ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
パチパチとキーボードを叩いて学校説明会に向けて設営準備の書類を作成していると、机の上に置いていたスマホが震え着信を知らせた。
着信したメッセージはルビィちゃんからだった。
どうやらラブライブ予備予選と学校説明会に向けて新曲を二曲用意することとなり、作曲を二組に分かれてやることになったようだが、その組み合わせがまた新しい。二年生組と一・三年生組に別れてというのだ。
そう言われると基本的にAqoursは各学年毎に行動することが多く、特に一年生組と三年生組にはあまり絡みが無い気がした。ルビィちゃんがダイヤさんと戯れたり、私が三年生の誰かと話したりしている時はそうでもないかもしれないが、それ以外には皆無といえる。
それに比べ二年生は変に意識していないからか、上手く各学年と付き合っているように思える。あの人見知り集団の一年生が懐き、本音を中々言わない三年生の心を開いたのだから。
そんな二年生だからこその采配なのかもしれない。学年の垣根を壊さなければならないと。
それだけで決めた無策な訳では無く、三年生組は旧Aqours時代に作詞・作曲・衣装作りをしていたため出来る見込みがあるからこその采配なのだろう。
とにかく、二組に分かれて作曲するのは分かった。分かったけれど、何で私に連絡が来たのかと言えばどうにも一年生組と三年生組が上手く噛み合わないらしくヘルプが来たのだ。
確かに私も学年を気にせず接してはいるけれど、私が加わって一・三年生の間を取り持つことにはあまり意味が無い気がする。
私は少し迷ってからパソコンを閉じ、今から行くと返信した。
仲を取り持つことは出来ずとも仲を割きかねない事態になったら千歌先輩達に知らせる事くらいはできるだろうというのと、どのみち差し入れをするつもりだったことが理由だ。
最初は浦女周辺にいたらしい一・三年生組は市内の方に移動して、何故か温泉に行っているらしい。その時点で迷走しているのだろうなというのが察せられた。
道中、よくみんなで立ち寄るセブンイレブンで私はのっぽパンとお茶を購入して市内に向かう。
そういえば何時だったかAqoursメンバーの誰が一番セブンイレブンの制服が似合うかと話題になったのを思い出した。どんな話の流れからそうなったのかまるで覚えていないけれど、意外とみんなガチで議論し、結果1位に選ばれたのが梨子先輩だった。
その際にお互いに顔見知りとなっている店員のお姉さんに制服を借りて梨子先輩に着せた写真はしばらく私の待ち受け画像だった。
梨子先輩の照れながらも満更でも無い、そんなはにかんだ表情がとても良い一枚に仕上がっている。
その時に梨子先輩言っていた。音ノ木坂に居た頃はピアノのことばかりで他のことにはあまり関心を抱いていなかったからきっとこんな話一つで笑ったりしなかったと思うと。
それが悪いこととは言わない。一流と呼ばれる人の中には他の多くを擲って一芸に特化した人もいるのだから、ピアノ一筋がいけないなんてことはない。けれど、それは結果的に見れば梨子先輩の肌には合わなかったと言っていた。
色んな人や体験に触れて、その経験が音になる。練習だけでは得られない五感の感覚が無ければ私は駄目だったと、内浦に来て良かったと梨子先輩は話していた。
みんなが梨子先輩みたいに前向きに感じられるならきっと浦の星女学院も安泰なのだろうけども、市内に向かう道中思うのはポジティブには思えない交通の便の悪さだ。今でこそ慣れたため普通にしか思わないが、初めて浦の星女学院に来る人は遠いと感じるだろう。
スクールバスでもあればいいのだろうけれど、それも採算が取れなければ運用は叶わない。
学校説明会ではそんなハンデを上回る魅力を見学に来る人達に伝えなければならない。
それをするのはAqoursを含む浦の星女学院生全員だ。全員が一つの目標に一生懸命に取り組む姿。それこそが人を惹きつける一端だと思うから。
「あれ、雨?」
あと少しで市内に着こうかというときポツポツと雨が降り始め、私がバスを下りる頃には地面はびしょ濡れ。雨雲は黒々と分厚く空を覆い、ザーザー降りになっていた。
バスの中でルビィちゃんに連絡した時には、花丸ちゃんの知り合いのお寺に避難するとの話だったが、それ以降、連絡は途切れた。
温泉に引きこもってくれてれば良かったのにと、愚痴りながら私はバッグの中からナイロンのマウンテンパーカーを羽織り、雨の中花丸ちゃんの知り合いのお寺目指して走った。
幸いネット検索で地図で表示はあったため、大凡のあたりは付いている。
しかし、この降り方は酷い。傘などあったとしても役には立たなかっただろう。
吉兆を天候で占うと雨とはそれ程良い予兆ではないという。けれど、そんな占いの信じられていた時代には、干ばつを乗り越えるため雨乞いをしたりという側面もあるのだから、捉え方一つで世界は広がるのだろう。
この雨が私にとって、そしてAqoursや浦の星女学院にとって吉となるかは私達の捉え方次第なのかもしれない。そう思い、私は走る速度を速めた。