ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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寝落ちしてしまい更新が遅れました。


第百五話

 自分の力だけでは物事の方向性に影響を与えられぬ事象。それを決定させる力が“在る”と仮定した時、その力は“運”と呼ばれる。

 時に運に助けられ、時に運に見放される。運に助けられた時はまだ良い。けれど、運に見放された時は嘆くしかない。自分達の力で物事を決定させられないことは理不尽と言う点で天災と変わらない。

 そして今、私達の前にはその理不尽が立ち塞がっている。

 ラブライブ予備予選、出場順は24番。それはどう足掻いても学校説明会には間に合わないことを意味していた。自転車を持ってくるとか、そんなレベルでは無理だ。ダウンヒルスペシャリストが86にでも乗って峠を下りなければ間に合わないのではないだろうか?

 私は学校でみんなから連絡を受けた時、いよいよ詰んだと思った。けれど、それを諦めるかどうにかするか決めるのはAqoursだ。みんなが諦めると言い出さない限り、私も学校の皆も学校説明会の準備を中断することはない。

 

「パレットの配置はこんなもんですね。じゃあ今度は今並んでいるパレット同士をしっかり固定しましょう」

 

 学校の皆はとても精力的に動いている。

 漁業組合に所属する親を持つ生徒が中心となり、積載用のパレットを借り受けることに成功した。それも、学校まで運んで貰えるというサービス付きでだ。

 そのため、今日はラブライブ予備予選の抽選会に行ったAqoursとは別行動し、私は学校で設営準備をしている。

 もちろん今週末に学校説明会があるわけでは無いので、仮設置と、設置ノウハウの習熟のためにパレットを組んでいるのだ。

 実際に配置していると当日の景色をイメージしやすい。

 パレットを一段平置きしただけでも見え方が違うもので、当日集まるであろう人数を考えると下手に積み重ねない方が良さそうだった。

 ステージを高くし過ぎると距離感が出てしまう。それは多分、千歌先輩達の目指すスクールアイドルの姿ではないのだ。

 完全に理解しているわけでは無いけれど、Aqoursの在り方はあくまでも学校の生徒の延長線上。特別な何かではなく、誰にでも開かれた世界の住人。それがAqoursだと思う。

 だから学校説明会に来た人がAqoursを見て、別世界の存在だと思われてしまうのはみんなの本意ではないだろう。

 パレットを一段の平置きで済むのは工程的にもかなりの時短となるため、ありがたい。

 あとはパレットが剥き出しにならないよう化粧を施したベニヤ板と背面の装飾をすればステージは形となる。

 ステージに適当に九人配置し、背景の見え方を美術部が撮影する。

 影の入り方、死角となる場所。それを予め抑えることでデザインを調整するとのことだ。

 こうして出来ることが多くある反面、どうにも出来ないこともある。

 良い順番を引き、最速で移動するという手段は駄目となった今、取れる手段は限られる。

 ラブライブ予備予選に出場し、学校説明会を諦めるか、その逆かだ。チームを分割し両方に出るという手段もあるけれど、対処療法的に両方に参加しても良い結果はでないだろう。

 また、何組も出場するラブライブ予備予選では順番も評価を得る大きな要素となる。トップバッターなんかは印象に残るため当たりと言える順番である。順番を譲って貰えるよう交渉するなど論外だろう。

 浦女生全員でカンパしてタクシー代を捻出すれば、とも思ったが、それを千歌先輩達が受け入れるとは思えない。それに、24番手でパフォーマンスを終えてからタクシーで帰って来たとしても時間は16時近くとなってしまうだろう。学校説明会のAqoursのライブをそこまで遅らせることは出来ない。

 

「みんなどうするんだろうね」

 

「どっちを選んだとしても多分後悔はしますよね」

 

 四五六トリオ先輩が一人、むつ先輩が私に話を振ってきた。

 何をしても後悔する。そんな選択肢しか存在しないとき、何を思えば力に変えられるのだろう?

 

「気持ちだけじゃ物理法則はねじ曲げられないもんね」

 

「ラブライブ予備予選の会場、あのみかん畑山の先だもんね」

 

「周りはみかん畑なんですか?良く知ってますねそんなこと」

 

「ジモティーだし。それ以前にあのみかん畑ってよしみの家のだし」

 

「そりゃあ勝手知ったるって訳ですね」

 

 四五六トリオがナンバー4ことよしみ先輩のことだ。流石は狭いコミュニティであることに定評のある浦女だ。

 

「その勝手知ったるむつ先輩からみて86で全開走行すれば行けそうですか?」

 

「24番手でしょ?デロリアンじゃなきゃ多分無理じゃないかな」

 

 車での例えにむつ先輩は車を例えに出して返した。けれど、バック・トゥ・ザ・フューチャーに登場したタイムマシンの車を例えに出すということは時を超えなければ無理だと言うことだ。事実上、不可能だということだろう。

 

「私達はどう転んでも平気なように学校説明会の準備をする。それしかないでしょ」

 

「予備予選の様子を中継してライブビューイングでもしますか?」

 

「もしAqoursがそっち一本にするっていうならそれも手だけど・・・」

 

 けれど私は思うのだ。画面越しではAqoursとの距離は遠いのだと。憧憬の念を抱いても、憧れだけでは学校に入学しようとは思わないのではないかと。

 

「とにかく今できること。それを進めよう」

 

 それは前向きなようでいて実はそうではないことなのかもしれない。

 私が去年、自ら道を閉ざし、その閉じた道で必死になっていたように。

 だから私達は今、本当なら抜け道を探さなければならないのかもしれない。けれど、私にはその抜け道が見付けられない。

 みんなは今、道を探しているのだろうか、と私はむつ先輩と共に会場設営の下準備に戻った。

 


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