ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~   作:マーケン

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ラブライブ!サンシャイン第一期が終わり、二期をやることを期待して、二期までの繋ぎとして書きました。
週2更新で完結を目指します。


第一話

 唐突だが運命という言葉をどう思う?意味の説明をするならば定められた事柄、決まり事、とも言い換えられる。

 響きは非常に格好いいと思う。私も言葉の響きは好きだ。だけれども、その言葉の意味を考えると私はいつも考えてしまうのだ。定められた事柄、決まり事、ならばそこに自由は無いのではないか?

 例えばだがこの感覚を数式的に考えてみると、

 

 X=Y+a×0

 

 X(結果)へ導くY(定められた事柄)があり、a(その他のこと)が幾らあろうとも意味を成さないのではないかと私は考えてしまうのだ。

 この事を人に言ったら思春期特有の病と笑うかもしれない。それでも私はそう思うからこそ本当に大切な事柄と出会った時は運命という言葉を使わない。では何というのかと問われれば私はこう答える。偶然だと。

 だから私が彼女達と関わることとなったのも偶然、と私は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い坂道を履き慣れないローファーで踏破する頃には背中にはじんわりと汗が染み出していた。

 四月といってもこの町は暖かい。先月引っ越してきてからこのかた、私は寒いと感じたことが無い。

 静岡県沼津市。その中の小さな町、内浦。それが私、黒松 星(こくしょう あかり)の住むこととなった町の名だ。

 それ程メジャーな街ではない。分類するならば田舎だろうが、埼玉県北部から引っ越してきた私にはそれ程のイメージギャップは無かった。

 だが坂の上に学校があるなど流石にたまったものではない。坂の上にあるのは雲だけで十分だ。そうであれば坂を上る理由が無くなってありがたいというものだ。

 とにかくそんな苦労をしなければ登校できないこの場所。入試のために初めて来校した時には疲れもあったし、今後三年間の学生生活に対し絶望感しか抱けずマークシートにボールペンで解答してしまったほどだ。我ながらなぜ合格出来たのか不思議でしょうがない。

 とにかく私は本日、此処、浦の星女学院へと入学することと相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 校門の程近くに植えられている桜の下を潜ると私と同じく新入生らしき人がちらほらと見える。ちらほらなのは入学生が少ないことが理由だ。この高校は全校生徒合わせても100人に満たない数しかいない。だから人はどう足掻いてもちらほらという形容が合う程度の人数にしかならない。

 ただ、少ないことに新入生が嘆かないようにするためなのか、入学式の前なのに在校生が部活勧誘を元気良く行っており、人数の少なさを補う活気がそこにはあった。

 引っ越してきた時から思っていたが、この町の人は皆とても人当たりが良く、温かい。田舎特有の閉鎖的、排他的な感じはしないのは魅力である。

 新入生の中には部活勧誘の先輩と「久し振り」などと楽しそうに話している人も居る。きっと中学時代の知り合いなのだろう。そんな姿を見ると引っ越してきた私にはちょっとした寂しさと、誰も知り合いが居ないことにほんの少しの安心感を感じている。

 

「スクールアイドルやりませんかー」

 

 賑わいを避けるよう、真っ直ぐ下駄箱に向かおうとした私は、ふと耳に入った声に惹かれ、その声の主を探した。

 校門の横にはミカンが入れられていたであろう段ボールで作った演台の上で一人の活発そうな女子生徒が頭に鉢巻きをして元気に勧誘をしていた。

 この学校は首のリボンの色で学年が識別できるようになっており、その人のリボンはピンク色だったから2年生なのだろう。

 その2年生の先輩は恥じることや躊躇いもなく元気に勧誘しているが、残念なことに見向きもされないのが現状である。

 その鉢巻きの先輩と一緒になってビラを配っている子も一人いるが、成果のほどは芳しくないようだ。

 

「スクールアイドル、か・・・・・・」

 

 私は思わず呻くように呟いた。

 スクールアイドルとは主に歌とダンスをメインとした女子高生パフォーマーの総称として世間に浸透し、今では“ラブライブ”と呼ばれる全国大会まで開催される一大コンテンツだ。

 まさかこの100名にも満たない生徒数の浦の星女学院でその名を聴くことになろうとは思いもよらなかった。

 まあ今の私とはもう無縁の世界。気にしたら負けだ。そう思い校舎へと向かおうとしたところ、いつの間にやらスクールアイドルの勧誘をしていた鉢巻きの先輩が目の前に来ていた。

 

「スクールアイドルやらない?」

 

 豪腕快速ド直球。その女子生徒は真っ直ぐな気持ちを真っ直ぐな視線に乗せて訴えかけてきた。

 やると決めたらやる。この先輩はきっとそんな人なんだろう。その大きな瞳の奥にある輝きが一瞬にしてこちらに伝わってくるような、そんな瞬間だった。

 だから私は思わず、

 

「やりません」

 

 と明確に拒絶してしまった。

 

「だよねー。でも私達のこと気にしてるみたいだったから声掛けさせてもらったんだ」

 

 先輩は頭をポリポリと掻きながら苦笑いし、私の素っ気ない態度に立腹した様子を見せなかった。

 断られるのも初めてではないのだろう。けれど、それにめげない程にスクールアイドルに入れ込んでいるのが、鉢巻きに滲む汗の量から伝わってくる。

 

「他の部活勧誘と同じです。一生懸命やってるなって、ただそう思っただけです」

 

 それは本当のことではあるが全部ではない。ただこの先輩に私の内心を全て語る必要はない。

 

「そっか。そう思ってくれてる人もいるって分かっただけでも十分だよ」

 

 先輩は晴れやかな笑顔で「応援してね」と告げると私にビラを渡して次なる勧誘に勤しんだ。

 次のターゲットは私と同じく新入生。背の低い可愛いビジュアルの二人組がターゲットのようだ。

 

「貰っちゃった」

 

 私はつい流れで貰ったビラを半分に折りたたむとポケットにしまい、先輩に勧誘されている未来の同級生を尻目に校内へと入っていった。

 最終的に、先輩は最上級生からお説教されているようだったが同情はしない。だが、先輩から直に言われたからこれだけは心の中で思った。がんばれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のホームルームや入学式、帰りのホームルームが滞りなく終わった。

 クラスメートは各々自席の近隣の者や、前々からの知り合いと雑談して放課後の予定について話し合っていた。

 特段過度なコミュ障ではない私もまた話しに混ざり、2、3の部活を冷やかした後でクラスメートと解散した。

 クラスメートと分かれた後、私はこっそりと音楽室を覗いたのだが、音楽室には案の定、吹奏楽部が練習をしていた。

 

「ラッキー。開いてる」

 

 そこで、音楽室を諦めてダメ元で屋上に上がったところ、屋上には素通りで出られた。屋上の扉が施錠されていないところは流石は田舎である。

 私は屋上に出て壁に背を預けて座ると、鞄からハーモニカを取り出し演奏を始めた。

 馬鹿は高いところが好きと言うが、屋上での演奏は気持ちが良い。きっと天空の城を夢見る少年(パズー)だって同じ気持ちでトランペットを演奏していたはずだ。

 

「ーーーーーーーー」

 

 基本的に私が一人で演奏するときはその時の気分次第で曲を選ぶ。

 今日はスガシカオの“夕立ち”だ。かつてアニメ“ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom”のタイアップ曲でその筋の人には話題になった曲だ。

 残念ながらアニメそのものは原作から離れたオリジナルストーリーとなり、原作のアニメ化を望んでいた人からすれば意表を突いた癖のある作品という扱いになってしまったけれど、この曲を使用したオープニングは評判が高い。

 作品に漂うちょっと退廃的な雰囲気にマッチしていることもさることながら、曲単体として聴いてもギターとベースのどことなくjazzyなコードでお洒落だ。

 

“その日 午後から日暮れにかけて

 かるい夕立ちが通り過ぎた

 そしてぼくらは海の近く

 ぬれたアスファルトを走った”

 

 埼玉にいる頃には縁遠い景色がここにはある。

 随分と遠くまで来ちゃったなぁと朱に染まる富士山や海を見ながら私は演奏を続けた。

 

“ふいに君がくちずさむ ぼくは聴いてる

 ききおぼえのないメロディー”

 

「ーーーーーーーー」

 

 音楽は好きだ。聴けば自然と体が動き、奏でれば体が熱くなる。そしてなにより人と人を惹き合わせる。

 だけど今、私の隣にはメロディーを聴く人はいない。

 

 “一緒に音楽やらない?”

 

「・・・・・・ふう」

 

 不意に思い出した言葉に私は演奏を中断した。

 まただ。最近は演奏しても余計なことを考えてしまい没頭出来ない。引っ越して来てからはそれがより顕著だ。

 原因は分かっているが今更どうにもできない。後悔したって時は戻らないのだから。

 私はハーモニカを鞄にしまうと屋上を後にした。

 下駄箱に向かう際、どこからか元気に1、2、1、2、とステップを踏むリズムを刻む声が聞こえた。私と違い前向きな声が。それが私を励ましているかのように感じられ、私は一人「よし」と気持ちを切り替えて下校した。

 


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