早朝。アジトに木がぶつかる激しい音が響いていた。
「ふっ!」
「あっぶね!ッチ、どりゃ!!」
両者が持つ木刀は叩かれ合い、甲高い音がなる。
その目にも止まらぬ剣戟の嵐の中、それをおこなっていたのはアカメとタツミだった。
「っと....ふっ!」
「ック!!はあ!!」
左右から上下からとぶつかる木刀。タツミは連続でアカメの攻撃を防ぎ避け、対するアカメも反撃させまいと連撃を止めない。
しかし、アカメが横に木刀を振るった時だった。
「ッ!?」
「ナイスキャッチ俺!」
なんとタツミが木刀の持ち手を掴み、それを阻止したのだ。この防御方法にアカメは驚くが、すぐに離れようとタツミに蹴りを放とうとするがーーー
「おせぇ!!」
それをされるよりも早く、タツミはアカメの足を引っ掛け地面に投げ飛ばした。もちろん、着地できるくらいに手加減をして。
しかしそれでも体制を崩されたアカメは、タツミに木刀を突きつけられた。
「降参だ。やはりタツミの方が強いな」
「いや、俺も結構危なかったよ。ほれ、手」
タツミはそういいアカメに手を伸ばす。
「ん、助かる。しかし、相変わらず独学とは思えないほどの剣技だ」
「基本は村にいた元軍人の人に稽古してもらったんだけどな。そこからは片っ端から危険種をぶった斬ってれば強くなった。どちらかというと才能はイエヤスやサヨの方が断然上だったしな」
そう話していると、アジトの建物の方から誰かが歩いてい来ているのが見えた。黒いコートにゴツい体。
「あ、兄貴!おはよう!」
帝具、インクルシオの使い手。元軍人のブラートだった。
ブラートは笑顔で手を振りながらこちらに来る。
「おう、やってるなタツミ!アカメにしごいてもらってんのか?」
「いや、私が先ほどタツミに負けたとこだ」
「!!....ほお、やっぱりお前は強かったか。強い強いとは思ってはいたが、アカメに勝つとはな」
ナイトレイドでもトップクラスの強さを誇るアカメにタツミが勝ったと聞かされ驚くブラート。
が、当の本人のタツミはあまりよくわかっていないようだった。
「まぁ、普通の人よりは強い自信はあるけど...。そんなことより兄貴はどうしたんだ?」
「そんなことって...まぁいい。俺は今から修行に行ってくるがお前も来るか?」
「え?修行!!?行く行く!!」
「ブラート、私も行っていいだろうか?」
「お、おう。そこまで食いつくとは思わなかったが、いい熱さだぜタツミ!アカメも別に断る理由なんてねぇよ。さぁ!行くぜ!!」
「「オー」」
そのあと、三人によってここらの木や岩に擬態する危険種が狩り尽くされたとかなんとか。
で、ところかわって会議室。
「タツミ、任務だ」
「え?」
タツミはいきなりナジェンダに呼び出されたと思いきや、いきなり任務を言い渡された。
「昨日の夜の件での罰だ。嫌だとは言わせないぞ」
「いや、任務の事に関してはいいんですけど...。あの馬鹿獅子とアカメは?」
何故に俺だけ...
「知らん。というかお前な...。なぜブラートには兄貴というのに、レオーネは姐さんと呼んでやらんのだ。レオーネの奴、少し落ち込んでたぞ」
「だって、あの人を大人して見れないというか....。そりゃ人生の事に関しては見習ってますけど、人間性についてはね...俺、初めて会った時に金全額盗られましたし」
そういえばあの金を返してもらっていない。今度問い詰めてでも、返してもらおう。
ナジェンダはため息を吐くと、任務内容を説明した。
「任務は隠居中だった、現在帝都近郊を渡っている帝都元大臣であるチョウリの影からの護衛。チョウリは帝国のブドー将軍の庇護下にいるが、帝都には珍しいちゃんとした人間だ。きっとこの先の事で帝都をいい方向に向かわせてくれるだろう」
「影からの?そりゃまたなんで?」
「お前は私たちが革命軍ということを忘れていないか?とりあえず、任務はチョウリ元大臣を帝都まで見届けることだ。まぁ、チョウリを運ぶ周りには腕利きの兵士が三十名ほどと、皇拳寺にて槍に皆伝を持っている娘がいるそうだから安心だとは思うがな」
「了解。危なくなったら手を貸せってことですね」
「そういうことだ。外は寒いから暖かい格好をして行けよ」
タツミは一つ頭を下げると、自分の部屋に戻って荷物をまとめる。すると、部屋の扉がトントンと叩かれた。
返事をしながら扉を開くと、そこに立っていたのはピンク髪の少女、マインだった。相変わらず腕は包帯で巻かれている。
「どうした?お前が俺の部屋に来るなんて珍しいな」
「.....」
「おい?」
マインは俯いたままで何も言葉を発さない。
からかいに来たのか?
「マイン、用がないんだったら俺急ぐんだけど。今から任務なんだよ」
「え、任務?....そう、だったらちょうどいいわね」
マインはそういうと、包帯をしていない反対の手で紙袋を一つタツミに渡した。
「これ、この間のお礼よ。...あんたのおかげで助かったわ。ありがとタツミ」
「お、おう。....って、お!マフラーか!ちょうど今から出かけるから早速使わせてもらうぜ。ありがとなマイン」
「ッ!!え、ええ!私のセンスを持ってすればこんなもんよ!!じゃあ、せいぜい死なないように行ってきなさい!!」
マインはそういうと駆け足で自分の部屋の方向に走って行った。
まぁ、あれがあいつなりの礼の仕方なんだろうな。
「さて、俺もいっちょ頑張りますか!」
そう気合を入れながら、俺は貰った黒色のマフラーを首に巻いたのだった。
ギシギシと音がなりながらその馬車は進んでいた。馬車の周りには何十人もの兵が護衛しており、そして中に乗っているのは元大臣であるチョウリと、その娘であるスピアという金髪の少女だった。
その様子を、タツミは遠くの木の上からジッと身を潜め眺めていた。
「まぁ、こんなことだろうと思ったが....寒い。そして暇だ」
外は雪が降っており、タツミはその寒さを耐えながら馬車を見守る。
一応何かあってもすぐに駆けつけれるように、足には鬼閃脚をつけている。
にしてもさすが元大臣。周りにいる兵は強いな。しかも、娘は皇拳寺の皆伝者だろ?さすがとしか言いようがない。
そして、馬車は一つの集落を通る。が、その時だった。馬車の周りを囲むように山賊のような男達が数十人現れる。
「ッチ!やっぱりか!!」
数はおそらく護衛の倍近く。いくらなんでも無茶だと判断したタツミは、すぐさま鬼閃脚をつけた足で木を踏み込んだ。自分の乗っていた木は爆散し、俺は凄まじいスピードで馬車まで飛んだのだった。
「へへへ!おい、女まで乗ってやがるぜ!しかもえれぇ別嬪だ!!」
「おぉーい!金目の物とその女を置いていきな!」
「くっ、どこまでこの国の近郊は壊れてるんじゃ!皆、道を開け!!」
チョウリのその指示に、兵達は剣を抜く。馬車の中にいたスピアも、戦おうと馬車を降りたその時だった。
「え?」
先ほどまでうるさく吠えていた男が横に吹き飛んだのだ。もちろんその男は意識を失う。
「な、なんだぁ!?」
「黙れよ」
「ぐふぉ...」
その後も何人もの男達が、何者かによって吹き飛ばされ意識を奪われる。そして十人ほど狩ったところだろうか。山賊の中に一つの影が見えた。
黒いマフラーに茶色の髪。コートで体を羽織ってはいるが、どう見てもスピアと大して変わらないその姿にチョウリは驚く。
「ここは任せろ。あんた達はとりあえず進め!」
男の声だった。それも、まだ成人していない少年の。
「な!?君一人でこの数は!!」
「あんたはこれから帝国を変えんだろうが!こんなとこで死ぬ気か!!」
「ごちゃごちゃとうっせ...グファ!?」
少年の背後から襲おうとした男が、見向きもされず切り裂かれる。
「行け!!」
「ック..馬車を出せ!!」
しかし、馬車に自分の娘であるスピアが飛び込んできた。
「待ってください父上!私も残ります!!父上は兵達と共に先へ!!あの少年だけでは!!」
「そうか...わかった。気をつけるのじゃぞスピア」
チョウリのみを乗せた馬車は、兵を連れてそのまま道を進んでいった。山賊達は追いかけると思ったが、もはや目的はこの少年のみらしい。
「テメェ!!よくも仲間を!!」
「ぜってぇ殺してやる!!」
男達は武器をそのたった一人の少年に向ける。しかし、その山賊の脇を通るかのように一つの影が少年に近づいた。
「あんた....いいのか?」
「私も手伝います!」
飛び出してきた影。槍を構えたスピアは、その少年の肩を合わすように構える。
「はぁ、めんどくさいな。とりあえずはよろしくスピア。俺はタツミだ」
「どうして私の名前を...ううん、とりあえず話は後。行くよ!」
そして二人は山賊の中に突っ込んでいったのだった。
「お、覚えてやがれぇ!!」
ボコボコにされた山賊達は、泣きながらその場を去っていく。タツミとスピアは、やっと終わったと息を吐く。
「すごいですね貴方!そんな義足初めて見ました!!」
義足というか鬼の足なんだけど。
どうやら彼女にはこれが本物の足だとは思わないようだ。
「いやいや、あんたの方も凄かったよ。さすがは皇拳寺皆伝者だ。見事な槍さばきだったよ」
とりあえずスピアとタツミは互いに絶賛しあった。
しかしタツミとしてはかなりいけない状況だ。
(まずい。任務対象を逃がすためとはいえ見失った)
これは間違いなくボスに怒られる
「そういえば、なんで私の名前を?それに皇拳寺のことだってーー」
「あー!早く追いかけないといけないな!きっと心配してるだろうしなー!!」
つい口が滑ったことを反省しながら、タツミは話をそらすようにわざとらしく叫ぶ。
「そ、それもそうですね。早く追いかけないと!」
通じた!?なんだ?俺の周りは天然娘が多くないか!?
と、馬鹿なことを言っている場合ではなかった。
「んじゃ、ちょっと走るから」
「へ?ちょ....」
タツミはスピアの膝に手をかけて、その背中を持った。タツミの胸板にスピアの顔が当たるこの体制。そう、俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
「な、ななな」
スピアは嫁入り前の娘だ。しかもかなりの美人のくせに男性と付き合ったことなど、一度たりともない。
そんな彼女はもちろん顔が真っ赤になり、恥ずかしさで爆発しそうだった。
「ん?どうした?」
「ど、どうしたじゃないですよ!!なんで、私貴方にその...か、抱えられてるんですか!?」
顔を真っ赤にしながら抗議するスピア。しかし相手が悪い。この男は最強の朴念仁なのだから。
「いや、今からあんたの父親追いかけるから。俺の方が速いし」
「だ、だとしてもいきなりそんな...」
「はぁーい、もう行くぞ。口閉じとかないと舌噛むぞ」
「え、ちょっとまーーー」
タツミは足に力を溜め、一気に地面を蹴った。先ほどの木の上のような場所ではちゃんと踏み込めないが、地面ならば加減はしなくていい。
かまいたちすら発生しそうなほどのそのスピードの中、腕の中のスピアが何か言っているみたいだったが、タツミはよく聞こえないまま走り続けたのだった。
そして、走ること数分。
「ッ!!」
タツミは何かに気づいたように足にブレーキをかける。十メートルほど滑った後、やっと止まる。
だが、腕の中のスピアはもはや魂が抜け落ちていた。
「お、おい!?大丈夫か!!?」
「うぅぅ...怖かったよぉ...あんな速さで走るなんてありえないよぉぉ」
やばい、女の子を泣かした。
急いでタツミはスピアを下ろし座らせる。
「ご、ごめん!!速くつかないとと思ったから!!」
「ううん...いいよ。...貴方は私の為に頑張ってくれたんだよね?だから大丈夫だよ?」
いや、本当にごめんなさい!?ちょっと走ってたら楽しくなって貴方の存在を忘れてたんですよ!!お願いだから謝らないで!?
もはや罪悪感しかないため、タツミは座り込んでいるスピアに必死に謝る。
だが、それよりもやばい状況かもしれない。
「スピアはここにいて。ちょっと、先を見てくる」
「え、私もいーーー」
「ダメだ!!」
いきなりタツミが叫んだことでスピアが驚く。すぐさまもう一度謝ると、タツミは軽く鬼閃脚で先に飛んだ。
すると案の定だった。
「クソッ!!やられた!!」
そこには大量の兵士の死体があった。それらは全て上半身と下半身を分けられており、地面には真っ赤な血の池ができていた。
馬車だったであろう木材の近くには、首がなくなった死体が一つ。この服は先ほどチョウリが着ていたものだった。
「ッチ...俺のせいで!!」
だが、その時だった。
「ーーー父上?」
背後にスピアが立っていた。
俺が止まったのは血の匂いがしたから。だからこそスピアをおいてきたというのに!!
スピアは父だったその死体に近づく。
「悪い。俺がもう少し速かったら...」
「そんな...嫌だよ。父上...お父さん、お父さぁぁぁぁああん!!」
雪が降る中、スピアの泣き叫ぶ声だけが響き渡る。そんな泣き叫ぶスピアを片目で見ながら、地面にちら奪っているある紙を手に取った。
「これは、ナイトレイドのーーーああそうか。そういうことかよ」
自分でも分かるくらい、凄まじい殺気が放たれる。それを感じたのか、スピアは涙を流しながらこちらを見つめた。
「タツミ...くん?」
「....スピア、俺についてきてくれ。安全な場所に連れて行く」
俺はスピアにそういうと、帝都の方を眺める。
誰だか知らないが、ナイトレイドを語ってこんな事をしたんだ。
「絶対に殺してやるよ」
ーーー任務失敗