会議室。タツミとアリアはナイトレイドのメンバーに囲まれるようにそこに立っていた。
「なるほど事情は全て把握した。で、タツミ。ナイトレイドに加わる気はないのか?もちろん、アリアもだ」
「断ったらあの世行きなんでしょ?」
二人の目の前に座っているナイトレイドのボス、ナジェンダの問いに答えるタツミ。
「いや、それはない...が、これからは我々の工房の作業員になってもらう」
「あ、あの...」
するとアリアがおそるおそる手を上げる。
「わ、私はタツミみたいに強くないから...ここに入っても何もできない...」
「それならさっき言ったように作業員として働いてもらうさ。それに君の場合、これから先の事もある」
そう。アリアの場合はもう行くところがないのだ。それに、言葉は悪いが何も知らず平和に暮らしてこれた彼女の事だ。いきなり一人で帝都に出しても餓死するのが関の山だろう。
「とにかく、別にこの話を断った所で死にはしない。どうする?」
「...この国の腐り具合は短い時間だったがわかった。俺の村みたいなとこが苦しんでいるって事も帝都のせいだってもわかる。でも....」
どれだけ殺した所で、どれだけ命を散らした所で、そんな程度では話にはならないことを俺は知っている。
そして最後には...全部失う。
「....そんなチマチマしていて国が変わるかと聞きたいんだな?」
「ああ、結局はどんな事をしたってその程度じゃ...何も救えない」
「ふっ、ならなおのことピッタリじゃないか」
どういう事だと聞くと
帝都のはるか南には反帝国勢力がある革命軍のアジトがあるそうだ。
最初は小さかったらしいが、今はかなり大規模な組織に成っているらしく
「そして、その中での日の当たらない仕事をこなす部隊がーーー私達ナイトレイドだ」
「...で、最終目標は?」
「帝都を潰し新しい国を作る。そしてその為にはまず、この国の腐敗の元凶ーー大臣をこの手で討つ!」
まだ何の事かもわからない。どうやりたいかも、彼女達の部隊のことも....それでも
「その新しい国ってのは、民にももちろん優しいんだろうな?」
「ああ」
「す、凄いですね。それってつまり正義の殺し屋って事じゃないですか!」
『....ップ、アハハハハハハハハ!!』
アリアが何かを思いついたようにそういった。すると、部屋が笑いの渦に包まれる。
「え、な、何かおかしな事言った!?た、タツミ〜」
アリアは訳が分からず、タツミに助けを求めた。
「はぁ、そうだな。アリア教えといてやる。たとえどんな大義名分を唱えてもやってる事は、殺しなんだよ。そこに善何てもんは存在しない。ここにいる全員がいつ何処で死んでもおかしくないって事だ」
「お、わかってんじゃねぇかタツミ!」
「そういう事。で、どうすんのあんたら?入るの?入らないの?」
「俺はーーー入る。俺をナイトレイドに入れてくれ」
タツミは決意したように腰に付けてあった剣を目の前に突き出す。アリアも横で私も入ると言っている。
「もう村には大手を振って帰れないぞ?」
「ああ、わかってる。それでも...俺は今、目の前の人間を助ける」
きっと、今度こそ。何も手から失わない為に...その為に俺は強くなったんだ。サヨやイエヤスのようには絶対にさせない!!
「そうか、ならば決まりだな。ようこそ修羅の道へ。タツミ、アリア。....で、アリアの処遇だがーーー」
ナジェンダがそう言おうとしたその時だった。緑髪の少年、ラバックが言葉を遮る。見ると手につけてある糸のようなものがグルグルと回っていた。
「侵入者だナジェンダさん!!数はおそらく8人!!」
「そうか。ここを突き止めたとなるとかなりの手練れだな。では、アリア以外緊急出動だ。一人たりとも生きて返すな」
こうして俺の早すぎる初陣が決まったのだった。
「ブラートさん!」
「おぉ!タツミじゃねぇか、一緒にくるか?」
アジトのすぐそばの森の中、俺はブラートさんと共に駆け抜けいていた。
「ハイ!よろしくお願いします!!」
「おう、いい返事だ!!俺の事はハンサムか兄貴って呼びな!」
「ハイ!兄貴!!」
「おぉう!いい感じだ!!」
あ、この人結構面白い人だ。それに実力もかなりのものだろう。体に纏う雰囲気で分かった。
「んじゃ、そんなお前にいいものを見せてやる!!ちょっと離れとけ...」
ブラートはいきなり立ち止まり息を吸い込んだ。
「インクルシオォォォオオオオオ!!」
その叫び声と同時に、ブラートの背後から龍のようなものが現れる。そしてそれは、ブラートを飲み込むかのように見に張り付いていった。凄まじい風が吹き荒れた後、そこに立っていたのは銀色の鎧を着たブラートだった。
「か、かっけぇ!!」
「だろ!これは帝具インクルシオ」
「帝具...なんかわかんないけどカッケェな!!燃えるというかなんというか!!」
きっとこれは男にしかわからない気持ちだろう。ブラートさんは俺のその言葉に喜ぶようにポージングしてくれる。
っと、こんな事してる場合じゃないな。ブラートさんも目的を思い出したようにポージングをやめる。
「フゥ、ではそんなお前に重要な任務を言い渡す!!」
「オッス!!」
って、返事したのはいいがーーー
「暇だ」
現在、俺は草むらに隠れて敵の逃亡ルートの可能性が高い場所を見張っていた。兄貴いわく最悪足止めでもいいだそうだ。
(優しいな。俺が人殺しが出来ないと思ってくれているんだろう)
本当に少し...優しすぎる。俺はそんな優しくされるような人間じゃないんだから。
っと、その時人の気配が近づいてきた。
「!!」
「あ、見つかったか....」
草むらから出てきたのは、生き物の毛皮をかぶった人間だった。きっとどこかの民族衣装だろう。
「ッチ!こんなとこにも人を見てやがったのか!いくら少年とても手加減せんぞ」
男は剣を抜刀し構える。俺もそれを見て腰の赤い剣を左手で掴む。
瞬間、男が剣を振りかぶった。
「うぉぉぉおおおお!!」
「.....」
ガキンッと金属がぶつかる音が鳴る。男は攻撃を休まず、2度、3度と斬りつける...が、タツミには一切当たらない。
(つ、強い!こんな小さな体のどこにこんな力が!!)
先ほどから自分は斬りかかってはいるが、弾き返されるのも自分だった。男はジリジリと間を詰めていく。
だが、次はタツミが動いた。だが、男にはーー
「消えっ...グハァ!?」
その姿は見えなかった。腹に強い衝撃が送られ息がつまる。蹴られた。そう理解するのに数秒かかった。
全く見えなかった。目の前にいたはずなのに、気づけば懐だ。
それはもう、誰の目から見てもわかっていた。
(格が違う!!)
それでも...
「俺は...死なねぇ!!一族の為に!!」
「ッ!!あんたもか....分かった。だったら戦士として、本気でやってやる」
瞬間、タツミの殺気が何倍にも膨れ上がる。もはや常人では立っているのでさえ困難だろう。それでもこの男が立っているのは、本当に気合のみだ。
タツミは持っていた剣を地面に突き刺した。
「ウオォォォオオオオ!!」
「ーーー赤鬼」
真っ赤な風。それが自分の体を通っていくのを感じた。見ると自分の半分がない。
ああ、最後の最後で君のような少年と戦えてよかった。男は少し微笑みながら命を散らした。
男を斬った後、背後から気配がした。
「....アカメか」
「うん...それ、
「...とりあえず戻ろう。その時に話す」
そう言って俺は腰に自分の武器を戻す。その時には、それは刀から直剣へと変わっていた。その後、兄貴が走ってきてくれたがアカメがもう済んだとバッサリ切ったのだった。
「おかえりなさいタツミ!怪我はなかった?」
「ああ、ただいまアリア」
アジトに戻ると、アリアが凄まじい量の料理を並べていた。すでにレオーネとアカメはそれを食っている。その後他の皆も食事をしていった。
「うっま!?なんだこれ!!アカメちゃんのより美味しい!!」
「む、失礼な...。でも、美味しい...肉」
「でも、本当に美味しいですね」
どうやらアリアの料理は大絶賛だったようだった。するとナジェンダがタツミに近づく。
「初陣ご苦労、どうだった?」
「はい、なんとか...それよりもボス。それにみんな話したいことというか聞きたいことがあるんだ」
「お、なんだなんだ?お姉さんが全部答えたるぞ〜」
もう出来上がっているレオーネは置いといて、俺は腰に付けたあった自分の二本の黒と赤の剣を取り出した。
「俺に帝具っていうのを教えて欲しい」
『!!』
「おそらく俺のこれは...兄貴が持ってるインクルシオと同じ帝具だ」
「っな...」
それにはナジェンダや周りの仲間も息を飲んだ。わかってないのはアリアだけだ。
「いったいどういうことだよ!?帝具は一人ひとつしか持てないんじゃ...」
「いや、そうでもない。ただひとつの帝具を使うだけで体力、共に精神力もかなり使う。だからこそひとつだけと決めてはいるが...二つ持てない道理はない。しかしタツミ、なぜこれが帝具だと思う?悪いが私は見たことがない」
ナジェンダにそう言われ、俺は二本の剣を構えた。
「
次の瞬間、直剣だった二本の剣が赤と黒の刀に変わった。鞘も刀のに変わっている。それを見たメンバーは全員言葉を失った。
それもそのはず。今この少年は、
(これは...っふ、どうやらレオーネ達の拾い物は原石の塊だったようだな)
「分かった、帝具について簡単に教えてやろう」
帝具
それは千年前、大帝国を作った始皇帝は悩んでいた。
国を永遠に守りたい、だが自分はいずれ死ぬ。ならば武器や防具ならば後世に残せると考えた始皇帝は、叡智を結集させた兵器を作った。
伝説とまで言われた超級危険種の素材にオリハルコンなどのレアメタル。世界各地から呼び寄せた最高の職人。
そしてその結果作り出された48の兵器。それを帝具といった。
帝具の力はまさに一騎当千。帝具を貸し与えられた臣下達はより大きな戦果をあげれるようになった。
が、しかし。五百年前の大規模な反乱により、その半分は各地に姿を消した。
「そしてアカメ達が持っている武器もそうだ」
アカメの帝具
刀型の帝具。これに斬られれば傷口から呪毒が周りやがて死に至る。解毒方法はない。
レオーネの帝具
ベルト型の帝具で己自身を獣化し身体能力、治癒能力を向上させる。嗅覚なども強化。
マインの帝具
精神エネルギーを衝撃波として撃ちだす銃型の帝具。その威力は使用者がピンチになればなるほど上がる。
ブラートの帝具
鉄壁の防御力を誇る鎧型の帝具。しかし使用者にかなりの負担がかかるため、並の人間が使えば死に至る。
ラバックの帝具
強靭な糸の帝具。罠や敵を察知するのにも使うことができる。また、拘束・切断も可能な異名通りの千変万化
シェーレの帝具
大型鋏の帝具。世界のどんなものも両断できるもの。その強度さにより防御にも使用可能。
「そして、帝具には奥の手というものが存在する。そして、最後に...もしも帝具同士が戦えば、必ずどちらが死ぬ。と、まぁこんなものだ。あとはアジトにある本でも読んでくれ」
ナジェンダの長い説明が終わり、俺は礼を言った。
「ではタツミの帝具は刀型と考えていいのですか?」
「私も見たことがないからな...それはなんとも」
「俺のこれは刀であり刀じゃないぞ」
そう言うと皆さらに頭にハテナを浮かべた。俺はそれを見せるように刀になった黒鬼と赤鬼を地面に突き刺した。
「纏え、黒鬼、赤鬼」
瞬間、今度は刀が消え俺の手に吸い込まれた。そして、俺の手はというと...右は黒く、左は赤という異形の形となっていた。
「こんなこともできるが?」
『.....』
「もう...なんていうか....お腹いっぱいな帝具だな」
ナジェンダの呟きがそう聞こえた。