タツミが斬る!《赤と黒の鬼》   作:虎神

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プロローグ

人が次第に朽ちゆくように

国もいずれは滅びゆく

千年栄えた帝都すらも

いまや腐敗し生き地獄

人の形の魑魅魍魎が

我が者顏で跋扈する

 

天が裁けぬその悪を闇の中で始末するーーー

 

ーーー我ら全員、殺し屋稼業

 

◆◇◆

 

「ど、土竜だぁぁぁあああ!!」

 

荷運びをしていた男の声が街道にてこだまする。男の目の前には、オケラのような巨大な化物。

《一級危険種 》土竜。それが目の前に現れたのだから。

 

「こ、こんな街道に土竜が出るなんて聞いてねぇぞ!!」

 

「と、とにかく逃げるぞ!!」

 

もう一人、仕事仲間である男が荷を置いて逃げるように言った。彼らとて自分の命の方が大事であろう。

しかし、逃げまどう二人の間に一つの影が映った。

 

「お、おい!お前も逃げーーー」

 

男はその影に向かって叫ぶがもう遅い。土竜は大きな手をその影に振り下ろした。

だがーーー

 

「邪魔だろうが...いきなり道のど真ん中に現れんな!!」

 

振り下ろした土竜の手は、細切れになって大量の血を出しながら落ちていった。その光景を見た荷運びの男達が息を飲んだ。

子供だ。右手に真っ黒な剣を持った子供が、そこに立っているのだ。

土竜は痛さのあまり呻き声を大きく上げるが、すぐさま自分をこのような目に合わせたソレを睨む。

 

『グオォォオオオ!!』

 

「うるせい。恨むなら自分を恨め」

 

残った手で再び攻撃をする土竜だが、その影はするりとソレを避け反対の手同様細切れにする。そして、肩に跳躍し土竜の頭を見据えた。

 

「終わりだ」

 

刹那、凄まじい斬撃の嵐が土竜を襲った。

その影が地面に着地した時には、もうすでに土竜は地に伏せていたのだった。

 

「まぁ、こんなもんか」

 

「少年!!凄いじゃないか、危険種を一人で!」

 

男達は、戦闘が終わったのを見てか木の陰から出てきた。なんともいい笑顔だ。自分たちの生活がかかっている物が帰ってきたのだから、それは嬉しいはずだ。

 

「ああ、まぁな。一応帝都で一旗上げる気だしな。これくらいできねぇと」

 

「ッ!!帝都...か」

 

少年のその言葉で、男の顔が曇る。

 

「どうした?」

 

「少年、君が思っているほど帝都は良い場所ではない。土竜(これ)なんかよりタチの悪い奴がうじゃうじゃいるんだ」

 

「わかってる...人間だろ?」

 

「...そうか、わかってるなら良いさ。これから俺たちも帝都に向かうが一緒に行くか?助けてもらった礼も兼ねて」

 

「お、そりゃ助かるよおっさん」

 

おっさんと言われた男は少し顔をしかめるが、すぐにため息を一つ吐く。倒れた馬車を起き上がらせ男達はそれに乗り込んだ。

 

「あ、そういや名前聞いてなかったな」

 

「ん?俺か?俺はーーータツミ。帝都で有名になる男だからよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!!」

 

圧巻した。感動と言っても良いほどだろう。それほどまでに、俺は帝都に心を奪われた。

 

「ここが帝都かぁ〜、ここで出世すれば村なんて買えるかもな」

 

タツミの目的はただ一つ。ここ帝都で出世し、自分の村を救うということだった。実はもう二人ほど連れがいたのだが、事情から村を出るのが俺の方が遅かったのだ。一応あちらも目的地は帝都だから、会えれば良いんだが...

 

「ここ広いしなぁ〜。ま、イエヤスもサヨ強いし大丈夫だろう!とにかく兵舎を探すか!!」

 

心を躍らせながら、タツミは人が集まる道を進んでいった。

そのタツミの言葉に耳を澄ませる人間がいると気づかぬままにーーー

 

そして時間が飛ぶが夜、タツミは一人道を歩いていた。

どうしてかだって?簡単に言うと騙された。兵舎に着いたのはいいものの、一般兵からというのが気に食わなかった為にそこで少し騒いでしまったのだ。すると、兵舎を追い出され、挙句の果てには通りかかった金髪の美人なおっぱいさんに隊長にしてもらうように頼んでやると言われ、そのワイロで金を全部渡してしまったのだ。

すれば後は簡単。現在このように無一文に早変わりだ。

 

(あっんのクソおっぱい!!次あったらアレむしり取ってやる!!)

 

男性らしからぬ最低な考えを持っていたタツミであった。

しかし本当にどうしたものか、このままじゃ餓死する。サヨにもイエヤスにもあってねぇってのにーーー

 

「はぁ、前途多難すぎるだろ俺」

 

誰だよ、あの助けた男の言葉遮って人間だろ?とか答えた奴。今すぐ出てこい、その顔ぶん殴ってやる!!

軽く現実逃避をしていたタツミだが、道を歩いている途中に声が聞こえた。

これは...悲鳴、しかも女だ。

 

「ッチ、こっちか!」

 

タツミはすぐさまその悲鳴が聞こえた方向に走り出す。そして、路地裏。金髪の自分と同じくらいの少女を複数の男が手や口を押さえていた。少女の服は、かすかに刃物で切られた跡がある。

 

「ッ!!助けて!!」

 

少女はタツミの姿を見た瞬間助けを求める。だが、男達が少女の口を再度押さえつけた。

 

「ッチ、なんだガキかよ」

 

「おい、さっさとこいつヤッちまおうぜ?俺もう我慢できねぇよ!!」

 

「ッハ!本当に変態だなテメーは。おいガキ、痛い目見たくなかったらさっさと消えろよ」

 

リーダー格であろう男が、タツミに向かって睨みを効かせる。が、タツミは黙ったまま何も言わない。

 

「おいおい、ビビっちゃってんじゃねぇか。ほら、さっさと消えろって」

 

そして、男がタツミの胸を押したその瞬間だった。

 

「あ?」

 

ゴキッと大きな音が鳴った。タツミを押した男が自分の手を見ると、そこにはブランとぶら下がったような自分の掌があった。ソレを見た瞬間、男に凄まじい痛みが走った。

 

「ぎゃぁぁぁあああ!!?お、俺の手がぁぁあああ!!」

 

「汚い手で触るな下郎が。おい、さっさとその子を離せ」

 

タツミは何事もなかったかのように残り二人の男に言った。

 

「テメーざけんじゃ...」

 

「はい遅い」

 

ナイフを取り出した男の懐にすぐさま飛び出した。男はいつの間にと言うが早く、ナイフを突き刺そうとするがーーー甘い。

タツミはそのナイフを手で受けながすと、もう一人の男の肩へと突き刺した。

 

「お、お前!!何しやがんだ!!」

 

「お、俺じゃねぇよ!!あ...」

 

男が気づいた時にはもう遅い。タツミは振りかぶった足を男達めがけ振るった。その凄まじい衝撃で、男達はドゴンッと音を鳴らし地面に激突したのだった。

そして、最初の腕を外した男に向き直る。

 

「っひ!!?た、助けてくれ!!」

 

「悪いがそれを決めんのは俺じゃないだ」

 

「え?」

 

タツミは助け出した少女を見る。少女は一瞬ボッとしていたが、すぐさま落ちてあったナイフを手に持った。

 

「お、おい!!や、やめてくれぇぇえええ!!」

 

「ふっ!」

 

しかし、男の命乞いもむなしくその腕は振り下ろされた。

 

「....殺さないのか?」

 

「ええ。こんな人を殺したら私が穢れるもの」

 

そう。ナイフは男の股の間に突き刺さっていた。まぁ、あまりの恐怖のあまり気絶しているが

俺は乱れた服を気にしていた少女に自分のコートを肩にかける。

 

「あ、ありがと」

 

「気にするな。別に助けたのもたまたまだから」

 

「で、でも少し礼くらいしたいわ。わ、私に出来ることならなんでもやるわ!!」

 

その言葉にピクッとするタツミ。

なんでも?つまりこの美がつくほどの少女にあんな事やこんな事を?

 

「な、なんだか目が怖いんだけど...」

 

「ハッ!妄想の世界に入ってた。って、女性がそういう事言うもんじゃないぞ?他の奴なら勘違いしちまうかも知らないからな」

 

「?」

 

あらこの子、全然わかってないわ!!?

首をキョトンとかしげる金髪の少女にうなだれるタツミ。見れば、かなり薄着だ。そりゃ、この時間帯にこんな格好でいたら襲われるのも頷ける。

 

「で、なんでこんな時間に一人で出歩いてるんだ?家の人が心配するだろう」

 

「ちょ、ちょっと外の空気を吸いたくて...抜け出してきたの」

 

「だったら上着くらい着て出ろよ風邪ひくぞ」

 

「ごめんなさい...でも、あなたはどうしてこんなところに?」

 

「う...」

 

なんの悪気もないそんな目で見られてしまうと、凄く恥ずかしくなる。とりあえずは泊まるとこがないとだけ言っておいた。

 

「だったら家に来るといいわ!ちょうど貴方みたいな客人二人を招いているところなの!!」

 

「えぇ!?でも悪いしな...」

 

「助けてもらったお礼よ。あ、私はアリアよろしくね?」

 

「いや、まだ決まってな....はぁ、まぁいいか。俺はタツミだ。1日だけ世話になる」

 

そう言って、タツミは金髪の少女アリアの後をついて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、ここが私の家よ!!」

 

「.....」

 

いや、家っていうかーーー屋敷じゃん。

 

「お嬢様!!」

 

「お嬢様どこに行っていたのですか!!?それにその服は!!」

 

アリアが門に近づくと、鎧を着た男二人が息を切らしながらアリアに近づく。

 

「ちょっと藪の中に入って服が破れちゃったの。ソレを見たタツミが服を貸してここまで送ってきてくれたのよ」

 

どうやら先ほどの男達の事は内密にしたいらしい。タツミはその意図が分かり、すぐさま話を合わせた。

兵の男達は少し不審がっていたが、ホッと一息つくと俺も屋敷の中に入れてくれたのだった。

 

「さっきはありがとうタツミ。話を合わせてくれて」

 

「いいって、親を心配かけさせたくないんだろ?」

 

「え...あ、うん...」

 

なんか元気がないか?

そんな事を考えていたが、タツミは屋敷のドアを開けた。すると中は明るく、高そうな壺や高そうな絵。壁、床、天井ともにキラキラと光って見えた。

 

「すげぇ....」

 

「そうかしら?結構普通だと思うのだけど...」

 

これが普通なら俺の村はどうなる。ゴミか?ごみ屋敷か?あ、ごめんなさい村のみんな冗談です。

しかし、本当に大きいな。タツミが辺りを見渡していると二階から優しそうな男女の二人が現れた。女性の方がアリアに似ていたのできっと親だとすぐに分かった。

 

「アリア、いったいどこに行ってたの?こんな時間に一人で出て行くなんて...それにその服」

 

「ちょっと星を見たくて藪の中に入ったら破けちゃったの。あ、彼はタツミよ。私に服を貸してくれたの」

 

「ほぉうそれはそれは...二人とも二階に上がってきなさい。アリアは服を着替えておいで」

 

それだけ言うと二人は二階の奥に戻っていった。

それにしてもあの二人ーーー

 

「じゃあタツミ、私は服を着替えて来るわ。先に二階に行っててくれる?はい、これありがと」

 

「え、あ、ああ」

 

アリアは俺にコートを返すと、自分に部屋に走って行った。

そしてアリアが着替え終わり、俺は今日と明日だけ泊めてもらうことにした。しかもイエヤスとサヨの捜索も手伝ってくれるという。俺はとりあえずこのアリアの父に礼を言った。

ちなみに、どうやら俺の前にいた二人はもう出て行ったようだった。

 

「アリアの勘って当たるんだけどね?きっと近いうちに二人に会えるよきっと!」

 

「ああ、ならその勘を信じて見るよ。ありがとなアリア」

 

「ふぇ、あ、うん...」

 

「はっはっは!アリアにも春が来たか!」

 

「ふふふ、そうね貴方」

 

「ちょ、そんなんじゃないから!!」

 

そう顔を赤くして叫ぶアリアの顔はーーー何故か心のそこからは笑っていないような感じがしたのだった。

 

 




ただ一言

アリアちゃんってかわいいよね?

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