「なあ、悟空」
『言わんでくれ。見ればわかる』
「なんで囲まれてんのこれ…」
『(言っちゃったよ)』
降り立ったはいいが、場所が運悪く王国兵の通り道。しかもたった数分の距離のところに。突然空から人が降って来たとなれば彼らが警戒しないはずがない。
「貴様、何者だ!」「フェアリーテイルのものか!」「抵抗するなよ!」
「(こっちじゃ闇ギルド扱いなのか?)」
「はいストップ。あんな人あそこのギルドにはいなかったわ」
「ジェニファー隊長」
囲む兵士をかき分けて現れたのは薄紅色が特徴的な髪を持つ女性だった。この部隊の隊長らしい。
「すまないねぇ、いきなり。最近色々あったから、見ての通り殺気立ってんの」
「こちらこそ失礼した。下をよく確認せずに降りてしまって」
「今回は見逃すけど、なんかやったら遠慮なく捕まえるよ。いいね?えっと…」
「ジンヤと申す。ちょいとここらに用があって来たもんで。心配しなさんな、用が済んだらすぐに立ち去る(何もなければ、だがな)」
「冷静で助かるわ。あたしはこの国の軍部隊長のひとり、ジェニファー・T・マーナガルムよ。もう会わないといいけど」
「!?(こいつ…こっちの!)」
名前を告げた彼女の号令一つでまとまって王都のある方へと帰っていった。残された2人は大きなため息を吐き、彼女たちを見送る。
「はあ、危ねぇ…こんなところで逮捕なんて死んでも嫌だわ」
『しっかし驚いた。あやつがこっちのお主のようじゃが、まさか女とは』
「厄介なことになったな。メンドくせえ…」
顔を大勢に見られてしまった以上、何かやったらすぐバレる。時間があまりない状況だ、何かあったら間に合わないこともありえる。
「王都か。しばらくは行かないほうがいいな」
『当たり前じゃ。それより情報屋を探すのが良かろう。街は…あっちの方かの?』
「だりぃ…」
着いて早々先行きが不透明に。路頭に迷いかけたジンヤは安請負はもうしないと決めたのだった。目指すは魔法の闇市、砂漠を越えた先の街ルーエン。
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同じ頃、同じ砂漠ではあるギルドが王国から逃げるためにちょうど引越しを終えていた頃だった。
「ヤローども!引越し完了だ!」
「ひ、引越しって」
「ギルドごと移動したんだ」
「すごい…」
エドラス最後のギルド、フェアリーテイル。このギルド以外は悉く王国に潰され、このギルドも大半のメンバーを失いながら今日まで生き延びて来た。そこにやって来たナツ、ウェンディ、ハッピーとシャルルは説明と状況の理解を行なっていた。
「それじゃあ、あんたら。もう一つの世界、アースランドから来たってのか」
「しかもそっちにもフェアリーテイルがあってエルザが仲間なのか!?」
「簡単に言えばそうなるわね」
「あい」
当たり前だが、どうにも信じられないという声がよく聞こえる。目の前の人間、しかも知り合いにそっくりな男がいきなり別世界から来たなんて説明しても信じてもらえることが少ないだろう。
「私は信じるよ。あんたらの話…」
「ありがとよ。それでよ、王都に行く方法を教えてくれ」
「俺たちも半分くらいやられてんだ、やめておけ」
「行っても死ぬのがオチよ」
王国軍に、今まで反抗して来た者は生きていないという。それほど大きく強大であるとか。有限の魔力がなくなるのを危惧した国王によって潰されたギルドは多く、残ったのはフェアリーテイルだけ。反抗している以上無傷じゃ済まない、マスターを殺され仲間も半分くらいに減ってしまったとか。
「あんなのからは逃げるのが精一杯なんだ」
「近づかんほうがいい。大人しく元の世界とやらに戻りな」
「頼む、王都への行き方を教えてくれ!俺は、仲間を助けるんだ!絶対にな!!!」
こうしてナツ一行も砂漠越えをして王都へと向かうことになった。
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シッカの街に入ったはいいが人が疎らで、まともに情報を聞き出せる状況ではなかった。
「魔法店がほとんど潰されてんな」
『それほど魔力に限りがあんじゃろ。しかし、寂しいものじゃのう』
「前は賑わってたんだろうに」
国の政策によるものか、表通りにある魔法関係の店が悉く取り潰されていた。道行く人に聞いたところ、ギルド狩りと魔法狩りによるものだと聞かされた。
「有限故に一箇所に纏めて管理するか…難しいものよな」
『左様か…む?なんじゃあの竜巻』
「行くか、竜巻にしちゃあ変だ」
竜巻のような風の渦の落下点へと急ぐ。近くまで行くと王国兵が騒がしく過ぎていくのが見てとれた。
「見つけたぞ!フェアリーテイルだぁ!」
「(何!?…やけに静かだ)」
てっきり攻めてくるものだと思っていたが、いつまで経っても来る様子がない。こっそりと物陰から覗き見るとルーシィが王国兵と言い争いをしているところに出くわした。しかもナツ達までいた。
「(えええっ!?何で居るんだよ!早よ助けなくては…)」
「開け、天蠍宮の扉・スコーピオン!」
「ルーシィさん!こっちじゃ魔法は使えないんです!」
そう、あの丸薬を飲んでいなければ魔法はつかえない。だから呼び出せないかと思われた。
「ウィーアー!」
「なっ、魔法!?どうして使えるんだ?」
「サンドバスター!」
「こ、これが…アースランドの…」
「ルーシィ!」
「みんなぁ会いたかったよ〜!」
ここまで1人で旅をしていたらしい。ようやく顔を知る者と会えたことに涙がでかけたが、自分と全く瓜二つのエドルーシィを見た瞬間、かなりショックを受けたみたいだが。
「まさかテメェらもいたとはな」
「ジンヤまで!良かったぁ」
「さっきここに着いたんだよ。こっちの俺にも会った」
「なあ、誰だよこいつ?あんたらの知り合いか?」
「俺はジンヤだ。とりあえずここを抜けることを考えようか」
撤退戦で、トラップや分身を利用した釣り野伏せといった戦術をふんだんに使い、街を離れて森の中でゆっくり話すことに成功した。
「…という訳で、街が吸い込まれる時にホロロギウムが助けてくれたみたい。そこにミストガンが来てね、一方的に話すだけ話してこっちの世界に飛ばしてきたの」
「そん時に丸薬を飲まされなかったか?」
「どうだったかな?正直わけがわからないうちに飛ばされたから覚えてないの」
「テメーラ…王国と戦おうってのか?」
エドルーシィの真面目な質問に当然とばかりに応と力強く答える。
「仲間を早く助けたいんだ」
「とーぜんだぜ」
「本当にコイツ私?」
「王国相手に魔法もロクに使えない状況で…」
「無いなら無いなりにやればいいさ。違うか?人は打開しようとするから力を出せる」
「!?(こいつら…不思議だ。本当に世界を変えてくれそうって思わせるなんて)」
世界を変えようとする意志は確実に前へと進もうとしていた。
もう5月も終わりですね。早いものです。
今回は話がある程度まとまったため投稿しました。ナツたちとは別路線で行きます。それにしても、異世界で性別が違う(今回の場合ジンヤとジェニファー)場合って性転換タグって必要なんでしょうか?(念のため)それとも同一キャラの時だけなんですかね?よくわからんです。