ーーー次の日の朝
トントンとまな板を叩く音が聞こえる。タツミは起きたばかりの体を持ち上げ、その音の鳴る方へ歩いて行った。
そして、そこにはエプロンを着た金髪の少女の後ろ姿。アリアだ。
「アリア、おはよう」
「うきゃ!?って、タツミか...脅かさないでよ」
別に脅かした気はなかったが、とりあえず謝る。見ると作っているのは朝食のようだった。アリアは慣れた手つきで食材を切っていく。
「そういえば昨日もみんなの飯を作ってたな。料理好きなのか?」
「うん、まぁね。それに今ここで私ができることってこのくらいだしね」
そう言うと、少し暗い顔をするアリア。タツミはそれを見て、アリアの頭を撫でる。アリアはビクッと少しおどろくが無理にどこうとはしなかった。
「さて、俺も少し手伝うよ。こっちに食材切ればいいか?」
「あ、うん。....タツミ」
「なんだ?」
「ありがと、タツミがいなかったら私ここにいなかったから」
アリアの今までで一番の笑顔に、俺自身も頬を緩めるのだった。
そして、時刻は7時をまわった頃。各メンバーがそれぞれ集まってくる。
「おーう、おはようタツミ、アリア。早いな」
「おはようレオーネ。ん?でも、呼び捨てはあれだから姐さんとか読んだそうがいいか?」
「あっはっは!別にどっちでもいいよ。って、お!飯もう出来てんじゃん!!アカメ仕事とられたな!!」
「....つまみ食い」
おい、今つまみ食いって言ったぞコイツ。アカメはどうやら炊事担当らしいが、何故なったか疑わしいな。
そして、ボスとマインとシェーレ以外の人間が揃い椅子に座った。
「では」
『いただきまーす!!』
各自食べたいものを大皿からとって口に運ぶ。
「うっま!やっぱりアリアちゃんの料理最高だな!絶対いいお嫁さんになれるぜ!」
「うわぁー、ラバが口説いてる。でも、本当においしいよ。な?アカメ」
「フガフガッ!!」
「聞いてねぇーし...」
アカメは用意した骨付肉を口いっぱいに放り込んでいた。その姿はまるでリスを思い浮かばせる。
「そういえばタツミは、昨日アカメの下に付けって言われてたっけか?俺たちは依頼で殺しに行くが」
ブラートの言葉に、昨日の事を思い出す。
あの俺の帝具暴露から、とりあえず明日はアカメと共に行動するようにボスから言われた。帝具の事についてはボスの方でどうやら調べてくれるらしく、こっちは気にしなくていいらしい。
「なら、今日俺とアリアはアカメと行動するってことか?」
「まぁ、そう言うことだろうよ」
「アカメちゃんは今日なにすんの?」
ラバの問いに、アカメは口の中にあった食べ物を飲み込む。
「今日は食料調達のために山奥に行くつもりだ」
こんだけ食ったのにまだ飯の話をするか。
結構な量を作ったはずにもかかわらず、皿にはほとんどの料理がなくなっていた。そのあと、マインとシェーレが来たが、皿の上を見てうなされたのだった。
シェーレごめん。マインはざぁまぁw
「さて、行くか」
「「はぁーい」」
アカメを先頭に、タツミ達は背に籠を背負って山道を歩いて行く。アリアの籠は俺たちより小さく、主に山菜などを入れることになっていた。
「あ、これ食べれるかな?」
「...それはアオイグサ。食べたら三日三晩吐き気が止まらなくなるぞ」
「え....じゃ、じゃあこれは?」
「クサレソウ、めまいや吐き気を起こす」
「き、こんなに綺麗な花なのに....」
「いや、そもそもの話。花を食べるのか?」
道中に見つけた草や花をアリアが指差すが、そのほとんどが害のあるものであった。アカメは、こんなに毒草を見つけるのは才能だ。と、言っていたが絶対に嬉しくないだろう。
そして、俺たちはどんどん奥へと進んでいきある水場についた。
「川の獲物を捕る」
「まさか全裸で!?」
「ええぇ!?」
アカメは自分の服に手をかけそれを脱いだ。アリアは俺の目を隠すが、すぐにそれを外してくれた。
どうやらアカメは下に水着を着ていたようで、そのまま水場に飛び込む。と、次の瞬間。
「「え?」」
大量の魚が自分たちに向かって投げ込まれた。
「あぶなっ!?...これってコウガマグロ」
「あの警戒心が強いで有名な?凄い、もうこんなにいっぱい...」
コウガマグロは警戒心が強く、結構なレア魚だ。アカメは地上に息を吸いにきてお前も来いといった。
「気配を断って、獲物が通り過ぎた瞬間襲う。慣れれば簡単だぞ?」
「いや、そうは言っても....俺、水着持って来てないし。アリアは?」
そう聞くともちろん首を横に振るアリア。最初に説明くらいしとけよアカメさん...。
タツミはため息をひとつつくと、水が手で触れるところまで降りていく。
「タツミ?なにしてるの?」
「まぁ、見とけって....」
タツミは静かに手を水につける。そしてジッとそのまま動かなくなる。それを見ていたアカメとアリアは首をかしげるが、次の瞬間ドゴンッとタツミが触っていた水場が破裂した。
すると、浮かんできたは十匹程度のコウガマグロだった。
「!!」
「え!?ど、どうして...」
「振動だよ。なにもないところから強烈な振動を水全体に与えると、魚達はそれにビックリして気絶するんだ。しかも、コウガマグロならなおのことな。あ、アカメ!それくらいで足りるか?」
「あ、ああ」
アカメはそう言うと、浮かんでいるコウガマグロを全て回収したのだった。
「って、感じでした」
「「あはははは!!」」
夜。どうやら任務に向かった奴は帰ってきていないらしく、いるのはボス、レオーネ、アカメ、アリアそして自分の5名だった。
机の上にはコウガマグロを使った料理が並んでいる。
「いやぁ、凄いな!振動でコウガマグロ取るとか初めて聞いたぞ。さすが私が見込んだ奴だ!」
「ちょ、レオーネ!!当たってる!!当たってるから!!」
「えぇ〜なにが〜タツミ〜?」
レオーネはタツミの頭を胸の前で抱きしめる。それに何故かアリアが怒っているように見えたが、きっと気のせいだろう。
「ふっ....さて、レオーネ。数日前、帝都で受けた依頼を話してくれ」
そのボスの言葉にレオーネは真剣な顔になる。依頼、つまりは暗殺の仕事のことだった。
「標的は、帝都警備隊のオーガと油屋のガマルって奴だ。内容はガマルが悪事を働くたびに、オーガがそれを隠蔽。代理の犯罪者をでっち上げ死罪にするって言うもんだ。依頼主は、その濡れ衣で殺された男の婚約者」
「ひどい...そんな」
「警備隊って人を守るのが仕事じゃねぇのかよ。にも関わらずんなこと...」
聞いているだけでもムカつく話だ。つくづくこの国は腐っていることを実感させられる。
「そして、これがその依頼金だ」
レオーネはドサリと大きな袋に入ったお金を机に置いた。中を見るとかなりの量だ。とても普通の仕事をして稼げる金額じゃない。
「性病の匂いがした。体を売り続けて作ったんだろう」
「!!」
「事実確認は?」
「ああ、有罪だ。ガマルの家の屋根裏から話は聞いた」
そうかとボスは吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。
「ナイトレイドはこの依頼を引き受ける。こんなクズどもは新しい国にはいらん。天罰を下してやろう」
「しかしどうする?ガマルを殺るのは簡単だが、オーガの方はいつも兵を側に数人置いているらしい。非番の日と言っても、役目柄詰め所を離れすぎるのもダメだからメインストリート近くの酒場で飲んでるって情報だ」
「マイン達はいつ帰ってくる」
「わからん。しかも殺すのならば同時に殺したいところだ。もし先に片方が死ねば警戒される恐れがある」
「うーん...だったらーー」
レオーネが頭を抱えたその時だ。
「俺がオーガを殺す」
「ほぉ....」
「アカメとレオーネはガマルの方を頼む。アカメの方は指名手配されてるからメインストリート出歩くよりもいいだろう」
その意見に納得するボス。レオーネもよく言ったと肩を叩くが、そのタツミの様子にアリアだけが気づいていた。
(なんだかタツミ...怖い)
まるで親の仇を恨むように...いや、そんなものじゃないほどの殺気とはまた別の恐ろしさに誰も気づかなかったのだ。
「お前にはまだ早...」
「だったら何か?今もなお濡れ衣で死ぬかもしれない人間を見逃すか?そんなのはもうごめんだ。俺はーーー今、目の前にある命に貪欲に食らいつく」
「そうか、タツミ。お前の決意はよくわかった。ではオーガを消せ」
「了解。あ、なら殺す場所については俺が決めるがいいか?」
『?』
帝都警備隊、詰め所ーーー
(あぁ、こないだの殺った奴。婚約者がいたのか〜こりゃこっちも殺しとけばよかったな)
先日、殺した男のプロフィールを見ながら、オーガは自分に用意された椅子にふんぞり返っていた。ここは自分の城で、自分の国。何者も俺の前では無意味だ。その権力という名の武器を思い浮かべ。ククッと少し笑っているとコンコンとドアがノックされた。
「あぁ?入れ」
「はい、失礼します!」
入ってきたのはここ最近この隊に入ってきた男だった。なんでも酒と女が大好物らしく、俺自身気に入っている人間だ。
しかし今日は何故かローブのようなものを着込んでいるため顔しか見えない。
「おう、どうしたそんなもん着て」
「じ、実は少し風邪をひいてしまい少し肌寒いのです」
「ガハハハ!!なんだそりゃ!また、遅くまで女と裸でパーティーでもしてたのか?まぁ、いい座れ」
オーガは用意されていた椅子に座るように男に命令する。
「で、なんのようだ?言っとくが女は紹介しねぇぞ?」
「オーガ隊長よりもモテますから大丈夫ですよ」
「おぉ?言うようになったじゃねぇーか」
再び豪快な笑い声を上げるオーガ。すると男は冗談ですと言いながら、本題に入った。
「実は昨日、夜見回りをしていたときなんですが...隊長の行きつけの酒場があるじゃないですか?」
「ああ、俺はいつもあそこで飲んでるな」
「はい、俺昨日あそこであの指名手配犯アカメらしき人間を見たんですよ!」
その言葉に思わず目を見開くオーガ。考えられるのはこないだの婚約者。もしかしたらソイツがナイトレイドに依頼したにかもしれない。
だとしたら、狙われているには自分の命。
(ッチ、やっぱりあの時殺しとけばよかったな)
「一応隊長の耳に入れておいたほうがいいと思いまして」
「ああ、わかった。そいつは助かる...」
「あ!あと一つ!!」
男は何かを思い出したかのように懐から封筒を一つ取り出した。
「なんだそりゃ?」
「実はここに来る前にその酒場の主人から手紙を預かっておりまして...なんでも中を見ればオーガ隊長はわかるとか言っていました。自分は見るなと言われましたが...」
あの酒場の主人は、よく俺に女を紹介してくれる。きっとそのことだろう。しかしコイツにも見せないとなるとかなりの上物が入ったってことか?
俺はその封筒を貰う為にこっちに渡せと言い、男はそれを持ってくる。
「はい、ではどうぞ!」
「ああ、悪いな...」
今度、女紹介するといいかけた時だった。声が出ない。自分の喉から音がでず、出るのはヒューと空気の音だけだ。
そして、自分の喉を手で触ってみる。そこにはベットリと赤いものがついていた。これは...血だ。
「ッガ....」
「あーあ、叫ばれると面倒だから喉を潰さしてもらったぞ」
何を言っているんだこいつは。そう思ったが、目の前の男の手には血がこべりついていた。いや、そんなことはどうでもいい。それよりもその男の右腕は、黒くまるで危険種のような異形の腕になっていた。
俺はすぐさま剣を抜こうとするが、
「無駄」
「!!?」
剣を取ろうとした右腕に強烈な痛みが走る。見ればその異形の手によって、自分の右腕はあってはならない方向にひん曲がっていた。
「こんなもんじゃねぇぞ。お前がその手で、その力で!殺してきた人たちの痛みは!!」
「ーーーー!!」
なんだ、この目の前の生物は!?本当に人間なのか!!?
「でも、長居する気もないんでな。...これで終わりにしよう」
一閃、俺の首に手が振るわれた。喉からは血が大量に噴出し俺の意識は消えていったのだった。
あー、終わった終わった。そして俺は自分の変装を解く。これは俺の帝具、神鬼闇纏【黒鬼】の能力のうちのひとつ変化。
変化したい対象に触ることでその人物の顔と声になれる。しかし、なれるのは顔だけで、身長や体つきなどは変えれない。俺は事前に見つけ出した自分と体格の似た警備隊になりすましていたのだ。そのため、何も疑われることなくこの場に入り込めた。
「さて、さっさとやりますか」
そう言って死んだオーガの机を物色し始める。やることは簡単、ただこのクズのやってきたことを公開するだけだ。
俺は部屋を漁って見つけた被害者たちのプロフィールをまとめ、オーガの机に上に置いた。
「じゃあな、来世があったらまた会おう。そん時は善人になってるよう願っておくぜ?」
俺はそう言い残して窓から飛び降りたのだった。