ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~ 作:マーケン
Aqoursのライブの翌週。彼女らは遂に部活動の申請が通ったらしく部室を手に入れたようだった。
何故私がそんなことを知っているかと言えば、放課後に花丸ちゃんと図書室に入り浸っていた時にアイドルパパラッチこと黒澤ルビィちゃんがスクールアイドル部を偵察し、頼んでもいないのに報告に来たのだ。
それはそれとして、何故私が図書室にいたかと言えば、ちょっと気持ちが不安定で屋上に上がる気分にならなかったからだ。
今日の私が語るとすれば曲ではなく本だ。
今日読んでいるのは“ハーモニー”。故伊藤計劃の描いたディストピア系SF小説だ。
洗練された世界には、だが、目を背けた問題がある。それを実感として苦しんでいる主人公の内面を追いながら進む物語だ。SFとは言っても基本、焦点が当てられているのは人の心であるため読みやすい作品に仕上がっている。
崖っぷちにしがみつく主人公が何を思い、どう感じて結論を出したのか。その生き様が格好いいのだ。
「はあ、またライブ見れるんだ」
ルビィちゃんは夢見心地にスクールアイドル部が承認されたことを喜んでいた。
そう言えばだが、
「そもそもルビィちゃんはスクールアイドルやらないの?」
そんなに好きならばやればいい。ルビィちゃんは見た目も良いし(背が低くてちんちくりんではあるが)ダンスだって趣味の範囲内の話だがやっていると聴いたことがある。
「でもお姉ちゃんが」
私は花丸ちゃんと顔を見合わせる。
私にはあの珍妙な一発芸「にっこにっこにー」をガチでやる生徒会長が本当にスクールアイドルを否定しているようには思えないのだ。
「ちゃんとお姉ちゃんと話したらいいと思うよ」
私は自分の言葉に反吐が出そうになるが正論を振りかざした。ちゃんと話さないで拗らせたのはどこの誰だと心が叫びたがってるが、それは今は置いておく。
「こんにちは」
そこに来客があり一度話は打ち切られる。私達も大概だが図書室なのだから静かに入りましょうよ高海先輩。
「あれ、花丸ちゃんにルビィちゃんに黒松ちゃん」
「こんにちは先輩。なんか似合わないもの持ってますね」
そう。入ってきたAqoursの三人はそれぞれ十冊近い本を抱えているのだ。
「失礼だよ黒松ちゃん。まあ、その通りだと思うけど」
「曜ちゃんも酷いよ」
悪戯っぽく笑う渡辺先輩に高海先輩は頬を膨らませて抗議する。その二人だけの戦争をしている間に桜内先輩は受付台に持ってきた本を置いて花丸ちゃんに事情を説明した。
どうやらスクールアイドル部に宛がわれた部室を整理していたら借りパクされていた図書室の本か見つかったとのことだった。
「こないだは手伝ってくれてありがとう、黒松ちゃん」
「いえいえお安い御用ですよ。お祭りは好きなんで」
「ところで相談なんだけど」
唐突に私達の手を取ると高海先輩はまたあの台詞を言った。もはやライフワークになっているのではないだろうか?
「スクールアイドルやりませんか?」
何時もならば即答して一刀両断なのだが今は一人迷える子羊がいる。
私は花丸ちゃんとアイコンタクトすると手を挙げて一言。
「私やります」
そんな私に驚いたのかルビィちゃんは目を見開き、先輩達は期待の眼差しをした。。
「私もやります」
次に手を挙げたのは花丸ちゃん。その行動に一番驚いていたのはルビィちゃんだ。口をあんぐりと開けている。逆に先輩達は首を傾げだした。はて、どこかで見たことがある流れだ、と思っているのだろう。敢えて言おう、その通りであると。
「ルビィもやります」
「「どうぞどうぞ」」
怖ず怖ずと手を挙げるルビィちゃんに私と花丸ちゃんは華麗に掌返しした。これぞ伝統芸能。日本が世界に誇る鉄板ネタだ。
ルビィちゃんは鳥の断末魔みたいな声を上げると、アワアワと固まってしまった。
「どうぞ、連れてっていいですよ」
「いや、駄目でしょ」
桜内先輩はぴしゃりと遮断するとルビィちゃんの目の前で手をぱんっ、と打ち鳴らし、ルビィちゃんを復旧させた。猫だましだ。
「酷いです」
ルビィちゃんはうぅ、と唸りながら抗議の声を上げる。しょうがないから私は自分の非を認めることとした。
「ごめん、私が悪かった」
「違うよ、オラが悪かったずら」
「え、急に謝られても、その、私もごめん」
「「どうぞどうぞ」」
ムキー、とモンキーボイスでルビィちゃんは怒り出す。やっぱルビィちゃん弄りは面白い。そんな私達を見て先輩達は呆れていた。
機嫌を戻したルビィちゃんによるとお姉さんの黒澤ダイヤさんも元々スクールアイドルが大好きだったようだ。よくお玉をマイク代わりにルビィちゃんとアイドルごっこしていたらしい。
あの生徒会長がお玉をマイク代わりとかシュール過ぎて是非とも見てみたいと思ったが取り敢えずそれは置いておく。話にはまだ続きがあるのだ
ダイヤさんが高校に入学してしばらくすると突然スクールアイドルに対し厳しい視線を送るようになったのだ。自宅では目に付くところにはスクールアイドル関連のものは置けず、話題も出せない始末だとのこと。
「ある日何かの切っ掛けで趣味が変わることもあるかも知れないけど、それはそれじゃない?」
自分の主義主張はあるとは思うが人の趣味は人の趣味。とやかく言われる必要はない。
「でもお姉ちゃんが好きじゃないもの、私が好きになっちゃ駄目だよ」
ルビィちゃんはとてもお姉さんが好きなのだろう。だから自分というものをお姉さんと合わせようとしてしまうのだ。
「それに」
ルビィちゃんは花丸ちゃんを見やる。付き合いの短い私にはその視線に籠められた意味は判らない。結局この日は一旦これで解散となった。