これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!!
ーーー夢を見た
一人の少女が建物の裏影で泣いていた。俺はそれを見つけ、どうかしたかと少女にきいた。
『お姉ちゃんがいなくなったの。私を置いて、ずっと一緒にいてくれるって約束したのに!それなのに!!』
自分より歳が下のはずの少女は、その歳からはありえないほどの殺気を出す。その時に少女の顔が見えたが、その目は黒く染まっていた。
『私は...私には!お姉ちゃんがいないとダメなんだ!それなのに...それなのに!!』
ーーーお姉ちゃんは私を裏切った!!
まるで殺意の塊のようなその言葉に、俺はこの少女に恐怖を覚えた。いったい何がこの少女をここまで変えたのだろう。いったい誰が、この少女にここまでの感情を押し付けたのだろう。
この子の姉か?いや、少なくても聞いている限りこの子にとって姉は心の在りどころだったはずだ。
『絶対に...絶対に私が殺してやる!!』
『ッ!!ダメだ!!』
つい、少女のその言葉に反応して叫ぶ俺。少女はびっくりしたかのように涙で濡らした目を見開いていた。
『どうして?...お姉ちゃんは私を裏切ったんだよ?』
『本当にお前の姉はお前を裏切ったのか?それは本人に聞いたのか?』
『そんなの、聞かなくてもわか...』
『いや、わからない。お前の姉は本当にお前一人を見捨てて何処かに行ってしまう奴なのか?』
俺のその問いに、少女は口を閉じる。まだ、やはり姉が自分を裏切ったとちゃんと信じていないようだった。
『だったら、信じろ。お前のたった一人のお姉ちゃんなんだろうが。世の中には血の繋がらない家族もいるけどな、血の繋がった家族はもっと繋がりが強いんだぜ?』
そう言うと、少女はクスクスと笑いだした。
『ふふっ、お兄さんっておかしな人だね?見ず知らずの私にこんなことを言うなんておかしな人』
『わ、笑うなよ....でも、俺はお前のこともお前の姉の事もよく知らない。だからあくまで他人の言葉と思ってくれればいいさ。そのあと、お前がどうしようが俺の知ったことではないってな』
『うんそうだね...。ねぇ、お兄さん名前はなんていうの?私と大して変わらないと思うけど...』
『俺か?俺はタツミ。この近くの村に住んでるただの村人だよ。今日はたまたまこの街に買い物に来ただけだよ。で、お前は?』
俺は、名を聞こうと座り込んでいる少女に手を差し出した。少女は涙を袖で拭き取り、笑顔でこう言った。
『私はーーークロメ。タツミ、ありがとう』
そこで、俺の視界が光に包まれていった。
「ん...朝か....」
懐かしい夢を見た。きっと、昨日アカメにクロメの事を話したからだろう。あれがいつだったかはもう覚えていない。
ただ思うのは、あの時俺は彼女を本当の意味で安心させることはできたのだろうか?もう少し言葉があったんじゃないか?
(って、ダメだな。また終わったことを後悔してる...もう、どうすることもできないっていうのに)
自分の甘さに少しイライラしながら、ベットから体を動かそうとする。
「ん?」
だが、そこで気づいた。自分の足付近に何か柔らかいものが当たっている。タツミは目線を足に向けていき、その正体を確かめた。
「....ん..むにゃむにゃ...」
「は?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
って、そうじゃない!!なんでーーー
「ん?...あ、おはようございますタツミ。タツミは今日から私の部下になるそうです。よろしくですぅ...むにゃむにゃ」
そう言って紫髪のメガネをかけた女性は、再び眠りにつく。
(なんでシェーレが俺の部屋にいるんだよぉぉぉおおおお!!?)
こうして、タツミの朝は始まる。
と、いうことで特訓だ。俺はシェーレに言われた鎧を着て、アジトの近くを泳いでいた。
「あぁー水がきもちぃ...」
「あの鎧、かなり重いはずなんですけど...何故沈まないのでしょう?」
え、そりゃだって沈まないように全力で足動かしてるしな。何を当たり前なことを...
と、考えているこのバカだが、一応これは暗殺カリギュラムに載っている訓練方法だ。しかも鎧が重い分よけいに難易度も上がっているはずだが、この男はクロールで川の隅から隅に行ったり来たりしていた。
「タツミー、もういいですよー」
「え、はーい。...以外と楽だったな。もっとめちゃくちゃな訓練だと思ってた」
「普通はタツミみたいにできませんよ。...さて、それでは少し休憩を入れましょうか」
「あーい...ところでシェーレはアジト内での役割とかないのか?」
タツミは鎧を脱ぎながら、石に座るシェーレにきいた。すると何故か暗い顔をして話し出す。
「料理は肉を焦がしてアカメにクールに怒られました。掃除はゴミを全てひっくり返してブラートを困らせてしまいましたし、買い物は塩と砂糖を間違って買ってきてレオーネに笑われました」
「わぁお...」
天然だ天然だとは思っていたがここまでだったとは...ある意味ナイトレイド最強ってシェーレじゃないのか?
「それに洗濯は間違ってマインと一緒に洗ってしまいました」
「おし、それはナイス。よくやったシェーレ」
タツミは笑顔でシェーレに親指を立てた。シェーレは首を傾げているが、深くは言わないでおこう。
しかしシェーレは、何故この稼業に入ったのだろうか?失礼だが少し似合わないような気がする。気になりタツミはシェーレに何故暗殺稼業をやり始めたのかを聞いた。
聞くとそれは散々なものだった。
シェーレは帝都の下町で育ったらしい。が、その不器用から周りからいつもバカにされていたらしい。
そんなシェーレにも、たった一人仲の良い友達がいたそうだ。だがある日、その友達の元彼が家に乗り込んでき彼女の首を絞めたそうだ。
なんでもフられた仕返しらしい。たまたまその子の家に遊びに来ていたシェーレは、首に手をかけた男を見て持っていたナイフで男の首を刺し、殺した。
その次の日にシェーレは数人の男に囲まれたらしい。なんでもあの男はギャングの下っ端だったらしく、それの報復に来たのだ。
「もう家族は殺したと言われたのにもかかわらず、私の頭はクリアでした。そして、持っていたナイフで襲ってきた男を皆殺しにしました。そこで思ったんです。私みたいにネジが外れているからこそ、殺しの才能がある...と」
聞いているだけで胸糞が悪くなる話だ。助けられた友達はもう二度と会うことはなかったらしいが、俺に言わせればそれは勝手だ。自分が助けてもらっておいてシェーレを見捨てるなんて...。そんなもの友達とは呼ばない。
「タツミ、そんなに怖い顔をしないでください。別に良いんですよ」
「な!?何が良いんだよ!!全然よくなんてないだろうが!!」
「いえ、いいんです。だって今こうしてタツミや、アカメや、それに他のみんなと一緒に居られるんですから!」
そういったシェーレの笑顔は、俺はきっと忘れることはないだろう。
それと同時に、やはり自分以外にもみんな色々と抱えているということがよくわかった。
そして、シェーレとの訓練が終わり部屋に戻る最中だった。
「ん?あれって...」
窓から見えたのは一人、ナイフを振るっているアリアの姿だ。遠目で見てもわかるくらいに肩で息をしていた。
タツミはすぐに下に降りていき、アリアがいる場所へと駆けていく。
「おい、アリア」
「!!タ、タツミ...ど、どうしたのこんな所で?」
アリアは手に持ったナイフを背に隠すようにそういった。
「お前こそ何してるんだよこんな所で」
「ちょ、ちょっといい天気だから日に当たろうかなって...」
「だったらその手に持ってるナイフはなんだ?」
アリアは声を詰まらして持っていたナイフを隠すのをやめる。よく見るとかなりの汗だ。きっとかなりの時間振り続けたのだろう。
「ちょっと手を貸してみろ」
「え?ちょっと!?」
タツミはアリアの手首を無理やり取って、自分の方に手のひらを向けさせた。見ると思った通り、豆がつぶれて血が滲んでいる。1時間そこらでできる傷ではなかった。
アリアは俺の手を振りほどき、再び手を隠す。その顔はかなり沈んでいた。
「どうしたんだアリア。なんでこんな...」
「別に...タツミには関係ないことでしょう?」
その言葉に少しカチンときた。
「関係ないわけがあるか!!こんな手になるまでどうして止めなかった!!」
「ッ!!」
初めてアリアに怒鳴り、アリアはそれに肩を震わせる。するとアリアの目からはポロポロと涙が溢れ出していた。
「...じゃない.....ッ!!しょうがないじゃない!!こうでもしないと私、タツミの...みんなの前に立てないんだから!!」
「な、何を言って...」
アリアは涙を流しながら声を荒げた。初めて聞くアリアの叫び声に俺もまた驚く。
「ここにいるみんなは、悪い人をやっつけて他の人を助けてる。なのに!私だけ!私だけが、ここでは何もしないでのうのうとみんなが帰ってくるのを待ってる!そんなのって卑怯じゃない!!タツミが、みんなが!必死に命をかけて戦ってるっていうのに!!」
「.....」
「私だってみんなと一緒に戦いたい!横に並びたい!!タツミはもうアカメさん達と横に並んで戦ってる!!なのに...なのに...」
アリアは膝をつき地面に向かって涙を落とす。
どうして気づいてやれなかった。何かサインがあったんじゃないのか?どうしてここまで思い詰めるまでほっておいた!!
その考えが脳内で駆け巡る。するとアリアは俺の顔を見て
「まただ...またタツミは自分の所為みたいな顔してる」
「!!」
「タツミは何も悪くないよ。悪いのは私。全部、弱いのも役立たずなのも!全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部!!私が何もできない所為なんだから!!」
違う。そうじゃない。アリアの所為じゃない。そう言いたかった。言ってやりかった。だけど、口が開かない。
「私が気づいてれば!お父様とお母様を止めていれば、タツミの幼馴染達は死ななかった!!そんなのーーー」
ーーー私が殺したようなものじゃない!!
その言葉を聞いた瞬間。俺はアリアの頬を叩いていた。アリアが何が起こったのかわからないようで、え?っと声を出す。
「さっきから黙って聞いてりゃ...そうじゃねぇだろ!!サヨも、イエヤスも!!死んだのはお前の所為じゃないだろうが!!」
「!!」
「自分が何もできない?自分は役立たずだ?その返答はこうだ。ふざけるな!!お前が役立たずのはずがねぇだろ!!」
「で、でも私は...」
アリアが何かを言おうとしたが、タツミはそれを遮るようにアリアの手首を掴んでアジトの中に無理やり連れて行った。アリアは抵抗するが、力でタツミに敵うわけもなかった。
そして、たどり着いたのは会議室の扉の前。しかしなぜか中には入らない。
「タツミは、何を...」
「黙って耳を澄ませろ」
そう言われ、アリアはドアの向こうに耳を澄ませる。すると、向こうでの話し声が聞こえた。
「ねぇ、アリアはこれからどうするの?」
なんと、話していたのはアリアの内容だ。アリアはそれがわかり、ドアの向こうに集中する。
「これから帝国との戦いも激しくなっていく。このままじゃ危険じゃないのか?」
声はブラートだろう。アリアはその声を聞き思う。やはり自分がこのままここにいるのは迷惑なんだ。アリアはその場から離れようと踵を返した時だった。
「ふむ。ならばアリアには悪いがこれからここで料理担当として働いてもらうってのは?」
『賛成!!』
(え?)
アリアはその言葉に驚いた。
「アリアにはかなりの心配をかけるかもしれない。だがーーー」
「俺はアリアちゃんの飯が食べれなくなるなんてゴメンだね!!」
「そうね。アリアの料理ってなんだか...暖かい?そういう感じがするのよね」
「うん。アリアの料理は最高だ。あんな美味しい肉は初めて食べた」
「そういえば今度、私に教えてくれるらしいんですよぉ?本当にいい子ですね」
「アリアがもうちょっと大人ならいい酒が飲めると思うんだけどなぁー。同じ大人の女性として?」
「それって、レオーネが酒を飲みたいだけだろ」
ドアの向こうから聞こえる笑い声に、アリアは戸惑いを隠せないでいた。何もできない自分にどうしてあそこまで言ってくれるのだ。
すると、タツミがそっと口を開く。
「戦うってさ、別に俺たちみたいに武器をとって敵を倒すことだけじゃないんだと俺は思う。それは、俺たちをサポートしてくれる人達も一緒に戦ってるんじゃないのか?」
「でも...私は」
「俺、前に言ったよな?俺に背中は任せるって。だからさ...アリアは俺を...ううん。俺たちを支えてくれないか?ほら、アカメって胃に重いものしか作らないからさ。絶対にいつか腹下す奴っているかもなんだよ」
タツミは冗談を言うように、笑って話をする。アリアはその言葉を聞いて、再び涙がポロポロと零れ落ちる。
今度は悲しい、悔しいという感情ではなかった。
「アリア、お前は必要だ。だってお前はーーーナイトレイドの一員だろう?」
「ッ!!タツミ....私、ここにいていいの?」
「もちろん。もしダメとかいう奴がいたら俺がぶん殴ってやる」
「私、戦えないよ?」
「なら、俺がお前を絶対に守ってやる」
「もしかしたら、今日みたいに変なことで泣くかもしれないよ?それでもーーー」
「それでも!」
タツミはアリアの言葉を遮ってアリアの肩を抱き寄せ言葉を放つ。
「俺は、お前を一人になんかしない」
「!!...うん。ありがとうタツミ」
ナイトレイドの一員の笑い声を背に感じながら、タツミとアリアは二人少しの間抱き寄せあっていたのだった。
いやぁ、アリアちゃんの独壇場でしたね!
いや、シェーレやクロメの話も出てるしそうでもないのかな?
まぁ、とにかくお疲れ様でした!
次回もお楽しみに〜