モンハン世界にINしたアルトリアさん   作:エドレア

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与太話
イリヤ「バルバレ周辺の大砂漠にて傷だらけのダレン・モーランの目撃報告あり…それも一個体だけじゃなくて複数か…」
大長老「イリヤ、これは仕事だぞ。重ねて言う、これは仕事だ」
イリヤ「分かってますよ~(アルトリアちゃんに会える~♪)。…それはともかくアルトリアちゃんがいたあの未調査地域、密猟者が入ったんですって?」
大長老「うむ。勿論ギルドナイトを差し向けようとしたがな…」
イリヤ「あの片角のディアブロスに瞬殺されたんですってね。まぁ自業自得ですがそれで気が立ってるとか」
大長老「その事もあって一度ペンドラゴン殿をこちらに呼び戻したい。ペンドラゴン殿は信用しているというがやはり確認すべき事案ではあるからな。ムウロメツよ、貴殿にはその間のペンドラゴン殿の代役を頼みたい」
イリヤ「お任せ下さい!アルトリアちゃんに貸し作れるのはまたと無い機会ですしね~。何をお礼に貰おうかな…?」
大長老(厄介な者に好かれたものだな…。強く生きるのだぞ、ペンドラゴン殿…)

久しぶりのイリヤ回


act-18 遠射ちのイリヤ

「遺跡平原ティガレックス討伐、確認しました。これで皆さん、HR3になりましたね」

 

 受付嬢から昇格したことを告げられる。

 早いもので既に2ヶ月、アルトリアが率いるパーティはHR3へと順調に進んでいた。

 

 

 

 

 

「流石にアルトリア女史のようにはいかなかったがそれでも手を借りずにクエストを成功させたのは我ながら中々だと思うよ」

「そうですねー。プレテオさんがティガレックスの注意を惹き付けてくれててあたしもやりやすかったですしヴォルグ君も尻尾斬り、見事でした」

「与えられた役割をこなしただけだ。アルトリアと比べるまでもねぇだろ」

「私と比べるのはともかくとして三人とも素晴らしい動きでした。私が補助に回る事も無いですし、少なくともルーキーは卒業してきた頃合いでしょう」

 

 アルトリアが三人を褒める。おおよそ2ヶ月ほどに渡って地道にクエストを完遂させていった結果HR1から2へ、そして3へと遂に至った。次の上位昇格クエストをクリアしてしまえばアルトリアとの強制パーティはそこで終わりとなる。完全に別れるわけでもないため感慨深いというほどでもないがそれでも一つの節目になるのは分かりきっていた事だった。

 

「アルトリアさん、ギルドマスターから話があるそうです。重要な話らしいので早めに伺って下さい」

 

 アルトリアに業務連絡。アルトリアは極めて真面目な性格だ。このような事を聞けばアルトリアはすぐに行動する。

 

「やぁアルトリアさん。大長老から手紙を預かっていてね。すぐにドンドルマへ戻ってほしいそうだよ。内容はここに」

 

 手紙を受け取ったアルトリアが中身を読む。次第に顔付きが険しくなっていった。

 

「なんて…書いてあったんだ?なんかやらかしたのか?」

「内容については話せませんが…ともかく一度ドンドルマに戻らなければならないようです。貴方達の教導を切り上げるわけでもなくあくまで一時的なものなので心配する事はありません」

「えっと…お姉様はこっちにまた来るんですよね?」

「ええ。ですからその間、代役の者がギルドから派遣されてきます。私の知り合いですよ」

「ふむ、アルトリア女史の知り合いですか…。そちらの方も中々の実力者なのでしょうね」

 

 どうやらあの角竜の様子を確認せねばならないらしい。雑魚を蹴散らしたところであの角竜は満足済まい。一戦、相手の憂さ晴らしを解消する羽目になるのは確実だがそれよりもアルトリアには懸念する事があった。イリヤに果たして代役が務まるかという極普通の疑問。普段が普段なので誤解されがちだがあれでも歴としたギルドナイト、仕事はやる女である。そう、ヘマをしないだろうと思考から除外し三人に向き直る。

 

「彼女は既にこちらへ向かっているそうで明日の朝には集会所で待機していると思われます。貴方達はいつもと同じ時間に向かうだけで他は特に指示する事はありません。合流後は彼女の指示に従って下さい」

「彼女…?なるほど、これはまた麗しきレディとの出会いが待っていると………じょ、冗談ですよアルトリア女史。そのような怖い顔で見つめられたらたまったものではありません」

「…まぁ、彼女が貴方のような者になびくとは思えませんが…。私は今日の夕方の便でドンドルマへ向かいます。こちらへ戻って来るのは…そうですね、早くて五日後か六日後、遅くとも十日後には戻ってきます。それまでは彼女の麾下にいて下さい」

「りょ、了解です!…お姉様の知り合いってどんな方なんだろう…?」

「夕方にもう出るのか。あと二時間くらいじゃねぇか?」

「そうですね。それでは各自、武器防具の手入れを怠らないように明日に備えていて下さい。特に最近装備を新調した二人は念入りにしておくように」

 

 ヴォルグとプレテオは初心者装備から既に脱していた。ヴォルグが纏うのは攻撃力を上昇させる効果があるというバトルシリーズで担いでいるのはアギトと名の付いた無骨な大剣だ。バトルシリーズが少々見劣りするが本人曰く、大剣を扱うのに他の余計な効果はいらないとの事。難しい事を考えずにただ真っ直ぐモンスターと向き合うヴォルグらしい言葉である。

 一方、プレテオはゲリョスシリーズにアイアンストライクを担いでいた。あまり格好いいとは言えない見た目だがハンマーに有用なスタミナの消費を軽減させる効果があるという。他にも、素材元のゲリョスらしく毒に対する耐性が付いていたりしていて下位のハンマー使いにはかなり人気の高い防具だ。若干、腹が減りやすくなる効果もあるが装飾品で十分抑えられる。いくら貴族だなんだを掲げるプレテオでも流石に狩り場では有用性を優先するようだ。

 香奈も若干ながら装備を新調している。相棒である荒縄鼓砲には調緒の銘が付き、お気に入りの防具であるウルクシリーズは鎧玉で強化を施していた。香奈はウルクシリーズを脱ぎたくないと言って憚らない。随分と気に入っているようである。

 そして各々が集会所の前で解散する。ここ2ヶ月で当たり前となった光景だった。

 

 

 

 

 

「よっ。待ったか?」

「…待ったか待ってないと言えば待った待った方だけどこの返しは野暮なのかしら」

「相変わらず、堅物なのな。まぁ適当に飲もうぜ」

 

 集会所から離れた食堂。

 ヴォルグとリリーが出会ったその場所はいつしか二人が逢瀬を重ねる憩いの場となっていた。

 

「HR3への昇格、おめでとう。ティガレックスが相手って聞いたけどどうだった?」

「個人的に言えばやりやすい相手だったな。その前のネルスキュラやガララアジャラみてぇな搦め手を使うやつの方が俺にとっては苦手な方だ。ティガレックスは何かと分かりやすい動きばっかしてたからな。リリーはどうしてた?」

「別にいつも通り。町をぶらついて、採集したりして、団長と世間話してた」

「前みたいに名指しで依頼がきた事はないのか」

 

 リリーはバルバレに戻ってきた頃と変わらずのんびりした日々を送っていた。ただそんなリリーも例外的にモンスターの狩猟に赴く事がある。リリー程の高名なハンターともなれば自分から受付で依頼を探さなくても名指しで指名される事があるのだ。依頼者が何かとギルドにとって無視出来ない相手ばかりなのでリリーも依頼を受諾する他無い。最近ではどこかの王女様のためにキリンとその亜種を狩猟してこいと古塔に出向いたばかりだ。勿論、難無くこなしている。

 

「HR3からはまた違ったモンスターが相手になるわ。アルトリアは何か言ってた?」

「それなんだけどよ、あいつ、しばらくバルバレから離れる事になったらしくてさ」

 

 ヴォルグが明日の事情を説明する。聞いたリリーは何故自分ではないのかとちょっぴり臍を曲げていた。どこまでいっても実力があるだけの一般ハンターであるリリーではギルドの裏事情よりお呼びがかかるなんて事はまず無いだろう。ただ何となく、ヴォルグと一緒にいたいからだというリリーの気持ちを察したヴォルグは堪らず苦笑した。これで自分に対しどういう気持ちでいるのか分からないと言うのだから面白い。

 

「この後どうする?またゆっくり採取にでも行くか?」

「…んー…。いい。今日はここでヴォルグと飲んでいたいな」

「そうか。男の前で酒に呑まれるなんてような事は止してくれよ。こないだなんか大変だったんだからな」

「それは…善処する。…けど君に介抱されるのは、なんだか良かった」

 

 夜は更けていく。

 明日からは更に強力なモンスターが相手となるだろう。それに向けて鋭気を養う。

 ヴォルグにとって、束の間に見せてくれる彼女の小さな笑顔こそが何よりの活力であった。

 

 

 

 

 

 翌朝の集会所。

 常に活気付くハンター達で賑わう集会所だがこの日はいつもとは違った喧騒に包まれていた。野次馬のハンター達がその根源を遠巻きにひそひそと眺めている。

 

「おい、あれって…」

「ギルドナイトだよな。バルバレにヤバいやつでもいるのか?」

「あの銀髪…知ってるぜ、弓で超遠距離からモンスターを撃ち抜く『遠射ち』だろ。あいつに殺られた密猟者は数知れずって話だ」

「超遠距離ってどのくらいだよ。ガンナーで一番射程が長いのはヘビィだろ」

「噂じゃあエリアを跨いだ攻撃らしいぜ。フィールドそのものを高い場所から俯瞰して放つんだとか」

「嘘だろ、信じられんねぇよ。弓でんな事できっか」

「けどそれくらい飛び抜けてないとギルドナイトってやってけないよな…」

 

 集会所の壁に寄りかかり腕と足を組む彼女は目を閉じていた。周囲のざわめきが無いかの如く眠っている。いや寝ているように見えるだけで実際はただ瞑目しているだけかもしれない。アルトリアが見ればこんな真面目な表情があったのかと驚くくらい静かだ。腰の脇に鎌蟹ショウグンギザミの弓、イヌキを抱え彼らが来るのを待つ。

 

「おや?いつもと集会所の様子が違うね。これはどうしたというのかな」

「ざわついてんな。あそこの壁にいる女か…?」

「え、ギルドナイト…。まさかまた御嬢様(・・・)がやらかしたとか…」

 

 三人が揃って集会所に入る。三人とも集会所の様子に驚くばかりだ。

 彼女が薄く目を開ける。時折こうして周囲の様子を確認するのだ。そうして自分の望む者がいるかどうかを確認し───アルトリアが擁する三人を視認する。

 完全に覚醒した彼女は三人に向かっていく。途中まで人がわんさかいたが、魚ののけ反るが如く人垣が割れ道が自然と出来上がった。

 

「えー!こっちに来ますよ!どうしようどうしよう…。御嬢様まさかとうとう、人を手にかけたんじゃ…!」

「落ち着けって。ほら、もう来るから話だけ聞いておこうぜ」

「………」

「どうした、プレテオ。やけに静かじゃねえか」

「いや、何でもない。強いて言えばギルドナイトに思う事があるだけだよ。君の珍しい建設的な意見の通り、まずは話を聞こうじゃないか」

「珍しいは余計だ。…で、ギルドナイトがHR3に上がったばっかの下位ハンターになんか用があんのか?」

 

 ヴォルグが強気に出る。周りでは命知らずな、とか粋がりやがって、などヴォルグの行動を責める野次が小さく飛んでいた。彼女は彼らの前に着くと一転して相好を崩し───。

 

「へぇ。君達がアルトリアちゃんのお弟子さんかぁ。うんうん。ギルドナイトに対してのその物言い、私は嫌いじゃないな」

「…おい、まさかアルトリアの代役って…」

「そーそー。お察しの通り、このギルドナイト、イリヤ・ムウロメツがアルトリアちゃんのいない間君達の面倒を見る事になったの。よろしくね?」

「え、ええっと、む、ムウロメツさんはお姉様とどんな関係なんですか?」

「お姉様…?へー、アルトリアちゃんそういう風に呼ばれてるんだー。私とアルトリアちゃんの関係?一言でざっくり言えば友達かな。堅苦しいの好きじゃないから普通にイリヤでいいよ」

「ハハハ。ギルドナイトと交友関係があるとはアルトリア女史は凄い人脈を持っているのですね」

「そーだよー、アルトリアちゃんは色々凄いよー。まぁほとんど話せる事じゃないんだけどね!」

 

 今この中でイリヤに対する態度が一番おかしいのはプレテオだ。いつもなら美女の一人でも見れば胡散臭い美辞麗句をこれでもかとばかりに垂れ流すくせにイリヤ相手には全く発動していない。長いとは言わないが今まで一緒にパーティを組んできた二人にとってこんな様子のプレテオは初めてだった。

 

「それじゃー、ちゃっちゃっと狩りに行こっか。下位クエ…お、火竜夫妻の狩猟クエあるじゃん。これにしよー」

「え、おい、ちょっと待ってくれ。リオレウス自体俺ら初めてなのに番のリオレイアまでいる二頭クエなんか難易度高過ぎるぞ」

「だいじょぶだいじょぶ。レウスの方は君達に経験積ませるためにそっちに任せるからレイアは気にしなくていいよ。レウスの一頭狩猟クエにしてあげるからさ」

「以前のお姉様みたいに瞬殺するのでしょうか…」

「アルトリアちゃんそんな事してたんだ。少しは注意しておくべきかな…?」

 

 イリヤが受付から依頼書を漁り強引に三人を引き連れる。野次馬はまるで市場に肉として売られていくアプトノスを見るかのような目で見送った。

 

 

 

 

 

 

「巣にいたのが雌じゃなくて雄とか珍しい事もあるんだねぇ。さて、レウス初狩猟の感想は?」

 

 遺跡平原エリア5。

 主に飛竜種が寝床とする場所で遺跡平原の中で最も高所にある。そのすり鉢状になった真ん中の巣で討伐した火竜を横にイリヤは三人の様子を確認していた。

 

「…あー、あれだ、最初「閃光玉ずっと投げてるだけにするね~」って言われた時は何かと思ったがものすげぇ助かった。あいつ飛ばれると面倒くせぇのな。閃光玉調合分必須だわあいつ」

「百発百中でしたよね、閃光玉。やっぱ実力のある方ってそういうとこも凄いんでしょうか」

「別に閃光玉くらい慣れてればこれくらいできるよ。さて、今度はレイアを探そうか」

「…何故、巣にいたのが雌ではなく雄だったのでしょうか。そこが少し気がかりなのですが」

「たぶん、まだ番じゃなかったんじゃない?」

「まだ…?」

「推測なんだけどここは元々今狩ったレウスの縄張りでそこにレイアが紛れ込んできたとかじゃないかな。お互いまだ見知らぬ者同士だったから遠くで雄が戦っても雌は知らない事だから反応してこなかった、って感じ?」

「おお~。あたしじゃそんなに分かりません」

「だな。こういうのは流石ギルドナイトって言ったところか」

「…まぁギルドナイトというのはモンスターを狩るだけに及ばず様々な事を生業とすると聞きますしね。こういう事も仕事の一環として必要な能力なのでしょう」

「確かによくやるね~。…さて君達はここで待ってて。今からさくっとレイアを殺ってみせるから」

 

 イリヤは今いる場所から更に上、突き出たてっぺんへと器用に登っていく。イリヤのこの行動には三人とも疑問符しか浮かばない。雌火竜を探すと言っているのに山を登る意味が分からないのだ。

 

「おーい!何やってんだ、イリヤ!登ってる意味がわかんねぇぞ!」

「いいから見ててよー!ここから討伐するからそっちは私の指した方向を双眼鏡で見てるといいよー!」

 

 イリヤが指した方向にはエリア4が見える。クエストに行く前、イリヤに持っておくよう指示された双眼鏡で覗いてみると流れる小川から水を飲んでいる雌火竜の姿が確認できた。こうして発見出来たは良いがここからどうするのだろうか。

 と、三人が双眼鏡で見る雌火竜に変化が起きた。突如として雌火竜の頭や背に矢が突き立てられていく。それもそこらのハンターが放つような一撃ではなく中れば地面すらも砕きかねない一条だ。それが一つ二つというレベルではなく超局所的な雨のように雌火竜へ降り注いでいる。雌火竜は全く認識出来ない攻撃に対処する術もなく反撃も出来ないまま一瞬で沈んでしまった。

 唖然とする三人。アルトリアもそうだがこんな常識はずれのハンターが上にまだいるのか。ようやくハンターとして少しずつ進んだばかりの三人にとってイリヤは別世界の住民にも思えた。

 イリヤが山の頂上から降りてくる。別段、特に変わったところも無く平時の様子だ。

 

「どうだったかな。割りと、ギルドナイトっぽい格、見せる事が出来たと思うけど」

「なぁ、あんた…双眼鏡持って無かった…よな?」

「裸眼だよ~。これが私の普段のスタイル。相手が認識出来ないところから一方的に狙撃するんだ。位置さえ分かればどこであろうと射ぬいてみせる。ついでに言うとあの矢の威力や連射速度も私独自のものだね」

 

 あっけらかんと笑うイリヤ。なんというか、まるで2ヶ月前、初めてアルトリアと会った時の既視感がある。

 アルトリアが帰ってくるまで、また違う一時を過ごす事となる三人だった。




与太話
アルトリア「これで懲りたでしょう。しばらくは大人しくしていて下さい」
角竜「………(気絶している)」
セレット「久しぶりのアルトリアさんだニャ!嬉しいニャ!」
アルトリア「お元気なようで何よりです、セレット。ウェールズも以前よりは力を付けたようですね」
ウェールズ「………」
セレット「アルトリアさん、今回は帰ってきたとかじゃないって言ってたけど…」
アルトリア「ええ。少し、お偉方に呼ばれまして森の様子を見てくるように言われたのです。申し訳ありませんがすぐにまたここを離れます」
セレット「そっか…それは仕方ないのニャ。いつでもここで待ってるからアルトリアさんはまた頑張ってくるといいニャ」
アルトリア「ありがとう、セレット。ではまた」

…一週間のうち月火に投稿するのがモットーです

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