ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第百一話

 シャワーなんかを使う時に感じると思うけれど水が大量に落下すると当然ながら押し出された空気が動き出す。すると風が生まれるのだが、雨が音を起てて降りしきる中、このお寺の空気は止まったかのように静寂に包まれていた。

 門扉は閉ざされていたことから察するに、今は使われていないのかもしれない。

 普段こういった場所とは縁がないだけに環境を変えてみるという意味であればいい試みなのかもしれない。

 したし、何故花丸ちゃんはここにみんなを招いたのだろう?

 距離的に温泉施設から近いというのもあるかもしれない。けれど、誰かを招く、という行為そのものが花丸ちゃんらしからぬと短い付き合いながら感じる。

 どちらかと言えば花丸ちゃん自己完結した肯定者だ。起きたことを受け止める度量、他者に求めない達観。それが花丸ちゃんの根幹にあるスタンスで、だからこそ自己で完結出来てしまうため、創作の世界で満足できるのだろうと思っていた。

 普段のルビィちゃんや善子ちゃん、他の人との付き合い方を見ていてなんとなくそれが分かる。

 けれど、誰かを招くという行為は他者を求めるからこそ生じる行為だ。何を思って花丸ちゃんは借り物とは言え自らの土俵に人を招いたのか?

 

「あ、星ちゃんいらっしゃいって、凄くビショビショだよ!?タオル、タオル」

 

「中には浸透してないから平気だよ。はい、差し入れ」

 

「Thank you!疲れたでしょ、座って座って」

 

 本殿に入ると中はお釈迦様に見守られるように畳敷きの間があり、そこに円陣を組むようにみんなが座っていた。

 幸い濡れ鼠になっているのは私だけだった。

 

「なんだかこんな薄暗い中でお釈迦様の前で円陣組んでるって、怪しい儀式している見たいですよ」

 

「ふ、今こそ召喚仕るはーーーー」

 

「やめるずら」

 

 儀式というワードに当たり前のように反応する善子ちゃんを何時も通り花丸ちゃんがいなす。

 そんな花丸ちゃんからは特別なことをしただとかそんな印象は感じない。さっき考えていたことは私の考えすぎなのか、私の知らない花丸ちゃんの一面だったのかもしれない。

 

「どうです?少しは曲作り進みました?」

 

「まだそこに至ってすらいないよ。どんどん私達の違いがはっきりしただけ」

 

「今考えると、私達よく一つのチームになれましたわね」

 

 曲作りに伴い、集中できる場所を探して小原家、黒澤家と場所を転々とし、音楽性の違いを解消するため、共通項を探そうとレクリエーションにドッジボール、読書、そして温泉と手を変え品を変えと試してみたそうだ。けれど、分かったのはお互いに趣味趣向が違うということがはっきりしたということだけ。共通項はなかったらしい。

 

「タオルありがとう、ルビィちゃん」

 

「星ちゃんがユニット組んでた時ってどうやって作曲してたの?」

 

「ジェミニのアカリの時ね。どうだったかな・・・」

 

 今にして思えばみんなが手こずっているように、私も穹もタイプが違う。

 あらゆる事に興味を抱いてその世界に飛び込める穹と、自分の物差しで興味のあること意外の世界は切り捨てる私。言うなれば開放的な穹と閉鎖的な私だ。けれど、作曲は割とすんなり出来た記憶がある。たぶんだが、初めの頃の活動はカバーアレンジからやっていたため、お互いの趣味趣向が分かってから作曲という段階に進んだからだろう。

 

「じゃあさ、どんな曲を普段聴いたりしてるのか情報を交換しようよ」

 

「じゃあ言い出しっぺの善子ちゃんから」

 

「え、私!?っていうかヨハネ!!」

 

「どんな曲かあ・・・閣下は好きかな」

 

「閣下?」

 

「リトルじゃないデーモン閣下の事」

 

「ああ、蝋人形にしてやるってやつ?」

 

「それそれ。あとKISSかな」

 

 ああ、とみんなが納得した。どちらも顔にペイントしている。それは東京に行く際にハメを外した善子ちゃんが同じ様なメイクをしていた。

 

「ルビィはどうなのよ?」

 

「私はやっぱりアイドルが好き」

 

 言わずもがな、というところだ。

 きっとハロプロ系統か秋本傘下のグループなどのキラキラしたザ・アイドルが好きなのだろう。誰もがそう思っていたけれど、予想とは得てして外れるものだ。

 

「でもそうなあ・・・アイドルとも一番好きともちょっと違うけど、カーペンターズは意識しちゃうかな」

 

「兄妹デュオだから?」

 

 ダイヤさんをチラリと見てからルビィちゃんはうんと頷いた。

 

「小さい頃からお姉ちゃんとアイドルごっこしたりして、スクールアイドルが流行るようになってからはいつかお姉ちゃんとやれたらって。そう思ってた。変な事言うかもだけど、果南さんや鞠莉さんが居なかったらSaint snowみたいにデュオってこともあったのかなって」

 

 そんな“もし”はみんなと組んだ今はもう起こりえないだろう。なぜならばダイヤさんは三年生。つまり今年で卒業だからだ。高校を卒業してもアイドル活動を続けるスクールアイドルは少なからずいる。けれど、ダイヤさんは地元の網元である黒澤家の長女として、今後は専念するだろうからだ。

 恐らくはダイヤさんは高校生という今だからこそ、アイドル活動をすると期限を設けていると思われる。

 ふと、それをルビィちゃんは推測しているのだろうかと思った。

 

「花丸ちゃんは?」

 

「オラの家はレコードとか無いからあまり最近の曲は知らないずら」

 

「今レコードどころかCDも全盛期とは言えないけど」

 

「未来ずら!?」

 

「あと、安心して良いのは閣下もKISSもカーペンターズもそんなに最近ではないから」

 

「過去ずら!?」

 

「それで花丸ちゃんはどんな曲を?」

 

 はいはいと寸劇を切ったのは果南さんだ。

 脳筋を自称する果南さんはそう言う割にしっかり者だ。たぶん鞠莉さんに散々振り回されて嫌でも身に付いたものなのだろう。

 

「Time To Say Goodbye。聖歌隊の人から教わったずら」

 

 この曲はサラ・ブライトマンが歌ったことで世界的に有名になった。

 タイトルから勘違いされがちだけれども、この曲は別れの曲ではなく、門出の曲だ。そもそも曲の来歴を辿るとあっさりと出てくるが、原典が君と旅立とうという曲だそうだ。

 歌詞を見るとまた面白い。“光”、“旅立ち”、“海”と言ったどことなくAqoursが好むワードで構成されているのだ。

 

「オラは歌えないけどね」

 

「まぁあんな高い声出ないよね。私はやっぱり耳馴染んだ曲になるんだよね」

 

 果南さんは自宅がダイビングショップであることから基本的に海と縁のある曲をよく耳にするのだという。

 

「湘南乃風の睡蓮花。この曲はアがるよね」

 

 睡蓮花は非常に構成が豊かでラップ、コール、様々な要素で構成される。聴いてて楽しいし、歌いたくなる。みんなで楽しめる曲だ。コール部分でみんなで声を出せるのはアイドルソングなんかとも親和性があるだろう。

 

「ダイヤは?」

 

「私はやっぱりμ’sのトリオ曲Solder gameですわ」

 

「エリーチカ推しだもんね」

 

「もちろん。今更解説は不要ですわよね」

 

「ダイヤが話すと一晩あっても足りないからね。私はやっぱりロックなテイストが好きなの」

 

 最後に順番が回った鞠莉さんの口にした曲はロックはロックでも少しイメージしていたものとは違った。

 

「陰陽座の甲賀忍法帖」

 

 それは一概に一括りには出来ないけれど和ロックとも称されるジャンルだった。

 和ロックはジャンルとしては定義がやや曖昧で、和楽器を使っているロックだとか和音階だとか言われている。

 この甲賀忍法帖は全体的には実はそれ程和楽器成分はないけれどイントロと間奏で笛を効果的に使っており、非常に印象に残るためこのジャンルに括られたりするのだ。

 こうしてそれぞれの印象に残る音楽一つ聴いてもやっぱりばらばらだ。

 

「なんだかんだそれとなく聴いたことあるアーティストだったり、曲だったりするんじゃない?」

 

 まぁ陰陽座はマイナーな部類に含まれるだろうけれど、甲賀忍法帖はバジリスクというアニメのタイアップであり、バジリスクはパチスロ化したことでテレビCMなどで耳にすることもあるだろう。

 

「ちょっとみんなの好きな曲、聴き合いましょうよ」

 

 そう言って鞠莉さんはバッグからBluetoothのスピーカーを取り出す。

 こうして作曲という目的は何処へやら、各メンバーの推しの曲のディベート大会が始まったのだ。

 それは豪雨による雨漏りがするその時まで続いたのだった。

 


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