ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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次回は4/13更新予定


第百四話

 みんなで目標に掲げた統廃合阻止。そのためには既に入学の意志を見せてくれている受験生の心を掴まなければならない。そのためには学校の魅力を知らしめなければならない。生徒の繋がり、活気、そしてAqours。学校説明会はそれをアピールする場として最後の好期だ。

 当初の予定ではラブライブ予備予選を良い成績で突破し、翌週の学校説明会でその成果を宣伝するとともにライブを披露し、学生の活動に学校や生徒が協力して取り組む姿。そして、その力を結集した姿が輝いていると知って貰いたい。そんな計画だった。

 けれど、学校説明会が一週間延期となったことで、学校説明会とラブライブ予備予選にそもそも両方参加出来るのかという問題が発生した。

 予備予選は市町村単位の大会だ。そのため、狭い地域の中で体育館や公堂などを借りて行われるのだが、恐らく今回は良い立地条件の会場を抑えられなかったからこそ、山中にある狩野ドームが会場に選ばれたのだろう。そのうえ、そこに特設ステージを作るというのだからラブライブ運営が今後の発展のために実験的な試みをしているような姿勢も窺える。

 まあ、そんなラブライブ運営側のことはさておき、問題と向き合わなければならない。

 

「狩野ドームがここ」

 

「山の中じゃない」

 

「それで学校がここ」

 

「山の中じゃない」

 

「みんな知ってますわ」

 

 地図上の直線距離で見れば大した距離ではない。けれど、狩野ドームは山の中。道は当然一本道では無く、曲がりくねった山道が続き、迂回をするしかない。その上、移動手段も限られるため行ったが最後、長時間滞在を強要させられる。

 

「鞠莉ちゃん」

 

「No.お父様には自力で学校を何とかするって行ってるの。ヘリなんて頼めると思う?」

 

「やっぱり。じゃあーーーー」

 

「家も日曜日は船使うからなぁ」

 

「というか、海まで辿り着ける時点で学校に戻る手段あるでしょ」

 

 目下の所、ラブライブ予備予選に参加し、学校に戻って学校説明会をこなすという方向性を模索しているのだが、やはり移動手段は公共機関を乗り継ぐこととなる。問題はバスの本数と電車の乗り換えのタイミングの悪さだ。

 ラブライブ予備予選開始後、一本を除き学校説明会に間に合うように戻れる便はない。その一本を逃すと最速で学校に戻れる便は三時間後だ。

 

「何番手までならそのバスに乗れるんです?」

 

「一番手。それ以外に方法はありませんわ」

 

 それはまた何というか、もう無理だろうとしか思えないような番号だ。

 全部で40組以上のグループで順番を決めるのはクジだ。40分の1を引き当てるというのは狙ってできることではない。

 なら他の手段を講じるしかないだろう。

 タクシーは却下。今回の学校説明会やらの準備でお小遣いの大半を使っているのだ。経済的な問題からタクシーは難しい。

 会場入りする際に自転車を持って行き、パフォーマンス終了後それで駅に向かうのはどうか?基本的には下りとなるため体力的に消耗の度合いも少なくてすみそうだが、スピードが出すぎてしまうこと、偶にしか来ないとはいえ、車が通ることから安全上の問題があるため余りお勧めは出来ない。それに平地に戻ってからも距離があるためそれなりに時間は掛かってしまう。三時間待ちに比べればマシだが、クリアできる条件が一番手から十番手に変わる程度の差しかないだろう。

 みんなで地図と睨めっこした結果、結局この日はくじ運に任せることとなり、対策については保留となった。

 

「花丸ちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

 一時解散となり、帰宅しようとする花丸ちゃんを私は呼び止めた。まだ気持ちが新鮮な内に聴きそびれていたことを聴いておきたかったからだ。

 

「花丸ちゃんはなんでみんなをお寺に招いたの?」

 

「おかしい?」

 

「おかしくない。ただ、なんとなくらしくないなって思って」

 

「らしくない、ずら?確かにオラ、今まで誰かを誘った事ってなかったかもしれない」

 

 どうやら改めて考えないと気付かないくらい、それをすることが自然だったのだろう。

 それは花丸ちゃんにとって小さくない変化なのではないだろうか?

 これまでそれ程多くの交友関係を持っていなかったといつ花丸ちゃんにとって誰かと一緒に居ることは本来不自然なことだ。それが自然であると思えていること。それこそが花丸ちゃんにとってAqoursとはどんな存在であるのかということを示している気がする。

 

「花丸ちゃんの家も昨日のお寺みたいな感じなの?」

 

「ルビィちゃんは花丸ちゃんの家行ったことなかったんだ」

 

 帰宅しようとしていたところを呼び止めたから当然なながら側にはルビィちゃんもいる。

 花丸ちゃんの少ない交友関係の中でルビィちゃんは中学時代からの親友だという。そのルビィちゃんが花丸ちゃんの家に行ったことが無いというのだから今回のことが稀なことであるということを際立たせる。

 

「オラの家はもうちょっと生活感あるよ。でもそっか。ルビィちゃんも呼んだことなかったんだ。ルビィちゃんのお家には行ったことあるのにね」

 

「花丸ちゃん家は遠いから」

 

「それだけじゃないのかも。オラ、ルビィちゃんに仲良くして貰ってたけど、やっぱりどこかで遠慮していたんじゃないかなぁって思う」

 

「ルビィちゃんが楽しそうにアイドルの話、お姉ちゃんの話、洋裁の話とかしてるのを聴くのが好きだった。でも、オラはオラの事を上手に伝えられてなくて、だからいつも話をしてもらってばっかりで。でも、スクールアイドルをルビィちゃんがやるって、やって欲しいって思って行動をしてからはなんか少し自分の気持ちを出せるようになった。そんな気がするんだ」

 

「花丸ちゃん、スクールアイドルになってから前よりよく笑うようになった」

 

 人の好きは原動力で、時に周りの人をも巻き込む大きな力になる。切っ掛けは多分、ルビィちゃんのスクールアイドルへの憧れだったのだろう。それが花丸ちゃんを今まで踏み込んでいなかった場所へと引っ張ったのだ。

 良い関係だと思う。私も穹とそんな関係であれたらとつい夢想してしまう。

 友達に優劣は無いのだけれど、どうしても関わった密度で穹のことを意識してしまうのだ。

 

「星ちゃんも。よく私達に、ううん。学校のことに関わってくれるね」

 

「星ちゃんって結構リアリストだもんね」

 

「それは私も思う。でも、どんな願いでも願うことは出来るから」

 

 私の性格上、100%不可能を可能にしようとは思えないだろう。けれど、それを切り捨てることをどうしてもしたくないのだ。その気持ちこそが大切なんだと、今の私に必要なものなのだと思うから。

 

「信じよう。学校説明会とラブライブ、どっちも参加できるって」

 

 ラブライブ予備予選の抽選会は翌日。今の私達には確立を信じることしか出来ないのだ。

 

 


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