Fate/Grand Order 正義の味方の物語 作:なんでさ
今回は課金もしたので60連+単発10回+呼符7枚と過去最大の投入だったんですが、どうやら縁が合わなかったようです。くそう、エミヤと並べたかったなー!
まあ、パッションリップは宝具2まで重ねられたので、まだマシでした。メルトは来年あたりにくるかもしれない復刻に期待しましょう。皆さんも課金は程々にしておきましょうね。
それでは13話目どうぞ
紅く、何もない荒野。
そこにある一つの影。
紅い外套を纏う男。
傷つき、今にも倒れそうな姿で、尚もその瞳は強い光を宿している。
もはや立て直す力など残っていないはずなのに、それでも四肢に力を込める。
--まだ倒れぬ、と。
それに呼応してか、唐突に、彼の内側から無数の剣が飛び出る。
確かに彼が生み出したそれは、彼の中から発しているにも拘らず、彼の肉体を傷つけていく。
常人ならとても正気を保っていられない状況で、彼は事もあろうに、笑みを浮かべた。
・・・・・助かる。殆ど限界だったからな。
地獄の責め苦に等しいその痛みも、彼にとっては福音だ。
飛び出た剣は、倒れこもうとする体を無理矢理に支え。
全身を襲う痛みは、沈み行く意識を覚醒させてくれる。
あまりにも痛々しいその姿に、男は僅かばかりの悲嘆も見せない。
まるで似合いの姿だと言わんばかりに、全身を剣に侵されたまま、彼は歩き出そうとする。
決して倒れぬように。
届かぬ星に手を伸ばすように。
「そんな姿にまでなって進もうとするなんて、あんたも相変わらずね」
「ツ----!?」
正面から、唐突に聞こえた女の声。
余りにも懐かしく、もう二度と出会うことはないであろうと思っていたもの。
それは随分と前。
男が師と仰ぎ、袂を分かったはずの、かつての戦友の声だった。
◆
「遠坂--?」
「久しぶり、衛宮くん。また随分と無茶をしてるみたいね」
その凜とした声も仕草も、本当にあの頃のままで、あれから長い時間が経ったということを忘れそうになる。
いや、何も変わらない、というのは違うか。
確かに本質は変わらないが、雰囲気というか、色気というか、とにかくそういったものが随分と違っている。
あの頃でも十分に魅力的な女性ではあったが、さらに成熟した魅力を醸し出している。
「・・・・・ああ、久しぶりだな。随分と魅力的になった」
「あら。それじゃあまるで、昔は魅力的じゃなかったって言ってるように聞こえるけど?」
「いや、失敬。決してそういう意味で言ったわけじゃない。あの頃でも君は十分魅力的だったよ」
お互い笑いながら軽口を叩く。
本当に。
こんなやり取りをしたのも、いつ以来だったか。
本当ならこのまま昔話にでも花を咲かせたいが、そんなことをしている暇はないのだろう。
彼女がわざわざ俺を訪ねてくるということは、何か理由があるはずだ。
「それで。どうしたんだ、こんな場所まで。遠坂が訪ねてくるくらいだ、よっぽどのことなんだろ?」
彼女が来た理由を思案しながら、問いかける。
「簡単なことよ--士郎、私はあんたを止めに来たのよ」
「----え?」
思いがけない答えに惚けた声を上げてしまった。
俺を止める。
言葉の意味は理解できた。
だが、何のためにそんなことを。
彼女にはわざわざそんなことをする理由など無いはず--いや、ある。一つだけ絶対的な理由が存在する。
「・・・・・つまり、俺を殺しに来たのか」
止めるとは、つまりそういうことなのだろう。
何故、そうするのか。
そんなことは分かりきっている。
あれから、どれほどの時間が経ったのかはもう分からない。
だが、彼女にとって■のことは今でも忘れられないことなのだろう。
そして、それは自分も同じだ。
■のことは、一日たりとも忘れたことはない。
「そういうことなら、仕方ないな」
動きを止める。
彼女が俺の命を絶ちやすように。
本当はまだ止まる気は無かったが、彼女が望むのなら俺はそれを受け入れなくてはならない。
彼女にはそうする資格があるし、俺はそのツケを払う義務がある。
"あいつに"追いつけなかったのは残念だけど、ここで彼女が殺しに来てくれて良かったと思う。
もう少し遅ければ、彼女の手で終わらせることができなかったかもしれない。
昔から運は無かったが、今回ばかりは例外だったようだ。
だから、そのまま彼女に任せようとして--
「何を馬鹿なこと言ってるのよ。私がそんなことするわけ無いでしょうが」
静かに、しかし強烈なコークスクリューブローを撃ち込まれた。
・・・・・結構辛いんだけどな。
怪我人にも容赦の無い行動に、そんなところも変わらずか、なんて関係の無いことを考えてしまう。
いや、それよりも。
「そんなことって、俺を殺しに来たんじゃ無いのか・・・・・?」
「だからそう言ってるでしょ。大体、なんで私があんたを殺すのよ?」
心底不思議そうな顔をする彼女に面食らってしまう。
だって、それはきっと、彼女にとって決して消えない傷で。
その張本人の俺は憎むべき存在だと、ずっと思っていたのだ。
それがこうも否定されては、どう反応すべきか分からない。
「なんでって・・・・・だって、俺は■を・・・・・」
「ああ、そういうこと。--馬鹿ね、それはあんたが気にすることじゃ無いわよ。アレは私のせいなんだから」
何故、という疑問にあっさりと答える彼女。
俺は悪く無い、と。
全ての責任は自分にあるのだ、と。
だが、それは。
「それは、違う。だって、■と一緒にいて、■が苦しんでたのに気づかなかったのは俺で--■を殺したのも、俺だ・・・・・」
そうだ。
その罪は俺が背負うべきものだ。
そばにいながら何もできなかった俺が、永劫抱いていくべきモノだ。
だから、彼女が自分を責める必要は無い、のに。
「それを言うなら、私はあの子の姉よ。そばにこそいなかったけど、あんたよりずっと前からあの子を見ていた--そう、見ているだけだった。何も知らず、何もしなかったのは私の方よ。だから、これは私の罪。あんたにだって譲る気は無いわよ」
断言する。
彼女は飽くまで、俺がその罪を背負うことを赦さない。
それでも、やっぱり納得できない。
「でも、それは--え?」
頑なな彼女に更に言い募ろうとして、言葉を失う。
彼女は両腕を広げていて--何をしようとしているのか理解して、剣鱗をなんとか抑え込む。
そして、一瞬後。
頭に感じる感触。
ふわりと、優しく頭を抱かれた。
「--遠、坂--?」
「もういいのよ、そんなにまでなって進まなくても。もう休みなさい」
髪を撫でられる。
もうずっと感じていなかった誰かの温もりに、駄目だと分かっていても涙を流しそうになる。
そんなもの、俺には許されていないのに、今まで揺らいだことは無かったのに。
どうしても、彼女を振り払えない。
だからせめて、言葉だけは、砕けないようにする
「それは、駄目だ。俺は■を殺した。理想を通すために、彼女を切り捨てた。もしここで止まってしまえば、彼女の死を無意味<ナカッタコト>にしてしまう」
そうだ、それはできない。
俺は彼女を殺した。
より多くを救うために、彼女を犠牲にした・・・・・いや、彼女だけじゃない。
俺が歩んできた道程には多くの骸が転がっている。その全てが、俺が救えなかった者達だ。
彼らの死をを、今更無為にすることは、できない。
だというのに--
「だからこそよ。あなたはもう十分に責務を果たしてきた。これ以上あなたが傷つく必要は無いわよ。大体、あの子がそんなこと望むわけ無いでしょう。■■■だって、士郎にこんな事させるために、代わりを引き受けたんじゃない」
畳み掛けられる。
彼女の言葉は厳しく、同時に非情なまでに優しかった。
彼女は、俺がどう考えているのかなんてわかっているはずなのに。
それでも彼女は、俺を許そうとする。
衛宮士郎は十分に責務を全うしたと。もう歩みを止めて、平穏に浸って良いのだと。
・・・・・そんな彼女だからこそ、理解しているはずだ。
衛宮士郎は、その平穏を許容できる人間ではないのだと。
だからこそ、変わらない。
これまでも、そしてこれからも。
衛宮士郎は、人々を救うための剣であり続けるだけであり--
「それに--もうあなたは、とっくに"彼女"に追いついているわよ」
そんな、無視出来ない言葉を聞いた。
「俺が、あいつに--?」
そんなこと、考えてもみなかった。
自分はずっとずっと半人前で、とても彼女に追いつけていないと思っていた。
それは今も変わらず、だからこそ、信じられない。
「ホント、そういうところは鈍いんだから。前ばっかり見てないで、たまには振り返ってみなさい。この前だって、誰一人として犠牲は出てないんだから」
「----」
知らなかった。
俺は正義の味方を目指していても、その後どうなったはあまり見ていなかった。
事件が終われば、すぐにその場を立ち去った。
俺のようなものがいつまでもいては、周りに迷惑が掛かるから。
極力他人を巻き込まないようにもしてたから、余計に気づかなかった。
「分かった? あなたは既に正義の味方になっていたのよ。だから--もう、自分を許してあげなさい」
穏やかに告げられる。
彼女に言われても、それでもまだ止まるつもりはなかったのに。
・・・・・なんか、意識が・・・・・。
閉じていく視界。
抑えきれない睡魔に襲われる。
彼女の温もりに包まれながら、久しくなかった深い眠りに落ちていった。
◆
自身の腕の中で眠る衛宮士郎を見ながら、遠坂凛は僅かに息を吐いた。
「やっと効いたか。流石はマルティーンの聖骸布。対した対魔力だわ」
彼女がしたのは、簡単な暗示。
催眠とも言える。
衛宮士郎の対魔力は低いため、すぐにでも効くのだが、彼が纏う魔術礼装は外界からの干渉を遮断するため、なかなかに上手くいかない。
尤も、"魔法使い"となった彼女は、魔術師としても最高位の使い手だ。
礼装の守護を上回ることなど造作も無い。
「・・・・・うん。ちゃんと寝ててるわね。それじゃ、始めるとしますか」
そう言った彼女は言霊を紡いでいく。
施す術式は、記憶の封印。
彼の思い出、彼の経験、彼の理想。
その全てを封じ込み、まっさらな状態にまで戻す。
なぜ、彼女がそんなことをするのか。
それは、彼女の元から彼が立ち去ったところから始まる。
『・・・・・本当に行くのね、士郎』
『ああ。ここにいても、俺の目的は果たせない』
きっと、そうなるってことは、分かっていたんだろう。
あそこでは、彼の理想は立ち止まる。
そんなことは、彼を弟子として連れて来た時から分かっていた。
だからそれは、初めから決まりきっていた形だった。
『そう。それなら止めないわ。けど今日限りあなたには遠坂の弟子を辞めてもらうから』
『分かってる。遠坂に迷惑を掛けるわけにはいかないからな』
『分かってるのならいいわ。後はあなたの好きにしなさい』
『ああ。それと・・・・・ありがとう。止めないでくれて』
別れ際、告げられた感謝の言葉。
今となっても、あの選択が正しかったのかは分からない。
結果として彼は永い時間、正義の味方を続けて、こんなところまで辿り着いてしまった。
その過程で彼がどれだけ傷つき、慟哭したのかは想像に難くない。
あそこで無理にでも止めていれば、きっとこんなにも苦しむことはなかったのかもしれない。
けれど。
あの時の私はこうなることを予想しながら、彼を止めることはなかった。
彼の在り方には苦言の一つでも言ってやりたかったが、それでも、その理想を正しいものだと感じたし、何より"彼女"を追い続ける彼のことを止めることなんてできなかった。
「ま、それでも納得できなかったんだけど」
だからこそ、この道を彼女は選んだ。
いつか彼がその理想を果たした時、彼が忘れてしまったもう一つの理想へと送り出すために。
「よし。これで記憶の方はオッケー。後は肉体か」
そう言った彼女は、一つの短刀を取り出した。
刀身が無色の宝石でできているそれは、実際は剣ではなく杖だ。
ソレを士郎の前に翳した彼女は再び呪文をかける。
果たして、その効果はすぐに表れた。
鍛え抜かれた彼の体は、彼が高校生だった頃にまで戻っている。
色素の抜け落ちた白髪も赤銅色に戻り、浅黒い肌も日本人特有の黄色へと変化している。
目を閉じているために見ることはできないが、瞼の下の瞳も元の琥珀色になっているだろう。
ただ、元の魂が影響しているのか、彼女が知っているあの頃よりも逞しい体になっている。
「うん。やっぱりあなたはこっちの方が素敵よ」
言いながら、彼を支える。
肉体の巻き戻りに際し、彼の内側から生えていた剣も消えたため、支えを失ったのだ。
そのままゆっくりと地面に寝かせる。
「これで準備は完了。それじゃ最後の仕上げをしましょうか」
最後に心を固めて、彼女は宝石剣を振るう。
振るわれたその箇所には異様な穴が開いており、覗く先もよくわからない空間になっている。
彼女が行わんとするのは、彼の平行世界への移動。
無数に分岐する世界へのシフトだ。
だが、今回送るのは魂と精神だけ。
肉体は置いていく。
魔術において肉体と精神と魂は同一視されている。
強固な精神性を有していようと、どれほど膨大な魂を内包しようと、肉体<イレモノ>が無ければ待っているのは死だけだ。
肉体だけを残すというのなら、それは彼を殺すことになる。
だが、今回に限りそれが必要なのだ。
加えて言えば、肉体<イレモノ>は送った先に存在する。
彼と別れた後も研究を続け、遂には第二魔法を体得した彼女は多くの"世界"を回った。
目的は一つ。
衛宮士郎の理想が実現する世界を探すためだ。
「苦労したわね。ある程度絞れてはいたけど、やっぱり少数なのよね」
遠坂凛が考えた、衛宮士郎が置き去りにしてきたもう一つの理想。
それは、家族だった。
衛宮士郎という人間が生まれるには、必ずあの大火災を経験しなくてはいけない。
そこで彼は何もかも失い、同時に新たな日常<セカイ>を手に入れる。
だがそこで得るものが、世界によって変わるのだ。
そうして見つけた。
彼女の考えうる限り最高の世界。
死別した義父が存命し、会うことも叶わなかった義母がいて、殺しあったはずの姉が愛らしい妹として隣に立つ世界。
そこからの行動は早かった。
それとほぼ同一の世界へと彼を送るために、さらに回り続けた。
あの火災において、ほとんどの世界で■■士郎は存命する。
それでは駄目だ。
彼を幸せにするためには、大抵のことは容認するが、他の世界の彼を殺す気までは起きない。
だから肉体だけが生き残り、自我が完全に消えた彼がいる世界を探した。
それならば、問題は無い。
肉体を再利用するだけで、元の彼を塗りつぶす心配も無い。
そうして、どれほど彷徨ったか。
彼女は目的通りの世界を探し出した。
後はその世界の彼の肉体にこちらの彼の魂を融合させれば終わり。
かつてそうだったように、養父となる男に拾われて、そのまま彼らの家族の一員となる。
そのためには今までの記憶は邪魔になる。
だから彼女は、彼の記憶を封印したのだ。
「とはいえ、ずっとそのままじゃ駄目よね」
いつまでも過去を閉じ込めたままでは駄目だ。
自分にはそこまで彼を封じる資格はない。
そもそもそんな偽りを続けていても、それは本当に彼の幸せだと言えない。
だから、封印は時限式にした。
期間は約10年。
彼が聖杯戦争に巻き込まれた年までだ。
そこで記憶を取り戻した彼が家族とあり続けるのか、再び正義の味方をを目指すのか、それとも全く新しい道を見つけるのか。
そこからの選択は彼に任せる。
でも、できるなら、彼には家族と一緒にいて欲しいと思う。
「"あなた"は、私を恨むかしらね」
ここにはいない、遠い地で眠る"彼女"に向ける。
恐らく遠坂凛が何もしなければ、きっと彼は、あの理想郷に辿り着いていたのだろう。
そこには当然"彼女"もいるはずだ
それはきっと、彼がずっと望んでいたことで、同じように"彼女"が望んでいたことでもある。
だから本当は、何もしないことこそが救いだったのかもしれない。
それでも、どうしても彼にもう一つの道を見せたかった。
「ごめんなさい。ずっと待っていたのに、また長引かせてしまう」
届くはずのない謝罪が漏れる。
意味はないと分かっていても、言わずにはいられなかった。
「心の贅肉、落とし損ねたかな」
今までのことを振り返りながら、そんなことを思う。
でもよくよく考えれば、自分には関わりのない人間のためにずっと動いてきたのだ。
その時点で、心の贅肉で埋もれていたのかもしれない。
「ま、仕方ないわよね」
言って納得させる。
たとえ無駄な行為でも、これには確かな意味があると信じて。
--どうか、気にしないでください。
「----」
不意に、風が吹いた。
こんな荒野には似つかわしくない、どこまでも透き通るような清涼な風。
それが、あまりにも“彼女”に似ていて。
だからだろうか。微笑んだ“彼女”の声が聞こえた気がした。
「--ホント、二人揃って変わらないんだから」
つい呟いてしまう。
今のはただの風の音だったのかもしれない。
彼女の罪悪感が生み出した暗示。
けど、どうしてかは分からないが、彼女にはそれが本当に彼女の声だと感じてしまう。
「・・・・・そろそろ、か。さよなら、士郎。あなたのこと好きだったわよ」
ご、と。
膨大な魔力が吹き荒れる。
ただの穴を"道"として安定させる。
そこへ、彼を載せようとして--
--肉体ごと、持っていかれる。
「----っ!? ちょ、なによ、これ、なんで、いきなり--っ!」
彼女が安定させた道。
その横側から、ナニかが強引に介入してくる。
その力は凄まじく、魔法使いの彼女をしても飲み込まれそうになる。
今はなんとか拮抗させているが、早く手を打たないと保たない。
・・・・・なんで、こんなことがっ・・・・・!
引き込まれる彼を抑えつけ、混乱する頭で思考すら。
誰がこんなことをするのか、全く見当もつかない。
現状、彼女のいる世界において、彼女以上に平行世界の運営をできる存在はいない。
彼女の師である人物も、今は衰えており、彼女以上の力は無い。
故に、彼女以上の人物は存在せず--それ以外であれば、一つだけ可能なモノが存在する。
・・・・・まさか、なんで"アレ"が出張ってくるのよ・・・・・っ!
一つの仮定を立てる。
あり得ないと考えながら、同時にそれ以外にはないと確信する。
だが、その考えに至ってしまったために、僅かに力が抜けてしまった。
--均衡が破れる。
「ぁ----」
小さく漏れる声。
遠ざかっていく彼の姿。
なんとかしなくてはいけないと分かっていても、もはや決定的なまでに遅く--
「士郎----っ!」
彼女の叫びだけを残し、穴ごと彼は消えていった。
◆
「--ここは」
深い眠りから、ゆっくりと覚醒する。
視界には見覚えのある真っ白な天井。
清潔感に溢れ、汚れを寄せ付けないこの部屋は、カルデアにあった医務室か。
そこで自分の胸を見て、彼女につけられた傷が無いことに気がついた。
「・・・・・まさか、また生き残るとはな」
自身の悪運の強さについ、ぼやいてしまう。
おそらくあの街での異常を解決し、このカルデアに帰還した後に治療を受けたのだろう。
自分としては死んだと思っていたために、まさかここに帰還するとは夢にも思わなかったが。
「いやいや、目覚めて開口一番にそれはどうかと思うよ。せっかく生き残ったんだから、ここは手放しに喜ぶべきだろう?」
「----!?」
溢れた呟きに、予想外の返事が返ってくる。
驚いて右を向けば、一人の女性がいた。
「----は?」
その姿を認めた瞬間、間抜けな声を上げてしまった。
いつからそこにいたのか、とか。
誰なのか、とか。
そんな疑問が全部吹っ飛んでいく。
だって、目の前にいる人物の顔は、間違いなくあのモナ・リザと同じだったのだから。
「おはよう、こんにちは、エミヤくん。意識ははっきりしているようだね」
「え、いや、あの」
「ん? まだ思考能力が戻ってないのか。それとも、眼が醒めたら目の前に絶世の美女がいて驚いたってところかな? もしそうなら、気持ちはわかる。でも慣れて」
すごい。
何がすごいって、こっちの混乱に気づいているにも関わらず、なおも自身の話を途切れさせないところが。
今まで変人奇人の類にはかなり縁があったが、彼女はその中でも最上位だろう。
「・・・・・すまない、突然のことで混乱してしまった。それで、貴女は--?」
「おお、なかなかの復帰速度。うん、頭の切り替えが早いのはいいことだ。それでは改めて自己紹介。私はダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな?」
混乱する頭を収めて、なんとか返した問いに、またしても爆弾を落としてくれた彼女。
・・・・・モナ・リザではなく、ダ・ヴィンチ・・・・・いや、それ以前に召喚英霊第三号、だと・・・・・?
ますますわけが分からない。
名前の方もきになるが、召喚英霊第三号とは。
字面から、ある程度のことは考えられるが。
そこまで考えて、彼女の放つ気配がサーヴァントと同じものだと気付いた。
「つまり貴女は、カルデアに召喚された三番目のサーヴァントで、真名はレオナルド・ダ・ヴィンチ、という認識で構わないか?」
「ああ、それで間違いない。いや、それにしても冷静だね。もう少し驚くと思ったんだけど」
「十分に驚いてる。単に話が進まないから押さえ込んでいるだけだ。それで、私に何の用が?」
「そうそう。忘れるところだった。寝起きで悪いんだけど、今すぐ管制室に行ってきたまえ。そこで君を待っている人がいるから」
「--? 私は特に誰かを待たせている覚えはないが」
そもそも、知り合いなど殆どいないのだから、約束のしようがない。
思い当たる人物といえば、色々と聞いてくるだろうオルガマリー・アニムスフィアか、ロマニ・アーキマンだが、特に何かを約束したことはない。
そんな俺に彼?彼女?は心底呆れた顔をしている。
--ナニイッテルノキミ
と、考えているのが丸わかりだ。
こちらとしてはそんな顔をされる心当たりがないので、困惑する他ない。
「確かに、色々と聞きたいこともあるし、あの後どうなったのかとか教える必要もある。けど、それよりももっと大事な娘がいるだろ?」
「いや、そう言われても本当に・・・・・あ」
心当たりがない、そう言おうとして、一人だけ思い当たる人物がいた。
「ようやく気付いたか。カルデアに帰還してからずっと君のそばにいたんだよ? 君が無事に目を覚ますまで離れないって言ったあの娘を説得するのにどれだけ苦労したか」
「そうだったのか・・・・・それなら、早く行くべきだな」
寝かされていたベッドから起き上がる。
まだ多少の倦怠感が残るが、十分に回復したと言っていい。
それを確認して、ドアへと向かう。
「ああ、それとその口調だけど、彼女の前ではあんまり使わないほうがいいよ。私は大丈夫だけど、あの娘は怯えてしまうかもしれないからね」
部屋を出る直前、そんなことを言われた。
「・・・・・ああ、わかった、気をつけるよ」
後ろを振り返らずに、そう答える。
侮れんな、と考えながら、今度こそ管制室へ向かう。
◆
「ロマニー。聞こえてる?」
「聞こえているけど、何か用かい? 知っての通り今は忙しいから手短に頼むよ」
中央管制室。
そこで僅かに生き残ったカルデアのスタッフと共に、復旧作業を執り行っていたロマニ・アーキマンの元に、とある人物から連絡が届いた。
--レオナルド・ダヴィンチ。
フランス、ルネサンス期を代表する芸術家。
史上最高と呼び名の高い画家であると共に、様々な分野にも精通する万能人。
現在はカルデアに協力するキャスターのサーヴァントとして限界している。
世界的に見ても非常に高名な人物だが、実際のところは美を探求するあまり、現界時に彼にとっての究極の美であるモナ・リザそのものに自身の肉体を再設計した正真正銘の変人である。
「ああ。帰還から約12時間。ようやくお目覚めだよ」
伝えられた内容に、僅かにため息を吐く。
件の少年、エミヤ。
マシュ・キリエライトのマスターにして、正体不明の人物。
彼が冬木の大空洞で見せた劇的な変化は、現在、カルデアを指揮する立場にあるロマニに危機感を持たせるには十分だった。
「そうか、起きたか・・・・・それで。彼の様子は?」
「ぱっと見た感じ体には異常無し。動作や言語などの障害も見えない。魔力の方はまだ回復してないみたいだけど、時間が経てばすぐに戻るだろう」
「身体的な問題は無し、か・・・・・それじゃあ、記憶の方はどうだい?」
「十中八九、戻ってるだろうね。目を覚ましてからの言動や態度が前と比べて随分変わっている。彼にかかっていたっていう術式も完全に消えているようだし、まず間違いない」
通信相手の所見に、やっぱりか、と息を吐く。
判りきっていたことだが、改めて言葉にされると憂鬱になる。
ただでさえ復旧作業で手一杯の彼にとって、少年との話し合いもしなければならないというのは負担が大きすぎるというものだろう。
「分かった。君はそのまま彼を見ておいてくれ。僕もこっちの作業がある程度区切りがついたらそっちに行くから」
向こうに新しく指示を出してから、さて、何から話すべきか、などと彼は思案する。
唯一のマスター適正者。
その人物に、これから言葉にできぬほどの重荷を背負わせようとしていることに胸を痛め、
「それなんだけど。もうそっちに行ってるよ、彼」
通信先の彼は、あっけらかんとそんなことを言った。
「は・・・・・? って、えぇぇぇぇえっ!? なにやってるの!? 最初に目を覚ましたらそこにいさせてって、ぼく言ったよね!? なんでこっちに来させてるの!?」
「あれ、そうだったっけ? いやごめんごめん、すっかり忘れていたよ」
ハハハ、なんて笑い声が聞こえてきそうな調子でいう天才<バカ>一人。
モニターを見ると、確かに件の少年が管制室への通路を歩いている。
その声と映像に、つい頭を抱えてしまうDr.ロマン。
まだ少年の素性も知れておらず、復旧作業ももう暫くかかる。
その状態で正体不明の人物を自由にさせておくというのは、褒められた行為ではない。
彼が頭を抱えたくなるのも分かるというものである。
隣にいた現在の補佐役をしてくれている女性スタッフが同情の視線を向けながら胃薬を渡してくるのを、感謝とともに断り、再び通信相手へと意識を向ける。
いま彼と会話している人物が与えられた指示を忘れるような人物ではないことは、カルデアにいる誰もが知っている。そして現在優先すべきが何かも分かっているはずだ。
その上で、こんなことをするのは一体どういう了見かと問い質そうとして、
「まぁ、それは流石に冗談。本当はあの娘のとこに行かせただけだよ」
「----」
先ほどのふざけた態度とは一転、柔らかな声色でその意図を告げた。
「--そうか。うん。確かに、それが"正しい順番"だ」
そういう彼の視線の先には、一人の少女。
一時間ほど前にこの管制室の下に来てから、なにやら一箇所に留まっているマシュ。
その顔は何かを考えているようにも見え--数時間前にダ・ヴィンチちゃんから聞いた、彼がマシュと交わした"話"のことだろうと辺りをつける。
「まぁ、ロマニのいうことも分かるけど、今は二人を優先してあげなよ。彼女の気持ち、分かってるんだろ?」
「・・・・・ああ。僕も少しばかり気を張りすぎていたよ」
駄目だな、と軽い自己嫌悪に陥っていると、視界の下の方に特徴的は赤銅色の髪が映った。
どうやら、件の少年が来たらしい。
それを見て、スタッフ達に一区切りついたら、休憩を取るように指示する。
全員ここまでぶっ通しで作業を続けてきたのだ、そろそろ休まないと体を壊してしまう。
下の二人が話し終わるのと交渉が終わるまで、多めに見積もって30分といったところか。
それだけあれば、彼らも多少は休めるだろう。
その間に、少年への現状の説明。そして彼のことを聞くとしよう。
そう考えながら、ロマニは二人の少年少女の元に向かう。
◆
--私はいったい、彼に何を言うべきなのだろうか。
休息を終え、見えない答えを探しながら、管制室を見回す。
この施設を焼き尽くし、多くの命を吸った炎は、生き残ったスタッフの尽力で鎮火している。
この管制室にいたスタッフ達の亡骸も既に片付けられている。
見渡す世界に赤色は無く、死の残滓も感じられない。
それは、本当に何も無かったようで--爆発の名残である無数の瓦礫と、なにより中央に鎮座する真っ赤なカルデアスが、否応無しに現実を突きつける。
・・・・・本当なら、私もあそこに残るはずだった。
道を塞ぎ、全身を焦がす炎。
降り注いだ瓦礫は下半身を完膚無きまでにすり潰した。
幸運だったのは、痛みは最初だけで、途中からは感覚すら無くなったことだった。
そうでなければきっと、下半身を襲う激痛だけで命を落としていたかもしれない。
けれど、結局は同じこと。
本来味わうはずだった苦しみが減っただけで、辿る結末は変わることはない。
『待ってろ、いま助ける・・・・・ッ!』
その中で。
ただ一人、手を差し伸べてくれた人がいた。
記憶は無くて。
自分なんてどこにもなくて。
本当は不安で一杯なのに、その行為に意味は無いと理解しているはずなのに。
それでも、この手を握ってくれた人がいた。
だから、この力を託された時に誓ったのだ。
今度は私が彼を守ろうと。
あの時、何も残せないままに死んでいくはずだった私が生き残ったのは、そうするためだと思ったから。
けれど、彼の心も体も、私の及びもつかない程に強くて。
結局、私は最後まで守られる側だった。
『・・・・・ごめんなさい』
カルデアに帰還し、医務室で彼の検査を終えて眠らせたあと。
薄暗い部屋の中、傷が治っているにも拘らず眠り続ける彼の手を握りながら口にした言葉。
それは彼と出会ってからのいろいろなことに対する言葉だった。
力になれなかったこと。
傷つけてしまったこと。
そして--彼の隣に立とうとしなかったこと。
『私を前にして、背を向ける余裕があるのですか』
『今度こそ、乗り越えさせてもらう・・・・・ッ!!』
今でも忘れられない。
あの時、あそこにいたのは私の手を握ってくれた先輩で--同時に、私の知らない彼だった。
そこにいるのに心だけが離れていくようで、言葉にできない恐怖に囚われた。
あの戦いで私にできることは殆ど無かった
だから手出ししなかったし、するべきではないと思った。
でも、それは建前で。
本当は、彼の隣に行って、私の知らない彼を実感するのが怖かったから。
私は、私の身勝手で彼を傷つけてしまった。
だから、謝り続けた。
それがどれだけずるいことで、的外れな独りよがりなのだと理解していても、それ以外に言える言葉がなかった。
『まだここにいたのか。いい加減に君も休んで来なさい』
ダ・ヴィンチちゃんが来たのはそんな時だった。
聞くところによると、何時間も休みなしに彼のそばにいた私を見かねたDr.ロマンが説得するように指示を受けたらしい。
なんとも彼らしい、と思った。
本当なら動ける人間は全て復旧作業に動員すべきだが、彼は飽くまで個人を優先した。
その在り方は好ましく思うし、こんな中で休ませようとする気遣いはとてもありがたい。
通常なら一も二もなく首を縦に振っていたことだろう。
『大丈夫ですから。ここで先輩が目覚めるのを待っています』
けれど、口から出たのは正反対の言葉だった。
『・・・・・まあ、そう言うと思っていたけどね』
彼女はそれを予想していたのか、私の答えに驚くことはなかった。
ただ、どこか呆れたようにため息を吐いて、言葉を重ねていく。
『そんな状態でどこが大丈夫なものか。ただでさえあんなことを経験したんだ、もう起きているのも辛いはずだ。そんな姿を起きた彼に見られてみろ余計に心配をかけるぞ』
彼女の言葉は実に論理だっていて、加えて私の無視できないことも交えたものだった。
そのまま10分ほど彼女の小言を聞かされて、さすがに根を上げた。
仕方なく--本当に仕方なく、握っていた彼の手を離した。
出口まで行き、最後にもう一度だけ彼の顔を見て、
『ああ。言い忘れていたけど、彼に伝えるのは謝罪以外にしたほうがいいよ』
今まさに通路へ出ようとしたところで、そんなことを言われた。
え、と呟きながら振り向いた先、彼女はこちらに背を向けたままで、
『君が言うべきことはそれじゃないし、彼が一番喜ぶだろう言葉は対極のものだ』
対極と、彼女は言った。
私にはそれが分からない。
契約で繋がっているとはいえ、彼との付き合いは浅い。
いったい彼が何を望むのか。
元より他人の機微に疎い私では、それを察することは難しいように感じる。
けれど、それ以上彼女は何も言わなかった。
あとは自分で考えることだ、と。
仕方なく医務室を後にする。
自室についてからも彼女の言葉を反芻させていた。
ずっと彼のことが頭にあったためあまり気は休まらなかったけど、考え事をしていたおかげで気を紛らわすことはできた。
そうやって考えているうちに、いつの間にか眠っていた。
それから目を覚ましたのが一時間ほど前のこと。
ダ・ヴィンチちゃんに通信を繋げて彼の様子を聞いても、未だ眠り続けているようだった。
医務室に向かおうとしたが、彼女に止められてしまった。
それでは、とDr.ロマンに作業の指示を仰いだが、そちらもまだゆっくりしていなさいと諭されてしまった。
そうなってくると何もすることがないので、なんとなしに管制室に行ってみた。
そうして今に至る。
--私はいったい、彼に何を言うべきなのだろうか。
あの爆発の時、自身を押し潰した瓦礫の前で自問を繰り返す。
彼の隣に立つことも、守ることもできなかった自分に何が言えるのだろう--
「----?」
ふと、背後に人の気配を感じた。
おかしな話だった。
殆どの人間がそれぞれの作業を行っているカルデアで、一通り作業を終えたこの場所で人の気配を感じるはずがないのだ。
だからこそ、そこに立ち得るのはたった一人だけで--
「----」
振り返った先で言葉を失った。
背後にいたのが予想通りの人物、即ちあの少年だったからというのもある。
でも、それ以上に目を惹かれたのが、その顔だった。
誰かが無事であった安堵、それを成せた喜び。
まるで、救われたのは私ではなく、彼の方だと錯覚させるようで。
助けられたはずの私が羨ましいと思ってしまうほどに、幸せそうだった。
蟠りが取り除かれ、何かが胸にすとんと落ちた。
くすり、と笑みが漏れる。
ずっと悩んでいたことが馬鹿馬鹿しく思えてしまうほど答えは簡単だった。
少年は何を願い、どんなことで心が満たされるのか。
そんなことは、彼の顔を一目瞭然だ。
だから伝えよう、私の気持ちを。
それは彼の望む言葉であり。
同時に、私が伝えたい想いでもあるのだから。
◆
エミヤが医務室を後にして数分。
彼は中央管制室に辿り着いていた。
通路もそうだったが、僅かな痕跡を残すだけで爆発の名残は無い。
ただ、その中で唯一異色ともいえる存在が、中央に鎮座している。
真っ赤に燃え盛る星。
それがどのようなもので、何を意味しているのか。
一切の知識を持たない彼は、アレのことも聞かないとな、と考え管制室を見渡す。
果たして、目当ての人物はすぐに見つかった。
管制室に残る幾つかの瓦礫。
その一つの前に、マシュ・キリエライトは佇んでいた。
彼女の姿はレイシフト先で纏っていたボディースーツ染みた黒い軽鎧ではなく、彼らが出会ったときにも来ていた私服姿だった。
それを見て、エミヤは彼女が無事であったことを実感した。
ふ、と息を吐く。
確かに、自分は彼女達を守れたのだと、そのことが何より嬉しい。
その吐息か、それとも彼の気配に気付いてか、マシュが彼の方へと振り向いた。
その顔は驚いたような表情で--何か、閃いたようでもあった。
エミヤはそれを不思議に思いながらも、彼女へと近づき声をかける。
「おはよう、マシュ。久しぶり、っていうのも変だけど、元気そうで良かった」
「はい、おはようございます。先輩もお元気そうで何よりです」
お互いに気分を高揚させながら、双方の無事を祝う。
あの戦いは、誰が死んでもおかしくないものだった。
帰還できる確率は、極めて低かった。
その中で生き残れたのは、奇跡であったと言えるだろう。
二人の声が弾むのも自然というものだ。
「あの、先輩? 私、どうしても先輩に伝えたいことがあるんです」
一通り会話を続けた後、僅かに気分を落ち着かせて、マシュがそんなことを言った。
その切り出しは、どこかあの町の土蔵で交わされた会話に似ていた。
あの時の彼女は自らの無力さを嘆き、自責から主へと謝罪した。
しかし今、エミヤの前に立つ彼女からは悲壮の色は見えず、それが以前との違いを如実に表していた。
「ああ。俺でよければいくらでも」
だからエミヤも、あの時と変わらず聞き遂げようとし、しかし柔和な表情を浮かべた。
マシュは彼の言葉にどこか安心したような表情を浮かべて--一言ずつ愛おしむように言葉を紡ぐ。
「わたし、お礼が言いたいんです。守ってくれたこと、支えてくれたこと--あの時、手を握ってくれたこと」
あの炎の中で、決して助けられないと理解しながら、それでも諦めず、少しでも私が苦しまないようにと笑いかけてくれた。
それが何より嬉しかった。
なにを残す事もないこの身に起きたささやかな--けれども、途方もない奇跡。
「--ありがとうございます、先輩」
浮かべる笑みは、咲き誇る花のように。
--少女は心からの感謝を告げた。
今回でやっと冬木編は終わりです。
長かったような短かったような。まだ序章が終わっただけですが、書いていてとても楽しかったです。序章でこれなんだから、これからいろんな英霊に絡ましたりスタッフに絡ませたりマシュをヒロイン化させたりしていくのだと考えると、今からやばいですね。CCCコラボの余韻もあって結構モチベが上がってるので、このままオルレアンまで突っ走りたい。今年は型月が盛りだくさんなので、それらを楽しみながら精進していきたいと思います。