狩人「…団長、ドンドルマに長居し過ぎたのは私のせいですがバルバレに何か用でも?」
団長「ああ。なんか風の噂で大長老に認められた騎士ってのがバルバレにいるらしい。ギルドのお偉方直々に教導を受けたとかなんとか。面白そうだし寄ってみようと思ってな」
狩人「他の皆は…」
団長「あいつらもあいつらでやりたい事はあるさ。みんなで旅をするのは勿論大好きだがな。ま、またみんな集まって旅をするさ。それまでのインターバルみたいなもんだ」
狩人「…そうですね。私も久しぶりにバルバレへ顔を出してみます。久しく見ていませんでしたし高みを目指して高難度の狩猟を続けてきましたがたまにはのんびり採取でもしていようかと」
団長「それが良い。ここんとこのお前さんは生き急いでいるようにも見えたからな。急くのは若者の特権みたいなもんだがそれでポカやらかしちゃあしょうもない。天廻龍を討伐した時みたいにゆっくりしていけ」
…遅れに遅れた投稿。弁明は後書きにて
クエストから帰還ししばらくして、ヴォルグは一人でバルバレ市場を彷徨いていた。
あの後四人は一時解散となった。アルトリアは別に宿があるのでそちらに行き香奈は話を聞きたいのかアルトリアに付いて行く。プレテオは調べ物があるといって何処に去っていた。
今のヴォルグにやることは何も無い。明日の朝にまた集合して狩りに赴く事とくれぐれも問題を起こさないようにとそれだけの旨をアルトリアから伝えられている。ヴォルグとしてはアルトリアの麾下にいる以上下手を打つような真似はしたくなかった。集会所にいると前に喧嘩を起こした他のハンターとも鉢合わせる事になるため集会所から離れた場所を散策する事にしたのだ。宛も無く、フラフラと彷徨よってみる。
「酒場…単なる食事処か。腹も減ったし寄ってみるか」
既に夕暮れを迎えているがバルバレは未だ活気付いている。早いうちに仕事を終えたのか仕事終わりの商人やらなんやらが目立たない場所にある小さな食堂で腹を満たしていた。商談混じりの喧騒が聞こえてくる。集会所から離れた位置にあるここはその不便さもあってハンターには利用されていないようだ。見れば他にハンターと思われる姿は一人もいない。窮屈だからと頭装備は脱いでいるがそれでも一般人ばかりの食堂にハンターが一人いるのは衆目の目を集めるのに十分な要素だった。
眼光で威圧し適当な席を確保する。顔は整っている方だが常に憮然とした表情なので初対面から良く思われる事はあまりない。加えてハンター自体、人によっては敬遠されるならず者の職業だ。そそくさと、ヴォルグの周りから人が離れる。屋根も壁も無い、敷居が無いこの店でヴォルグの周囲のみぽっかりと人が空いていた。そのまま店の奥、厨房に一番近いカウンター席に座る。
「親父、酒。それと適当に摘まめるやつ」
店主は竜人族の男性だった。人間で言えば壮年ともいえる外見だが竜人族は人間より遥かに長い時を生きる。一概に見た目で年齢を判断できない。
店主は無言でヴォルグを一瞥し調理に入った。口数の多い店主ではないらしい。
料理ができるまで物思いに耽る。
正直言って酒を飲み尽くしたい気分だった。気に入らない貴族野郎と弱そうな見た目して仕事はできる女。そしてあの秘めた実力を持つ騎士。どうも調子が良くない。明日にまた狩りに行くと分かっていても酒で全て吹き飛ばしたいような、いやしかしそんなのはただの現実逃避だ。派遣されてくるギルドの職員がいけ好かないやつなら頭に一発入れてやろうとでも思っていたが中々に曲者だったりする。少なくとも今の自分では無理に挑みかかったところですぐさま制圧されるだけだろう。
「はぁ…。俺らしくもねぇ」
程無くして酒とつまみが運ばれてくる。こんな時に気の合う仲間か友人がいれば肴を楽しめるものだが生憎とヴォルグにそんな者はいない。そもそも人と騒ぐのはヴォルグの趣味ではないのだ。一人寂しく、酒を嗜む。
と───。
「ここ、隣良い?」
女の声。
声のする方を見れば燃えるような赤毛を腰までストレートに伸ばした女がその髪に反する冷たさを伴った顔でヴォルグの左にいた。相当な美人。しかもよく見れば只者ではない事も分かる。操虫棍に防具、どこからどう見てもハンターだ。それもヴォルグのような駆け出しハンターが身に付ける類いのものではなくモンスターの素材が使われた一級装備。頭防具は邪魔なのか腰に紐でくくりつけている。残念ながらヴォルグにはそれが如何なる装備なのかを推察する事は出来なかった。元より駆け出しの身、装備を見て相手の良し悪しを判断出来る程経験があるわけでも無い。
「…別に、構わねぇよ」
一瞬、驚きに動きを止めたヴォルグだが灰色の眼光に射ぬかれすぐに返事を返す。本当なら誰が来ようと追い払うつもりでいたが彼女の出現に思考を奪われ空返事になってしまった。しまったと、心の中で舌打ちするヴォルグだが一度認めた以上撤回するような余地は無い。男に二言は無いのだと、変なところで硬派なヴォルグであった。
女は隣に座り、いつものやつ、と簡素に店主へオーダーする。いつものと言うあたり常連なのだろうか。そんな事を思っているとすぐに料理が運ばれてきた。肉たっぷりというか肉しかない料理に大きなジョッキ、摘まむというより宴会か何かに出すような量。見目に合わず随分な健啖家である模様。それを言ったらほとんどのハンターがまずそうだがそれでも線の細い体をした女の前に肉ばかりあるのは些かシュールだった。
女は豪快に食べるのではなく一つ一つ丁寧食べている。がっつり食うのかと思えば拍子抜けする程静かな食べ方。そうしながらチラチラとヴォルグの方を見ている。
「…なんか気に障ったか?」
「いや、そうじゃない。君みたいな駆け出しハンターが一人でここにいるのをおかしく思っただけ。ここはあまり知られていないところだから」
「適当にフラフラしてたらここを見付けただけだ。誰かに連れて来て貰ったとかじゃねえ。ここは穴場かなんかか?」
「うん。集会所の酒場とこっちは似たり寄ったりだけどあっちは絡んでくるやつもいるから。ここは一人で飲みたい時とかに最適」
ポツリと、表情の変化に乏しい顔で受け答える。無口なように見えて存外話せる質ではあるらしい。
「君は…どうしてここに?」
「さっきも言ったろ。適当にフラフラしてたんだ。ただそれだけだよ。アンタは?」
「久しぶりにバルバレに戻ってきたの。だから懐かしいところとか回ってみたくて」
「ふーん…」
「…あの、もし良かったらさ、」
「ん?」
「このあと一緒に何か採取クエストにでも行かない?」
またも驚き。見ず知らずの男を夜に誘うなど見方を間違えればとんだ誤解をされかねない。一体この女はどういう神経でそんな言葉を言ったのか。驚愕が収まったヴォルグの中に呆れの念が浮かんでくる。そりゃ確かに装備を見ればどちらの実力が高いなど一目瞭然だが腕っぷしに自信があるのかこちらがひ弱に思われてるのか。
「アンタ、自分で何言ってんのか分かってんのか?」
「採取クエストなのはその…今あまりモンスターを狩る気になれないの。のんびりしたいんだ。何て言うか、最近走りすぎたように思えて」
そういうことじゃない、と言いたかったがその言葉を酒と共に飲み込む。訳あり…というよりかは休憩がしたいのだろう。肉体的な疲労ではなく人生という長い旅路における休憩。一点見据えて邁進するのは良いが時には立ち止まって後ろを振り返ってみたり他に道が無いか模索してみたり。そんな、人生の休憩に彼女はある。
「採取なら一人で出来るだろ。なんだって俺なんか連れ出したいんだ」
「少し前までとても騒がしい場所にいた。仲間達の喧騒がなんだか嬉しい場所。だからなのかな。こうして一人でいるのはちょっと寂しい。人肌恋しいとかそんな感じ。そこに君がいたから。暇なんでしょ?」
「そりゃそうだが…」
「嫌なら無理にとは言わないけど」
無表情にダメ?と首を傾げてこちらを見る彼女。自分とそんな大差無い背丈なのに小動物のように見えてくる。なぜだか目眩がするのは酒のせいだと思いたい。が、そうなるほど酒に呑まれた覚えも無いのだ。
「…明日にまた狩りに行く用事があるんだ。あんまり長くは付き合えない。それで良いなら付き合ってやる」
「そう、───」
───ありがとう
そう言う風に口の形が動いたが耳に入らなかった。出会ってたった数十分程度、今まで表情を変える事の無かった彼女の顔がほんの僅かに形を変える。笑顔と言うにはあまりにも小さくて、儚いそれは隣にいるヴォルグがじっと顔を見詰めてようやく把握できるものだった。
「…ほら、先に食いもん全部食べちまえよ」
そうね、と返す彼女。目を奪われた、までは肯定するつもりだが心を奪われたなどと断じて認めてなるものか。そんな安っぽい男としてのプライドが込み上がってくる。紅潮した顔は酒のせいだと聞かれてもいないのに誤魔化したいヴォルグだった。
夜の遺跡平原。
時刻はとうに日が沈んで久しい。暗闇が辺りを包んでいるが目の見えない事は無かった。夜空を彩る星々がその恩恵を与えてくれる。そんな自然が生み出す芸術の空の下、エリア9にて二人はキノコ採集に勤しんでいた。
「特産キノコ20個とか…割りとだるいぞ、これ…」
「この手の依頼は時期問わずある。新人の間、目ぼしい依頼が無い時とかはこういうのを日々の糧にしなきゃいけない。ハンターやるなら覚えておいて」
彼女は先輩らしい事を口にする。長い経験があるようだが年齢は幾つなのだろうと柄にも無い事をヴォルグは邪推した。
ここまででお互い名乗り合っていない。どうせ一夜限りの逢瀬なのだと分かっているからだ。下手に名を知ったところで面倒なだけ。そう、ヴォルグは決めこんでいる。
「ねぇ…」
「…なんだよ」
「どうして、一人だったの?」
「一人って…別に、一人で酒飲むくらい珍しい事じゃねえだろ。五月蝿いの嫌いなんだ」
「そうじゃない。一人で集会所の酒場にいるのは普通だけどあそこは本当にハンターが来ないところだから。あの辺り、ハンターには関係の無い物ばかりの市場だし。正直、私以外にハンターがいるのを見たのは初めてだった」
「…偶然だよ。ホントにただ散歩してただけなんだ。そしたらあの食堂見付けて立ち寄ったまでだ」
「仲間はいないの?」
「そんな事気にしてどうする。同じ事を言わせるなよ。騒がしいのは好きじゃねえんだ。第一なんでアンタ、そんなに踏み込んでくる。初対面の人間の内情を詮索するのが趣味なのか?」
「だって、何か抱えてるように見えたから。根拠は無いけどそう思えた」
「っ…何もねぇよ」
「───本当に?」
またじっと見詰めてくる。暗がりでもよく分かるそれはヴォルグを正確に捉えている。先程からヴォルグはこの瞳に弱かった。この瞳の前では如何なる不徳も許されない。そんな一種の聖人染みた瞳にヴォルグは観念した。洗いざらい、昨日あった事、その前の経緯についてを話していく。
「どうして、人を殴ってしまったの?」
「最初はただのやっかみ、売り言葉に買い言葉だ。俺が同期の連中とはまた一段違う実力を持ってるんでそれを妬んだ奴等が気に食わなくてな。俺と組んだ他の奴等の動きの悪いところとか指摘してやったら何様のつもりだとかそういうアホみてぇな事言ってくる。ついカッとなって先に手が出るんだ。おかげで観察処分、よく分からねぇ騎士様の目が付いた」
「…騎士?それって青い防具に金髪の女の子の事?」
「あ?なんだ、アルトリアの事を知ってんのか?」
「驚いた。縁というのはこういう風に結ばれるものなのね…」
一人で彼女が感嘆している。何の事だかヴォルグにはさっぱり分からない。
「アルトリアの知り合いか?」
「いや、彼女にはまだ会った事が無いけど人伝に聞いてる。なるほどね…」
二人でそれぞれ10個、キノコを手に道中、無言でBCへ帰還する。これでクエスト達成、彼女との縁はこれで切れる。ヴォルグはそう思っていた。
「君、名前は?」
「おい、何のつもりでそれ聞いてるんだ」
「………」
「チッ…ヴォルグ・ティーガーだ」
「ヴォルグ・ティーガー…ヴォルグね、覚えたわ」
「俺の名前なんか覚えてどうすんだ」
「私の、名前は、」
「そういうのいいって言ってるだろ───」
「リリーティ・ノーレッジ。ヴォルグ、アルトリアっていう騎士もそうだけど君にも興味が湧いたから。また君に会い行く。だから、私が君の名前を覚えたように君も私の名前を覚えておいて」
強引に約束のようなものを彼女───リリーティは取り付ける。そして有無を言わさず去っていった。
「何だってんだ一体…。ん?リリーティ・ノーレッジ…?」
どこかで聞いた事あるような名だと気付く。いやこの界隈で最も有名なハンターの名を流石のヴォルグとて耳に入っている。その伝説はハンターですら無かった頃、防具も無しに豪山龍と相対した事から始まる。黒蝕竜から起因する狂竜症の一連の事件を解決し世界を脅かす程の規模を誇る超巨大古龍の討伐、加えてドンドルマに迫りくる鋼龍と巨戟龍ゴグマジオスにも見事勝利してみせ他にも様々な逸話が語られる生ける伝説。
我らの団専属ハンターにしてバルバレとドンドルマの大英雄リリーティ・ノーレッジその人だった。
与太話の無い後書き…キャラ増やさないと与太話きつい…
という事で今回はアルトリアは出ない、ヴォルグメイン、夜のキノコ狩りデートの三要素でお送りしました。誰得なんだこれ(自分で言う)
で、遅れた理由なんですが投稿後回しにしてEXTELLAやPSO2、MHF遊んでました。PSO2は最近始めたしEXTELLAやMHFも新しいものなので色々とフル稼働で執筆には手が届きませんでした。これからもどんどんゲームやってくつもりなので小説の更新は前よりスピード下がって週一回更新になると思われます。逆に前の更新速度が異常過ぎたんや…
次回アルトリアをちゃんと出しますのでご容赦を