「タツミがエスデスに攫われた!?」
「!!」
アジトに帰還したレオーネとラバックの報告に驚くマイン。アカメも思わず椅子から立ち上がってしまった。
「ナイトレイドとばれたわけでは、ないんですよね?」
「ああ、おそらく。シェーレの言う通りばれたわけではなさそうだった」
「でも、五分と五分...タツミがどうなってるのなんて確認もできない」
「宮殿に連れて行かれた所までは見たけど...どうするボス代行」
ボスがいない現在、その代わりはアカメがボスの代わりだ。
レオーネ達はアカメの言葉を待つが、やはりすぐには出てこなかった。
数秒考え、アカメは手をギュッと拳を握り締める。
思い出すのはあの夜。タツミが自分に死なないと言ってくれたあの時だ。
(タツミ...)
「助けに行く...なんて言わないでよアカメ」
アカメの命令が心配になったのか、マインが間から口を挟む。
タツミが囚われているのは宮殿の中。中には兵も腐るほどいる。そんな状況でタツミを助け出せる可能性は、ほぼゼロに近かった。
アカメはもう一度考えを改めると、一つ深呼吸をして落ち着いた。
「...とりあえずアジトを一時的に山奥へ移そう。ここがばれないという保証はない」
「了解、でもタツミは...」
「分かってる。無策で飛び込んだりしない。ただーーータツミは私たちの仲間だ。私たちにできることは全てやろう!」
辺りを見渡せば兵士、兵士、兵士。
もう何人も同じ服装の奴を殺しているため、なんか生きてる心地がまったくしない。
というよりもーーー
「さぁ、タツミ。こっちだ」
「.....なんだこれ」
現在、殺し屋である俺は帝国最強の人間に首輪を繋がれだだっ広い廊下を歩いていた。鎖を持つ水色の髪の女性、エスデスは気分がよさそうに前を歩いていた。
(さて、本当にどうしてこうなった?身元がばれた...というわけではなさそうだが...)
焦り六割、不安四割。絶賛最悪の心境だった。
「あの、エスデスさん?これってどこ向かってるんですか?」
「ん?今向かっているのは私の部下の元だ。ーーーと言ってもこの扉の向こうだがな」
エスデスは一つの扉の前に立つと、その扉を開けた。
すると、なかに数人の男女が椅子に座って待っているようだった。
「皆、注目だ。この度イェーガーズの補欠となったタツミだ。よろしくしてやってくれ」
『は?』
いやいや、ちょっと待ちなはれエスデスさんや。いきなりなにいっちょるんだべか?
「え、隊長...市民をそのまま連れてきちゃったんですか?」
白い覆面をした上半身裸の男が、俺を心配するようにエスデスに問いかける。顔に似合わずめっちゃいい人だ。
「なに、生活の不自由はさせない。それに部隊の補欠にするだけじゃない...感じたんだ。タツミは私の恋の相手となるとな」
「...それで、なんで首輪なんかさせてるんですか?」
「愛しかったから、ついカチャリと」
「なにがカチャリですか!?あれどう見ても完璧に投げてきましたよね!!?んでもってそこの青服!!さっきはよくも見捨ててくれたな!!避けるなら避けるって言ってから避けろよ!!」
「あ、あはは...すまん」
先ほどの司会の青年に半ギレ状態で怒鳴るタツミ。その様子を見てか、心底悪そうに青年は頭を下げた。
いや本当に避けるなら言ってから避けて?おかげで首に直撃した時に一瞬息できなくなったから。
「あ!やっぱりタツミじゃないですか!!」
「キュウ!!」
「ん?...あ、あれ!?なんでセリューがここにいるんだ!!?」
「む、なんだ知り合いか?」
「はい!私の恩人です!!」
茶色の髪を一つにまとめ後ろで括っている少女、セリュー・ユビキタス。
そして相棒のコロが、鎖に繋がれたままの俺のそばまで近寄ってきた。コロはピョンとジャンプすると、俺の頭に乗っかる。
「また会えましたね!私、ずっとタツミに会いたかったんですよ?」
「キュウ!キュキュウ!!」
「そうか、俺もまた会えて嬉しいよ。ここにいるってことは、セリューもこのイェーガーズのメンバーなのか?」
セリューは大きな声で返事をすると、笑顔で俺の手を握ってくる。柔らかく、女の子らしい手のひらだ。
「私..タツミのおかげで、ちゃんと悪を見極められるようになったんですよ?あれから無駄な殺しは一切していません」
「キュウ!」
「そうか。よく頑張ったなセリュー」
タツミはそういうと、握られていない手でセリューの髪を撫でた。セリューは嬉しそうに微笑む。
頭に乗ったコロはペシペシと俺の頭を叩く。地味に痛い。
「おい、タツミは私のだぞ」
だがそんな甘い雰囲気の中、突如横からエスデスに割られてしまった。少し寂しそうなセリューだったが、エスデスが本気で悔しそうな顔をしていたように見えたので元の場所に戻る。
てか、あんたのじゃねぇよ。
「隊長、そろそろ彼の首輪を外してあげては?ペットではなく恋人にしたいのならばそれはどうかと...」
金髪のイケメンがそういうと、少し悩むように顎に手を当てるエスデス。そして、それもそうかと言いながら、つけられてあった首輪を外してくれた。自由とはなんとも素晴らしいものだ。
「そういえば、この中で結婚をしているものや、恋人がいるものは?」
エスですがそういうと、先ほどの覆面の男が手を挙げた。それにはいくらなんでも驚く。
「ボ、ボルスさんそうなんですか?」
「うん!もう結婚六年目!!よくできた人で私には持ったいないくらい!」
ボルスと呼ばれた男は、図体には似合わず照れながらそう言った。なんというか、人を見た目で判断してはいけないと、この人を見てたら思うな。
だが、それよりもこのままじゃまずい。なんとかこの話を断らないと。
「あのー俺って宮使いする気はまったくな...い....」
「ん?どうした、私の部下をジッと見て」
見覚えがあった。黒いショートの髪にセーラー服のような軍服。
腰には刀が一本下げられており、その刀からは凄まじ圧迫感が感じられた。しかし、そんなことはどうでもいい。
タツミはそのお菓子をパクパク食べる少女の前に歩いていきーーー
『!!?』
ギュッと肩を抱き寄せた。
「クロ...メ、久しぶりだな」
「...うん。久しぶりお兄さん。元気だった?」
「ああ。すこぶる元気さ。お前は?」
「まぁまぁってとこかな?」
その黒髪の少女クロメ。アカメの妹であり、自分が救いたい人間の一人だ。クロメは嫌がる様子もなく、タツミの腕の中で笑っていた。
だがその時、背後からの殺気に近いものを感じすぐにクロメから距離をとる。
その発生源はーーーエスデスだ。
「おい、タツミ。なんださっきから私の部下に色目を使ってばかりで、私にはなにもないではないか!!いったいどういう了見だ!!」
「え、そんなこと言われたって...」
「ダメですよ隊長。部下の色恋沙汰に手を出したら」
クロメはそう言うと、タツミの腕にギュッと抱きつく。まるで小動物のようだった。
しかし、目の前のエスデスは小動物などではない。どう見ても肉食獣の大型系だ。
「ほぉクロメ、私に喧嘩を売っているのか?」
「別にソンナコトナイデスヨ?ね?タ・ツ・ミ!」
(な、なにか腕に柔らかいものが!!?大きすぎず小さすぎない。なんともいい形がまたエクセレント!!」
「おーいタツミー、声に出てるぞー」
「タ、タツミ最低です!そういうのはダメだと思います!!(キュウ)」
「ふふっ、可愛いわね。それにエクセレントの発音がいいわぁ」
「あはは...元気がいいですね」
「た、隊長!クロメちゃんも!喧嘩はダメですよ!?」
各自言いたい放題だな。
タツミの心から漏れた声を聞き、クロメは顔を赤くするが腕を離そうとはしなかった。
エスデスもそれを見て対抗心を燃やしたのか、クロメとは別の大人の体で逆の腕に抱きついてきた。うむ、よきかなよきかな。
「って、そうじゃない!なんでこうなった!?」
「いや、お前がクロメに抱きついたからじゃ...」
「あ、つい...。と、とにかくエスデスさんもクロメも離れてくれないか?暑い」
自分でもこの言い方はどうかと思ったが、二人はおとなしく離れてくれた。
というかなんでクロメ、あんなに俺にベッタリなんだ?
(それよりも、おそらく全員帝具使い。これをなんとかしてみんなに伝えないと)
「エスデス様!!」
バンッと扉が開けられ、一人の兵士が勢いよく入ってきた。
「ご命令にあった、ゴギャン湖周辺の調査が終わりました!」
その言葉と同時に、エスデスの雰囲気が一変する。おそらくスイッチを入れ替えたのだろう。
「このタイミング、ちょうどいいな。お前たち、初の大きな仕事だぞ」
作戦内容はこうだ。
最近ギョガン湖というか湖の周辺にできた山賊の砦の壊滅。
なんでも帝都近郊の悪人たちの駆け込み寺という感じだそうだ。
「ナイトレイドなどの場所がわからない相手は後回し。先にこいつらのような輩を殺っていく」
「敵が降伏してきたらどうしますか?」
ボルスがエスデスに聞くと、当たり前かのようにーーー
「弱者は淘汰されるのが世の常だ」
ッ!!
「そいつらの罪状はなんなんですか?」
「罪状は主に全員が殺人と思っていいだろう。積荷を襲うのも、周辺の村を襲うのも確認が取れている」
セリューはその言葉にふぅと息を吐いた。
本当にちゃんと見極めてるんだなセリュー。
「それと、出陣する前に言っておくが、一人数十人はやってもらうぞ。これからはこんな仕事ばかりだ。きちんと覚悟はできているな?」
エスデスのその言葉に、皆は頷き自分の信念を口にする。どれも強く、硬い意志だった。
「皆迷いがなくて結構。では、出撃する!行くぞタツミ」
「え!?俺も!!?」
「当たり前だ。補欠として、皆の働きを見ておくのはいいことだ」
◆◇◆
夜、月が怪しく光りあたりを照らしていた。
「地形や敵の配置は頭に入れましたが...作戦はどうします?」
金髪の美青年、ランは皆に聞く。セリューはその問いかけに、髪を風で揺らしながら元気よく答える。
「もちろん!正義はドンと正面から!!」
いやぁ、セリューらしい答えだな。
「いや、それよりも...どうして俺がここにいるんですか?」
あれ?俺って見とく専門なんじゃなかったけ?
なぜにここにいるの?
「いや、しょうがないだろ。隊長がタツミも戦わせてみろっていうんだから。なんでかは知らないけど。あ、俺はウェイブよろしくなタツミ」
「僕はランです。よろしくタツミ」
「ふふっ、私はDr.スタイリッシュ!怪我はしても直してあげるから安心しなさい?」
「私はボルス。怖い顔だけどよろしくねタツミくん!」
「ああ、とりあえずよろしく。...んじゃまぁ、やるぜ?」
タツミは腰にかけてある二本の剣を握りしめたのだった。
「さて、一つ見ものだなタツミ」
エスデスは崖の上から、全員の動きを観察していた。
今朝の闘技場での動きといい、タツミは全くと言っていいほどおそらく力を出していない。
(さて...この前座で力の底が見れるか。あるいはーーー)
それを大きく上回るかだ。
エスデスはニヤリと笑うと、目でタツミたちの後を追っていった。
「コロ、5番!!十王の裁き!!」
轟音と呼ぶにはふさわしいほどの爆発音がなり、砦の扉が吹っ飛んだ。セリューは腕を大砲のような武器に包まれている。
「なにそれ!?超カッコいいんだけど!!?」
コロの口の中に腕を入れた瞬間、この長い大砲が現れたのだ。
マジでかっこいい。
セリューは照れるように頭を掻くと、調子に乗ったように今度は大きなドリルを敵陣に向けて突っ込んでいった。
「凄まじい殲滅力ですね」
「もうあいつ一人で行ったほうがいいんじゃないか?」
「うわぁ、ウェイブって最低だな。女の子一人に行かせようだなんて...」
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!?」
エスデスが集めた兵と聞いて身構えていたが、意外と普通の人間だった。良くも悪くも自分の信念を持って動いている。
「あれは私が作ったのよ?神ノ御手【パーフェクター】手先の精密操作性を数百倍に引き上げる、んもう最高にスタイリッシュな帝具なのよ!!」
「おぉ!すごいなスタイリッシュのおっさん!!」
「こらタツミくん?おっさんはだぁーめ。次言ったら怒るわよ?」
目が笑っていない。本当にいうのはやめておこう。
しかし、帝具でもないのにあの威力の兵器。凄いとしか言いようがない。
「で、クロメもう中に入っていったな。んじゃ俺も行こうかなっと!」
タツミは剣を一本さやから抜き出した。
その瞬間、ウェイブたちの視界からタツミの姿は消えた。
『は?』
「おい!なんだこの女!めちゃくちゃつえぇぞ!!」
クロメは自分の帝具の力を使うことなく敵を切っていった。銃弾は撃たれる前に斬り殺し、剣を振り上げる者には容赦なく腕を切り落としていく。
(無駄に多い....それにお兄さんもいない)
つまらない。そういうようにクロメは脱力しながらも敵を斬るスピードは緩めない。
しかし本当に敵が多い。いっそのこと八房の能力使って楽をしようか。そう考えていた時だった。
「へ?」
誰が出した声なのかはわからない。
ただ分かっているのは、自分を取り囲んでいた数十人いた山賊はもれなく全員首が飛んだのだ。
そして、いつの間にか目の前には黒い剣を持ったタツミの姿があった。
「お兄さん、これお兄さんがやったの?」
「ん?そうだけど?いやぁ、女の子大勢で囲むとか最低なやつらだよな。さて...まだいけるか?」
「うん、もちろん!」
「てかさ、そろそろお兄さんって止めないか?歳一緒くらいだし」
「うーん..それもそうだね。お兄ちゃん!」
「いや、そういう意味じゃないんだが...」
と、その時、ウェイブが俺たちを狙っていた人間に蹴りを入れて飛んできた。
なぜかその顔は満足げ。
「なに、礼はいらないぜ。チームだろ?」
「「や、気づいてたし」」
「マジで!?」
ウェイブが悲しそうな顔をしていると、奥からさらに数十人こちらに向かって走ってきた。お前らはスライ○か。
「いたぞ!あいつらだ!!」
「子供ばっかだ!やっちまえ!!」
「あぁ、もう!心底めんどくさい。二人共、少し離れてろ」
タツミはクロメとウェイブを後ろに下がらせると、黒鬼を突き刺すような構えをとった。
すると、剣の周りに黒い靄が充満しだす。
「黒よ、闇よ、漆黒よーーー塗り潰せ!」
「【闇薙】」
横の一閃。黒の斬撃が何メートルも離れていた山賊たちに向かっていき、すべての山賊を切り離した。
これにはクロメもウェイブも息を飲んだ。なにをしたのか全くわからないのだから。
「ふぅ...さて」
....なんか出た。
あっれぇ!?剣からなんか出たぞ!!?
しかもどう見ても赤鬼よりも高威力の斬撃だったし、適当にカッコつけて無様でハイおしまいってとこエスデスに見せたら万事オッケーだと思ったのに!!
クロメとウェイブが後ろで驚くなか、タツミは自分への羞恥心を恨んでいた。
「なんだ...あれは」
帝具...いや、タツミのあの様子から見てそれはないか?それにあのような帝具は見たことも聞いたことない。
「つまりはタツミの技?...ふふっ、まぁいいか」
ただ、よけい惚れ直しただけなのだから。