FAIRY BEAST   作:ぽおくそてえ

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最後に詰め込んだらまた3,000字超えました。次どうしようか悩み中です。もしかしたら一、二話やったらすぐに進もうかと。


第52話 涙は拭いて

護送車に揺られながら、目的地に着くまでの間、かなりの静けさが広がっていた。それを破ったのはジェラールの方だった。

 

「何故捕まるような真似を。そのまま言わなければ良かったのに」

「あんなに暴れて放置なんてどうかと思うよ。それに聞きたいことがあってな。本当に何も憶えてねぇのか?エルザのことも、俺のことも、何も」

「全くと言っても過言じゃないくらいだ。あそこの森で目覚めてからの記憶しかない」

「分かってると思うが…エルザがな、お前のことをずっと気にかけていたんだ。あいつのためにも思い出してやってくれ」

「ああ。もちろんだ」

 

またしても静寂が立ち込め、車輪が石を弾く音が響く。

 

「…エルザには、君みたいな仲間がいて良かったよ。安心した」

「それは重畳。お前が捕まらなきゃあ尚良かったんだがな」

「すまない。俺が事を引き起こしたばかりに」

「…もう一つ聞く。エルザに会うためなら行動する覚悟はあるか?さっきのナツたちみたいに」

「…ああ。記憶の戻った時には、必ず」

「しかと聞き届けた。どうやら着いたみたいだな」

 

ERAに着く頃には日が真上に来ており、厳重に警備された道を通って中に入ったところでそれぞれ別室に行くことになった。

 

「お別れだ、ジェラール」

「世話になったね。君のことも思い出せるといいな」

「……ああ。じゃあな」

 

左右に別れ、もう2度と会わないかもしれない男の背中を見送り、今度は自分の行くべき法廷へと向かった。扉を開くと、見知った顔を含めた者たちが鬼の形相で座っていた。

 

「ジンヤ・マーナガルム。公務執行妨害、ギルド間抗争禁止条約違反などの罪に問われておるが異論はあるか?」

「ないな」

「同時にオラシオンセイス捕縛及び連中の愚行の粉砕に協力したとも聞くが?」

「結果的にはそうなっただけだ」

「ふむ…ならば1週間ほど監視をつける程度で済ませる。特例だ、下がれ」

「…失礼した」

 

しばらく監視がつくものの無罪同然の扱いに驚きつつ、静かに退室した。するとそこにラハールが鍵を持って待っていた。

 

「実質無罪だそうですね?」

「不思議だ。禁固刑も覚悟の上だったんだが…」

「今回のバラム同盟の一角を崩した貴方達の働きがあってこそでしたからね、罪より恩恵が大きいと判断したのでしょう」

「ま、牢に入んなくていいなら楽なもんだ」

「ジェラール逮捕に協力してくれたこと、感謝してますよ。では…」

 

手足の錠を外され、ラハールに送り出されながら無事に外に出ると何故かウェンディを連れて皆が待っていた。もう日が暮れようかとしていたのだ、そのままギルドで待っていればと思ってしまう。

 

「おーおー、こりゃまた…どうしたんだ?」

「ルーシィさんが落ち着かなくて、来ちゃいました」

「あい、ずっとそわそわしてたんだよ!」

「ちょっ!?それ言わない約束でしょ!」

「エルザは…やはり、来てないか」

「あいつは他の奴らに任せてるよ。さすがにあの状態で連れてくるのもねぇ」

「そう、だな…ルーシィ、肩貸してくれねえか?そろそろ限界…だ」

 

半ば崩れるようにルーシィに倒れこみ、突然意識を切らした。そのまま静かに寝息を立ち始めた。

 

「ちょっと、ジンヤ?もう、しょうがないなあ」

「無理すんなよ?きつかったら代わるぜ」

「結構でけえからなこいつ」

 

グレイやナツから親切な提案がなされたが、すぐそこまでだからと断った。背中で子供のような寝顔を見せているジンヤを微笑みながら眺めているルーシィにウェンディが顔をほんのり赤くしながら疑問を投げかけた。

 

「ルーシィさんってジンヤさんに結構優しくしますよね?なんか他の人とはちょっと違うというか…もしかして付き合ったりとか?」

「でぇきてぇるう!!」

「べ、別に私は!で、でで、できてないし、ただの仲間だし!」

「できてなきゃ2人きりで楽しそうに買い物しねえだろ、なあハッピー」

「んなっ!?ど、どうしてそれを…もしかして、あの時みんながいたのって…あわわ!」

 

慌てるルーシィをスルーしながら借りた魔導四輪を走らせ、皆で笑い、話し、遊び、ケットシェルターに戻った頃には完全に陽が沈んでいた。

 

========

 

次の日。目を覚ますと、既に日が昇り始めていて、寝床の隣にはマスター・ローバウルが居て静かに見下ろしていた。なんとか動かせる上半身だけ起こして、挨拶とお礼を交わした。

 

「起きられたか」

「すいやせん、寝床。薬も分けてくれたみたいですし」

「あの忌まわしきニルヴァーナから救ってくれたことに比べたら些細なことじゃよ。して、我々の正体はご存知で?」

「…多少の推測はついてます」

 

外の元気な声がよく聞こえてくる中、この天幕では2人の対話が静かに続いている。

 

「ウェンディにそのことは伝えるので?」

「無論じゃ。いつかくる決別の時が今になっただけのこと、そして今こそワシらの最期の清算をせねばなるまい」

「…こんな時になんもできない自分が情けねえ」

「力がないからこそ、歩み寄ろうとする、理解しあおうとする。無力でもいい、人は万能じゃない。ワシもお前さんもな…ウェンディたちを、頼みます」

 

先に行ってますぞと言い残して天幕から出て行く老体にかける言葉が見つからず、ふと自分の手を見つめた。

 

「皆さん。オラシオンセイスを倒し、ニルヴァーナの破壊して我々のギルドを守ってくれてありがとう。なぶらありがとう。地方ギルド連盟を代表してワシから感謝させてください」

「どーいたしまして、マスターローバウル!激戦に次ぐ激戦でしたが皆が一致団結してなんとか勝利を収めることが出来ました!」

「あいつ誰かと戦ったか?なんか仕切りだしてるし」

「少なくともボロ負けしかしてねえな」

 

何人からでている辛口な評価を聞いてるのか聞いていないのか、一夜とペガサスの3人が踊り始めていた。それにつられて何人か混ざって踊っていた。

 

「それ、ワッショイワッショイ!さあ皆さんもご一緒に!!」

「「「ワッショイワッショイ!」」」

「ワッショイワッ…あれ?」

「なにこのテンションの差…」

 

かたや楽しく踊って盛り上がり(全員ではないが)、かたや重苦しい空気に沈黙というカオスでアンバランス極まりない状況が出来てる。

 

「我々がニルビット族だということを今まで黙っていて申し訳ない」

「んなこと気にしてねえのに。なぁ?」

「あい」

「私も気にしてないですよ、マスター」

「これから話すことをよく聞いてくだされ。まず、ワシらはニルビット族の末裔などではなく、ニルビット族そのもの。あのニルヴァーナを400年前に作ったのもこのワシじゃ」

「何っ!?」「嘘だろ?」「400年も?」

 

想像をはるかに超える告白に皆が目を点にし、絶句するしかなかった。

 

「その昔、世界に広まった戦火を止めようとワシはあのニルヴァーナを造った。そのおかげか戦争は徐々に収束して、平和な国として知られるようになったが、大きな力には反する力がある。世界から奪った闇をあの都市は纏っておったのじゃ」

「そんな…」

「まさに地獄じゃった。その闇は我々にもとり憑いて、仲の良いもの同士で殺し合いが起こってワシ1人を残して全滅した」

 

同族の殺し合い、そして壊滅。深すぎる闇を目の当たりにして、言葉が出ない。ウェンディに至ってはその目に涙が見えていた。

 

「そして生き残りのワシも、もはや思念体に近い体になってしまった」

「そんな話、私…」

「この400年、無力な爺に代わってあれを壊せるものをずっと待ち続け…そしてそれは達成されたんじゃ。漸く肩の荷を降ろせる」

 

その言葉を聞き終えた途端、ケットシェルターのメンバーが光に包まれて次々に姿を消していく。

 

「マグナ!ペペル!どういうことっ!?消えないで!」

「あんたたち!」

「どうなってんの?」

 

あたりからどんどん姿を消していき、遂にはローバウルも光に包まれ始める。

 

「今まで7年間騙しててすまなかったね、2人とも。このギルドはウェンディに悲しい思いをさせないための幻じゃ」

「意思のある幻だと!?」

「なんて魔力なのだ!」

「並の芸当じゃねぇぞ!」

 

数十人の個性を作り上げたその力には誰しもが驚く。巨大な魔力と精神力の要するものだ。

 

「この廃村に1人で暮らすつもりだったんじゃがな、7年前に訪れた青髮の少年のあまりに純粋でまっすぐな瞳に押されてしまったわ」

 

昔を惜しみ、そして人を愛している。そんな表情を浮かべていた。

 

「ウェンディのためのギルド…」

「そんなの聞きたくない!バスクもナオキも消えないで!私を1人にしないでよ!」

「ウェンディ…お前には偽りの仲間は必要ない。もう…本当の友がいるではないか」

 

後ろを指差し、涙を見せる少女に本物の笑顔を見せる。体から出る光が強まり、輪郭も朧げになっていく。

 

「まだ人生の旅は始まったばかりじゃ。皆さんありがとう、そして2人をよろしくお願いします」

「マスター!待って!」

 

消えゆく彼にウェンディが駆け寄ろうとする。しかし触れ合うことは叶わず、残されゆく少女を託した男の魂は空へと昇っていく。

 

「マスタァアアー!」

 

最愛の家族を一度に失い、膝から崩れ落ちるウェンディ。藍色の髪の少女の肩に手を乗せた緋色の少女と茶髪の大男は優しく諭すように話しかける。

 

「愛する者との別れのつらさは…仲間が埋めてくれる」

「涙は仲間が受け止めてくれる。歩みを止めそうになったら背中を押してくれる。進む意志があるなら…」

「「こい、フェアリーテイルに」」




終着点が徐々に近づいてくる…。

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