モンハン世界にINしたアルトリアさん   作:エドレア

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前回のディアブロス戦、ufo版UBWのセイバーVSバーサーカーを意識してたんですけどわかりますかね?


act-2 観察:影蜘蛛ネルスキュラVS黒狼鳥イャンガルルガ

 日は既に西の彼方へ去った頃、アルトリアは最初の遺跡に帰還した。あの後も探索を続行したのだが他に拠点となりそうな場所を見付けられなかったからである。元々食料確保を念頭に考えた探索だったためアルトリアはそれほど重要には考えず、また開けた場所にあり視界の悪いこの森において遠くからでもはっきりと視認できるこの巨大な遺跡は身を寄せるのに適していた。ずっといるのか、それとも一時的な居留になるのかは未定である。それよりも今の彼女には気掛かりな事があった。

 

「むぅ…。いくら振るってみても、先程の現象は発生しませんね…」

 

 角竜と戦った時。聖剣を角竜の角にぶつけた際に氷と雷が不可視の聖剣から飛び散った。それはブリテンで王を務めていた時も冬木でサーヴァントとして振る舞っていた時も全く見掛けなかった現象だ。何故か三つの異なる第五次聖杯戦争の記憶を持つ事にも疑問符が浮かぶが、多少魔術に理解はあるとは言え魔術師ではない彼女がいくら考えても詮の無い事。そっちは一旦保留とする。

 

 アルトリアは帰還の道中にこの不可解な現象を確かめていたが芳しい結果は得られていない。今もそこいらの木々に聖剣を振るってみせたが氷と雷が舞うような事は無かった。湖の乙女から授かり幾多の苦境を共に乗り越えてきた唯一無二の相棒がここに来て初めて見せた変化である。当然、アルトリアとしてはこの変化を確認せずにはいられない。もし不調が認められれば彼女にとって最大の死活問題となる。それだけはどうしても確認せねぱならなかった。

 

「雑魚避けとしてこの角はここに突き刺しておきますが…。それにしてもここまで効果があるのは驚きですね」

 

 帰還中、アルトリアは他の生物と接触する事は無かった。遭遇するにはするのだがどの生物も出会った途端に血相を変えて逃げてしまうのである。角竜と戦う前、ランポスやそのご親戚など他様々な肉食動物に狙われその度に閃光を放って対処してきた彼女だが、角竜の立派に捻れた角を所持してからはそんな事は無くなった。折れてなお残る角の威厳に震えたか、それとも猛る暴君の証を所持しているアルトリアそのものに畏怖の念を感じたか。どちらなのか今の彼女には判別する事は出来ないが角のおかげで厄介事を回避出来たのは事実である。ただそれもあってアルトリアは角竜戦以降、他の生物に聖剣を振るう機会が無かった。最初に彼女を狙ったランポス達の時も風王結界から滲み出る風の刃で直接触れずに斬ったためその時も氷と雷を確認することは出来ずにいた。

 

(やはり、生き物を相手に振るうのとそうでないとで違うようですが…。迂闊に戦闘へ踏み込むのは危険ですしかといってアサシンの真似事をするのも私では難しい)

 

 如何にしてこの問題を解決するか。目下のところ、それが最優先事項である。しかし既に日が落ちた今、不用意に森を出歩くのは極めて危険な行為である。文明の利器も何も無い世界では日が落ちればあっという間に夜闇に包まれる。昼間こそその巨大さを外に示していたこの遺跡も流石に暗闇で見付けるのは難しい。アルトリアは一先ず、ここで夜を明かす事にした。遺跡の外壁に腰掛け手には聖剣。常在戦場、寝るとは言ってもすぐに対応出来る警戒体制である。

 

(とりあえず今はなるべく消耗しないように心掛けましょう。多少を腹も満たしましたしこれで明日一杯は何とかなるはずです。…味に関しても今考える事では無いでしょう)

 

 食べられるかどうかの判断は完全に素人のアルトリアである。多少毒に当たったところで常識の埒外にある彼女の身体なら幾らか耐えられるだろう。それでも不味くて食えた物ではない物に当たる事の方が多かった。寝る前に一つ思う。

 シロウの料理が食べたい、と。

 

 

 

 

 幸いにも夜襲は無くそのまま寝入ったアルトリアが起きたのは東の空が青く霞みはじめた頃だった。自発的に起きたのではない。外部の異常を関知したためだ。常人の感覚を遥かに越えたアルトリアの嗅覚がそれを捉える。ブリテンにいた頃戦場で何度も嗅いだ臭い。これは───。

 

(火…?焦げた臭いが風に乗って…?)

 

 風に乗って流れてきたのは物が燃焼する臭いだった。角竜と出会った方とは逆、遺跡を中心にしてみれば北の方角から物々しい気配が漂っている。何らかの脅威がこの近辺にいるのか。じっと待つより動くのがアルトリアである。彼女は慎重を期して件の臭いを調べるため北へその足を進めた。

 

 邪魔な木々を伐採しながら進んで行く。徐々に火の気が強くなる。所々、焦げた木や地面が見えていくうちに周囲の環境の変化に気が付いた。網目状の糸が木々を繋ぎ高所に一つの領域を形成している。蜘蛛の巣に見えるがそれにしては余りにも巨大だ。その蔦と共に作られた平坦な場所に二頭の大型モンスターがいた。

 

 一人はこの巣の主影蜘蛛ネルスキュラである。機敏な動作と糸で獲物を翻弄し捕食したゲリョスから溜め込んだ毒で獲物を仕留める狡猾なハンターだ。それと相対するのは黒狼鳥イャンガルルガ。目に付く者全てに戦いを挑む自然界屈指の戦闘狂。鋭い嘴から繰り出される一撃、放たれる火のブレス、尻尾に備わる猛毒を孕んだ刺。どれをとっても危険な、鳥竜種では割りと珍しい獰猛なモンスターである。

 

 どうやら影蜘蛛の巣に黒狼鳥が侵入してしまった事による戦闘のようだった。焦げた臭いは黒狼鳥が辺り構わず滅茶苦茶にブレスを乱発したのが原因。影蜘蛛は一部喰らってしまったのか纏ったゲリョスの皮が焼け落ちていて元々の白い甲殻が露出しており、本来ならあるはずの毒を溜め込んだ背中の結晶も無残に砕けてしまっている。対する黒狼鳥は目立った外傷も無くその特徴的な甲高い鳴き声を辺りに響かせながら影蜘蛛に猛攻を仕掛けていた。

 

 影蜘蛛からすれば極めて相性の悪い相手である。自身が嫌う雷から守るための鎧として纏っていたゲリョスの皮も黒狼鳥のブレスの前には無力である。反対にこちらから得意の毒で攻撃を仕掛けても黒狼鳥自身の特性として毒を一切受け付け無いので単純な物理攻撃に成り下がってしまう。そして黒狼鳥の硬く発達したその甲殻を影蜘蛛が貫くには攻撃力不足と言えた。自慢の糸で拘束しようにも簡単に引きちぎってしまう。侵入してきた時点で逃げていればまだ影蜘蛛に立て直しが利いただろうに、この影蜘蛛は対応を誤った。まぁ自分で組み上げた家をみすみす手放してなるものかと思うのは仕方の無い事ではあるが。

 

(竜が火を吹くのはまだしも鳥が火を吹く世界なのですか…。鳥かどうかも怪しいですが出来ればあの火を入手したいところですね。そのためにもあの大蜘蛛にはもう少し粘って貰いたいものですが、さてどうなる…?)

 

 アルトリアは戦っている二頭と程近い、下の地面の茂みに身を隠しながら二頭の戦いを観察することにした。サバイバル生活における火の重要性は彼女とて理解している。あわよくば、漁夫の利とまではいかないもののこの場に居合わせた事の収穫を得たいものである。

 高所の戦闘エリアでは未だに燃えている黒狼鳥の攻撃痕が残っている。これを穏便に入手するには影蜘蛛が倒された後に黒狼鳥が速やかに立ち去ってくれればそれが可能となる。ほぼ圧勝といえる黒狼鳥だが全く消耗していないわけではあるまい。疲れを癒やすためにさっさといなくなってくれれば御の字である。アルトリアはそう思いつつ二頭の様子を見守る事にした。

 

 

 

 

 この日は豊かなこの森に珍しく、強風が吹き大気もかなり乾燥していた。そのような森林に勢いのある火種があればどうなるか…。この時のアルトリアに知る由は無かった。




先に設定をぶっちゃけると聖剣はモンハン世界の生き物に攻撃した時点でモンハン世界の法則が適用される仕組みです。風を纏っている状態なら氷と雷の複属性である「風」属性になり解放した状態なら火と雷の複属性の「光」になります。使いこなせば三属性扱えるようになる便利システムですが今のアルトリアはまだ分かりません
あと森林火災についてはこの森では滅多に起こらない現象としています

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