ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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第九十九話

 統廃合が決定となるまで猶予期間を得たという事実はあっという間に校内を駆け巡り、その日のうちには皆が知る事実となった。

 学校説明会が行われると信じビラを回収しなかった皆の士気は高い。当日の段取りの打合せに皆が参加したいと意思表明する中、意見を取りまとめる四五六トリオ先輩は本当に運用上手だと思う。経営者に向いているだろう。

 Aqoursメンバーと四五六トリオ先輩、そして何故か私は放課後、スクールアイドル部室に集まり、当日の段取りをすることとなった。

 

「沼津市内とか隣接市から来る人のこと考えると遅めに時間を設定した方がいいと思うんだけどどうかな?」

 

「でも、実際に通学することを想定したいとも思うだろうし登校時間と合わせた時間設定の方がいいのでは無いかしら?」

 

「それだと朝早すぎてやっぱ入学希望にするのをやめようとか思われるかもしれませんよ?」

 

「それならそれまでじゃない?そういうのも含めての学校説明会でしょ?」

 

 千歌先輩は状況が分かっていながらあっけらかんと言うのだから、この人は本当に誠実だ。

 都合の良い所だけでは浦の星女学院とは言えない。輝きを求めて、スクールアイドル活動を通じて得た実感があるからこその千歌先輩の言葉は説得力があった。

 

「なら午前中は学校の紹介、お昼を挟んで午後に部活見学とAqoursのライブという流れがいいと思うよ」

 

「なら、お昼は皆で容易するずら」

 

「シャイ煮をーーーー」

 

「予算オーバーです」

 

「Oh my god!?」

 

 流石に一杯10万円のシャイ煮などを振る舞えるほど予算はない。ここは近隣の農家から食料を恵んで貰うほか無いだろう。幸いにして浦女生には実家が農家の生徒も少なからず居る。

 

「流石にガッツリ全員を満腹には出来ないでしょうから、豚汁だとか汁系を一品振る舞う位の方がバランスが良いのでは?」

 

「な・ら、それこそシャイーーーーー」

 

「はい、それじゃ次」

 

「私学園長よ!?」

 

「ダイヤさん、次行きましょう」

 

 おちゃらける鞠莉さんをスルーしてダイヤさんが進行する。けれど、決して私達は鞠莉さんを蔑ろにしているつもりはない。

 鞠莉さんのことだ。今回得られた機会に感謝し、ポケットマネーでシャイ煮を振る舞ってもいいとも考えているのだろう。けれど、そこまで鞠莉さんにさせる訳にはいかない。学園長ではあるけれど、一生徒でもある鞠莉さん個人に負担を強いるのは違う気がするのだ。それは皆も同じ気持ちだ。だからこそダイヤさんもまた鞠莉さんを流した。

 

「当日の進行は学園長と生徒会長に任せて平気ですか?」

 

「OK」

 

「じゃは私達はお昼の準備と」

 

「ライブの準備をするね」

 

「そうだね。総力戦になると思うからお昼の準備までは手伝って貰うけど、部活見学についてはこっちでやるから千歌達はライブに集中して」

 

 この学校の良さを生徒全員が自覚しているというのは他の学校ではまずないだろう。統廃合という問題があるからこそ得た気付きであり、この学校の新たな良さでもある。だから当日は全校生徒が総出だ。

 

「バス停からここまでの案内要員もいるから・・・」

 

 その後も人員の割り振り、設営期間の設定、資機材の準備についてなど、話は進み、いよいよ当日のライブのセットリストの話となった。

 

「新曲がいいよ」

 

「学校説明会の一週間後にラブライブ予備予選がありますけど、そこで披露する曲のことですか?」

 

「それとは別」

 

「・・・そう言えばそもそも曲も準備出来てるんですか?」

 

「えー・・・ぁはは」

 

 頭を掻いて苦笑いする千歌先輩から梨子先輩に視線を移すと、梨子先輩は呆れたように首を横に振った。

 

「結構難産みたいですね」

 

「タイトルと方向性は決まっているんだけど、そこから先がね」

 

「まあ、それはそのまま進めて貰うとして、そこから更に新曲ですか?」

 

「うん。やっぱりどの会場でも来て良かったって思って貰いたいしね」

 

 気持ちも心意気も分かるけれど、千歌先輩と梨子先輩だけで二曲も用意するのは現実的に厳しいものがあるのではないかと思う。

 

「みなさんは曲作りに専念してください。細々とした作業は進めておきますから」

 

 そういうやいなや私と四五六トリオ先輩は千歌先輩達を部屋から追い出して打合せを再開した。

 

「説明会事態の進行はともかくやっぱりネックなのは部活見学と」

 

「ステージ作りだね」

 

 Aqoursのライブは校庭に特設ステージを作る予定だ。

 それはAqoursを学校の目玉として宣伝していること、そして生徒の活動を学校全体が応援していることを伝えるためだ。

 

「ステージ背面はベニヤにペイントしてサッカーのゴールポストに固定すれば自立すると思うけど、舞台をどうする?」

 

「ステージは最低でも一段上げたいですね」

 

「でも、足場を組んで安定したステージってどうする?床が抜けない強度を確保するとなるとそれなりにお金掛かりそうだけど?」

 

「漁業組合から輸送用パレットの使い古しを借りるか貰いましょう。輸送用なんで元の強度はありますのでちょっと補修すれば使えるでしょう」

 

 パレットとはフォークリフトなんかで持ち上げる荷物を載せる板のことだ。その用途から荷重には見た目以上の耐久力があり、尚且つフォークリフトの爪を差し込む穴があることから連結するなどの小細工もしやすい。また、その穴に砂袋か何かを入れれば安定した自重を得るだろう。

 一番の特徴はその使い回しの良さとは裏腹に3000円前後で買えることで、それ故に中古で売られる場合は二束三文で売られる。

 沼津漁業組合には浦の星に縁のある人も居るだろうし中古を譲ってもらえる公算はある。

 

「じゃあ後はベニヤ板と大きいシートだね。大凡の方向性はそれで行こう」

 

 4ブロックぐらいに分けて作って連結し、ベニヤとシートを敷けばそれなりに見えるステージとなるだろう。

 

「兎に角準備で怪我しないこと、そして本番で怪我させないこと。それは徹底していきましょう」

 

「なんて格好つけてるけど、千歌達の居ないスクールアイドル部室でこんなことしてるって割とシュールじゃない?」

 

「それは言わないお約束ですよ」

 

 イマイチ締まりのない会議の幕となってしまったが具体性は見えた。

 あとは千歌先輩達が具体性を見せるだけだ。後で差し入れでも持って行こう。そう決めて私はスクールアイドル部室のパソコンを拝借し、学校説明会の準備に向けて書類作りを始めた。

 

 

 


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