ボスに怒られた後、タツミはすぐにレオーネとともに任務へと出かけた。
「うわ...ここが色町か。なんか落ち着かないな」
「あれ?以外にもテンション低いね。ラバはいつもここに来るとテンション高いのに」
俺とあんな性欲の塊を一緒にするな。
今回の任務はスラムの女性を騙し、薬漬けにして体を売らせる男の暗殺だ。シェーレの話を聞いてから、薬関係のことについて苛立っていたからちょうどいい。
「んじゃ、変身!ライオネル!!」
レオーネは、自らの帝具ライオネルを発動する。能力は身体能力と回復力を全向上化するだったけか?
レオーネの短い金色の髪は、動物のように長くボサボサの髪となり、手は猛獣のように鋭く尖った爪が生える。
「おぉ、やっぱりレオーネは似合うな。同じ肉食獣的なアレで...」
「あははは、おねえさん怒っちゃうぞ?」
レオーネさん、目が笑ってないです。
「と、とにかく行こうぜ!...って、ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
タツミはレオーネを止めて少しあることを考えた。そして、何か思いついたようにニヤリと笑う。
すると腰にかけてあった剣を刀にし、タツミはそれを立っている屋根の上に突き刺した。
「纏え【黒鬼】【赤鬼】」
そう唱えると、毎度の如く刀は黒と赤の渦に変わっていく。しかし、今回はいつもと違った。渦はタツミの腕ではなく、両足を包んでいったのだ。
そして、出来上がったのは腕と同じく異形の赤と黒の義足のようなものだった。
「な、なんだそりゃ?」
「おぉ、本当にできた。レオーネのそれ見て思いついたんだが...そうだな名前は...手はそのまま鬼ノ手だったしな...。うーん...よし!【鬼閃脚】って名付けよう!!」
今思ったらこれから先もいろいろできるかもしれないし、一つ一つに名前つけていこうかな?それの方がカッコいいし!!
一人テンションが急に上がったタツミを見て、レオーネは面白そうに笑っていた。
「やっぱり面白いねタツミは。んじゃ、行くか!」
「おう!」
と、両脚に力を入れてみた。と、その瞬間ーーー
「...え?」
「は?」
タツミの体が前に吹き飛んだ。吹き飛んだ...もったくもって比喩ではない。言葉通り吹き飛んだのだ。凄まじい速さで飛んだタツミは、そのまま運良く目標のいる建物まで飛んでいき中に入る。それをポツンと一人見ていたレオーネは、ハッとしてすぐに後を追いかけて中に入っていった。
そこには体制が逆になって倒れているタツミの姿があった。
「レオーネ。俺、これ使えるようになるまでは絶対に実戦では使いたくない」
「あ、ああ。そうだな。でも、スピードは馬鹿げてるし直線なら今みたいに使えるだろ?」
ああ。ブレーキはまったく効かないがなコレ。
と、ふざけるのも終わりにしよう。タツミとレオーネはすぐさま屋根裏に潜り込み、ターゲットの部屋を探していく。
途中、凄まじい匂いがする部屋に行きあった。そこには何十人もの女性が薬によっておかしくなっていた。
「うっ...」
「凄い匂いだ...って、アレは」
屋根裏からその部屋を覗いていた時、覗いていた部屋の襖が開いた。入ったきたのはスーツをきた男二人だ。
「お前達、もっと稼げば薬回してやるからな」
『ハァーイ』
もはや思考回路すら薬に侵されているのか、女性達の舌がほとんど回っていなかった。すると、男の一人が、倒れている女性に近づく。
「うわっ、こいつ見てくださいよ。魚くさいしもう壊れてませんか?」
「ああ、そうだな。廃棄処分。すぐに新しいのと取り替えろ」
もう一人の男がそう言うと、男は女性の顔面を容赦なく殴りつけた。まだ死んではいないが、かなりの重症だろう。
そこで、もうレオーネとタツミの限界は超えていた。
「今の...スラムの顔なじみだ」
「ほっんと...ここまでクズだと逆に清々するな」
どうやらここのゴミは、怒らせてはいけない獅子と鬼を怒らせたようだった。
広い居間。男が数人の女をはびらせながら酒を飲んでいた。話をしているのは、先ほど処分しろと言った男だ。
「親分、そろそろ販売ルートを拡大させましょうよ!」
「それも、そうだな...チブル様のところへ相談に行ってみるか」
親分と呼ばれた眼帯の男は、そう言って一口酒を飲む。そして次の瞬間、男の目の前が爆散し、そこにはタツミとレオーネが立っていた。
「お前らが行く所はーーー」
「「地獄だろ!」」
男達は一瞬驚くが、すぐに状況を理解し手下に命令する。
「し、侵入者だ!!始末しろ!!」
下っ端の男が、覆面をかぶった手下に命令する。数はおよそ20。
「レオーネ、こっちの15は俺がやる。レオーネはそっちの残りと相手のボスを頼む」
「あいよ。任せろ....。標的は密売組織、お前達も標的だ。ーーー全員まとめて逝かせてやるよ!!」
タツミとレオーネは、それぞれの敵に向かって走っていく。
「黒鬼!!」
タツミは刀になった黒鬼を取り出して向かってきた兵を数人斬り刻む。縦に横に裂かれた兵はそのまま地面に倒れていく。そして、そのまま近くにいた敵の首を蹴りでへし折った。
「おい、この程度か?もっとあがけよクズが」
「貴様!ナメーーー」
「おせぇよ」
タツミは一気に喋る男の元に近づき、刀を持っていない手で頭を持ち地面に叩きつける。ドガンッと頭蓋が破れる音が部屋に鳴り響いた。
そしてレオーネの方は、もはや細かいことはしていない。ただ、殴り殺し蹴り殺す。本当にただそれだけだ。
「「さぁ、この程度か」」
全員を殺し頬を血に濡らしたタツミと、拳を血で濡らしたレオーネがボスとその一人残った下っ端に睨みを効かす。
男達はそれに肩を震わせた。
「ざ、ざけんなぁ!俺は死なーーー」
だが、下っ端の男が銃を取り出すよりも早くタツミは黒鬼を右足に憑依させた。
「裂け鬼閃脚」
すると、異形の形になった脚から放たれた刃のような風は男の半身を斬り裂いた。真っ二つになった男はそのまま息をひきとる。即死だ。
レオーネはその隙に相手のボスに近づき首を片手で締め上げた。
「ッグ、何が目的だ!金か?それとも薬か!?」
「そんなものはいらない。欲しいのはお前の命だけだ」
「な、何もんだテメェら...」
レオーネはニヤリと笑い、男の腹に向けて振りかぶった。
「ろくでなしだよ」
レオーネはそう言うと、そのまま拳を男の腹に炸裂させる。ドゴォンと音を立てて、男の体はそのまま吹き飛ばされた。腹には大きな穴が開き、どう見ても死んでいた。
「だからこそ....世の中のドブさらいに適してるのさ」
麻薬組織壊滅。任務完了、こうしてタツミとレオーネの仕事は終わったのだった。
仕事が終わり、アジトへの帰り道。
「なぁ、あの壊れた女の子達はどうすんだ?」
ふと気になったことをタツミはレオーネに聞いた。
「そこは私達の領分じゃないだろ?」
「でも...」
「....はぁ、大丈夫。スラムに元医者の爺さんがいるから話を通してどうにかするさ。腕は確かだしな」
レオーネは少し照れたようにそういった。きっと、もともとそのつもりだったのだろう。それがわかったタツミはレオーネに飛びつく。
「さっすが!
「んな!?ちょ、タツミ!!今のもう一回!!もう一回言ってくれ!!」
「残念、アレは一回だけだよレオーネ。やっぱ優しいんだな」
レオーネから離れ、タツミがからかうようにそう言うと、柄にもなく顔を赤く染めそっぽを向いた。自分でも慣れないことでもしているのだろう。
「別にそんなんじゃ...」
「俺はレオーネのそう言うところ好きだぞ!」
「すっ!?お、大人をからかうなぁー!」
レオーネは真っ赤になりながら、逃げるタツミを追いかけ始めた。だがその時、タツミは何かを感じたように立ち止まる。
「どうした?」
「いや...別働隊が気になって」
別働隊。マインとシェーレの事だ。二人は俺たちが殺したあの男のさらに上、チブルを暗殺しに行っていた。その別働隊が急に気になったのだ。
(何か...嫌な予感がするな)
夜。生暖かい風が吹き、タツミは嫌な予感にかられるのだった。そして、その予感は的中することになる。
場所は変わって、林の中。マインとシェーレは標的を暗殺し、アジトに向かって走っていた。
「あのチブルって奴、用心深いのにも程があるわよ」
「でも無事にかたずいてよかったです」
互いの背には自らの宝具である大鋏と銃がかけてあった。一応まだここは標的の敷地内。なるべく早く退散しなければならなかった。
だがーーー
「「!?」」
その時、二人は上からの気配に気がつき後ろに飛んだ。やはり、その気配通り二人の上からいきなり人が蹴りを放ってきていたのだ。先ほどまでいた自分たちの場所は陥没している。
警備服を着て、髪は後ろにまとめている少女。しかし、明らかに普通の警備隊とはレベルが違った。
(なにこいつ、ギリギリまで気配がなかった!)
(普通の警備隊とは違う。...でも何故でしょう。殺気が感じられない?)
シェーレはその場に立つ少女から殺気が感じ取れないのが不思議でならなかった。思えば今の蹴りも殺気は含まれておらず、避けようと思えば避けれるものだった。
「手配書通りナイトレイドのシェーレと断定。そちらの女も帝具を所持している為にナイトレイドと...いや、駄目。こんなことで決めつけない」
なにやらぶつぶつと言っているソイツを見て、マインは首を傾げる。殺気もなく攻撃もしてこない。いったいこいつはなんだ?
その目の前の少女は、一つ深呼吸をするとマインたちに向かってーー
「私は帝都警備隊セリュー・ユビキタス。自らの正義にのっとて、貴様らを悪かどうかを見極める!!」
「「....は?」」
私たちを見極める?なにを言っているんだこの女は。
ここ帝都では賊などについては生死を問わない。にも関わらずこの女は見極めるなどと言ったのだ。これには少しマインも笑いをこらえる。
「な、なにがおかしい!」
「キュウ!」
「い、いや...何もおかしくはないけど...ふふっ」
セリューは何故か笑われた為に顔を少し赤くする。それを見て余計笑いが堪えられなくなるマイン。
「わ、私は正義だ!!だから貴様らがどんな悪かきちんと見定める必要がある!!...と、思うんだが。うぅ...コローやっぱり慣れないよ...」
「キュ、キュウ!キュキュキュキュウ!!」
犬のようなその生き物。帝具ヘカトンケイルはなんとかセリューを立ち直らせようと必死に慰める。と、その時シェーレは背にかけてあったエクスダスを抜きセリューに切り掛かった。
「ッ!!コロ!」
セリューはとっさにコロに指示をしてソレを止める。巨大化したコロはシェーレに向かって拳を放ち、距離をとらせた。
「不意を狙ってくるなんて...やはりお前らは悪だな?」
「はぁ?そんなこと言うならあんた達の方がよっぽど悪だっての。警備隊なんて、罪もない人間を自由に殺したりしてたんだし」
セリューはソレを言われ言葉を失う。自分の上司であったオーガがおこなった罪の数々。それは自分が言う悪に他ならない。
「...オーガ隊長を殺したのはお前らか?」
「ええ、そうよ。あんなクズは殺されて当然だわ」
「マイン、このままでは追っ手がきます。早くここを抜け出しましょう!」
マインとシェーレは互いにうなづきあい、この目の前の女を始末することに決める。先ほどからの言葉といい、彼女はきっと仲間にはならないだろう。ならば、姿を見られた以上殺すしかないのだ。
そんな中、セリューの頭は意外にもクリアだった。それはあの少年の言葉。
『全てを見定めた上での正義を貫け』
(私は、今まできっと間違っていた。だったら!私が最後まで悪かどうかを判断してやる!!)
そう決意し、セリューとコロは戦闘体型を組んだ。
「警備隊も何も関係ない!セリュー・ユビキタス、私個人の意思で決め貴様らを裁く!!」
「キュゥゥウウウ!!」
そして、帝具同士の戦いが今始まった。