【HERO】使いの少女は。   作:連鎖/爆撃

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「ルールはよく分かってなかったけど、昔の遊戯王、なんか楽しかったな」って感じの遊戯王二次を書きたかった模様(´・ω・`)

 なお、上手く行ったかどうかはよくわからない(´・ω・`)


入学試験

 私が最初に組んでいた“十代デッキ”は、とてもじゃないが使用に耐えた代物ではない。

 

 スリーブに入れずに使用していたから、カードの角は取れてしまってボロボロだし、通常モンスター過多で【融合】も一枚足りない。【強欲な壺】や【天使の施し】も、禁止カードだってことを知らなかったからずっと刺しっ放しだ。今となっては、ヒドすぎて笑えてくる。

 

 

 それでも、私にとって最高の相棒だったデッキ。

 

 

 ……いつからか、机の奥にしまいっぱなしになってしまった。

 

 何回もあしらわれ。

 何回も笑われ。

 何回も「弱い」と言われて。

 

 それでも、デュエルができるだけで純粋に楽しかった。

【フレイムウイングマン】が出せたら、最高に興奮した。

 

 ロマンコンボ以前の、本当にデザインが好きなカードだけで組んでいたデッキ。

 戦略も勝算も無く、「このデッキの切り札さえ出せたら、勝てる!」なんて盲信で組み上げられたデッキ。

 

 この懐かしさを他人に話せば、馬鹿にされるかもしれない。

 

「子供の遊びに何をムキになっていたんだ」とか、「もう卒業したんだろ?」とか。

 

 それが普通。それが常識。

 でも。それでも。

 

 ……わかっている。

 こんなの、ただの感傷だ。

 

 私がこの世界に来てから組んだ【HERO】デッキ。

 このデッキで勝ち続けたら。

 

 私はあちらの世界に残してきてしまったあのデッキに、「私は強くなった」と、胸を張ることができるんだろうか?

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 鋼鉄の巨人を、“ヒーロー”が打ち倒し、今一つのデュエルが終わりを迎えた。

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

 

 

 ……生十代カッコいい。

 ……私もちょー頑張らなきゃ。

 

 

“受験番号111番、デュエル場へ”

 

 ……私の番。

 鞄から、デッキとデュエルディスクを取り出す。

 ディスクを装着し、デッキのセッティングまで済ませてデュエル場まで向かった。

 

 

「あなたも遅刻ですーノ?」

 ……すみません。

 

「全く今年の受験生ときたら……」

 

 ブツブツと何かを呟くクロノス教授。

 

 

 その声を聞いて、胸が懐かしさで一杯になる。

 

 

「これ以上の無様を晒すわけには、いかないですーノ!」

 

 クロノス教授と私は、フィールドの端と端で向き合う。

 どちらからともなくディスクを展開し、

 

 ―――デュエル!

 ―――……デュエル!

 

 静かに、だが熱い闘志を秘めた掛け声とともに、デュエルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、タンマ!タンマですーノ!」

 

 ずっこけそうになった。

 引いた自分の手札を見て、クロノス教授が慌てている。

 

 ……手札が悪かったんですか?

 でも、だからと言って引き直しは「違うんですーノ!デッキを間違えたんですーノ!」……え?

 

 ばつが悪そうな顔をするクロノス教授。

 

「お恥ずかしい話、先程の受験生には私の本気のデッキで相手をしてしまったノーネ」

 

 ……主人公、遊城十代とのデュエルですね。

 

「でも本来、それは試験で使っていいモノではないノーネ。

 うっかりしたことに、デッキを換え忘れてしまったノーネ。

 あなたの手札はそのままでいいので、試験用のデッキと交換する許可を頂きたいデスーノ」

 

 

 

 ……そのままで、お願いします。

 

 デュエルコートを操作する手を止めるクロノス教授。

 何かを言おうとするのを私は手で制し、言葉を紡ぐ。

 

 ……そのままのデッキで戦ってもらいたい理由は2つ。

 

 一つは、試験に遅れてきたせいで、私が試験用のデッキの内容を把握していないからです。

 先程のデュエルなら拝見したので、私は教諭のデッキの内容を……切り札が何なのかを分かっています。

 情報アドバンテージを得たまま戦えます。

 せこい自覚はあるんですけど、教諭相手なら、それくらいのハンデがあっても良いかなと思いまして。

 

 もう一つの理由は……失礼ながら。私も一人のデュエリストだからです。

 ……私は(あなど)られるのが大嫌いです。

 

 

 

 黙って話を聞いてくれていたクロノス教諭が、憮然とした表情で言った。

 

「今年の受験生は、揃いも揃って、私を()()にしてくれるノーネ」

 そして、手札を構え直す。

「あなたがドロップアウトガールに過ぎないことを教えてあげましょう!かかってくるノーネ!」

 

 ……行きます!私のターン!

 ドロー!

 

 引いたカードを確認する。

 ……今日の私なら、きっとクロノス教諭に勝てる。

 

 私が1ターン目で引き込んだのは、1体しかいない、このデッキのエースモンスターだった。

 

 私は、モンスターを攻撃表示で召喚!

 

 

 召喚されたモンスターを見て、ギャラリーがざわついた。

 クロノス教諭が苦々しい顔をして呟く。

 

 

「あなーたも、【HERO】使い」

 

 

 ―――私が召喚したのは、一体の【HERO】。両の肩で風を受け、重力に抗い、宙を()ける。

 

 

 ?

 LP4000

 手札5

 【E・HERO(エレメンタルヒーロー)エアーマン】☆4 攻撃力1800

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 ざわつきが収まるのを待って、私は宣言する。

 

【エアーマン】の効果を発動!

 デッキから、【E・HEROフェザーマン】を加える!

 

【E・HEROフェザーマン】☆3 通常モンスター

 

「なぁ、あいつ今、召喚したモンスターより弱いモンスターを手札に加えたよな?」

「わざわざ下級通常モンスターをサーチだと?セオリーから外れてやがる」

 

 私のプレイングにギャラリーから疑問の声があがる。

 だが、そこに嘲るような色は無い。

 

「あなたも、【融合】を……!」

 

 会場には、まだ前の戦いの熱が残っている。

【エアーマン】は、【HERO】であれば、レベルに関係なくデッキから手札に加えることができる。生け贄召喚に繋げるなら、上級モンスターを加えるべきなのに、わざわざ下級の【フェザーマン】を加える理由。

 さすが、クロノス教諭。そして、ギャラリーのアカデミア生。狙いはバレバレらしい。

 

 私はカードを2枚伏せます。

 ターンを終了。

 

「ワターシのターン!」

 

 クロノス教諭がカードをドローする。心なしか、気合いが入っているような……。

 

「あなたが【HERO】使いなのは好都合なのーネ!

 私の全力を持ってアナータを打ち倒し!

 ドロップアウトボーイに敗北した汚名を(そそ)がせてもらうノーネ!」

 

 クロノス教諭が吼える。

 ビリビリと気迫が伝わってくる。

 次の瞬間、応えるようにデュエル場がその姿を変えた。

 大量の歯車が足元から迫り出してくる。

 

 うわ、何!?

 無限の剣製!?

 私が驚いている間にフィールドは姿を変え終える。

 

 クロノス教諭と私は、巨大な歯車だらけの荒廃した街に立っていた。

 

 ……これってまさか、フィールド魔法?

 クロノス教諭が2本の指で、トントンとデュエルコートの上の方を叩いている。

 

「フィールド魔法、【歯車街(ギア・タウン)】ナノーネ」

 

 ……デュエルコートは、あの部分にフィールド魔法が入るのか。

 ……あの仕草、かっこいい。

 いけないいけない、デュエルに集中しなきゃ。

 私が余計なことを考えている間にも、デュエルは進む。

 

「さらに私は、【古代の機械城(アンティーク・ギアキャッスル)】を発動!

 そして、【古代の機械獣(アンティーク・ギアビースト)】を召喚!」

 

 フィールド【歯車街】

 

 クロノス

 手札3

 LP4000

 【古代の機械獣】☆6 攻撃力2000→2300

/【古代の機械城】永続魔法

  場の【古代の機械】モンスターの攻撃力を300上げる。

 

 上級モンスターを生け贄無しで召喚!? 嘘でしょ!?

「上級モンスターを生け贄無しで召喚だと!?」

 

 ……観客席の三沢くんとハモった。

 三沢くんが驚いたってことは、やっぱり凄いことなのか。

 

「これが【歯車街】の効果ナノーネ!

【古代の機械】モンスターの生け贄召喚に必要な生け贄を一体減らすことができるノーネ」

 

 え、何そのフィールド魔法、めちゃくちゃ強い!

 

 私が目を白黒させてる間に、クロノス教諭が攻撃を仕掛けて来た。

 

「【機械獣(ギア・ビースト)】の攻撃!」

 

 受けきる手段が……!

 鋼鉄の獣が飛びかかってくる。

 私を庇うように立ちはだかってくれた【エアーマン】が戦闘破壊された。

 

【エアーマン】……!

 

 ?

 LP4000→3500

 

 ……クッ! だけど、負けない!

 この手札なら、次のターンで……!

 

「メインフェイズ2に移行するノーネ!【押収】を発動!」

 

【押収】通常魔法

 1000のライフを払う。相手の手札を確認し、その中から1枚を選んで捨てる。

 

 待って!? 待って!!?

 クロノス先生ってば、それ禁止カードだよ!?

 えっ、あ! そうだ、アニメGXだと使えるの!?

 

 トラウマを刺激され固まってるうちに手札を覗かれてしまう。

 

【E・HEROフェザーマン】

【融合】

【サイクロン】

 

【融合】を捨てられたら、勝ち目が……。

 

 私の手札を覗いて、何事かを考えるクロノス教諭。

 教諭の前に浮かぶ私のカードのビジョン。

 クロノス教諭は【フェザーマン】を素通りし、スゥーッと【融合】の上に指をなぞらせた。

 

 ……ダメ……やめて。

 無駄だとわかっていても、祈らずにはいられなかった。

 

 

「ワターシが選択するのは、【サイクロン】!」

 

 

 ……え?

 

「何を呆けているノーネ?早くカードを墓地に」

 はっ、ハイ!

 

 慌てて【サイクロン】を墓地に送る。助かっちゃった。でもなんで?

 

「私はカードを1枚セット。ターンエンドなの―ネ!」

 

 クロノス

 手札1

 LP4000

 【古代の機械獣】★6

 攻撃力2300

/【古代の機械城】永続魔法

 >セットカード1枚

 

 ……わ、私のターン、ドロ……「この瞬間!」

 

 私のターンにもかかわらず、クロノス教諭が宣言を行う。

 

「私は、【魔封じの芳香】を発動するノーネ!」

 

【魔封じの芳香】永続罠

 このカードが場に表である限り、魔法カードを手札から発動できず、魔法カードを発動するためには一旦セットし、セットしたプレイヤーのターンで次のターンからしか発動できない。

 

(トラップ)カード”。主に、相手の動きを妨害するために使われるカードだ。

 発動するためには一度セットしなければならず、発動条件を満たさなければいけないカードも多いが……。

 

 一度機能すれば、勝負を傾けさせることも可能なカードたち。

 

 

 引いたカードを、確認する。

 

【受け継がれる力】通常魔法

 

 ……っく。

 思わず唇を噛みしめる。

 やられた。

 駄目だ、クロノス先生、ちょー強い。

 手札の【融合】を……魔法カードを使うのを封じられた……!

 

 私のセットカードは、【リビングデッドの呼び声】と【無謀な欲張り】だ。

 

【リビングデッドの呼び声】永続罠

 自分の墓地に置かれたモンスターを1体攻撃表示で特殊召喚する。

【無謀な欲張り】通常罠

 2枚ドローする。自分の通常ドローを2回とばす。

 

 予定なら、このターンで【エアーマン】を蘇生し、【バーストレディ】を呼ぶ。

【フレアウイングマン】を融合召喚、【無謀な欲張り】でモンスターを引き込む。

 みんなで攻撃してトドメ! なんて考えていたんだけどなぁ……。

 

 先手を打たれちゃったら、どうしようもないや……。

 ……また、勝てないのかな。

 

 俯きそうになる。

 

“テキストをちゃんと読むんだ”

 

 ふっ、と“彼”の言葉が頭に浮かんだ。

 

“【エアーマン】と【シャドー・ミスト】。

 この2体だけでも、君の【HERO】デッキは僕の【HERO】デッキのポテンシャルを超えている。

 君が僕に勝てないのは”

 

 

“君が、君のデッキを、使いこなせてないからだよ”

 

 

“さぁ、もう一度かかって来い! 今度は(たが)えるなよ!”

 

 

 そうだ。()()()()に言われたのだ。

 

 

 私のデッキは、強い。

 私の【HERO】は……最強だ!

 私はこのデッキで、一生懸命に組み上げたこのデッキで……勝つんだ!

 

 

 ……考えるんだ。考えるんだ。

 どうやったら勝てる?このターンで【融合】はできない。

【古代の機械獣】をこのターンで倒すには……。

 

 ……【融合】を、しなければいいんだ。

 

 私は、【フェザーマン】を攻撃表示で召喚!

 そして、【リビングデッドの呼び声】を発動!【エアーマン】を蘇生します!

 

 

 私のフィールドに、鳥人(フェザーマン)と、超人(エアーマン)が舞い降りた。

 

【E・HEROフェザーマン】☆3 攻撃力1000

【E・HEROエアーマン】☆4 攻撃力1800

 

 

 ……この世界に来て、決めたんだ。

 もう、私は、私のデッキを諦めないんだって……!

 

 

 戦いから逃げない少女の姿を見て、ギャラリーがざわめく。

「……あいつ、まだ諦めていないのか」

「でも、この状況からひっくり返ったところを見たことねぇぞ」

 

 

「あのカイザーですら、【融合】を封じられて敗れたコンボだぞ?」

 

 

「いや、デュエルは最後まで何が起きるかわからないからワクワクするんだ」

 観客席で、もう一人の【HERO】使いの少年は不敵な笑みを浮かべて呟く。

 

「あんたの【HERO】の力を、見せてやれ」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 私が思考する間、クロノス教諭はずっと黙って待っててくれた。

 

「……もう、逡巡するのは終わりデスーノ?」

 

 ええ。待たせてすみません。

 

「よろしい。……だが、あなたは決定的なミスを犯したデスーノ」

 

 クロノス教諭はそう言って、【フェザーマン】を指さす。

 

「あなたは【フェザーマン】を通常召喚してしまった。本来なら、【エアーマン】の効果で上級の【HERO】をサーチして、そのまま生贄召喚に繋げるべきだったはずデスーノ」

 

 

「あの受験生、焦ってミスを……?」

「あちゃー、惜しかったな―」

 

 

 観客席からちらほらと聞こえてくる声。

 

 ……違う、あなた達は何もわかってない。

 だから……これを見て!

 

【エアーマン】が飛翔する。

 そして、クロノス教諭の場に目掛けて、急降下を開始した。

 目指す先は、【魔封じの芳香】がある。

 

「これは…!?」

 

 クロノス教諭が息を呑む。

 

 行きます!

【エアーマン】の第二の効果を発動!その効果により、【魔封じの芳香】を破壊します!

 

「マンマミーア!?」

 

【E・HEROエアーマン】☆4 効果モンスター

 召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果のうち、一つを選択して発動できる。

・デッキから【HERO】モンスター1体を手札に加える。

・このカード以外の自分の場の【HERO】の数まで、場の魔法・罠を破壊できる。

 

【エアーマン】がそのブレードで、【魔封じの芳香】を切り裂いた。

 

 これで私は魔法カードを発動できます!

 

「で、ですが!あなたの手札に融合素材が揃っていなければ……」

 

 ええ。揃っていなければ、融合はできません。

 だから私は、このカードを使います。

 私は【フェザーマン】を生贄に捧げ、【受け継がれる力】を発動!

 

【受け継がれる力】通常魔法

 自分のモンスター1体を墓地に送る。ターン終了時まで、墓地に送ったモンスターの攻撃力を、自分のモンスター1体の攻撃力に加える。

 

【エアーマン】

 攻撃力1800→2800

 

「な!」

 

 お願い【エアーマン】! “エアー・ブレード”!

 

【エアーマン】の一撃が【機械獣】を切り裂く。

 

 クロノス教諭

 LP3000→2500

 

「あの受験生やるな……」

「あんなに強いのに何で111番なんだ?」

 

 観客席からチラホラとそんな声が聞こえてくる。

 

 ……仕方ないじゃん。

 私、【HERO】以外のカードのことなんてよくわからないもん。

 

 

 振りかかる鋼鉄の破片に身じろぎ一つせず、クロノス教諭は私を見据えていた。

 

「……ドロップ・アウト・ガール……あなたはワタシをどこまでも驚かせてくれるノーネ」

 

 そして。

 場はがら空きで、ピンチのはずなのに、不敵に笑い出す。

 

「ニョホホホ、しかし全然! ワターシを倒すには足りないの―ネ!」

 

 ……これも懐かしい。GX一期の時の、二流悪役なクロノス先生だ。

 懐かしいんだけど……。

 ジワリと、首のあたりに嫌な感じが広がる。

 ……まさか、もう()()が手札に来てる?

 

 ……私は、ターンエンド。

 

 ?

 LP3500

 手札1(【融合】)

 【エアーマン】★4 攻撃力2800→1800

/【リビングデッドの呼び声】永続罠 

  対象:【エアーマン】

 >セットカード1枚(【無謀な欲張り】)

 

 クロノス

 手札1

 モンスター無し

/【古代の機械城】永続魔法

 

 フィールド【歯車街】

 

 「ワタァシのタァーン!」

 

 クロノス教諭がカードを引く。

 

「一つ、入学前のあなたに、特別に講義をして差し上げるの―ネ。心して聴くように!」

 

 え、えっと急に何!? は、はい!

 

「あなたのコンボ攻撃は見事でしたーの。けれど、結局最後に物をいうのは、圧倒的攻撃力なの―ネ!」

 

 ドローしたカードを確認することもなく、クロノス教諭は()()()()()()()()()そのカードをデュエルコートにセットした。

 

「我が最強の下僕!【古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)】を召喚(しょうかーん)!」

 

 

大地が震えた。

 

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「ちょっと、アナタ大丈夫デスーノ!?」

 

 ……は、はい。腰が抜けただけですので。

 

 

【機械巨人】のあまりの威容にびっくりして、私は転んでしまっていた。

 

 

 いや、実際ヤバイ。何これ。

 でっかい。こわい。

 

 ところどころ錆びた鈍色(にびいろ)の躯体。

 私の体なんか一握りで潰してしまいそうな巨大な()

 紅く光る双眸が、兜の奥から私を睨みつけてくるような……。

 

 ……チェンジで。もっとかわいい感じのやつがいい。

 

【古代の機械巨人】★8 攻撃力3000

 

 ……あー!

「な、何か?」

 

 あ、ごめんなさいごめんなさい!あなたに何かあるというわけじゃ……。

 大声を出してしまい、立ち上がるのに手を貸してくれた試験官のお兄さんを驚かせてしまった。

 改めてクロノス教諭に向き直る。

 

 センセー、それズルですよ!

「な、何の事なの―ネ」

 だって、レベルが7以上のモンスターって、生贄が2体必要ですよね!【歯車街】があっても、生贄が1体必要ですよ!

 今どうやって【機械巨人】出したんですか!?

 っていうか本当にこわいから、こんなの出さないでくださいよ!訴えますよ!?

「ヒドい言いがかりなの―ネ!?」

 

 クロノス教諭が、墓地のカードポケットから1枚のカードを取り出す。

 

「私はこのカードを生贄に捧げることで【機械巨人】を召喚したの―ネ!」

 

 ……【古代の機械城】?ふむふむ。

 

【古代の機械城】永続魔法

 場の【古代の機械】モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。モンスターが召喚されるたびにこのカードにカウンターを1つ乗せる。このカードにカウンターが乗っている数だけ、このカードは【古代の機械】モンスターを召喚するときの生贄の代わりになる。

 

 ……あ、第二の効果強い。っていうかこんなこと書いてあったのか。

 

「嫌疑は晴らしたノーネ?」

 

 あ、はい……ごめんなさい。

 

「よろしい。ならば容赦はしないの―ネ!」

 

 ……え?

 

 気がついたら、既に目前まで【機械巨人】の腕が迫っていた。

 

「【機械巨人】の攻撃!“アルティメット・パウンド”!」

 

 ……ちょっ!

 

【エアーマン】が再び私を庇うように立ちふさがる。

 そして、頭上から振り下ろされる【機械巨人】の一撃を、受け止めた。

 

 でも耐え切れず、【機械巨人】の掌に押しつぶされる【エアーマン】。

 

 地面と【機械巨人】の拳の間から、モンスターが破壊される時の爆散音がした。

 

 ?

 LP3500→2300

 

 ごめんね【エアーマン】……守ってあげられなくて。

 

 私が悔しい思いをしながらクロノス教諭の方を見ると、何故かクロノス教諭も悔しそうな顔をしていた。

 

「ワターシとしたことが、気が逸ったノーネ……」

 

 クロノス教諭は自分の手札を眺めて、そんなことを呟いている。

 ……一体何があったんだろう?

 

「ワターシはカードをセット。ターンエンドなの―ネ」

 

 フィールド:【歯車街】

 

 クロノス教諭

 LP2500

 手札0

 【古代の機械巨人】☆8 攻撃力3000

/ セットカード1枚

 

 ?

 LP2300

 手札1(【融合】)

  モンスター無し

/ セットカード1枚(【無謀な欲張り】)

 

 私のターン!ドロー!

 

 ドローカードは、【E・HEROバーストレディ】。

 

 【バーストレディ】では【機械巨人】には勝てない。

 私の手札の中には、目の前の巨人を倒す手段は無い。

 

 ……なら、使いどきは今!

 

 私は、【無謀な欲張り】を発動!その効果で2枚ドローします!

 

「……デメリット付きの手札増強カード、ナノーネ」

 険しい目をするクロノス教諭。

 

 ドローカードは……。

 

【E・HEROワイルドマン】☆4 

H(エイチ)ーヒートハート】通常魔法

 

 ……うん。デッキは私に応えてくれた。

 私は……このデッキの切り札で、クロノス先生に勝つんだ! 

 

 私は【融合】を発動!その効果により、融合召喚を行います!

 

【融合】通常魔法

 一組の決められたモンスターを融合する。

 

“融合召喚”。

【融合】の魔法カードにより、一組の決められたモンスターをさらに強力なモンスター1体へと変じさせる強力な召喚方法。

 手札に【融合】のカードと2体以上の条件のあったモンスターが揃わなければいけないため、その難度はかなり高い。

 

 だけど、この方法によって出されるモンスターたちは、そのプレイヤーにとって正真正銘の“切り札”だ。

 

 会場が、シンと静まり返る。

 

 ―――――手札の【E・HEROバーストレディ】と【E・HEROワイルドマン】で融合召喚!

 

【バーストレディ】☆3 炎 戦士族 通常モンスター

【ワイルドマン】☆4 地 戦士族 効果モンスター

 

 ――――― 来て!その鋼鉄の両腕で、眼前の敵を砕き沈めよ!【E・HEROガイア】!

 

 大地が揺れる。【機械巨人】の時よりも、さらに大きく。

 今度は、転ばない。

 

地面を割って、巨大な“ヒーロー”がその姿を表した。

 

【E・HEROガイア】★6 融合モンスター 

 【E・HERO】モンスター + 地属性モンスター

 攻撃力2200

 

 姿を表したのは、鋼の鎧を纏い、大地(ガイア)そのものの名を冠した巨人。

 

「ワーォ……」

 

 自身の下僕に勝るとも劣らない巨躯に、感嘆の声を漏らすクロノス教諭。

 

 巨人と巨人が、フィールドで向き合った。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「です~が、融合召喚しても攻撃力2200。私の【古代の機械巨人】には及びませーンノ」

 

【E・HEROガイア】 攻撃力2200 

【古代の機械巨人】 攻撃力3000

 

 クロノス教諭が吐き出したのは、どこかで聞いたことのあるセリフ。

 多分、十代との戦いで【フレイムウイングマン】に対して言ったやつそのままだ。

 

 違うのは、そこに嘲りの色がないこと。

 

「あの111番、次は何を見せてくれると思う?」

「なんかカッケェ……」

「「「頑張れ! 111番!」」」

 

「さぁ、グズグズしないでかかってくるノーネ!」

 

 “ヒーロー”に対する期待が込められていること。

 

 行きます!

【ガイア】の効果を発動!

【ガイア】は召喚に成功した時、相手モンスター1体の攻撃力の半分をターン終了時まで……奪い取る!

 

【E・HEROガイア】★6 融合モンスター・効果 

 このモンスターは融合召喚でしか召喚できない。

 召喚された時、ターン終了時まで相手モンスター1体の攻撃力を半分ダウンさせ、その数値だけこのモンスターの攻撃力に加える。

 

【古代の機械巨人】攻撃力3000→1500

【E・HEROガイア】攻撃力2200→3700

 

「……ック!」

 クロノス教諭が、ピクッと眉を動かす。

 

 そして……【Hーヒートハート】を発動!

 

【Hーヒートハート】通常魔法

 自分の【E・HERO】モンスター1体はターン終了時まで攻撃力が500アップし、守備表示モンスターを攻撃したとき、攻撃力が守備力を超えている分だけ、相手に戦闘ダメージを与える。

 

【E・HEROガイア】攻撃力3700→4200

 

 

 ?

 LP2300

 手札0

 【ガイア】☆6 攻撃力4200

/ 魔法・罠カード無し

 

 クロノス

 LP2500

 手札0

 【機械巨人】★8 攻撃力1500

/ セットカード1枚

 

「この攻撃が通ったら……」

「2700のダメージで、クロノス教諭が負ける?」

 

 

 この攻撃で……私の勝ちだ!

【ガイア】の攻撃! “コンチネンタル・ハンマー”!

 

 

【ガイア】の両腕が、【機械巨人】を押しつぶそうとして前方に繰り出された。

 

 

 

 

 

【機械巨人】の後ろで、クロノス先生が“困った子猫ちゃんだ”風に肩をすくめている姿が目に写った。……あれ? 先生、何かヨユー?

 

「ヤレヤレ、なのーネ」

 

「リバースカードオープン!【リミッター解除】!」

 

 ……え?

 

【リミッター解除】速攻魔法

 自分の場の機械族の攻撃力を倍にする。この効果を受けたモンスターはターン終了時に破壊される。

 

 クロノス教諭が発動したのは、機械族デッキの切り札とも言える魔法カード。

 まさか引いてたなんて……!

 

 【機械巨人】★8 地 機械族 攻撃力1500→3000

 

 力を取り戻した【機械巨人】が【ガイア】を向かえ撃つように腕を繰り出した。

 だが、【ガイア】には敵わず粉砕される。

 

 しかし……。

 

 クロノス

 LP2500→1300

 

 クロノス教諭にトドメを刺しそこねた……!

 ……スゴい、これが。

 これが、アカデミア実技指導最高責任者の実力!

 ……絶対に勝ったと思ったのに! 私、今、スゴくワクワクしてる!

 

「……今褒められても素直に喜べないの―ネ」

 

 何故か苦笑を浮かべるクロノス教諭。

 

 

 

「……ねぇ、亮」

「あぁ、クロノス教諭は前のターンで勝つことも可能だった」

 

 デュエルフィールドを二階席から見ていた天上院明日香と丸藤亮は思案する。

 前のターン、クロノス教諭は【エアーマン】に攻撃する際に【リミッター解除】を使うべきだった。

 そうすれば、4200のダメージで111番の少女を倒せていたはずだ。

 

 見る限りで、アカデミア生のほとんどがそれに気づいている。

 “クロノス教諭が、プレイングミスをして、受験生に追い詰められている”という事実に。

 

「結局、彼女がここまで善戦できたのもまぐれということになるのかしら」

「いや、違うさ。勝負に()()()()は無い」

 

 アカデミアのカイザーと呼ばれる男は少女を見つめながら言う。

 

「彼女の戦う姿が、流れを引き込んだんだ」

 

 

 

 結局、私にはそれ以上何もできなかった。

 

 私はターンを終了します。

 この時、【ガイア】の攻撃力が元に戻ります。

 

【ガイア】攻撃力4200→2200

 

 

 フィールド:【歯車街】

 

 ?

 LP2300

 手札0

 【ガイア】☆6 攻撃力2200

/ 魔法・罠カード無し

 

 クロノス

 LP1300

 手札0

  モンスター無し

/ 魔法罠無し

 

 

 トドメは刺しきれなかったけど、追いつめはした。

 次のターン、何を引かれたって……。

 

 クロノス教諭の方を見る。

 

 追い詰められてるはずなのに、クロノス教諭は全く動じていなかった。

 

 ……あれ?

 

「特別に、もう一つ講義をして差し上げましょう」

 

 え、は、はい。よろしくお願いします。

 

「ワターシほどの相手と戦うときは……相手にターンを渡すときは慎重にならなければなりませーん。

 ターンを渡せば渡すほど……逆転されるリスクを冒すことになるのですかーら」

 

 ぎゃ、逆転?

 で、でも。クロノス先生の手札にも場にもカードなんて……。

 

「一流のデュエリストの大前提……それを今からお見せするノーネ!」

 

 ―――――ドロー!

 

 気のせいか。

 私の目には、ドローするときのクロノス教諭の手が、カードが、光って見えた気がした。

 

 ……クロノス教諭は何を引いたの?

 

「……信じてたの―ネ。ワターシは【サイクロン】を発動!」

 

【サイクロン】速攻魔法

 場の魔法・罠カードを1枚破壊する。

 

 観衆が、ざわめく。

 

【サイクロン】?で、でも、私の場にも、先生の場にも魔法も罠も無いのに?

「魔法カードなら在るの―ネ」

 ……え?

 

 クロノス教諭がデュエルコートの上部のスイッチを押す。

 カードポケットが開き、そこから1枚のカードが取り出される。

 

 ギャラリーの息を呑む音が聞こえた気がした。

 

 

 

「私が破壊するのは、フィールド魔法(マジック)、【歯車街】!」

 

 

 

 一陣の風が、フィールドを駆け抜けていった。

 ソリッドビジョンだということを忘れて、慌ててスカートの裾を押さえつける。

 

 風が吹いたあとには、もう歯車の一つも残っていない、ただのデュエルフィールドがそこに広がっていた。

 

 

「クロノス教諭は何を……?」

「自分から【古代の機械】の補助カードを破壊した……?」

「ミスか?いや、クロノス先生に限って……(今さっきしたばっかだな)」

 

 

 我に帰って気がつく。

 

 クロノス先生、何で自分から【歯車街】を……?

 

《「メインフェイズ2に移行するノーネ!【押収】を発動!」》

《「ワターシが選択するのは、【サイクロン】!」》

 

 わざわざ、私の手札から捨てさせまでした【サイクロン】で破壊なんて……?

 ……ミ、ミスですよね?

 

 おずおずと問いかけると……。

 

 

 

 クロノス教諭は、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「フフン、所詮は、ドロップ・アウト・ガールなの―ネ」

 

「覚えておくといいの―ネ……ワターシの辞書に、MISTAKE(失敗)の文字はないの―ネ」

 

 クロノス教諭のその言葉の直後。

 今日、三度目の地揺れとともに、巨竜が姿を現した。

 

 

 

「ねぇ、亮」

「ああ、そうだな」

 

 明日香の問いかけに、カイザーと呼ばれる男は答える。

 

「MISTAKEの文字が無い、は嘘だな。プレイングミスはしてた」

 

 ヤレヤレ、と言った表情で言葉を続ける。

 

「クロノス教諭は変なところで調子に乗るところを除けば、理想の教師なんだが……」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

古代の機械巨竜(アンティーク・ギア・ガジェルドラゴン)】☆8 攻撃力3000

 

 クロノス教諭が従えているのは、機械仕掛けの巨竜。

 

 ……嘘。

 ……どうやって出したんですか?

 

「【歯車街】は破壊された時、【古代の機械】の下僕を場に残していく効果を持っているノーネ」

 

【歯車街】フィールド魔法

 このカードが場に表であるかぎり、【古代の機械】モンスターの召喚に必要な生贄を1体減らしても良い。このカードが破壊された時、デッキ・手札・墓地から【古代の機械】モンスター1体を特殊召喚することができる。

 

 ……第二の、効果。

 

「この【機械巨竜】には、貫通効果こそ無いものの……あなたに引導を渡すには十分ナノーネ」

 

 ? 

 LP2300

 手札0

 【E・HEROガイア】☆6 攻撃力2200

/ 魔法・罠カード無し

 

 クロノス

 LP1300

 手札0

 【古代の機械巨竜】☆8 攻撃力3000

/ 魔法・罠カード無し

 

 お互いの、場にも手札にも、カードは1枚だけ。

 ここが、死力をかけた最後の戦いだった。

 

 

「【機械巨竜】の攻撃!」

 ……迎え撃って、【ガイア】!

 

 

 フィールドの中央でぶつかり合う2体のモンスター。

 

 でも、力の差は明白だった。

 

 拮抗していたのは、ほんの数瞬。【機械巨竜】がその長い尾で【ガイア】を縛り付ける。

 抵抗虚しく、【ガイア】は光のカケラとなって爆散した。

 

 

 ? LP2300→1500

 

 ……ごめん、また駄目だった。

 クロノス先生、ちょー強い。

 ……結構、喰らいついたと思ったんだけどな。

 

 私の、ターン。

 

 

 私のディスクは、ドローカードを吐き出してはくれなかった。

 ……うん、わかってた。

 

【無謀な欲張り】通常罠

 2枚ドローする。自分の通常ドローを2回とばす。

 

【無謀な欲張り】のデメリット。私は、このターンと次のターン、ターンの始めのドローが、できない。

 

 クロノス教諭が静かに語りかけてくる。

 

「……一流のデュエリストは、たった1枚のドローで逆転するノーネ」

 

「その可能性(ドロー)を捨てて戦ったあなたは、前のターンで私を倒しきるべきだったの―ネ」

 

「……講義を終わりますーノ。ワタシのターン」

 

 ?

 LP1500

 手札0

  モンスター無し

/ 魔法・罠カード無し

 

 クロノス

 LP1300

 手札1

 【古代の機械巨竜】☆8 攻撃力3000

/ 魔法・罠カード無し

 

【機械巨竜】が私へと向かってくる。

 私の場に、私を庇ってくれるモンスターは、もういない。

 

「【機械巨竜】で、アナタに直接攻撃!」

 

 ……きゃあ!

 

 ソリッドビジョンとわかっていても、こわいものはこわい。

 反射的に頭を抱えてうずくまっちゃったけど、【機械巨竜】の映像は私の体をすり抜けていって……。

 

 ? LP1500→0

 

 WINER クロノス

 

 

 クロノス教諭の勝利で、デュエルは幕を閉じた。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 そのままペタン、と尻もちを着く。

 

 ……私、負けちゃったのか。

 

 ……クロノス教諭が強いのもわかっているけど。

 ……私が未熟なのもわかっているけど。

 

 ……勝ちたかったな。……懐かしかったな。……悔しいな。……楽しかったな。

 

 ………入りたかったな、デュエルアカデミア。

 

 いろいろな感情が胸の中で渦を巻く。

 自己嫌悪とか、反省とか、これ以上、()()()に迷惑をかけられないし、身の振り方をどうしようとかぐるぐる考えていると、ツカツカとクロノス教諭がこちらに歩み寄ってくる。

 

 スッと、手を差し伸べてくれた。

 

「いつまで呆けているノーネ」

 

 ……先生には関係のないことですよ。……私は不合格なんだから。

 

 ……少し刺々しくなるのは許して欲しい。全力で戦って負けたら、やっぱ悔しいのだ。

 

 

()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()、生徒の相談に教師が応じるのは、当たり前なの―ネ」

 

 

 ……へ?

 

 そこで私はやっと気がつく。

 会場が、拍手の音で満たされていることに。

 

素晴らしい試合(GOOD GAME)でしたーノ。

 あれだけの実力を見せられれば、勝敗など小さなことですーノ」

 

 

 ……私、負けたんですよ?

 

「ノン、ノ」

 

 クロノス教諭が指を振る。

 

()()()()()()()()()()のは至って普通のことですーノ。

 完成された生徒ばかりでは、教師の仕事がなくなってしまうデスーノ」

 

 その長身を(かが)め、私の手を取り、私の目を覗き込みながらクロノス教諭は言ってくれた。

 

 

「ようこそ、デュエルアカデミアに」

 

 

 ……ック、ク、クロノスせんせー!

 う……ウワァァァン!

 

 ブワッ、と涙が溢れてくるのが自分でもわかった。

 自分では、とてもじゃないが止めきれない。

 

「だ、抱きつくのをやめるノーネ! 皆が見てるの―ネ!

 

 ……鼻水と涙で汚れルーノ! ちょ、離すの~ネー!」

 

 

 

 

 

 

 こうして、私はデュエルアカデミアへと入学する。

 

 そこで、何を見、何を為すのか。

 それは私にはまだわからないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、受験生の少女を泣かせるなんて、クロノス先生もすっかり悪い大人ですにゃー」

「人聞きの悪いことを言わないで欲しいノーネ。

 あれは彼女が勝手(かってー)に……」

「それはさておきですにゃー。

 スゴく盛り上がってたけど、彼女が何を言ってるかわかったんですにゃー?」

「……何を言ってるんデスーノ?

 彼女はあんなに饒舌に喋っていたノーに」

「……え?」

「え、ってなんですーノ。

 彼女はかなりおしゃべりでした~の。

 じゃないと私もあんなに熱くならないですーノ」

「いやいやいや! 全然! 

 転んで起き上がるときぐらいしか喋ってなかったですにゃ―!」

「? そんなわけないの―ネ。からかうのはやめて欲しいノーネ」

 

 

「クロノス先生! 校長から連絡が入ってます! 至急確認を!」

 

 

「大徳寺先生、どうもまだ仕事が残っているようなので、失礼させてもらうの―ネ」

「あ、そ、そうですにゃ―」

 

 

「……いやいや」

 

「いや、絶対喋ってなかったですにゃー。

 ……十代君に負けたショックで、クロノス先生、おかしくなってしまったんですかにゃ―?」




 主人公
 転生女オリ主。トラックをタクシー代わりにGXの世界へ。
 懐かしさに負けて買ったHEROストラクと、中古トレカのオリジナルパックを片手に転生、というか転移。若干若返った。
 デュエルはかなりの素人、というかデュエル感覚がアニメGX時代の前後で止まっている。
 露頭に迷いかけていたのを、エド・フェニックスに捨て猫よろしく拾ってもらっていたりする。
 アニメはGX以降ほとんど見ていないので、以降のシリーズについては、
 ・遊星→無口でこわいお兄さん。強い。
 ・遊馬→メンタルが強い少年。強い。
 程度の認識しかない。

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