バカとテストと召喚獣~響き渡るバカ達の絆~ 作:shin-Ex-
「見事なまでに二人とも今とキャラが違うよね」
「それは自覚している」
まあ確かにそうですね。
それでは本編にいきましょう。
「本編どうぞ」
過去話
絆を紡ぎ、絆を広げることに長けた少年、仲渡響
常に
これは、少年と少女の間に絆が生まれた時の在りし日のお話
~5年前~
side 咲夜
「はあ・・・・・」
仲渡家の一階にある書斎にて、勉強するために本を開く響の傍らで待機していた私はすっかりと癖になってしまった不満の溜息を吐いた。
「ど、どうしたの咲夜?」
そんな私を心配するように響は恐る恐ると声をかける。
「・・・・・いいえ、何でもありません。お気になさらずに」
「そ、そっか。ならいいんだけど・・・・・」
響に対して私はぶっきらぼうにそう答える。これが従者の主に対する返答だとしたらいささか問題があると言わざるを得ないでしょうね。
・・・・・まあ別にどうでも良いけれど。こんな落ちこぼれにわざわざ礼を尽くす必要はない。
それに響も気にしていないみたいですし。
(全くどうして私がこんな落ちこぼれの従者に・・・・)
私は目の前で勉強に励む響を見ながら心の中で悪態をついた。
私は十六夜家において天才と呼ばれていた。
10歳にも満たぬうちに料理や掃除、洗濯といったあらゆる家事をはじめとする従者として必要不可欠なスキルを完璧といえるまでにマスターし、さらに頭脳も身体能力も十分に平均を大きく上回っていると自負している。
十六夜家には仲渡に仕えている現役の従者が多数所属しているが、その中でも私に並ぶものは殆どいないと言っても差し支えはないでしょうね。
ただ・・・・・それ故に私は納得がいかなかった。
私がどうして・・・・・仲渡家の落ちこぼれである響に仕えなければならないのだろうか?
(私は信様の従者になりたかったのに・・・・・)
仲渡家の長男で響の兄の信様。信様の優秀さは折り紙つきで旦那様と奥様からも将来を期待されている。それこそ彼に任せれば仲渡家は安泰だと言われているほどにだ。
故にそんな信様の従者になるのは天才といわれている私以上に適任はいないと思っていたのに・・・・・なぜか私の主となったのは響であった。
(どうして御爺様と創様は私を落ちこぼれの響の従者に・・・・・)
私が響の従者となったのは私の御爺様と仲渡家の前頭首、創(はじめ)様の指示であった。二人とも現在隠居した身であるが十六夜家、仲渡家の中でもまだ高い権力を有しており、二人の決定に異を唱えることができるものが誰一人いなかったために私は響の従者にならざるを得なくってしまったのだ。
(理由を聞いてもはぐらかされてしまうし・・・・・本当にどういうつもりなのかしら?)
「えっと・・・・咲夜。少し教えてもらいたいことがあるんだけど・・・・いい?」
私が御爺様達が何を意図しているのかと考えをめぐらせていると響が質問をしてきた。
「・・・・なんですか響様?」
「その・・・・ここ教えて欲しいんだけど」
「わかりました(この程度の問題もわからないのですか・・・・・)」
私は響が指し示していた問題についての解説を始める。
こうして今日も私は渋々ながらも響に仕えていた。
今思えば、このときの私は本当にどうかしていたとしか思えなかった。
「やあ咲夜!」
翌日、屋敷内の雑務をこなしていた私に嬉々として声を掛ける人物がいた。
その人物は昔から仲渡家と交流のある宮下家の長男、宮下要であった。
「・・・・・いらしていたのですか要様」
私は傍目から見てもわかりやすいであろうほどに顔を顰めながら返事を返した。
「ああ。父様と母様が用があるらしくてついてきたんだ。どう?僕に会えて嬉しい?」
「・・・・・別にそんなことはありません」
「相変わらず無愛想だなぁ。まあそういうところも可愛いけど!」
(・・・・・本当に鬱陶しいわ)
正直に言って私はこの男のことが嫌いであった。要はいつもいつも馴れ馴れしくしてきて隙あらば触れてこようとする。しかもどんなに文句を言っても全く反省しないどころか次に会ったときには忘れているかのように同じように接してくるのだ。
今も私の紀なんて知りもしないでこんな・・・・・本当に鬱陶しくてたまらない。たまらなく不快だわ。
「・・・・・それよりもどうして融麻はここに居ないのでしょうか?」
私は疑問に思ったことを聞いた。
融麻というのは宮下家に仕える一族、天月家の長男で要に仕えている執事だ。
彼はいつも私を冷めた目で見てくるから好きではないのだけれどそれでもいつも要の愚行を止めてくれるので居て欲しいのだけれど・・・・なぜかこの場に彼は居なかった。
「ああ、融麻は今日は来てない。眞姫の体調が悪いから家で看病してるんだよ。まああいつが居ても鬱陶しいだけだから僕としては全然構わないんだけどね」
「・・・・そう」
私としては構うのだけれど・・・・・。
「そんなことよりも聞いたよ。咲夜あの落ちこぼれの従者になったんだって?」
「・・・・・ええ。まあ」
「やっぱり本当だったのか・・・・・かわいそうに。あんな落ちこぼれの従者になるだなんて嫌だろう?」
要は同情するような視線を向けながら聞いてきた。
「・・・・そうですね。信様や雫様に比べて頭脳も身体能力も大きく劣っている上に、いつもおどおどしていて気弱で直ぐに泣いて・・・・・・どうして私があんな落ちこぼれの愚図に仕えなければならないのかわからないわ」
まるでせき止めていた栓が抜けたかのように、私は今まで胸に秘めていた響への不満を口にした。
「だろう?聞けば咲夜の御爺さんと響の御爺さんが決めたらしいけど・・・・・本当になにを考えているんだろう?僕には到底理解できないね」
それに関しては同感ね。本当に御爺様達の考えは理解できない。
「やっぱりちゃんと抗議してみたらどうだい?咲夜だってうんざりしているだろう?」
「・・・・・ええ。流石にもう我慢の・・・・」
「さ、咲夜。ちょっといい?」
私の言葉を遮るように、後ろから響が声をかけてきた。
もしかして今の会話を聞かれていたかしら・・・・・まあ別に構わないけれど。
「あ、要・・・・・来てたんだね」
響は要が居ることに今気がついたらしい。どうやら会話は聞かれていないようだ。
「は?居たら悪いの?」
要は威圧するように響を睨みながら言う。
「う、ううん。別にそういうわけじゃないけど・・・・・」
「あっそ。というか落ちこぼれの分際で声かけないでくれるかな?凄く不快だからさ」
「ご、ごめん・・・・・」
響は申し訳なさそうにシュンとして俯いた。こういうなよなよしたところが本当に気に入らない。
「あ~あ、落ちこぼれの顔を見てたら気分悪くなってきた。これ以上気分が悪くなりたくないから僕はこれで失礼するよ。それじゃあまたね咲夜」
要は悪態をついた後に去っていった。
「・・・・・・」
「・・・・響様。私に何か御用があるのでは?」
私は要に馬鹿にされ、俯きながら黙り込んでいる響に尋ねる。
「あ、うん。また咲夜に勉強を教えてもらおうと思ったんだけど・・・・いいかな?」
「・・・・承知しました」
本音をいうと嫌だったけれど私は一応響様の従者。ここで断るのはいくらなんでも無礼すぎるので受けることにした。
「それじゃあ書斎でいい?」
「はい。行きましょう」
私と響様は書斎に向かって歩き出した。
『やっぱりちゃんと抗議してみたらどうだい?咲夜だってもううんざりしているだろう?』
書斎に向かう道中、私は先ほど要が言っていたことを思い出していた。
(・・・・・それもいいかもしれないわね)
はっきり言ってこれ以上響に付き従うのは苦痛でしかない。響の従者で居たところで私の能力は全く活かされることはない。
(・・・・響の従者から下ろしてもらって信様の従者になれるように御爺様に抗議しましょう)
私は御爺様に抗議しようと決めた。
その瞬間・・・・・
ズルッ!
「!?」
階段を下りながら考え事をしていたのが原因か、私は足を踏み外してしまった。
私の体は重力にしたがって下の階へと落ちていく。
「咲夜!」
響が私の名を呼ぶのと同時に、なぜか私の視界が真っ暗になる。
そして私は・・・・・・・自分の体が落ちていくのを感じながら意識を失った。
「う・・・・ん」
「あ、目が覚めたんだね咲夜」
私が目を覚ますと、真っ先に信様の顔が目に映った。
「信・・・・様?ここは・・・・」
「ここは咲夜の部屋だよ。階段から落ちた後にここに運ばれたんだ」
「階段から・・・・・あ」
そうだった。私は階段から落ちたんだったわ・・・・
「気分はどうだい?どこか痛いところはない?」
信様は心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫です。特に異常は・・・・え?」
そこで私は疑問を感じた。
階段から落ちたのに・・・・・・私の身体のどこも痛まないのだ。それどころか怪我の一つも負っていなかった。
(私・・・・・どうして?)
私が落ちたのは階段の上部だ。そこから落ちたというのに身体に怪我がないのは不自然すぎる。
「それにしても・・・・咲夜もついていないね。響に巻き込まれちゃうなんてさ」
「・・・・え?」
響様に・・・・・巻き込まれた?
「あの・・・・それは一体どういうことですか?」
「どうもなにも・・・・・咲夜は響に巻き込まれて階段から落ちたんだろ?全くあいつは何をしているんだ・・・・・だから落ちこぼれなんだよ。でもまあ咲夜に怪我をさせなかったことだけは評価・・・・いや、できないか。原因を作ったのもあいつだし」
私は信様の言っていることの意味がわからなかった。
私が階段から落ちたのは私の過失のせいだ。それなのになぜか響の責任になっている。
しかも響様が私に怪我をさせなかったって・・・・
「・・・・・あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「響様は・・・・・どうなりました?」
「ああ、あいつは怪我の治療をした後、部屋で寝かせてるよ」
怪我って・・・・・まさか響は私を・・・・私のことを庇った?
あのとき視界が真っ暗になったのは・・・・私を庇ったから?
「・・・・・」
「と、まだ横になっていたほうがいいよ咲夜」
ベッドから起き上がろうとする私を信様が制した。
「いえ、御心遣いは嬉しいですが私は大丈夫です。響様のところに行かなければ・・・・怪我をしているようですし」
「あんな奴のことなんて放っておいてもいいって。怪我も大したことないし」
あんな奴って・・・・・響は弟なのにどうしてそんなことを・・・・・
・・・・・なぜかしら?今の信様からは・・・・・今までのように尊敬の念を抱くことができない。
「・・・・私は響様の従者ですので」
私は信様の制止を振り切って部屋から出て響の下へ向かった。
コンコン
「響様。咲夜です。入ってよろしいですか?」
ノックをして声をかけても返事は返ってこなかった。どうやらまだ眠っているようだ。
「・・・・・入りますよ、響様」
私は扉を開いて部屋に入った。
「ッ!!」
部屋に入った私は響の姿を見て思わず絶句してしまった。
ベッドの上で眠る響の頭には包帯が巻かれており、頬にもガーゼが当てられている。
信様は大したことないと言っていたが・・・・・どう見ても重傷だ。
それこそ病院に連れて行かれてもおかしくないほどに・・・・・
(私の・・・・せい?私が原因で・・・・彼は怪我を)
「・・・・う・・・ん」
私が罪悪感から呆然としていると、響はゆっくりと目を覚ました。
「咲・・・・夜」
響は起き上がって私の方に視線を向けてくる。
そして・・・・・
「・・・・・よかった」
「え?」
響は私に向かって安心したような微笑を浮かべてくる。
「咲夜・・・・・怪我してない。無事でよかった」
「!?」
怪我してないって・・・・無事でよかったって・・・・・
「・・・・なにがよかったの?」
「??咲夜?」
「なにがよかったの!響は怪我をしたのに・・・・・私のせいで怪我をしたのに何がよかったの!どうして怪我の原因を作った私に向かって笑顔を向けてくるの!どうして!」
私は思わず敬語を忘れ、激情のままに響に問いただした。
「どうしてって・・・・・・咲夜が怪我するの嫌だったから。それに・・・・・咲夜にはいつも嫌な思いさせちゃってるからせめて守らないとって思って・・・・」
「私が・・・・嫌な思い?それってどういう・・・・」
「だって咲夜・・・・僕みたいな落ちこぼれの従者になりたくなかったんでしょ?」
「なっ!?」
今・・・・・響はなんて言った?
「僕知ってるよ。咲夜が僕の従者になったのは僕の御爺様と咲夜の御爺様が決めたからだっていう事。咲夜が本当はお兄様の従者になりたかったんだっていう事。僕と居るとき咲夜が・・・・・凄く不快な思いをしているっていう事」
「・・・・・」
見透か・・・・・されていた?響は全部・・・・・見透かしていた?
「咲夜の気分を害さないように色々と頑張ったんだけど・・・・・やっぱりだめだったな。僕じゃあ咲夜を不快にさせるだけで・・・・咲夜の思いを満たしてあげることができない」
響は悲しそうに俯きながら言う。
「でも・・・・大丈夫だよ咲夜。御爺様達に咲夜を僕の従者から下ろしてもらうように・・・・そしてお兄様の従者になれるように頼んでみるから。断られても・・・・聞いてもらえるまで頼むのやめないから。だから・・・・もう少しだけ待っててね咲夜」
私にニッコリと安心させるような笑顔を振り向いてくる響。
その笑顔は今の私には・・・・・あまりにも眩しすぎた。
響は・・・・・私のことを思ってくれている。
自分が嫌われていると理解しているにも関わらず・・・・・私の為にあろうとしてくれている。
一介の従者でしかないはずの私のために・・・・・・・心から気を遣ってくれる。
なんて優しくて・・・・・温かい人だろう。
(それに比べて・・・・私は・・・・・)
自分の能力に溺れて、響を落ちこぼれだと蔑んで、罵って、嫌って・・・・
・・・・・なんて浅ましいんだろう。
なんて浅ましくて・・・・・・なんて愚かなんだろう。
「う・・・・ああぁ・・・」
気がつけば、私の頬には涙が流れていた。
「さ、咲夜?どうしたの?なんで泣いてるの?僕何か咲夜を傷つけるようなこと言っちゃった?」
「いえ・・・・・私恥ずかしくて。響は私のことを思ってくれているのに・・・・・考えてくれているのに。私は自分のことばかり考えて・・・・従者なのに失礼な態度をとり続けて・・・・私は・・・・・凄く恥ずかしい」
「咲夜・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・私・・・・私は・・・・」
私は響に謝罪した。
今更遅いことはわかっているけれど・・・・・謝罪しなければならないと思った。
「・・・・咲夜」
ギュッ
いつの間にか私のそばまで来ていた響は私の身体を優しく包み込んだ。
「謝ることないよ咲夜。咲夜はなにも悪くない。悪く・・・・ないから」
「ひび・・・・・き」
ああ・・・・・やっぱり私は間違っていた。
彼は・・・・響は落ちこぼれなんかじゃない。
響は誰よりも優しくて、誰よりも暖かくて、誰よりも他人思い。
響は・・・・誰よりも素晴らしい人。
私は・・・・・そんな響の・・・・・
「お見苦しいところを見せてしまい申しわけありません響様」
しばらくして泣き止んだ私は改めて謝罪した。
「ううん。気にしなくてもいいよ咲夜。僕も気にしてないから」
「ありがとうございます・・・・・響様。勝手を承知で一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「お願い?なに?」
「これからも・・・・・私を従者として響様のお傍に置いていただけないでしょうか?」
「え?」
響様は表情を困惑に染めた。
「で、でも・・・・咲夜はお兄様の従者になりたいんでしょ?」
「確かに先ほどまではそうでした。ですが今は・・・・・今は響様の従者としてありたいのです。これから時をずっと・・・・・身勝手なことはわかっております。ですがどうか・・・・・どうかお願いいたします」
私は響様に跪きながら頼み込んだ。
今はもう・・・・・響様以外の者の従者になりたいとは思えない。
今はもう・・・・・響様だけの従者であろうとしか思うことができない。
私の心は・・・・・どうしようもなく響様に惹かれてしまったから。
「咲夜・・・・・僕咲夜に沢山迷惑かけちゃうかもしれないけど・・・・いいの?」
「はい。私の意思は・・・・・揺らぎません」
「そっか・・・・・・・・うん。わかったよ。これからよろしくね咲夜」
「はい」
こうして私は本当の意味で響様の従者になり・・・・・
響様と私の間に絆が生まれた。
今回は座談会はお休みでその代わり昔の響さん達がどういった性格だったのかを発表します!
それではどうぞ!
響
気が弱く、いつもおどおどしており、泣き虫だった。また、周りの人間が皆自分よりも遥かに優秀だった(現在はそうでもない)ため、酷い劣等感に苛まれていた。
咲夜
なよなよしていて両親や兄、姉に比べて能力の低い響を嫌っていた。若干自意識過剰で自分の能力の高さを驕っていた。
要
今と変わりなし。
融麻
響を見下す咲夜とは仲がよくなかった。響のことは今は泣き虫だがいずれか凄い事をやっていそうと思っていた(そしてそれは正解だったりする)。このときから要の言うことはあまり聞かず、響と響の祖父以外の仲渡の人間を嫌っていた。
とまあこんな感じです。
それにしても・・・・・昔の響さんと咲夜さん今と本当に違いすぎる・・・・・
特に響さん。
過去のお話はこれから時期を見て少しずつ出していくつもりです。
それまでお楽しみに!
さて、次回からプールのお話(になる予定)!
どうなるのか乞うご期待!
それでは次回をまたお楽しみに!