タツミが斬る!《赤と黒の鬼》   作:虎神

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オーガとガマル暗殺を実行したその夜。アジトにはアカメ、レオーネの姿はあったが、タツミの姿はなかった。

 

「遅いなタツミの奴....」

 

「まぁ、そういうなレオーネ。あいつの事だ、きっと上手くやれているさ」

 

ナジェンダはレオーネにそう言うが、内心かなり心配していた。いくら帝具を持っているからといって、絶対に勝てる見込みなどない。もしかしたら自分の判断不足ではなかったのか?と、悪いほうばかりに考えてしまう。

 

「そうだといいんだが...アカメ、心配か?」

 

「!!」

 

「さっきから肩が震えてるぞ。大丈夫か?」

 

「....ああ、問題ない。タツミは強いからな」

 

「そ、そうですよ!きっともう少ししたらお腹が空いたとか言って帰ってきます!」

 

アリアはなんとかこの空気を変えようと、自分も心配なのにもかかわらず無理に笑う。それがわかってか、ナジェンダ達はそうだなと言って少し笑う。

 

「しかしタツミの奴、殺す場所は自分が考えるとか言ってたがどこでやるつもりなんだろうな?」

 

「確かにな...メインストリートの裏路地とかに行けば簡単だと思うんだが」

 

と、ナジェンダとレオーネが話していた時だった。会議室のドアがガチャリと開きいた。

 

「ただいまです...あー、アリア腹減ったー」

 

『タツミ!』

 

「うお!?な、なんだ!!?」

 

急に自分の名前を一斉に言われ戸惑うタツミ。

 

「おかえりタツミ!ご飯すぐ用意するね!」

 

アリアは嬉しそうに厨房に向かって行った。何故こんなにテンションが高いのかいまいちわからないタツミは首をかしげる。

 

「よく帰ったなタツミ。その様子だと始末できたみたいだな」

 

「はい、オーガは殺しました。あと、あいつの今までの罪も全部暴露してきました」

 

「ん?お前どこで殺したんだ?」

 

「え?詰め所」

 

そのタツミの言葉に皆、は?と声が出る。

じゃあなんだコイツは詰め所であのオーガを殺してきたのか!!?

 

「お、お前どうやって....って、アカメどうした?」

 

すると急にアカメがタツミに向かって歩いて行く。そしていきなりタツミの服を脱がそうとした。

 

「てい」

 

「あう...」

 

タツミは間髪入れずに頭にチョップをお見舞いする。威力が少し高かったのか、アカメは自分の頭をさすりながら涙目でこちらを見る。

 

「何をする...」

 

「その言葉そっくりお前に返すよアカメ。いきなり何すんだ」

 

「....今まで強がって傷を報告せずに毒で死んだものも知っている。だからそれを確かめようとした」

 

ーーー!!

 

どうやらこいつも俺を心配してくれていたらしい。アカメには嫌われていると思っていたため、内心少し嬉しかった。同時に心配かけたのも悪いと思い、俺は上着のみ脱ぎ捨てる。

 

「!!」

 

「お前、その体...」

 

「あー、傷跡が多くて分かりにくいと思うが傷はおってないよ。だから安心してくれ。あ、それとこの傷跡についてはノーコメントで」

 

背中、腹、胸、そのすべてに大きな傷跡を見て三人は息を飲んだ。自分たちも今までいくつもの生傷や傷跡を見てきた。訓練に失敗した者、危険種にやられた者。それは様々だったが、この歳でここまでの大きく多い古傷は見たことがなかった。

いったいどんな生活を送ったらそうなるのかと思ったが、タツミが聞かないでくれと言ったので胸の中にしまいこむ。

 

「...すまない。見せたくない傷だったか?」

 

「ん?まぁ気にするな。確かに背中の傷とかは剣を使ってる者としては見られたくないが、俺を心配してくれての事なら別にいいよ。ありがとなアカメ。お前が俺に厳しくしてたのは俺を心配してくれてたんだよな...それなのに俺...」

 

「いや、別にいいさ。初めての暗殺は死亡率が高い。よく生還してくれたなタツミ」

 

その初めて見るアカメの笑顔に思わず見惚れる。

ああなんだーーー

 

「笑えば可愛いじゃないか」

 

「え...」

 

「「ほぉ...」」

 

あ、声に出てた。

 

「あ、いや...その...ありがとう」

 

「え、あ、ああ。ごめんいきなり...と、とにかくこれからよろしく..」

 

といいかけたその時だ。部屋の隅から何かを落としたような音が聞こえそちらを見る。するとそこには持っていた料理をひっくり返したアリアの姿があった。

 

「タ、タツミ...じょ、上半身裸で...しかもアカメさんに手を出して」

 

「は?」

 

「な、ち、違うぞアリア!私とタツミは別に...」

 

『笑えば可愛いじゃないか』その言葉がアカメの脳裏に浮かび、再び顔を赤く染める。しかし、それがトドメだった。

アリアはタツミに俯いたまま近づき、持っていたおぼんを上に掲げた。

 

「お、おい?ア、アリアさん?」

 

「タツミのーーー馬鹿!!」

 

その腰の入ったおぼんの一閃は、タツミの頭に入り込んだ。まるでドゴンッという音がなるほどのその威力は、タツミの意識を奪うのに十分な威力だった。

 

(なんでアリアが怒るんだ....)

 

最後まで女心が分からないタツミだった。

 

ーーー翌日

 

「ほら、タツミ!次はこっちよ!」

 

「オイコラ...ちょっとは荷物もて馬鹿マイン...」

 

「嫌よ。あんた女の子に荷物持たせるとか最低よ?」

 

その言葉と態度に持っていた荷物全部背後から投げつけてやろうかと一瞬思ったが、ため息をひとつつくとゆっくり前を歩くマインの後を追っていく。

現在、俺とマインは帝都にて市勢調査という名のショッピングに来ていた。

 

「ほら早く!」

 

「うぃーい...」

 

さて、どうしてこのようなことになったかといえば、それは今日の朝に時間が戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことで今日はマインの下についてもらう」

 

「ちょ、ボス!なんでアタシがこいつと!!」

 

今朝、何故か目が覚めたら自分のベットに寝ていた。というか昨日のオーガを殺してからの記憶がない。アリアは俺だけ何故か飯の量が少なかったり、アカメは俺の顔を見るなりそそくさと踵を裏返す。

ボスとレオーネは何か知っているような雰囲気だったが

 

「何も知らない方がいい時もあるんだぞタツミ」

 

と言われ教えてくれない。二人の顔を見ると何故かニヤニヤとしているので余計気になる。

と、その話は置いておこう。ということで朝食が終わり、俺はマインとともに帝都の調査をお願いされた。マインはかなり不満そうだったが、しぶしぶといった感じで了承したのだった。

 

まぁ、そこからは先ほどと同じだ。

もはや調査はなくするにはショッピングのみ。しかしすごく楽しそうにするマインの顔を見ると強くは言えなかった。

 

「あんた、意外に何も言わないわね。何か文句で持ってくるかと思ったのに」

 

「別に一応これってボスなりの配慮だろ?オフの時くらいゆっくりしてもいいと思うしな」

 

「ふーん、わかってるじゃない」

 

マインは指名手配されていなく、好きなように帝都内を動き回れるらしい。ボス、アカメ、シェーレ、兄貴は指名手配になっていた...が、その時見てしまった。

それは兄貴の指名手配の絵だ。載っていたのは超絶イケメンな男。マインいわくナイトレイドに入ってからイメチェンしたらしい。今世紀最大のビフォーアフターだ。

 

「あんたも服くらい買いなさいよ。それくらいのお金は持ってるでしょ?」

 

「んー、そうだな。俺も上着数着買うことにするよ」

 

そう言って街を歩いていた時だった。何か騒がしい人混みを見つけ少し見てみる。だが、そこにあったのは最悪なものだった。

手や足はもがれ、胸には鉄の杭が刺さり貼り付け状態。その光景がいくつもそこにあった。

 

「な..んだよ..これ」

 

「帝国の逆らった人間の公開処刑よ。帝都ではよくあることだわ」

 

そのマインの言葉に更に歯を噛み締める力が強くなる。これが人間のやる事か?いや、こんな事を出来る奴は人間じゃない。

 

「ああいうことを簡単にするのが大臣よ。ーーーアタシは絶対にああならない。勝ち組になってやる」

 

その強い決意が自分まで伝わり言葉を失う。きっと、マインもかなりの人生を歩んできたのだろう。

俺たちはその場を離れ、もう少しだけ買い物をした後アジトに帰って行ったのだった。

 

その夜、ボスから新しい任務が入った。

標的は大臣の遠縁にあたる男、イヲカル。大臣の名を利用し女性を拉致しては死ぬまで暴行を与える外道。

そしてその蜜を吸っている傭兵五人も同じく有罪だ。

 

「重要な任務だ。全員でかかれ!!」

 

ということだそうだが...

 

「マインここから当たるのか?」

 

「アタシを誰だと思っているのよ。私は射撃の天才よ?」

 

タツミとマインはイヲカルの屋敷の前の林の中で待機。マインが言うには屋敷から出てきたところを撃ち抜くらしい。

そして、ついにその時が来た。

 

「うわぁ、あんなに女性をはびらせて楽しいか?でも、かなりの人だな...マインいけ..」

 

いけるかと聞こうとしたが、マインの凄まじい集中力で言葉を切った。どうやら愚問だったようだ。

マインは一呼吸を置き、パンプキンの引き金を引いた。銃口から発射された細いレーザーは、真っ直ぐにイヲカルの額に吸い込まれていきーーー

 

ーーー貫いた

 

それを見て思わず口笛を吹いてしまう。

 

「言ったでしょ?アタシはーーー射撃の天才だって」

 

その言葉に思わず俺は肯定するように笑ったのだった。

そして今頃、イヲカルを殺した刺客を殺そうと傭兵達はやけになっているだろう。しかし、そちらはアカメ達がどうにかしてくれるらしい。

あと、俺たちの任務は合流地点である場所に向かうだけだ。

 

「敵は全滅したかな?」

 

「相手は皇拳寺で修行してきた連中よ。そう簡単には終わらないかもね」

 

「帝国一の拳法寺か。大臣に縁者ともなると護衛のレベルも上がってくるな」

 

「権力に物を言わしているだけよ。アタシ、そういうのが一番嫌いなの」

 

深く、低い声でマインはそう言った。すると、マインが自分の過去の事を話し始めた。

 

「アタシは西国境付近の出身でさ、異民族とのハーフなのよ。そのせいで街では差別されていて、誰一人アタシを認めてはくれなかった。本当に悲惨な子供時代だったわ」

 

その話に思わず手に力がはいる。異民族だとか関係なく、同じ人間なのにどうしてここまでの差が開く。

 

「でもね...革命軍は西の異民族と同盟を結んでいるの。新国家になれば国交が開き、アタシみたいな子は苦しまなくてすむ。もう二度とーーー差別なんてさせやしない!」

 

マインのその強い意志に何も言えなくなるタツミ。なんて強くて硬い意志だ。そう思うと、この目の間の少女がどれだけ強い子なのかよくわかった。

 

「マインは優しいな」

 

「なっ!...べ、別にそんなんじゃないわよ。ほ、ほら!もうちょっとで合流地点だから急ぐわよ」

 

マインは赤くなった顔を隠すように、歩くスピードを上げたのだった。そしてたどり着いたには、一本だけポツンと咲く大きな桜の木だった。

 

「さて、任務達成ね」

 

「報告するまでが任務だぞ....ッ!!危ない!!」

 

瞬間、タツミはマインを横に押し出す。すると、タツミは横から凄まじい衝撃に襲われ地を転がった。

 

「タツミ!!」

 

「おうおう、さすが十年前は師範代。俺の勘は冴えてるねぇ」

 

そう言った男は、手のひらをブラブラとさせながらマインを見つめた。マインは少し距離を取り銃を構える。

 

「それは、身分が落ちたものね!!」

 

マインは容赦なくその男に銃撃を浴びせる。が、それを男は避けマインに近づく。

 

「なっ!?」

 

「悪さして破門されちまってね。さて、生きたまま大臣に差し出す。覚悟しろよ」

 

と、その時だった。男の背後から凄まじい殺気が飛ぶ。男はそれを瞬時に感じとりマインから横に距離をとった。

 

(な、なんだ今の殺気は!?俺が飛び退くほどの殺気を出せる奴なんて...)

 

尋常じゃないほどのその殺気を肌で感じ、冷や汗が止まらない。そして、そこに立っていたのは先ほど自分が吹き飛ばした少年だった。

 

「タツミ!大丈夫!?」

 

「.....ああ。マインは援護を頼む」

 

少年...タツミはそういうと黒い剣を逆手に持って男に向かって走った。

 

ーーー速い!!

 

タツミの一閃をなんとか躱す男だが、あとから来た銃撃に頬をかすめる。自分が寺にいた時にでも、ここまでのスピードを出せるものはほとんどいなかった。

 

「黒鬼、解放」

 

タツミがそう言った次の瞬間、タツミの持っていた剣が黒い渦を巻きながら形が刀に変わっていく。その刀からは禍々しいほどの闇がまとわりついており、見るものすべてに恐怖を与えた。

 

「いくぞ...」

 

「ッ!!殺られてたまるか!!」

 

タツミの突撃になんとか合わせる男、振るわれた刀の斬撃をなんとか受け流そうとするがーー

 

(コイツ!さっきのが本気じゃなかったのか!!)

 

先ほどの剣の速度とは全く別次元の速さだった。右から、左からと高速の斬撃は男の体に傷をつけていく。まるで速度に追いついていない。

 

(一旦距離を!!)

 

そう考え、男は全力で後ろに飛んだ。しかし、忘れていた。

 

「グフォ!?」

 

離れた瞬間、自分の腹に穴が開く。その先を見ると、銃をこちらに向けたマインの姿があった。男は穴の空いた腹を隠すように、血を流しながら地面に倒れていったのだった。

 

「ふぅ...マイン、ナイスショット!」

 

「え、ええ。ま、私にかかればこんなものよ!」

 

すると、先ほどまでの雰囲気はどこにいったのか、タツミは笑顔でマインにそう言った。マインはその変わりように戸惑うが、なんとか言葉を返す。

 

(コイツ、まだ全然余裕があった)

 

マインは笑うタツミを見ながら考える。先ほどの攻撃、まるで自分にとどめをさせるかのように誘導しているように見えた。アカメ並みの剣速であそこまで追い詰めていたのならば、きっととどめも自分でさせたはずなのだがーーー

 

「いやぁ、やっぱり強いな。さすがマインだぜ!」

 

(ま、気のせいか)

 

そのあと、自分たちを心配してかアカメとレオーネが駆けつけてくれた。二人は無事なアタシ達を見て安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、愉快愉快。帝具使いに、殺し屋。どうやら帝都は最高に過ごしやすい場所のようだ」

 

 

 

 

 

 

 


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