【HERO】使いの少女は。   作:連鎖/爆撃

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2017/04/21
万丈目の取り巻きさんの名前を原作設定に準拠

2017/08/21
注釈:
万丈目さんの取巻き二人の名称は、
眼鏡をかけている方が「取巻 太陽」
かけていないほうが「慕谷 雷蔵」 
※公式設定だがアニメ中には呼ばれるシーン無し。


VS万丈目

「クンクン、こっちにデュエルしてる奴がいるぞ!」

「どうしてそんなことがわかるのさ」

「臭うんだよ! 間違いない、デュエルの匂いだ!」

 

 赤いジャケットを羽織った少年が二人、廊下を駆けて行く。

 

「うおー! すげー!」

「最新式のデュエルフィールド……」

 

 二人が辿り着いたのはアカデミアの中心部に位置するスタジアム。

 アカデミアでも最高設備のデュエルフィールドがある場所だった。

 

「スゲー! よし翔! デュエルしようぜ!」

「え、いいのかなぁ」

 

 快活な印象を見る者に与える茶髪の少年が、髪の青い丸ぶち眼鏡の少年をデュエルに誘う。気弱な性格をしている眼鏡の少年はその提案に引け腰になりながら、

 

(まぁでも、デュエルの匂いっていうのはやっぱり適当なことを言ってたんだな……)

頭の片隅でそんなことを考えていた。

 

 デュエルフィールドの上に人影はなかった。直前まで誰かが戦っていたなら廊下までその音も聞こえているはず。そんな気配もここに来る途中には感じられず。デュエリストなら「あっちでデュエルがあってる」なんて言われたら釣られるに決まっている。

 

(きっと兄貴は自分がデュエルしたくて、僕をここに誘い出すために“デュエルの匂い”なんて適当な事を口走ったんだろうな……)

それで釣られる自分も自分だなと眼鏡の少年は苦笑を漏らす。

 

(釣られちゃったのは癪だけど、僕もデュエリストだ、断る手はないや)

 

 

 

この時の眼鏡の少年に知る由はないが、彼が兄貴と慕う少年 “遊城十代” の嗅覚は本物だ。

数分前まで、確かにこの場所ではデュエルが行われていた。

 

 

 

 

 

「お前の切り札は俺のフィールドに居るぜ。

 はたして下級モンスター1体と手札1枚で何ができる?」

 

 万丈目君の場には私からコントロールを奪った【ガイア】がいる。

 対して、私の場にいるのは【エアーマン】が一体のみ。

 手札は……今からドローする1枚だけ。

 残りライフはわずか。

 

 “融合”をすることは実質的に不可能。

 でも融合なしに【ガイア】を倒すのは至難を極める今の状況で。

 

 ドロー! 

 私は迷わずデッキの上からカードを引く。

 

 気合を入れれば都合のいいカードを引けるわけじゃない。

 ピンチだったら都合のいいカードを引けるわけじゃない。

 でもだからと言って都合の良いカードを引けないとも限らない。

 それがデュエルの醍醐味だから。

 

 ……このカードって。

 

 きっと神様がズルさせてくれて私が持ってる “この世界には本来存在しない” カードの1枚。

 1体の【HERO】で融合を可能にする、常識はずれの “融合” 魔法カードを私は引き込んでいた。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 1時間前

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 来た。ちょー来た。

 ……私の【HERO】アカデミア。

 

 意味の分からないことを口走っているかもしれない。

 許して欲しい。嬉しくてテンションが上がっているのだ。

 

 今私が立っているこの場所は太平洋上の孤島。デュエル・アカデミアの存在するあの孤島である。私の目前にはドーム状の屋根を持つデュエル・アカデミアの校舎がある。

 全ての問題が片付いたわけではないけど……、とりあえず当面の社会的身分は保証されたようなものだし、何より憧れのアニメの主人公と同じ学校に通うというシチュエーションを楽しまない手はない。

 

 とりあえず同じ【HERO】使いとして十代と親交を深めたい。

 彼は私のデュエルを見てくれてただろうか? 

 かっこ良く戦えてたかな? 

 ずっとファンでしたって言って引かれないかな? 

 まず、「デュエル見ました! カッコ良かったです!」って言ってから、それから、そんなことを思案しながら中庭を散策する。

 

 

「おう、2番!」

「おや? 入試のときの1番くんじゃないか」

「本当は1番じゃなくて110番なんだけどね」

 

 

 

 そして、少し先に十代と翔くん、そして三沢君が何事かを話してるのを見つけた。

 

 ……いきなりチャンス到来。

 落ち着け私。クールダウンクールダウン。

「ずっとファンでした」は十代からすれば意味不明だし、「入試のときのデュエル、カッコ良かったです!」は十代がカッコイイのは当たり前だから……。まだ私と十代は面識がないから、名前を知ってるのもおかしいから名前呼びも出来ないし……。

 決めた。

「入学試験で【HERO】を使ってましたよね!」って話しかけよう。それなら不自然じゃないし。

 

 意を決して踏み出す。

 

 ねぇねぇ、そこのあなた。入試で【HERO】を使ってましたよね?

 意気揚々と十代に話しかけようとして……

 

「おいお前! 入学試験で【HERO】を使っていた奴だな?」

 

 後ろから肩を掴まれた。

 えっ?

 

 十代はもうどこかに行こうと歩き出していて、声をかけそびれてしまう。翔くんがその背中を追っ掛けていくのが見えた。

 

 あっ、ああ……せっかくのチャンスが。

 

 ……正直初対面の人を後ろから呼び止めるのって失礼なことだと思う。

 チャンスをフイにしてしまった怒りも込めて文句を言ってやろうと、振り向く。

 

「まずは合格おめでとうというべきかな? ようこそデュエルアカデミアへ」

 

 そして私を引き止めた声の正体に、文句が喉元に引っ込んでしまった。 

 私の後ろに立っていたのは3人の男子生徒。

 

「どうした編入生? 万丈目さんがお声をかけているんだぞ?

 何か言ったらどうだ」

「だんまりとは失礼なやつだな。

 ここにおわすのは、一年でも最強の、未来のデュエルキングと名高い万丈目さんだぞ!」

 

「ビー・クワイエットだ諸君。

 彼女はまだここに来たばかりなんだ。

 こちらの事情の押し付けは勝手が過ぎるというものだぞ」

 

 彼は取り巻きの少年たちをたしなめ、私へスッと手を差し伸べてきた。

 

「連れの粗相は大目に見てくれ。普段は気のいい奴らなんだ」

 

 私を呼び止めたのは、オベリスクブルーのコートに身を包んだツンツンとした前髪と鋭い眼差しを持った少年だった。

 彼の名前は万丈目準。十代のライバルキャラで……多分GXにおける最強のデュエリストの一人。

 

 万丈目君は口元に柔和な笑みを貼り付けていたけど……その目は全然笑っていなかった。

 

 

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 

 

 何故か私は万丈目君と地面に座り込んで入試のデュエルの“反省会”をしていた。

 

「ずっと引っかかっていた。1ターン早く【無謀な欲張り】を使っていればクロノス教諭を倒せていたんじゃないのか?」

 

 え、えっと、計算してみるね……。

 

 私の2ターン目。クロノス先生のLPは3000だった。

 もし私が1ターン早く【無謀な欲張り】を発動していたらどうなっていたんだろう?

 私が最後に引き込んでいたのは【Hーヒートハート】と【ワイルドマン】の2枚。

 その内のどちらかが手札に来なかったはずで。

 でもそのときはクロノス先生の場には【古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)】も居なかった。

 はるかに御しやすい盤面だったことも事実だ。

 

 私と万丈目君は地面にあの日のデュエル内容を木の枝で描き出して、デュエル内容をふりかえる。

 私は入試のデュエル中、最後のターンで全ての手札を使い切っていた。つまりは観戦していた万丈目君も私の戦略を詳らかに追うことができるわけで。

 

 万丈目君は私にカードをドローした順番を思い出すように促し、地面に樹の枝で入試のデュエル内容と私の手札内容について()()()を解いていく。

 

「つまり融合デッキに【フレイムウイングマン】が入っているなら、最後にドローした【H-ヒートハート】【ワイルドマン】のどちらかが欠けていても十分にクロノス教諭のライフを削りきれていたはずだ。

 もちろん【フレイムウイングマン】は持っているな?」

 

 持ってるけど、どうしてわかるの?

 

「得意気に【フェザーマン】をサーチしていただろ。

 どんなに鈍くてもあれを見て気づかないってことはまずないぜ」

 

 ……あ。

 そういうところからも戦略ってばれるんだ。

 

「110番とのデュエルの直後だったからな。

【融合】主体ってのはさらにわかりやすかったぜ。

 ……俺なら、いや、この話は長くなるから止しとくか」

 

「勝負に()()()()はない。

 結局のところ、その決断に踏み切るだけの判断材料が不足していたことは確かだ。

 ここに書いたことは結果論も結果論。だけどな」

 

 万丈目君が地面に木の枝を置き、顔をあげる。

 口角を吊り上げながら万丈目くんは言った。

 

「ブルーの間ではこの話題で持ちきりだ。“クロノス教諭を倒した110番”と“クロノス教諭を苦しめた111番”ってな。

 でもこの程度のことにも気付いてなかったとなると、あのデュエルも結局はまぐれで大したことは無かったようだな」

 

 ……仰るとおりです。返す言葉がない。

 

 静かに自分のダメさ加減に落ち込んでいて……私は万丈目君の期待の色のこもった視線に気付かなかった。

 しばらくして、万丈目君は諦めたようにフンと息を一つ吐くと制服についた土を払いながら立ち上がる。

 

「この調子だと110番の方も大したこと無さそうだな。

 待たせたな、行くぞお前ら!」

 

 万丈目君は踵を返して彼の取り巻きの人達のところに戻って行こうとする。

 

 

 

 そして2歩も進まないうちにピタリと歩を止めた。

 

「……何の真似だ?」

 

 万丈目君の袖を掴んで離さない私に、万丈目君が疑問の声を投げかける。

 

「人を後ろから掴むのは失礼だぜ? 寛容な俺だからいいが、他の誰にもこんなことをするのは」

 

 訂正して。

 

「……は? ああ、いや、そうだな俺も後ろから呼び止めたのにこの言い方はないか。

 じゃあお相子ってことで」

 

 違う。そっちじゃない。

 十代が……110番の彼が大したことないって言ったことを訂正して!

 

 変な子に思われるかもしれない。そんなことを危惧する冷静な自分も頭の片隅にはいた。

 だけどこの激情をどうしても抑えつけることができなかった。

 

 私は別に悪役チックな万丈目君のことが嫌いじゃない。むしろ好きなくらいだ。

 でも、そんな万丈目君でも十代のことを貶すことは許さない!

 

 万丈目君は一瞬驚いた表情になって……そしてすぐに悪役チックな笑顔でそのセリフを吐いた。

 

「嫌()だね。奴は落ちこぼれのオシリスレッドだ。アカデミアの教師達もまぐれだと判断したからそこに入れたんだろ。どこにも訂正する要素なんて無いぜ」

 

「どうしてもこの言葉を曲げさせたいならデュエルで決着をつけても構わないぜ?」

 

 ……あったま来た。

 やるよ、私。そのデュエル受けるよ。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 アカデミア中央のデュエルフィールド。そこで私と万丈目君は対峙していた。

 

「アンティの内容は“負けたほうが勝った方の言うことを何でも聞く”でいいんだな?」

 

 いいよ。絶対勝って、さっきの言葉を訂正させる。

 

「おお、怖い怖い」

 

 万丈目君は芝居がかった調子でそんなセリフを口にする。

 

「今謝っとけば許してやるぜ? お前じゃ俺には勝てないと思うけどな」

 

 ……デュエル。

 

 返事代わりにデュエルディスク(万丈目君の取り巻きの人から借りた)を展開する。

 

「クククッ……デュエル!」

 

 何が可笑しいのかわからないけど、万丈目君が笑いながらデュエルディスクを展開した。

 

 ピーッ、という音。お互いのディスクがリンクし、デュエルが開始した合図だ。

 

 先行は私! ドロー!

 手札を見る。今可能な動きは……。

 ……。

 

 私は【フェザーマン】を守備表示で召喚! さらにカードを1枚セットしてターンエンド!

 

 ?

 手札4

 LP4000

 【E・HEROフェザーマン】☆3 守備力600

/ セットカード1枚

 

 私の場に【フェザーマン】が膝を折って現れる。

 モンスターの召喚、ほぼそれだけの操作でターンが回ってきたものだから万丈目君が訝しげな目でこちらを見てきた。

 

「威勢の割に慎重だな。手札事故でも起こしたか?」

 

 ち、違うし。

 万丈目君の探りに、思わず声が震えてしまった。

 

「まぁいい。俺のターン! ドロー!」

 

 万丈目君がカードを引く。

 そして引いたカードを見てまた意地が悪そうな笑みを浮かべた。

 

「コイツはおあつらえ向きのカードが来たようだな」

 

 万丈目君は引いたカードを手札に加えて、別の手札に手をかける。

 

「俺は【地獄戦士(ヘル・ソルジャー)】を召喚する! 

 バトルだ! やつの【フェザーマン】を蹴散らせ!」

 

【地獄戦士】☆4 攻撃力1200

 

 万丈目君が手にかけたカードをデュエルディスクに置くと、いかにも悪そうな戦士が万丈目君の(フィールド)に現れる。現れるや否や、その戦士は【フェザーマン】に襲いかかってきて……【フェザーマン】は無抵抗のままにその戦士に切り伏せられてしまった。

 爆散音と共に【フェザーマン】が消滅する。

 

 召喚にも攻撃にもカードの発動を宣言しない私に、万丈目君は呆れたような声を出して。

 

「伏せカードも迎撃カードじゃない。やっぱり手札事故なん……」

 

 そしてしゃべるのを途中でやめてしまう。

 

 ヴーン…ヴーン……というサイレンが鳴り出したのだ。

 万丈目君は視線を彷徨わせ音の出所を探り……そして私の伏せカードに注目した。

 

「ちっ、発動条件を満たしたか」

 

 うん。私は【フェザーマン】が破壊された瞬間にこのカードを発動したの。

【ヒーロー・シグナル】のカードを。

 

【ヒーロー・シグナル】通常罠

 自分の場のモンスターが戦闘で破壊され墓地に送れらた時に発動可能。手札かデッキからレベル4以下の【E・HERO】モンスター一体を特殊召喚する。

 

【フェザーマン】の叫びはシグナルとなって私のデッキのモンスターを呼び覚ます!

 来て、【エアーマン】!

“ハァッ!”

 

 掛け声を上げ、私の場に軽やかに【エアーマン】が降り立つ。

 

【E・HEROエアーマン】☆4 攻撃力1800 

 

 その効果で私は手札に【ワイルドマン】をサーチ!

 

【E・HEROワイルドマン】☆4 効果モンスター

 

 ?

 LP4000

 手札5

 【E・HERO(エレメンタルヒーロー)エアーマン】☆4 攻撃力1800

 

 万丈目

 LP4000

 手札5

 【地獄戦士】☆4 攻撃力1200

「俺の攻撃を利用してエースモンスターを呼び出すとは()()なことを……」

 

 万丈目君は軽く顔をしかめながら小声で何かをつぶやく。

 

「やはり【HERO】はデッキに……が多いな。サーチ対策が……」

 

 ……? どうしたの万丈目君。まだターン終わってないよ。

 

「ああスマナイ。メインフェイズ2に移り、俺はこのカードを発動する」

 

 万丈目君が発動したカードを見て、今度は思わず私が顔を顰めてしまった。

 

【押収】通常魔法

 

「サーチをしていい気になってたかもしれないけどな。

 使われる前にその手を潰してしまえばどうということはない」

 

 万丈目君がこめかみのあたりを指でトントン、と叩く。

 

「オベリスクブルーともなると運には頼らない。

 (ここ)でデュエルをするのさ」

 

 ……くっ、ちょっとカッコイイと思ってしまった。不覚。

 

 万丈目君が私の手札を覗き込み……そして少し吹き出す。

 

「クッ、アハハハハ! やはり事故だったじゃないか!」

 

 ……別に笑わなくたって。

 

【E・HEROワイルドマン】

【E・HEROバーストレディ】

【E・HEROネクロダークマン】

【受け継がれる力】

【Hーヒートハート】

 

 私の手札はモンスターを展開する手段に欠けていたため、【サイクロン】で【ヒーロー・シグナル】を発動前に破壊されでもしていたらジリ貧になるのが目に見えていた。【融合】さえ引ければ……って思ったけど、それまで場をがら空きにするわけにもいかず、泣く泣く【フェザーマン】を壁としたのだ。

 

「今手札に加えた【ワイルドマン】を捨てろ!」

 

 うぐっ。ダメだ、けっこうその手は効く。ごめんね、【ワイルドマン】。

 万丈目君の指示に従い【ワイルドマン】を墓地に置く。

 

「俺はカードを3枚セット。ターンを終了する」

 

 万丈目君の場に伏せカードが一瞬現れて、空に掻き消えた。 

 

 万丈目

 LP3000

 手札1

 【地獄戦士】☆4 攻撃力1200

/ セットカード3枚

 

 ?

 LP4000

 手札4

 【E・HERO(エレメンタルヒーロー)エアーマン】★4 攻撃力1800

/ 魔法罠カード無し

 私のターンが回ってきた。深呼吸をする。

 大丈夫だ。まだ全然取り返せる。

 

【ガイア】を出せるかは運任せになっちゃったけど……万丈目君の場にいるのは攻撃力1200の【地獄戦士】1体。私の場には【エアーマン】がいて、さらにこのターンの召喚で追撃をかければ追い詰められるのは万丈目君のはず。

 

 デッキに手をかける。

 

「忘れるなよ。このデュエルで負けたら相手の言いなりだからな」

 

 万丈目君が楽しげにその言葉を口にした。

 ……考えてみたら私とんでもない約束をしちゃった?

 い、いや負けなければいいだけの話だし! 

 

 ドロー!

 引いたカードを確認する。

 

 ……うん、大丈夫。戦略では万丈目君に敵わないかもしれない。

 でも、運は私の味方をしてくれている。

 私は【天使の施し】を発動!

 

【天使の施し】 通常魔法

 カードを3枚引き手札から2枚捨てる。

 

「ちっ、ついてはいるようだな」

 

 万丈目君の舌打ちを尻目にカードをドローする。

 カードを捨てて、万丈目君を見据えた。

 

 万丈目君、このターンで終わらせるね。

 

「へぇ、いいぜ。かかって来い」

 

 うん、万丈目君も約束のこと忘れないでね。

 私は【融合】を発動! 手札の【バーストレディ】と【クレイマン】で融合召喚!

 

【E・HEROバーストレディ】★3 炎 戦士族 通常モンスター

【E・HEROクレイマン】★4 地 戦士族 通常モンスター

 

 来て! 【ガイア】!

 

【E・HEROガイア】★6 融合モンスター 

 【E・HERO】モンスター + 地属性モンスター

 攻撃力2200

 

 地面を揺るがし、鋼鉄の巨人がその姿を現す。

【ガイア】と【エアーマン】が場に揃えば()()()()()()倒せるのだ。

 

 今の私に怖いものなど存在しない。

 

【ガイア】の効果で【地獄戦士】の攻撃力を吸収!

 そしてバトル!

 勝つ! そして絶対あの言葉を取り消させるんだ!

 

「……やはり外野で見てるのと直接対峙するのとでは違うな。

 ビリビリ来やがるぜ」

 

 勇む私と【ガイア】に怖じることなく、万丈目君は私のことを正面から睨みつけてくる。

 

「かかって来いよ編入生。格の違いを教えてやる」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 ?

 LP4000

 手札2

 【エアーマン】☆4 攻撃力1800

 【ガイア】☆6 攻撃力2800

/ 魔法罠カード無し

 

 万丈目

 LP3000

 手札1

 【地獄戦士】☆4 攻撃力600

/ セットカード3枚

 私の場には【ガイア】が鎮座している。

 私の手札の中でも最高の瞬間火力を誇るモンスター。

 それに加えてエースモンスターの【エアーマン】もいる。

 盤石と言って差し支えない盤面だ。

 対して万丈目君の場にいるのは弱体化した【地獄戦士】のみ。

 今の私には負ける要素が無い!

 

【ガイア】の攻撃! 【地獄戦士】を撃破!

 

 私の宣言とともに【ガイア】がその腕を振り上げる。

 そして驚くほどあっさりと【地獄戦士】を粉砕した。

 

 万丈目 LP3000→800

 

【地獄戦士】の爆砕音と共にソリッドビジョンの土煙が上がる。

 攻撃反応系の罠があったならこのタイミングで使っていたはず。

 あとは【エアーマン】の直接攻撃で……。

 勝利を確信して気を抜いた瞬間。

 

「お前も道連れになってもらうぜ」

 

 土煙の向こうから万丈目君がそう言ったのが聞こえて。

 

 クルクルクルと剣が回転しながら目の前に落ちて来て、床に突き刺さった。

 

 ? LP4000→1800

 

「【地獄戦士】は自分が受けたダメージを相手にも与えるのさ」

 

【地獄戦士】☆4 攻撃力1200 効果モンスター

 このモンスターが相手の攻撃により破壊された時、そのダメージを相手にも与える。

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

 だ、大丈夫。……ちょっと驚いて腰が抜けただけ。

 

 土煙が晴れたせいで、私が剣に驚いてマヌケに転んだところを晒すこととなってしまった。

 

「立ち上がるのを手伝ってやれ!」

「は、はい!」

 あ、ありがとうございます……。

 

 万丈目君の取り巻きの人の手を貸りて立ち上がる。

 

 もう、心臓に悪いからスタンディングデュエルやだ。ボードデュエルがいい。

「そんなんじゃアカデミアで3年間やっていけないぞ……」

 

 お互いにデュエルのことを忘れて()の調子で話してしまう。

 

「コホン。ターンを続行しろ」

 

 う、うん。私は【エアーマン】で万丈目君に直接攻撃(ダイレクトアタック)! これでトドメ!

 

 【エアーマン】が万丈目君に躍りかかった。

 

「俺は【リビングデッドの呼び声】を発動。戻ってこい【地獄戦士】!」

 

 万丈目君の宣言とともに【リビングデッドの呼び声】が表になった。

 そして【地獄戦士】が場に現れる。

 

 万丈目

 LP800

 手札1

 【地獄戦士】☆4 攻撃力1200

/【リビングデッドの呼び声】永続罠

  対象:【地獄戦士】

 >セットカード2枚 

 

 ……ックッ! 攻撃を続行!

 

【エアーマン】が標的を万丈目君から【地獄戦士】に切り替える。モンスターの爆砕音と同時に“ヒュンヒュン”という何かが回転するような音が耳に飛び込んできた。

 

 ……ヒャッ!

 ガッ、と再び剣が目前に突き刺さるのに対し、小さく悲鳴をあげながら私はしゃがみこんでしまう。

 

「アッハッハ! 勝ち気なやつだと思ったがかわいいところもあるじゃないか!」

 

 万丈目君が本当に可笑しそうに笑い出す。さすがにヒドいと思う。

 大分戦意を削がれたけど……でもまだデュエルは終わっていない。

 

 ……私はカードを2枚セット。ターンを終了。

 

 ?

 LP1200

 手札0

 【エアーマン】☆4 攻撃力1800

 【ガイア】☆6 攻撃力2800→2200

/ セットカード2枚

 

 万丈目

 LP200

 手札1

  モンスター無し

/ セットカード2枚

 

「さてさて……まだ続けるのか」

 

 万丈目君は笑うのを止めて、じっと私の方を見つめてきた。

 

「俺は冗談で済ますつもりはないぜ。本当にいいのか? 今なら謝れば許してやるぜ?」

 

 万丈目君のその言葉に、私は少しずつ怒りが蘇ってくるのを感じた。

 

 謝ったりなんかしない。それに追い詰められてるのは万丈目君の方だよ。

 このターンでは決着が付かなかったけど……次のターン、絶対に勝つし。

 

「そうか。まぁお前がそれでいいんならいいんだけどな」

 

 何故か万丈目君は腑に落ちないような顔をしている。

 

「110番のことで何でお前がそんなに怒るのかがわからん。彼氏か何かなのか?」

 

 ……違うよ。私はただ彼のファンなだけ。

 

「ファン、ねぇ」

 

 万丈目君が少し考えこむ素振りを見せた。

 

「そうだな、将来のデュエルキングの俺にもファンが必要だろう」

 

 その一言とともに、今までで一番底意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「決めたぜ。お前、俺に負けたら俺に乗り換えろ。

 俺のファンになってもらうぜ! ドロー!」

 

 私が万丈目君に敵意を向けているのに、万丈目君はまるで私をあしらっているかのように振る舞い続ける。

 

「やつはスモールタウンではヒーローだったかもしれないが!

 もっと上のレベルが存在することを110番にも! 貴様にも!

 この万丈目準様が直々に教えてやろう!」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 万丈目

 LP200

 手札2

  モンスター無し

/ セットカード2枚

 

 ?

 LP1200

 手札0

 【エアーマン】☆4 攻撃力1800

 【ガイア】☆6 攻撃力2200

/ セットカード2枚

 

 万丈目君は余裕そうに振る舞ってるけど、追い詰めてるのは私のはず……けどここは念の為。

 万丈目君のスタンバイフェイズに私は【覇者の一括】を発動!

 

 私の場で1枚のカードが表になる。

 

【覇者の一括】通常罠

 相手のスタンバイフェイズに発動可能。このターン相手はバトルを行えない。

 

「フン、怖気づいたか」

 

 ち、違うし! ビビってなんか無いし!

 

 ……嘘です。万丈目君があまりにも自信ありげだからちょっと怖くなりました。

 悔しいから言葉には出さないけど。

 

「だが戦闘を介さずともダメージを通す手段ならあるぜ。

 リバースカードオープン!」

 

 ……え?

 

 万丈目君の宣言とともに場に出現した()()に表情がこわばるのが自分でもわかった。それはバチバチという静電気音を発しながらこちらに大砲の口を向けていて―――――。

 

【マスドライバー】永続魔法

 自分のモンスター1体を生贄に捧げる。相手に400のダメージを与える。

 

 ……それ禁止カードだよ!

 その言葉を何とか喉の奥で噛み殺す。

 近所の子にねだられたからふらっとデッキを持ちだして、「ちょっと揉んであげよう」ぐらいのつもりで相手をしたらそのカードに瞬殺された。

 まぁその程度のトラウマカードである。

 ダメだこの世界。ちょっと私の心を抉る要素が多すぎる。

 

 銃口がこっち向いてるの怖いし、ちょっと避けておこう……。

 そう思ってフィールドの端ににじり寄った次の瞬間。

 

「俺は【キラー・トマト】を通常召喚! そして即座に発射!」

 

 光弾がすごいスピードで私の体の脇を通り抜けて行って。

 

 ? LP1200→800

 

 思わずペタンと尻もちをついてしまった。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「ほ、ほら、もう少しで終わるんだぞ! 俺にあの言葉を取り消させるんだろ! あとちょっとだ頑張れ!」

 ……やだ。もうデュエルを続けるの怖い。

 

「ええい! ならせめてサレンダーしろ!」

 ……やだ。あの言葉は絶対取り消させるもん。

「面倒くさいぞ貴様!」

 なら万丈目君は性格悪いよ。

「戦略家と言え!」

 

 私は完全に拗ねてしまっていた。

 

 万丈目君の性格の悪いデッキ「違う! これは【地獄戦士】でイーブンの展開に持ち込んだ後、バーンで相手のライフを削り切るという戦略なのだ!」を相手に大幅にSAN値を削られた私はちょっと心の休養を取らなければ戦いを再開できないまでに追い込まれていて。

 

 床に「の」の字を書きながら心を落ち着けること数分。

 私が万丈目君の性格の悪さにケチを付け、それに万丈目君が言い繕い、取り巻きさんが「ああ、でもたしかに万丈目さんそんな所あるよな」って頷いて、「どちらの味方だ貴様ら!」って万丈目君が怒鳴って。

 そんなことを繰り返しているうちにやっとデュエルを再開する気力が戻って来た。

 

 お待たせしてごめんなさい、デュエルを再開しよ?

「……言いたいことはたくさんあるが、全てはデュエルが終わってからだ」

 

 万丈目君は額に青筋を浮かべながらも、冷静にデュエルを続けようと努めていた。

 ふぅ、と息を吐きターンを再開する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が……念押ししておくか。俺は【強欲な壺】を発動する!」

 

 万丈目君が発動したのは、デュエリストなら知らないものがいないであろうドローカード。

 

【強欲な壺】 通常魔法

 デッキから2枚引く。

 

 ……いいなぁ。……私そのカードを持ってないからなぁ。

 

「おい、そんな目で見てもやらんぞ」

 

 い、いや、そんなこと期待してないから……。

 

 最初の緊張感はどこへやら。すっかり弛緩してしまった空気を、でも次の一手で万丈目君は元に戻してしまう。

 

「ほう、ついてるのは俺もらしいな。俺は【強奪】を発動!」

 

 ……え?

 

【強奪】装備魔法

 相手のモンスターに装備。装備モンスターのコントロールを得る。相手のスタンバイフェイズ毎に相手はライフを1000回復する。

 

「対象は【E・HEROガイア】だ!」

 

 そ、そんな! ああ【ガイア】が!

 

 ズン、ズンと地響きをたてながら鋼鉄の巨人が場を移動する。

 万丈目君の場で私に振り返って、そこで立ち止まる。

 

 くっ、でもこのターンバトルはできない。

 そしてこの伏せカードがあれば、【エアーマン】で【ガイア】を突破できる。

 

 

 

 そんな私の腹づもりは完全に見抜かれていたらしい。

 

 

 

 一陣の風がデュエルフィールドを駆け抜けた。

 

 

 

「貴様の最後の伏せは【H―ヒートハート】だな? 

【サイクロン】でそれを破壊する」

 

 万丈目君(オベリスクブルー)が本気を出すとここまで強いってことに。

 私は喧嘩を売る相手を間違えたんだということに、いまさら気がついたのだった。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 ?

 LP800

 手札0

 【エアーマン】☆4 攻撃力1800

/ 魔法罠カード無し

 

 万丈目

 LP200

 手札0

 【ガイア】☆6 攻撃力2200

/【強奪】装備魔法

  対象:【ガイア】

 【マスドライバー】永続魔法

 >セットカード1枚

 

 拮抗しているようでその実、絶対に届かないところに万丈目君の水準はあった。

 

 戦略でも、ドローでも完全に負けている。

 

「お前の切り札は俺のフィールドに居るぜ。

 はたして下級モンスター1体と手札1枚で何ができる?」

 

 万丈目君の挑発。

 その挑発に私はもう怒りを覚えなかった。

 

 私が覚えたのは、純粋な憧憬。

 

 今ならわかる気がした。

 万丈目君はよく十代のことを知りもしないで貶したけど、それは傲りからなんかじゃなくて。

 オベリスクブルー1年のトップとしての実力と自負を確かに持っていて。

 自分が負けるところを微塵も考えていないところは、どこか十代を見ているような……。

 

「どうした? さっさとドローしろ。それとも本当にサレンダーするか?」

 なかなかカードを引こうとしない私に業を煮やした万丈目君がドローするように促してきた。

 

 ……万丈目君にあの言葉は取り消させたいのは嘘じゃないよ。

 ……でも、正直もうこのデュエルに負けてもいいと思ってる。

 

「は、急にどうした」

 

 もう私は()()()()()()()()だよ。

 でも、だからこそ!

 勝っても負けても最後まで全力であなたに立ち向かいたい!

 私のターン! ドロー!

 

「勝っても負けてもか……勘違いするなよ編入生。最後に勝つのはこの俺だ! はじめから貴様は俺の足元にも及ばない!」

 

 万丈目君のそんな不遜な物言いも。

 何だか本当に無敵の悪役みたいで、カッコイイと思ってしまった。

 ……それでも万丈目君に勝っちゃう十代パない。

 

 そして。

 私がドローしたのは、常識はずれの“融合”魔法。

 

 行くよ万丈目君! 私の全力で勝つ!

 発動、【マスク・チェンジ】!

 

 場の【エアーマン】が跳躍する。

 そして、どこからともなく現れた光り輝くマスクをその()に掴んで、顔に近づける。

 閃光の中で【エアーマン】が()()した。

 

「なんだこの召喚方法は!?」

「モンスターを変身させる速攻魔法だと!?」

 

 光り輝く【エアーマン】を見上げて、万丈目君の取り巻きさんたちが叫ぶ。

 

 これが【HERO】にのみ許された、“チェンジ融合”!

 

「チェンジ融合、だと!?」

 

【マスク・チェンジ】速攻魔法

 場の【HERO】モンスターを墓地に送り、同じ属性の【M・HERO】モンスター一体を融合デッキから特殊召喚する。

 

 超変身! 来て、【M・HERO(マスクドヒーロー)カミカゼ】!

 

 私の場に、軽やかに降り立つ一体のヒーロー。

 

【M・HEROカミカゼ】☆8融合モンスター

 【マスク・チェンジ】の効果でのみ特殊召喚

 攻撃力2600

 

「何だこのモンスターは! こんな召喚条件のモンスターが存在するのか!」

 

 驚愕に顔を歪ませて万丈目君が叫ぶ。

 

 ……ズルみたいなものだけど。

 でもこれで終わり。

 

【カミカゼ】が飛翔する。

 

 バトルに入る!

【カミカゼ】で【ガイア】を攻げ……!

「ちっ! リバースカードオープ……!」

 

[ビーーーーーーーー]

 私の攻撃宣言も、万丈目君のカードの発動の宣言も、デュエルディスクの異常動作音に掻き消されてしまった。

 

 ……え?

 

 ソリッドビジョンが掻き消える。

【カミカゼ】も【ガイア】も。空に溶けていって。

 

 私と万丈目君のデュエルは決着が着く直前に、「ディスクの強制終了」という形で中断されてしまった。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 その後、自分のやらかしに気がついて震えていた私に万丈目君が気付いてくれて。

 

「目撃者はいないな!」

「はい! あたりに人影は無いみたいです。

 多分寮での歓迎会があるからそっちに皆行ってるものかと!」

「よし、俺達もずらかるぞ!」

 

 誰にも見られていないことを確認して私達はデュエルフィールドを離れたのだった。

 

 

 

「さぁ、さっきのことについて納得のいく説明をしてもらおうか」

 

 そして寮の手前まで逃げてきたところで万丈目君が詰問して来る。

 

 え、えっとさっきのはですね。私の使ったカードに問題があったというか……。

 

「万丈目さん、もしかして不正カードってやつじゃないですか? 

 それでディスクが誤作動を起こして……」

「おいおい、それって犯罪じゃないか!

 カードの偽造なんてバレたら退学どころじゃない。下手したら懲役刑だぞ!」

 

 ち、違うの! 別にそういう訳じゃなくて!

 万丈目君の取り巻きさん二人があらぬ方に誤解を始める。

 ああ、こういう誤解を受けないようにちゃんと言い訳を考えてきたはずなのに……。

 

「……なるほど。(ニュー)カードのテスターか」

 

 ボソリと、万丈目君が助け舟を出してくれた。

 

「どういうことですか万丈目さん」

 

「多分なんだが……」

 

 そして、私がしようとしていた言い訳の代弁してくれる。

 

「そもそもカードを偽造してもディスクは読み込みはしない。オリジナルカードを作っても無意味なんだ。

 と、考えるとこいつの使ったカードは初めて見るカードだったが、オリジナルカードではない様子。

 ディスクがちゃんと読み込んでいたからな。

 

 考えられる可能性は二つ。

 

 コイツが凄腕のハッカーで、海馬コーポレーションのメインサーバーに何らかの細工を施してオリジナルカードをさも公式のカードのように好きに使えるようにしているという可能性。

 却下だ。

 あのメインサーバーを籠絡できるほどの腕前があるなら、最後にあんなヘマはしない。

 

 最後に残る可能性は……コイツ自身はへっぽこで、さっきのも本当にただの不具合だったってところか。

 デバッグが不十分な新カードを勝手に使ったからディスクが誤作動を引き起こし、怒られるかもって震えてたんだろ」

 

「「な、なるほど……」」

 な、なるほど……。

 

「なんで、貴様まで納得するのだ。やはりハッキング……」

 ち、違うよ! 

 

 ちなみに厳密には万丈目君の説明も違う。私の使う【M・HERO】はそもそもアニメには存在しないカード群だ。

【HERO】のストラクチャーデッキに入っていたものの、この世界では生まれることなく、使われることもなかったカードたち……この世界にデッキを持って迷い込んだのが私だけな以上、正真正銘この世界で()()()()()()()()()()()()たち。

 それをエド君がペガサス会長に掛けあってくれて、この世界でも使えるようにサーバーに調整をしてくれている途中だったのだ。でもそれを説明するのは私のことをちゃんと説明しないといけないわけで。

 万丈目君の説明に便乗することに決める。

 

 テストカードだったのに、それを無理に使おうとしたからあんな感じに……万丈目君ごめんなさい。

 

「フン。全力でやれるようになったら教えろ。その時まで預けといてやる」

 

 ……うん! 次戦う時には絶対訂正させるから!

 

「そう言えば歓迎会がもう始まってるんじゃないか?」

 

 ……あ。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 

 

「万丈目さん、あの子無口だったけど何だか(せわ)しない子でしたね」

 

 太陽がそんな事を口にする。

 無口? バカ言え。あれは相当にお喋りな部類だったろ。

 もしかしてお前の眼鏡は度が入っていないのか? 

 

「い、いや俺もほとんど喋っていないように見えましたが……」

 

 取り巻き達が何だかうるさいが、そんなことはどうでも良かった。

 

 あの女は借り物だったデュエルディスクをつき返してくると、走って歓迎会に向かって行った。

 あの女は多分、デュエルだけじゃなく生き方そのものが直情的で御しやすいタイプの人間だ。

 簡単に誘導に乗るし、受け流せば自爆する。ハッキリ言ってカモだ。

 

 俺の目的にあの女は気づいていない。

 俺が110番とやるための前座としたことに。

 

 クロノス教諭をまぐれで倒したに過ぎない110番にアカデミアの壁の高さを教えてやるのだ。

 無策で挑むのは馬鹿がやることだ。俺はそんなことはしない。【HERO】の分析をするため、あの女を挑発してデュエルに乗せ、全力を尽くさせた。

 

「しかし万丈目さん、最後慌ててましたよね?

 最後の攻撃がもし通っていたら負けてませんでした?」

 

 ……太陽。お前の眼鏡には本当に度が入ってないのか?

 

 デュエルディスクにセットされていた最後の1枚を表にする。

 

魔法の筒(マジック・シリンダー)】通常罠

 相手の攻撃を無効にし、その攻撃ダメージを相手に与える。

 

 結局、俺には最後まで余力があった。

【HERO】なんざ俺の相手じゃない。

 少なくとも、今は。




 話が長くなるから万丈目君が止しといた話↓



「……俺なら、最初のターンの【押収】で容赦なく【融合】を捨てていた。
 生徒に勝ちの目を残して、実力を見るような甘い真似はしない。
 クロノス教諭は全然本気じゃなかった」

「そのクロノス教諭から最後は()()()()()()()()()()
 誇っていいぜ、お前」

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