「はぁぁあああ!!」
「コロ!」
マインが撃った銃撃がセリューに向かって飛んでいく。それをセリューはコロに指示して防がした。
帝具ヘカトンケイル。生物型帝具といい、体のどこかにある核を破壊せぬ限り、傷が永遠に回復するものだ。ソレを知っていたマインは思わず舌打ちをする。
(わかってはいたけど面倒ね。)
コロと呼ばれた帝具は、そのままシェーレのいる方向へ突進する。
「シェーレ!そっちに行ったわ!」
コロは大きな口を開けてシェーレを殺す勢いで鋭い歯を向けた。シェーレはすぐさまエクスタスを構える。万物両断、このハサミに切れないものは存在しない。シェーレは鋏をその向かってくるコロに向けたーーーのだが
「ダメェェェエエ!!」
「キュウ!!?」
なんといきなり、自分に向かってきたソレが横に吹き飛んだのだ。見れば、シェーレの目の前には鉄のトンファーを構えたセリューという少女がいた。
「コロ!殺したらダメだって言ってるでしょ!?まずは悪かどうかをきちんと判断しないと!!」
「キュ、キュゥゥゥウ....」
その帝具はまるで謝るようにしゅんとなる。もう全くもって彼女達が何をしたいのかがわからないマイン達だった。
「ですが...やはり強いですね、ナイトレイド。こうなったらーーー」
セリューは持っていた笛を取り出し、ソレを口に咥え息を吹き込んだ。木々の揺れる音しか聞こえない夜に、その甲高い音は良く響いた。
あれは援軍の笛だ。
「コロ、腕!死なない程度に足止めする!!」
「キュウ!」
その可愛い声とは裏腹に、その帝具の姿は変わっていく。腕は先ほどよりもより巨大になり禍々しい。
そして、コロはセリューの指示により腕を振り回しながらマイン達に襲いかかった。まるで嵐のようなその攻撃に逃げ場を失う。
「ちょ、そんなの反則じゃない!!」
「マイン、私の後ろに!」
そう言うと、シェーレはエクスタスを盾にようにしてその攻撃をなんとか防ぐ。しかし、帝具と人間の筋力では明らかに力の差があった。
どんどんと押されていくシェーレを見て、マインの頭の中は意外にも冷静だった。
(援軍は呼ばれ、嵐のようなこの攻撃。これはピンチ!!)
「だからこそいけぇぇぇぇ!!」
「な!?」
マインは飛び上がり、シェーレを襲っている帝具の顔面に向けてその引き金を引いた。すれば先ほどまでとは全く桁が違う威力の衝撃がコロを包む。
マインの持つ帝具の能力。使用者がピンチになればなるほど、その威力は上がる。マインにとってピンチとはチャンスにも等しかった。
顔を向き飛ばされたコロだが、再び再生が始まる。
「帝具の耐久性をなめるな...ッ!!」
「ふっ!」
マインがコロを相手しているうちにシェーレはセリューの懐へ飛び込み鋏を振るう。なんとかセリューもそれについていき両腕に持ったトンファーで防いだ。
使用者が死ねば帝具は止まる。つまりは最初からセリューが狙われていたのだ。
「エクスダス!!」
「っな!ック...」
瞬間、シェーレの持つ鋏が光り輝く。金属発光。ソレがこの帝具の奥の手だった。セリューはそれに一瞬目をやられるが、なんとか体勢を立て直しシェーレの攻撃を防いだ。
(彼女自身も強い...)
「ック....私は...私はまだ!コロ!狂化!!」
と、セリューが命令したその時だった。コロの姿はなお凶暴に変わり、体つきも大きくなる。そして、月に向かって凄まじい雄叫びをあげた。
「ギョアァアアアアアアアアア!!」
その轟音に、思わずコロに応戦していたマインは耳を塞いだ。だが、それがいけなかった。狂化したコロは一瞬のうちにマインをその大きな手でつかんだ。ギリギリと音がなり、骨が軋む音が聞こえる。
「死なない程度に握り潰せ!!」
「アアアァァァアアア!!」
あまりの痛さに叫ぶマイン。しかし、その痛みは急に消えた。シェーレが鋏を持ってコロの腕を切ったのだ。
「マイン、大丈夫ですか!?」
利き手である右が折れてはいるが、それ以外は全く問題はなかった。マインはこのままではまずいとシェーレに撤退しようと言おうとしたその時ーーー
「...え?」
一つ銃声が聞こえ、シェーレの右肩を貫いた。
「コロ!今のうちに確保!!」
「ギュアァァアアアアアア!!」
普通ならば右肩を撃ち抜かれたくらい造作もない。しかし、その銃弾は普通の銃弾ではなかった。
(まさか、麻痺弾!?)
危険種を捕獲するための銃弾。それを撃ち込まれたのだ。シェーレは一歩も動くことはできなかった。
そして、後ろからは凶暴化したコロがすぐそこまで迫っていた。
「シェーレ!!逃げて!!」
マインはそう叫びながら必死に腕を動かそうとするも、折れた腕は簡単には動かない。
もう、間に合わない。そう思ったその時だったーーー
「よう、シェーレ。気分はどうだ?」
ドガンッと凄まじい音がなり、コロはそのまま数メートル離れた木に飛んで行った。シェーレは何が起きたかわからないように、今自分を抱えているローブ姿の人間を見つめた。
顔は見えない。しかし、その感触を自分は知っていた。
「タツ...ミ?」
「こら、声出すなよ。ばれたらどうする」
タツミだ。この声は、この体の感触は間違いなくタツミだ。だがどうして?彼は自分たちとは違う場所で仕事だったはずだ。それなのになぜここにいるんだ?
「聞きたいことはいろいろあると思うが、とにかくは帰った後でだ」
タツミはそう言うと、倒れていたマインを腰に抱えた。
「ちょ、あんたなんでここにいるのよ!!」
「うるさいな。舌噛むから口閉じてろ」
右と左にマインとシェーレを抱え、そのまま去ろうとするタツミ。だが、いきなり背後から銃弾が飛んできたためそれを回避する。
撃ったのはセリューだった。
「貴様!ナイトレイドの仲間か!!」
(セリュー!?って、そりゃコロがいるんだからセリューもいるか)
タツミは立ち上がりトンファーに内蔵された銃器を向けているセリューを無言のまま見つめる。声を出さない理由は、最悪バレるからだ。
「黙秘は肯定と取る...今ここで貴様らを拘束させてもらう!!コロ!」
セリューは倒れていたコロにタツミ達を襲わせるように指示する。コロは凄まじい速さで腕を振りかぶり襲ってきた。
しかし、今のタツミにそんな速度は遅すぎた。
「え?」
声を出したのはセリューだ。それもそのはず。先ほどまで10メートルほど離れていた黒フードを付けた奴が、腰に仲間を抱え自分の目の前に立っていたのだ。セリューは慌てて装着してあったトンファーを振るうが、背後に回り込まれた。
そして、自分の首の後ろに強い衝撃がはしった。その衝撃にセリューは地面に倒れる。
(奴は...いったい...)
セリューは薄れゆく意識の中、フードの奥の口がニヤリと笑ったような気がしたのだった。
マインとシェーレを助け出したタツミ。鬼閃脚を装着したままアジトに向かって一直線に走って帰った。
まだこの鬼化に慣れていないため、途中何度かマインを落としそうになったがとりあえずは置いておこう。
それよりも今、タツミは絶体絶命の状態だった。
「で、タツミ。弁明は?」
「え、えっとですねボス。とりあえず何故、俺は正座をさせられているのでしょうか?」
「....何か言ったか?」
「いえ、何も言ってません」
超・ボス・怒ってる。やばい、何がやばいって本当とにかくやばい。
ボスことナジェンダは、椅子に腰を下ろして笑顔でタツミに問いただしていた。しかし全く目が笑っていない。
「まぁ、ボス。今回はタツミのおかげで二人共無事だったわけだし許してやろうよ」
さっすがレオーネ!!これからは姐さんと呼んでやろう!!...極たまにだけど。
「それはそうだが、私は勝手に一人で。しかも無策で二人の元に向かった事を怒っているんだ」
「い、一応無策ではなかったですよ?」
タツミがそう言うと、ナジェンダは興味深そうにその策を聞いてきた。
「え、えっと、俺が新しくできた足を鬼化する力は直線だけだったらレオーネの変身後よりも速いので、もしもの時は逃げれると思ってました」
「でもタツミよぉ?もし相手がお前より速かったらどうするつもりだったんだ?」
「それは兄貴あれですよ。あの場の雰囲気に合わせてみたいな...って、冗談です!冗談ですから、その上にあげた右腕を振り下ろさないギャフン!?」
振り下ろされたその硬い拳は、タツミの頭に激突する。タツミは涙目で頭を押さえながらのたうちまわっりだした。
その様子を見てナジェンダは溜息をこぼす。
「はぁ、もういい。二度とこんな無茶はするなタツミ」
「....あい」
タツミは涙目になりながらボスの言葉に頷く。
というかさっきからラバの野郎笑いやがって...後で絶対に仕返してやる。
「でも、タツミ大丈夫だったの?怪我とかなかった?」
「あぁ、アリア。俺は今お前が天使に見えるよ...」
「て、天使!?べ、別に...私は天使なんかじゃ....」
あれ?なんで顔が赤いんだろう?
顔が急に赤く染まるアリアを見て、首をかしげるタツミ。アカメはわかっていないが、他の面々は溜息を漏らした。
というかナジェンダさん溜息しすぎだろ。
「それで、マインとシェーレの容体はどうなんですか?」
「マインは右腕を骨折。他にも打撲痕はあったが特に問題ないだろう。シェーレの方だが...もしかしたら、もう帝具を振るえないかもしれない」
!!
「シェーレに撃ち込まれたのは危険種用の麻痺弾だった。命に別状はないが、撃たれた右肩が後遺症として残るかもしれん」
その言葉を聞いて歯を食い縛るタツミ。もしもう少し早く着いていたら。相変わらずの自分の力不足が嫌になる。
「....お前のせいじゃない。タツミのおかげでマインもシェーレも生き帰れたんだ」
「アカメ...ありがとう」
「別にいいさ。仲間だからな」
アカメは微笑むようにタツミに笑いかけた。そして、それを見てかラバックとレオーネがこそこそと何かを話す。
(なぁ、アカメちゃん最近機嫌良くないか?)
(ああ。最近っていうかタツミとアリアが来てからだな。それにタツミに対して良く笑顔見せるな)
(クッソ!あいつアリアちゃんっていう自分のヒロインいるくせにまだモテようとするのか!!)
(ラバみたいに自分からモテようとしてないからじゃない?)
(そこはほっといて!?)
何を話してるんだあいつら?とにかく後で二人のとこに行ってみよう。団子でも持っていけばいいか。
そして、話が終わった後。タツミは数本の団子をもってシェーレの部屋まで来ていた。片手に団子をもったままドアをノックする。
「シェーレ〜寝てるか〜?」
『タツミですか?どうぞ入ってきてください。鍵はかかってませんから』
ドアの向こうからそう声が聞こえ、タツミは部屋に入っていく。中は以外とシンプルで本がたくさんと生活に最低限の物しか置いていなかった。シェーレはベットでメガネをかけたまま本を読んでいた。
「寝なくて平気なのか?」
「はい。私はマインよりは酷くないですからね」
「そうか...あ、これ食べるか?」
俺はそう言って団子をシェーレに渡す。するとどうやら大好物だったらしく、シェーレは喜んで団子を受け取った。
「ありがとうございます。タツミのすごく美味しいです」
「うん、少し言い方を考えようか?俺が持ってきた団子な?」
さすが天然娘。普通に俺の不意をついてくるぜ。
しかも何を言っているか理解できていないようで、可愛らしく首をかしげるシェーレ。それもなんだかシェーレらしく、今は逆に和んだ。
しかしーーー
「あの、シェーレ...」
「謝らないでくださいよ?私はタツミに感謝してるんですから」
「え?」
「きっと、私はタツミが来なかったら殺されていたか捕まっていました。だからこうして、タツミと一緒にまた話せるのは...タツミのおかげです。本当にありがとうございます」
シェーレはそう言ってタツミに頭を下げる。しかし、それが逆に今のタツミには辛かった。もっと罵って、怒って、騒いでくれた方がずっとか楽だった。それなのになんで感謝なんかするんだよ。
「タツミ?泣いてるんですか?」
「え...あ、ご、ごめん。お、俺もう行くよ。マインの方にも顔出しときたいしな」
そう言って立ち上がろうとしたその時だった。後ろから優しく何かに包まれた。それは、あの夜墓場の前で泣いた時と同じ暖かい手だった。
「タツミ、本当に...本当にありがとうございました。私はタツミとあえて本当に良かったです」
「....どういたしまして、シェーレ。俺もシェーレとあえて良かったよ」
まるで姉と弟のように、二人は笑いあった。