タツミが斬る!《赤と黒の鬼》   作:虎神

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予想外

夢を見た。

荒れ狂う炎の中、俺はたった一人そこに立っていた。

 

「ここは...」

 

見覚えは全くない。しかし、何故か心地よく感じる。

そして、その炎の奥。なにやらぼんやりと影が映った。

 

『ようやく会えたかの我が主人様?』

 

『この日を長く待ちわびていました』

 

影はそう言った。声は女の声。おそらくは自分と大して変わらないくらいだろう。

しかしその言葉には深みがあり、自然と聞かなければという気持ちになる。

 

『主人よ、この度の覚醒嬉しく思うぞ。まだ言の葉を交わすことくらいしかできんが、いずれこの姿を見せる時が来よう』

 

『さすればその時まで、私達はいつまでも貴方の中でお待ちしております。それではーーーー』

 

ちょっと待て、そう言おうとするが喉から声が出なかった。そのまま俺は周りの炎に包まれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ごーじゅ!ほら、ラバ!タツミに負けてるよぉ〜?」

 

「ぬおぉぉぉおおおおお!?」

 

朝、訓練場にてラバックの悲鳴に近い声が上がる。

現在しているのは腕立て伏せ。ラバックは背にレオーネを乗せ、普段はあまりしない筋トレに励んでいた。

 

「もぉ、ラバってか弱いな〜?んなんじゃいつまでたってもタツミに追いつけないぞぉ?」

 

「い...いや、姐さん...アレは...」

 

「あはは...」

 

ラバックは横で同じように腕立て伏せをしているタツミを横目で見た。背にはアカメ()シェーレ。しかも先ほどからノンストップで動き続けている。

それにはレオーネも思わず苦笑いしかでなかった。

とその時、訓練場の襖が勢いよく開けられマインが出てきた。

 

「誰か!アタシと訓練しな...なにやってるのあんたら?」

 

『訓練?』

 

「なんで疑問系なのよ...って、タツミは本当になにやってんのよ」

 

「え、ラバと同じ腕立て伏せだけど...っと!よし、二百回終わり!」

 

「はやっ!?俺、まだ五十だぞ!!?」

 

タツミは笑顔でラバックに頑張れというと、木刀を持ち出し素振りをし出した。

マインは呆れながらも、少しタツミのことを心配していた。

先日の任務でブラートが死んだ。一番近くにいたタツミにとっては悔やまれることだろう。

 

「タツミ...オーバーワークは体に毒ですよ?少しは休まないと...」

 

「大丈夫だよシェーレ。これくらいじゃまだへこたれないから。...今回、インクルシオも同時に使ってわかったんだが、やっぱり体力の消費が半端じゃない。透明化も使えるのは使えるが、きっと今のままじゃ兄貴より断然短いだろうしな」

 

焦っている。メンバーの目にはそう見えた。確かにブラートの死はタツミに大きな影響を及ぼしただろう。が、それによりタツミ自身が壊れてしまうのではないかと心配になる。

 

「...タツミ、付き合うぞ」

 

「お、さんきゅアカメ」

 

それを見かねてか、アカメも木刀を持ちタツミとともに振るう。

アカメなりに気を紛れさせようとしているのだろう。

すると、マインの後ろからナジェンダとアリアが顔を出した。ナジェンダの背には大きなバッグを背負われていた。

 

「お、みんな揃ってるな?」

 

「おはようみんな!」

 

「あ、ボス、アリア...そんな大荷物持ってどこか行くのか?」

 

そう聞くと、なんでも今から革命軍本部の方に先日討伐した三獣士の使っていた帝具を届けに行くらしい。アリアも、見学も兼ねてそのお付きということだった。

普通に持っているが、あの斧とかかなり重かったんだけどな。さすがは元将軍。

 

「アカメ、留守は任せたぞ。作戦名はみんながんばれだ」

 

「...ん、だいたいわかった」

 

「いや、アバウトすぎるだろ!!?」

 

なんだそのガンガンいこうぜ的なアレは!俺的には命大事にが一番だけどな。

 

「それと、本部への用事はメンバー確保にも関係している。現在負傷中で帝具を失ったシェーレ。そしてブラート。二人が抜けた穴はデカイ」

 

ナジェンダのその言葉に、思わず手を握る力が強くなる。

 

「...気にするなとは言わない。だが、ブラートがお前に残したものはちゃんと理解していろ。お前はあの中で、唯一生き残った帝具使いだ。それはブラートがお前を生かそうとしてくれたという事実もある。タツミ、お前は弱くなんかない。良くやってくれてる」

 

「そうだぞタツミ。ブラートにはいうなって言われてたんだけど、あいつは俺よりずっと強い男になる。だからその時まで面倒見てやってくれって言ってたよ」

 

「!!...兄貴」

 

「強くなれタツミ。今よりももっと...ブラートが見込んだ男になるまで」

 

タツミはその言葉をぐっと噛み締め、顔を流れる涙をぬぐったのだった。

 

そして昼間、タツミは帝都にてある場所に向かってフードをかぶりながら歩いていた。

先日の船での件で、顔がばれているのではないかと不安だったが、ここまで普通に歩いていて何もないのだから、ばれてないにのだろう。

ついた場所は貸本屋。その前には、店員服を着たラバックが壁にもたれ立っていた。

 

「よう」

 

「お、来たか」

 

タツミとラバックはそのまま店の奥に入っていく。そこには関係者以外立ち入り禁止の文字が書いてあった。

そしてその下にあった木板を開けると、そこには地下につながる階段があった。

 

「へへっ、スゲェだろ?」

 

「別にラバが作ったわけじゃねぇだろ」

 

そのまま階段を下りていくと、そこにはすでに出来上がり寸前なレオーネの姿。

 

「おぉー!ようこそ帝都の隠れ家へ!!」

 

「レオーネくつろぎすぎだろ。もうちょっと酒は控えたら?」

 

言っても無駄だと言わんばかりに、レオーネは口に酒を含む。その光景に思わずため息が溢れるタツミ。

 

「で、マインちゃんの手配書が出回ったことで、俺たち三人だけしか自由に帝都を歩けなくなったわけだが...」

 

「船のこともあるし、少し不安だったが俺は大丈夫だったな。...で、やっぱ街の話題は"イェーガーズ"っていう特殊警察の話で持ちきりだったな」

 

ここ最近、あのエスデスが作り上げた新たな警察イェーガーズ。

今帝都では、この話で持ちきりだった。

 

「まぁ、あのエスデスが隊長なわけだしな。あんな危険人物...」

 

「そういえば、エスデスってどういうことをしたんだ?危険だとは聞かされてたけど、それ以外は何も知らないんだよ俺」

 

すると、どうやらレオーネもこの話に興味があるように寝ていた体制を起こした。

そしてラバックは話し出す。

 

「...数年前、南西にいたバン族が反旗を覆した。それにより帝国はすぐさま兵を送り出した、その数系12万。対するバン族は一万ちょっと。でも、帝国でぬくぬくと育った兵たちはその辺境の地での環境に耐えられなかった。寝不足や疫病、猛獣などの襲来もあり、しかもそれと同時にバン族は奇襲をしてくるもんだから、帝国軍はなすすべもなかった」

 

「あぁー...なんかそっからは流れが読めるわ俺」

 

「だろうな。で、派遣されたのはエスデスと当時若いながらに実力があったナジェンダさん。で、あとはご察しも通り。エスデスが村を囲っていた大河をすべて凍らせ、あとは蹂躙。しかも、そこの族長は生かしておき、恨みをもたせて再び自分に乱をもたらすようにしたんだと。ほんと、根っからの戦闘狂だよな」

 

戦争が好きだから自分に乱を向けさせるようにする。

常人では考えられないな。

いや、普通じゃないから恐れられてるのか。

 

「あー単独で仕掛けなくてよかった。危ない危ない」

 

「そういえば、レオーネは偵察で監視に行ったんだよな?どうだった見た感じ」

 

「もうなんていうか殺意の塊?いったいどんだけ人を殺せばあんなハクがつくんだか...」

 

レオーネにそこまで言わせるほどの人間。

 

「...ちょっと興味あるな」

 

「じゃあ見てきたら?」

 

ラバックはそういうと、バッグから一枚のチラシをタツミに見せる。

そこには【エスデス主催、都民武芸試合】と書かれていた。

どうやら賞金も出るようだった。

 

「いや、でもあんま目立ったら...それに自分の職業を明かさないといけないって書いてあるじゃないか。なんだ、殺し屋ですっていうのか?」

 

「アホか。んなもん適当にやっときゃいいんだよ。賞金も出るし、村への仕送りが増えるだろ?」

 

「そうだそうだ!行ってこいタツミ!!お姉さん応援してあげるから!!」

 

レオーネはそう言ってタツミの後ろから抱きつく。何やら背中に柔らかい感触があるが無視だ。

そして、タツミは少し考えた後、二人の輝く目を見て諦めるように大会に出ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場。

そこでは絶賛、二人の武器を持った男が全力で戦っていた。観客は満員。その声の音に思わず怯むものもいそうなくらいの大声援だった。

そのど真ん中でやっている戦いが見やすいように設置された場所で、一人の女が退屈そうにその試合を見ていた。

水色の髪に白い軍服。彼女こそ帝都最強の将軍、エスデス将軍だ。

エスデスは欠伸をしながら、今戦っている人間を見る。

 

「はぁ...」

 

「その様子だとお気に召さないですか?」

 

エスデスがため息を吐くと、横に立っていた金髪の美青年が話しかけた。

 

「ああ。つまらん素材らしく、つまらん試合だな。やはり帝具を扱える人間は出てこないか」

 

「ふふっ、あ、決着がついたみたいですよ?」

 

着物を着た男が、鎧を着た男に一撃入れたところで決着がつく。

 

『勝者、呉服屋 ノブナガ!!』

 

「勝ったどぉぉぉおおお!!」

 

ナレーションである青年がそういうと、観客が更に盛り上がった。

しかし、エスデスとしてはつまらないことこの上ない。もういっそ自分が出て行って全員相手取ってやろうかなどと考えたくらいだ。

 

「あ、次で最後らしいですよ」

 

金髪の青年の言葉を聞き、渋々と感じで舞台を見る。舞台に上がってきたのは一人の少年と牛のような顔をした大男だった。

 

『東方!肉屋カルビ!!西方!鍛冶屋タツミ!!』

 

その時のエスデスは、何故かその少年に見入ってしまった。そして数分後、その意味がわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『東方!肉屋カルビ!!西方!鍛冶屋タツミ!!』

 

自分の名前が呼ばれ、俺は舞台に上がる。どうやら相手はこの牛らしい。

 

「おいおい、ずいぶんとチビだな。クククッこりゃ賞金もいただきだぜ」

 

「ああ、そりゃよかったな。なんとか負けないように頑張るよ牛のおっさん」

 

「誰が牛のおっさんだコラァ!?いいか?これでも俺は破門されたとはいえ皇拳寺9段だったかたよ」

 

「え?なに?牛タン?俺ってあんまり牛タン好きじゃないんだよなぁ〜。それに破門されたなら駄目でしょ」

 

「なっ!?」

 

いや、当たり前だろ。なに破門されたことを自慢げに話してんのこの牛。

俺のその言葉に、司会の青年が笑いをこらえていた。カルビは顔を真っ赤にするように視界の青年に早くしろと怒鳴りつけた。

 

『クククッ...ゴホン....それでは、始め!』

 

「いくぜぇ!爆砕鉄拳フルコースだ!!」

 

司会がそういうのと同時に、カルビは勢いよく地面を蹴りタツミの顔と同じくらいの大きさの拳を全力で顔面めがけて放った。

タツミはそれをギリギリまで見極め受け流す。だが、一応は拳法をやっていたからか、体制はそう簡単には崩れない。

 

「おっと。お、意外と力もち?」

 

「へっ、お前なんざ血祭りにあげてやるよ!!」

 

そう叫び、懲りずに再び拳を振り上げて突っ込んでくる牛。それはアレだな。牛と一緒にしたら失礼だな。牛に...

タツミは向かってくる拳を跳躍し避けると、空中で回転し蹴りをカルビの胸を放った。なんとか防ぎはしたものの、カルビは衝撃で立ったまま地面を滑る。

 

「お、受けられた」

 

「へっ、んな軽い攻撃が食らうかよ!!」

 

「へぇー...軽い..ね」

 

「うおりゃぁぁぁあああ!!」

 

カルビは今までの一撃よりも一番思いであろう拳を振るってきた。速さも上々。威力も普通よりはあるだろう。

がーーー

 

「あめぇな」

 

バシンッ!

そう音がなり、カルビの全力の拳はタツミの細腕一本で止められた。それには観客も大盛り上がり。

 

「なっ!!」

 

「ふっ!!」

 

間髪入れず、タツミはカルビの腹に潜り込み蹴りを一発。吹き飛んだところを胸倉を掴み逃さないように引っ張ると、地面に向けて叩きつけた。

すると地面にはヒビが入り、見事にカルビの意識は消えていたのだった。

 

『.....』

 

「おい、司会者のお兄さん」

 

『!!しょ、勝者、西方 鍛冶屋タツミ!!』

 

それと同時にこの大会最大の歓声が沸き上がった。観客席にいるラバックとレオーネも一緒になって盛り上がっているところを見ると、なんだかこっちまで楽しくなる。

 

「やったぜ!!」

 

と、その時だった。背後からコツコツと足音がし振り返る。

なんと、エスデス本人が舞台に上がってきたのだ。これには辺り一帯シンッとなる。

エスデスはそのままタツミの目の前に立ち止まると少し観察する。

 

(うっわ...こりゃレオーネが言ってた意味がわかるわ。どうやったらこんな雰囲気纏えんだよ...)

 

強さの雰囲気?と言えばいいのかはわからないが、とりあえず得体のしれないものということはわかった。

少なくとも、今の自分では戦えば無事ではすまいないだろう。

 

「タツミ...と言ったな?いい名だ」

 

「え?...あ、はい。どうも...」

 

び、びっくりした。いきなりなんだこの人?

三獣士のリーダーであり帝国最強。兄貴が死んだのはこの人の所為でもある。

 

「今の勝負、鮮やかだったな。褒美をやろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

エスデスは自分の服の下をゴソゴソと漁る。まぁ、貰えるものは貰ってーーー

 

「ッ!?」

 

と、その瞬間俺は後ろに逃げた。

それもそうだ。自分のさっき首があった場所にはーーー鉄の首輪があったのだから。

 

「いきなりなにするんですか!!?」

 

「む、逃げるな。ここでは落ち着いて話ができないだろ?」

 

そういうと、エスデスは先ほどのカルビの数倍のスピードで俺の後ろに回り込む。後ろから来る首輪を避けると、俺はすぐさま近くにいた司会者の後ろに隠れる。

てかアンタ、加速がないってどゆこと!!?

 

「!!」

 

「ちょ、おい!!?」

 

「司会者の兄ちゃん、俺のために犠牲になってくれ!!」

 

「やだよ!?なんでいきなり初対面の奴の犠牲にならねぇと...って、あぶね!?」

 

「へ?あがっ!?」

 

いきなり目の前の青年がしゃがむと、すぐ目の前に首輪が飛んできていた。全く予想もしていなかったので、その首輪は俺の首に直撃しガシャンと音を立ててロックをかけられた。

 

「まったく...タツミは照れ屋なんだな。さぁ、行くぞ」

 

「へ、ちょ...ま...ぎゃぁぁぁあああああ!!?」

 

そのまま俺は静まり返る会場の中、絶叫を上げながらエスデスに連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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