ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
千歌先輩の下見の結果、全力疾走すれば可能というなんとも微妙なスコアが出た。また、別の問題として人の私有地を横断したり、一部設備を使わせて貰うこととなるため、地主との交渉をしなければならないのだ。
私は鞠莉さん、ダイヤさんと共にその対象となる地主さんへの挨拶回りをしていた。
「意外とみんな協力的ですね」
「やっぱり何だかんだ言って縁のある人が多いですから」
「さっきの家の奥様、卒業生だったね」
「私の母校のための協力しないなら離婚よ、なんてご亭主共々焦りましたね」
やはりこの地域の人は誰かの大切なもののために力を貸してくれる、そんな温かみがある。
学校説明会が終わったら改めて菓子折の一つも持っていかなくてはと思った。
「でも鞠莉さん、本当にこの確実性の無い手段を使うのですか?」
「正直迷ってる。もしかしたら学校説明会が台無しになるかもしれない。そのリスクを考えると二手に分かれる手段の方が魅力的に思える」
鞠莉さんの迷いも致し方ないだろう。
Aqoursメンバーの中でも体力面で言えば中の上にいる千歌先輩が全力疾走でぎりぎりなのだ。体力の無い花丸ちゃんなんかは遅れずに来られるのだろうかとも思う。誰か一人でも欠けてはいけないのだから、八人間に合って一人間に合わないなんてのは失敗と同じだ。
「行く家、行く家、みんな浦女のこと、Aqoursのこと、応援してました」
「うん」
「そうですわね。それに報いなければなりませんわね」
挨拶回りは今予想以上に滞りなく終わった。その結果を鑑みれば成功する条件はある一点を除き、全て揃った。
「不可能を可能にする男の話、知ってます?」
「I don't know」
「なんですの?」
「機動戦士ガンダムSeedの話です。自称不可能を可能にする男が居るんです。でも、その人って不可能を可能にしている訳では無いんです」
絶望的な劣勢のなか、実現できる逆転の目を見付ける力、そしてその決して高くない可能性を信じて自分の100%を引き出せる力。それが合わさって、誰もが実現可能であることから目を逸らしていることを成し遂げる、そんなキャラクターがいた。
「最善の努力をすれば可能なことを、最善の努力をして可能にする。ただそれだけなんです」
「星さんは出来ると?」
「みなさん次第です、と言ってるんです。物理的に可能。なら後は心の持ちようじゃないですか」
因みに私ならばきっと安牌を切る。自慢では無いけれど私には見る目は無いのだ。昨年の私という実績があるためそれは間違いない。
だからこそ、私はみんなには最善から目を背けないで欲しいのだ。
「星の欠点はネタが分かりにくいことよ」
「世代ではないですからね」
「良い作品なんですよ?理想と現実、両極端が混在していて」
「今度星さんの家で鑑賞会を開きましょうか」
「Let's party!」
「50話以上ありますからね!?Destiny合わせれば100話超えますからね?覚悟してくださいよ」
よくよく考えればこの二人とここには居ない果南さんは受験生だ。アニメ鑑賞なんてしている場合ではないのではないだろうか?
「お二人は、いや三年生は来年どうするんです?
」
鞠莉さんは学園長という立場があるため、学校さえ存続すれば来年も浦女に居られるだろう。けれど、ダイヤさんと果南さんは留年しない限り卒業する。普通に学校生活を送っていれば当たり前のように卒業だ。果南さんは休学していた期間があるけれど、ギリギリ出席日数は足りているらしいから、何ら問題はないだろう。
どうするのだ、という問いに二人は顔を見合わせて人差し指をピンと立てて唇を二分した。
「Top secret」
「今は言いません。けれど、いずれみなさんに話すことを約束しますわ」
「これだから美少女は」
一々仕草が可愛いのは本当にズルい。そんな風に約束、なんて言われて問い詰めることなんてできない。
「星は今後、どうするの?」
「もちろん穹とのこと。きっちりケジメを付けます」
「曲作りは進んでいるのですか?」
「あんまり、です」
方向性や詰め込みたいことは分かってる。そこから先が進まないのだ。
「それって星一人で作る必要あるの?」
「はい?」
「だって、駄目なんて言われていないでしょ?」
流石は学園長という肩書きは伊達では無い。契約書に書かれていないことは禁止されていないとはっきりと捉えているからこそ出る発想だろう。
「確かに言葉尻を捉えるなら駄目ではないですが、でも、私が自分で作りたいんです。私の触れてきた音楽、もちろんAqoursのこれまでのもこれからのも聴いて感じて、それを踏まえて形にしたいんです」
「そう。なら私達のこと目を離しちゃ駄目よ」
「手伝えることがあれば言って下さい」
本当なら二人を前向きにしなければならないのに、逆に激励されてしまった。けれど、それを不甲斐ないと思うほど私は二人を低く見ていない。寧ろ、やっぱりこの人達には敵わないと脱帽するだけだった。