チョウリ元大臣護衛失敗の後、タツミはスピアを連れナイトレイドのアジトへと戻り、ボスや仲間たちに今回の事を説明していた。
「すいませんボス。俺が不甲斐ないばかりに...」
「いや、お前はよくやってくれたよ。相手の行動を読めなかった私にも責任はある。よく帰ってきたな」
ナジェンダはタツミを慰めるようにそう言うが、やはりタツミは自分の無力さを呪っていた。もう誰も死なせないと決めていてコレだ。
(クソッ!!前と全然変わってねぇじゃねぇか!!)
血がにじむほど手を握りしめるタツミ。ナジェンダもそれを見て、それ以上は何も言わなかった。
しばらくして落ち着くと、タツミの横にいたスピアがそっと手を上げた。
「あ、あの、貴方たちは、あのナイトレイドでいいですか?」
「ん?ああ、すまないな。いかにも私達がナイトレイドだ。君はチョウリ元大臣の娘のスピアだったか?」
「どうりで....タツミくんが私の名前や皇拳寺の事を知っていたので、誰かに聞いたと思っていたんですが、貴方たちならば情報網も広いでしょうね」
「タツミ...」
呆れ顔のナジェンダに、心の底から謝るタツミ。
「い、いえ、タツミくんは悪くないんです。タツミくんがいなかったら私はあそこで死んでいたでしょうしね。感謝はしても、恨むことなどは全くありません」
「わかった。しかしすまないが、このアジトの場所を知ったんだ。タダで返すわけにはいかなくなってな。それに言い方は悪いが、チョウリ元大臣がいない今、安全な場所はここだけだといえる」
自分の父親が死に、その娘だけが生き残っている。今回チョウリを殺したヤツらからすれば、面倒なことこのうえないだろう。もしもスピアを元の場所に戻しても、安全という保証はどこにもないのだから。
だが、これでも帝国元大臣の娘。本当に首を縦にふるだろうか?ナジェンダは少し不安だった。
「私としたら、君にはナイトレイドーーー革命軍に入ってもらいたいのだが...」
「はい、もちろんいいですよ。それにタツミくんも入ってるんでしょ?一緒の職場なんて楽しそうですし」
まさかのOKだった。
「いや、そんな簡単に決めなくても!!わかってるのか!?殺し屋だぞ!!?」
自分の名前が出されたことによって、タツミは必死に考え直すように言う。が、スピアは入ると言って聞かない。
「もちろん、いやいやじゃないですよ。それに一緒の職場が楽しそうっていったのは嘘ですから安心してください。ただーーー父上を殺したのは帝国です。その事実は変わりません。さすれば、私が帝国に槍を向けない道理はありません」
その放たれた凄まじい怒気に、メンバーが驚く。が、すぐにその怒気は収まり、スピアは話を続けた。
「どうか、私をナイトレイドに入れてください。あいにく槍術には覚えがありますから、きっと足手まといにはなりません。お願いします!!」
「ボス、俺が言うのは間違ってると思うけど、スピアさんをナイトレイドに入れてやってください。お願いします!」
タツミとスピア両者に頭を下げられ、ナジェンダは少し戸惑う。シェーレが現場復帰できないかもしれない今、戦力を強化しておくのは得策だ。
「わかった。スピア、君をナイトレイドに歓迎しよう。この道は修羅の道だ。覚悟はあるか?」
「!!ーーーはい!」
スピアは笑顔でナジェンダの声に応えた。周りのメンバーも反論はないらしく、何も言わないまま拍手をした。
「タツミはスピアの面倒を見てやれ。お前が連れてきたんだ、それくらいはしろ」
「はい!じゃあ、これからよろしくなスピアさん!」
「ふふっ、はい!ですけど、ここではタツミくんの方が上なんですからさんはやめてください」
「ああ、よろしくスピア!」
だが、スピアを呼び捨てにした瞬間だった。いきなり背後から鋭い視線を幾つか感じて振り返る。が、そこにいるのはアカメ、マイン、アリアの三人だけだった。
気のせいか?
「なぁ、姐さん。俺、あいつを殴っても大丈夫な気がしてきた」
「やめとけラバ。殴り返されるのがオチだぞ...」
なんでラバックは腕を握りしめてプルプルしてるんだろう?何か嫌なことでもあったのか?
すると、ボスが手を鳴らし皆の気を戻させる。が、何故か暗い顔だ。
「悪い知らせが三つある。まず一つ、地方との連絡が途絶えた」
地方との?
「私達が帝都担当の暗殺団というように、他の所でも私達のような隊はいる」
「じゃあ、全滅ってことか?」
「なくはない...。が、とりあえず用心はしておいてくれ。ラバックは糸の範囲を拡大してくれ」
ナジェンダのその言葉に、ラバックは頷く。しかしナジェンダはそのままの調子で話を進めた。
「そして二つ目ーーーエスデスが北を制し戻ってきた」
その言葉には、タツミとアリア以外のメンバー全員が息を飲んだ。
「スピアも知ってるのか?」
「あ、は、はい。北の勇者を相手取るということは知っています...けど、いくらなんでも速すぎでは?まだ、そんなに時間は経っていないはずですよね?」
「あいつは本当に、いつも悩みの種だよ」
ラバックが愚痴をたれながら頭をかく。
北の勇者をこんな短期間で落とした人間。エスデスーーーいったいどんな人物なんだ?
「今は日夜、拷問というものを他の執行人に教えているらしいが、いつどう出るかわからん。レオーネ、お前も帝都に潜りエスデスの動向を監視してくれ」
「おうよ!話は聞いてたけど、一度会ってみたかったんだよなぁ!」
レオーネは自信満々に腕を鳴らすが、ナジェンダは逆に不安そうだった。
「殺戮を繰り返す危険人物だ。用心しろ。そして最後だが...どうやら、ナイトレイドを語った文官連続殺人事件が起きてる。チョウリ元大臣で4件目だ」
語り。それを聞いてタツミは口を開いた。
「ああ。俺が今回いった場所でも、ナイトレイドのマークが描かれた紙がいくつか落ちていた」
タツミはそう言って、ポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはナイトレイドのマークが大きく書かれた紙が一枚。
そのマークの下には、ナイトレイドによる天誅と書かれてあった。
「あきらかに誘いだな」
「ああ、だがほっておくわけにもいかない。殺されている文官は皆、大臣の派閥に属さない良識派の人間たちだ。彼らはこの先の国に必要不可欠。してーーーー私はこの偽物を潰しに行くべきだと考えている。お前たちの意見を聞こう!」
ナジェンダのその言葉に、一番早くに口を開いたのはタツミだった。
が、それと同時にこの場の人間はタツミの放つ殺意に驚いた。
「そんなもの決まっている。賛成だ。ナイトレイドを語ってこんな事をしでかしたんだ....容赦も、雑念も、存在も、すべて殺してやる。これ以上、誰も死なせるわけにはいかねぇ!」
「ふっ、よく言ったタツミ!」
ブラートに背を叩かれ、少し息がつまるタツミ。その時にはすでに、殺気は放たれてはいなかった。
そして、ナジェンダは立ち上がり言う。
「よし、ならば偽物に、名前を語るということはどういうことか、殺し屋の掟を教えてやれ!!」
『オウ!』
ーーー大運河
全長2500kmの超巨大な川。タツミはそれを渡る龍船という船に乗る、一人の文官の護衛だった...が、
「いくらなんでもーーーでかすぎんだろぉぉぉおおお!!」
デカイ。本当にただただデカイ。感想はそれしか出ない。
と、急に肩を後ろから叩かれる。
「ん?...ああ、兄貴か」
そこには誰もいないはずだが、タツミはそこにブラートがいるとわかったのだ。というのも、ブラートは絶賛指名手配中。そんな人物がこの船に乗れるはずがない。
と、いうことでーーー
『馬鹿、反応すんじゃねぇよ!』
絶賛インクルシオの奥の手、透明化中だった。無銭で乗るのはどうかと思うが...まぁ、この際ほっておこう。
任務は、ブラートとタツミ。アカメ、ラバック、スピアの三人がそれぞれの担当の文官の警護。そして、襲ってきた偽物を撃退というものだった。
(はぁ、なんというか兄貴とは一緒にいて楽しいんだけど...)
ホモ疑惑があるまんまだし。
すると、そうやら乗り込めるようになったらしい。タツミは人ごみに流されるように、船の中に入っていった。
その後ろの、異様な格好をした三人組に気づかないまま。
中に入ると、さすがは豪華客船というところだろう。貴族や富豪らしき人物がうじゃうじゃといた。
「おおうーーすげぇ華やか」
自分は現在、地方富豪のお坊ちゃん。帝都の華やかさに少し緊張気味という、訳のわからない設定だった。
これ考えたのボスかな?だとしたら以外と可愛いところがあるのかも。
タツミは船の隅の方へ移動し、近くにいるであろうブラートに話しかけた。
「なぁ、兄貴。本当にこっちであってんのかな?こんだけ人多くて、しかも護衛対象は肉の壁の中。本当に暗殺できるとは思わないんだけど」
『油断するな。俺のインクルシオみたいに帝具には奥の手がある。敵も何してくんのかわかったもんじゃねぇ』
確かにそれもそうだな。
俺の武器は兄貴に持ってもらってるけど、いきなり戦闘ってわけじゃないと思うし、当分は大丈夫か...。
『と、そろそろ透明化も限界か。俺は戻って内部を捜索してくるぜ』
「あ、うん。じゃあね....。にしてもあの帝具本当に便利だよな。あぁー俺もああいう使い勝手のいい帝具が欲しいな」
今、自分が帝具で使えるもの。
顔と声を変えられる【変化】
筋力を向上させる【鬼ノ手】
高速移動。斬撃なども放てる【鬼閃脚】
この三つしかないのだ。もっといろいろ試さなければ...。
そう考えていたその時だった。
「これはーーー笛の音?」
まずい!そう思った瞬間、身を縮こませて耳を塞ぐ。この音はヤバイ。本能的にそうわかったのだ。
(こっちが正解か!)
数分後、タツミはその音が止むまでずっと耳を塞いでいたが、頭の中に直接響いてくる笛の音。すでに周りの客は全員倒れている。きっとこれは音を聞いたものの感情を操作する帝具だろう。
「クソッ、頭がクラクラする...」
「おぉ、まだ立ってる奴がいるじゃねぇか。運のねぇ奴だな。おとなしく気絶しておけばよかったのによぉ」
すると、背後から黒いスーツを着た大男が歩いてきた。背には斧のような巨大な何かを背負っている。
普通の兵じゃない。つまりーーー
「てめぇが偽のナイトレイドか...」
「てことはそっちは本物かよ!!そりゃあいいーーーほらよ!」
大男は急に、倒れている兵が持ってあった剣をタツミに投げる。タツミもなんのことかわからず、その剣を受け取った。
「なんの真似だ?」
「俺はさぁ、経験値が欲しいんだよ。強い奴と戦って、最強になる為にな!!」
大男はそう言い、自分の背の斧を構えた。
帝具ベルヴァーク。強靭な膂力を持つものしか扱えない。中心から二丁に分離させることも可能で、投擲すると勢いの続く限り相手を追う。
「かかって来いよ。ここならあんまり人もいねぇから大丈夫だろ?」
「.....」
そう言われるが、タツミは剣を抜こうとせず立ったままだ。それには大男も苛立ちを隠せない。
「ッチ、なんだテメェツマらねぇな。ビビって剣も抜けねぇか。もういい....さっさと死ね!!」
大男、ダイダラはタツミに向かって斧を投擲したのだった。
◆◇◆
この笛の音を聞いた瞬間、俺は自分の足に鉄杭を指しなんとか正気を保つ。
(だがそれよりも、上に残ったタツミがあぶねぇ!!)
相手側の攻撃。つまり他の帝具持ちがタツミに接近してるかもしれねぇ!!
俺は一気に階段を駆け上がり、タツミがいる広場へと走って行く。手にはタツミの帝具である黒鬼と赤鬼を持って。そして、俺はエントランスを抜け、タツミのいる外の広場に出た。
「タツミ!!」
だが、そこにあったのは想像もしなかった光景だった。
そこには血まみれのタツミの姿があった。しかし、その血はタツミのではない。タツミの右手にもたれている、上半身のみの死体のものだった。その死体からは臓物や血が濁流のように流れており、タツミの足元は血で広がっていた。
「ーーーまずは一人目...」
そのニヤリと笑ったタツミの顔に、俺は少し恐れを抱いた