのライブに帰ってきたら最高に格好いいと思いませんか?皆さんも、今質問してくれた貴方も、そう思いますよね?」

 

「思います!!」

 

 私の煽りにご来場下さった受験生と保護者さんは肯定の言葉を返してくれた。

 

「誘導した訳じゃ在りませんよ。ほら、この通り、アンケートでもバッチリ、ちゃんと聴いているんですから」

 

 アンケートはAqoursのフルパフォーマンスを予備予選で行って欲しいか、という問いと学校説明会から一時的に理事長を初めとしたAqoursメンバーが退席しても良いかという問いだ。その結果はどちらも肯定だった。

 その結果を纏めた紙と、回答を貰ったアンケート用紙を鞠莉さんに見せつけた。

 

「みんな・・・」

 

「任せてください。あ、ついでにラブライブ運営に問い合わせたんですけど、学校でライブビューイングすることは特段禁止されていないらしいので、今日はみんなの勇姿、ここで見ようと思います」

 

 学校の生徒の応援、そして関係者や保護者の観覧は可能かと問い合わせをしたところ、二つ返事で答えが返ってきたのだ。というか、よく調べたらよくある質問の欄に似たものがあった。

 幸いにしてプロジェクターは学校に常備してある備品だ。ちょっと調整するだけでこの体育館はライブビューイング会場に早変わりだ。

 学校説明会に行くか、予備予選に行くか迷っていた受験生も居たのだろう。私の言葉を受け体育館には歓声が上がった。

 

「どうします?」

 

「今から・・・最っ高ーにシャイニーな結果出してくるから皆待っててくれるかな?」

 

 鞠莉さんの問い掛けに返されたそれは、言葉に表すことの出来ない歓声という名の肯定だった。

 鞠莉さんは、そして舞台袖から見ていた花丸ちゃん、善子ちゃん、果南さんは目を閉じてそれに聴き入っていた。

 

「OK!よーし、みんな行くわよ!」

 

「でもまだ準備が」

 

「準備ならできてますよ」

 

 体育館の入り口に旅行鞄を4つ用意したムツ先輩が態とらしく格好を付けてそう言葉を返す。

 既にバッグには着替え、シューズその他諸々が詰め込まれているのだ。

 

「着替えは道中のバスでお願いします。どうせ今の時間なら私達しかいませんから、少し目隠しすれば行ける筈です」

 

「了解」

 

「例え曲の途中だったとしても飛び込んじゃうんだから!」

 

「それじゃあ」

 

「レッツゴーずら!」

 

 学校を代表するスクールアイドルの四人は入り口で一度一列に揃って来てくれた人達に一礼すると、鞄を力強く掴んで走っていった。

 私達はそれを姿が見えなくなるまで拍手で見送った。

 

「さて、では学校説明会に戻りましょう」

 

 今まで人前に出て何かをしていなかったから目立たなかっただけで実は人を纏めるのが上手いムツ先輩が司会進行を引き継ぎ、今日のタイムスケジュールを説明していた。そのタイムスケジュールは昼頃にラブライブ予備予選のライブビューイングが組み込まれ、説明会後のAqoursのライブ予定はそのままになっていた。


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