モンハン世界にINしたアルトリアさん   作:エドレア

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与太話
ドスイーオス「おい、おまえんとこどうだ…」
ババコンガ「こっちは前の大猿の件があったからなるべく子分みんなを外に出回らないようにさせてるよ…。おかげでろくに飯も食えやしない」
レイア「やんなっちゃうわねー。夫も獲物がとられてて内でも困ってるのよ」
ドスイーオス「なんだってんだ、あの余所者め…。食えるだけ食い荒らしやがって」
ババコンガ「とにかく食いまくるからねぇ、あいつ。西の奴らどれだけ生き残ってるんだろう」
レイア「南から大分離れてるし今回はあの二人が出てくるまで時間かかるわよね…」
二人「待つしかないか…」

さぁゴーヤ狩りの回だ


act-8 霹靂の槍、穿つは恐王

「アルトリアさん、ホントに行くのかニャ…?」

「勿論です。既に被害が出ている以上見過ごせる物ではありません。いずれは集落にも迫る脅威でしょうし早い内から危険な芽は摘み取っておく物です」

「ボクらはこれで大丈夫なのかニャ…?」

「ええ。貴方達にとっては怖いでしょうが私にとっては信用のおける相手です。大丈夫、彼は下手な事はしません。何かあれば手筈通りに煙を焚いてくれればすぐ集落に戻ります」

「アルトリアさんが負けるのは想像できニャいから良いけどこっちは別の意味で不安だニャ…」

 

 西から避難してきたアイルーからもたらされた凶報。ある一体の大型モンスターが暴虐の限りを尽くし、西の森は壊滅状態にあるという事だった。まだ西には幾人か取り残されたアイルー達がいて彼らの安否が心配なのだという。アルトリアにどうしても救出してもらいたいという要請だった。

 

「このところ前の大猿以来大きな事件はありませんでしたからね。ウェールズを伴った実戦もまだですしちょうど良い機会になるかと」

「それは分かるニャ。うん、分かる。ボクが言いたいのはニャんで角竜が集落にいるのかという事だニャ…」

「彼は武人然とした考えを持っているでしょうしおそらく私と貴方達の関係も把握しているでしょう。単に私が後腐れ無いよう振る舞えるようにしてるだけでこう言ってはなんですが貴方達の事は二の次だと思われます」

「それはそれでかなり怖いニャ…」

 

 報せを聞いたアルトリアが出陣を決めいざ出向こうとウェールズの手綱を取った時に角竜が何故か集落に現れた。当然集落は大パニックになったが角竜からは戦意を感じられない。アルトリアは直感で意図を読み取り集落を彼に任せる事にしたのだ。根拠も何も無い考えではあるが角竜がアルトリアのいない間に集落を襲うなど今まで角竜と真っ向からぶつかってきたアルトリアからすればそちらの方が考えられない事だった。

 セレットが集落のアイルー達にアルトリアから角竜に危険は無い事を説いている。当事者であるはずの角竜は我関せずとばかりに集落のど真ん中で寝ていた。傍らには集落のシンボルとなったかつての片角がある。本当に集落を襲う気は無いらしい。それにしてもどこから情報を仕入れてくるのか。アルトリアにとって角竜の気になるところといえばそれだった。角竜には角竜にしか分からない情報網でもあるのだろうか。

 

 槍を手に、騎乗する。

 ウェールズもアルトリアのただらぬ雰囲気を察したのか臨戦態勢に入っているようだ。自分もやるぞとばかりに角を大きく光らせている。

 

「では、行ってきます。集落の事は任せましたよ」

「………」

「アルトリアさん、角竜と会話してるのかニャ?」

「いいえ。ただ、何となく、です。通じてくれていると嬉しいのですが」

「い、行ってらっしゃいニャ、ニャるべく早く帰ってくれると嬉しいニャー!」

 

 セレット達から見送られ集落を後にするアルトリア。任務は森西部を荒らしている大型モンスターの討伐、ないしそれに伴うアイルー達の救出。一刻を争う事態にウェールズは疾風の如く森を駆けた。

 

 

 

 

 

 昼過ぎに西部に着き索敵を行いながら森を進むアルトリアとウェールズ。アルトリアがまず始めに気付いたのは森のあちこちに破砕痕がある事だった。自分と角竜が戦った後もこんな感じだがここまで広範囲に痕は残らない。どうやら件の大型モンスターはかなり広範囲を行動しているらしい。遭遇戦になるとも限らないので常に周囲を警戒しなくてはならない。不意を突かれるのはどうしても避けたい物である。

 森を進んでいる内に果てへ辿り着いたようだ。大きな川に出くわした。向こう岸にテントのような人工物が見えるが今は後回しである。上流に沿って至るところに血痕が染み付いていて、辺りには血臭が漂っていた。

 

(まだ新しいですね。辿れば見つけられそうですが…)

 

 上流の先からモンスターの咆哮が響き渡る。禍々しさを感じさせる重低音。ここから少し離れたところに彼の者はいる。慎重を期して咆哮の元へと急いだ。

 

 川から少し離れ、高台になった崖から下を覗く。鎧竜の幼体岩竜バサルモスが生息するエリアだ。そこに血臭を蔓延らせ岩竜の死体を貪り喰らう姿がある。濃緑色の全身に大きく開いた口。ヒルのような尻尾に牙は顎先まで生えたその姿。

 恐暴竜イビルジョー。

 獣竜種のモンスターであらゆる全ての生物を捕食する特級の危険生物。特筆すべきはその食欲で高い体温を維持するために常に飢餓感に苛まれており目に映る生物は恐暴竜にとって全て餌にしか見えない。特定の縄張りを持たず獲物を求めて広範囲を徘徊し砂漠や火山、雪山や凍土などほぼ全ての環境に適応する性質も持つ。遊泳能力もあるのか孤島など隔絶された地域にも姿を現し目撃情報は世界中に渡る。前述した通りその食欲は凄まじく、ある地域では恐暴竜の出現により地域一帯の生態系が絶滅したという被害も確認されている。他のモンスターの縄張りに堂々と侵入しその主をあっさり捕食するなど、戦闘能力や引き起こす被害から金獅子と同じく古龍級モンスターの一角にその名を連ねている。

 

 森を荒らしている犯人はこの恐暴竜で間違いないようだ。先にアイルー達の居場所を確認したかったのだがこうして遭遇しては対処する他無い。恐暴竜はアルトリア達に気付かず食事に夢中になっている。上から先手を打てる絶好の機会だ。

 

(ウェールズ…)

 

 手綱を握る左手に力が入る。槍に風を纏わせ静かに構える。ウェールズもアルトリアの意思を汲み取り足に力を込めた。

 

「ッ!」

 

 腹を蹴りつけ合図し飛び込む。迅雷一閃、人馬一体となった突きは恐暴竜の頭を的確に捉えた。

 

(浅かったか!いや…)

 

 アルトリアはこの一突きで決めるつもりだった。先手必勝、弱点を捉えた突きは確かに恐暴竜の頭を突いたが致死させる事は出来ず並外れたその耐久力で恐暴竜はアルトリアの突きを耐えきったのだ。勿論無傷ではなく大きくのけぞり苦痛の声を漏らす恐暴竜だがアルトリアの突きを喰らって健在でいる。食事の邪魔をされた恐暴竜は怒りの咆哮を上げ全身の筋肉を赤く大きく隆起させた。

 食事の邪魔をした不埒者も喰らってやろうと大きく口を開け迫る恐暴竜。だが───。

 

「遅いッ!」

 

 跳んで躱し、雷を纏った踏みつけを恐暴竜の頭にぶつけるウェールズ。だが先程の突きと違いあまり効いている様子は無い。恐暴竜は岩も投げ飛ばすその膂力でウェールズを弾き飛ばした。

 一旦距離をとる彼ら。それを皮切りに、力で押す恐暴竜とそれを速度で翻弄するアルトリアとウェールズの戦いが始まった。

 恐暴竜は巨体で強かった。繰り出す一撃は大地を容易に割り並の者であれば対抗出来ぬまま、喰われていくだけだろう。対してアルトリアとウェールズは小柄で身軽だった。幾度も恐暴竜の牙が迫るがそれをギリギリで避けている。その度にアルトリアが確かな傷を恐暴竜に付けていく。

 最初の一突きで仕留められなかったため長期戦になるのを覚悟していたアルトリアだったが戦況は明らかだった。徐々に恐暴竜の全身に傷が増えていく。

 

 それを近くの小さな遺跡郡から見ている影があった。

 

『おお…。あれが例の戦女神かニャ…』

『素晴らしいニャ…。キレイだニャ…』

『凄いニャ、優勢だニャ!これでワタシらは安泰だニャ!』

 

 取り残されたアイルー達は身を潜めながらきっと来てくれると祈っていたアルトリアの姿に感涙していた。あの火災からただでさえ森が荒れていたというのにそこに川の向こう岸(・・・・・・)からやってきた災厄。絶望しかない状況の中でアルトリアの救援は彼らにとって唯一の光となる希望だった。

 彼ら以外にも戦いを見守る者がいる。現場の遥か上空、火災の際にアルトリアを狙ったあの火竜が戦いの様子を見ている。感嘆の溜め息のような息吹を漏らすと北東の巣に帰っていった。

 

 昼過ぎから続く戦いは場所を移し、日が落ちかける頃には西の川縁に出ていた。全身に傷を負い満身創痍に見える恐暴竜だが未だ倒れる気配は見せない。アルトリア達は傷を負う事もなく悠然と恐暴竜の前にいたが精神的には大分参っていた。この勝負、体の強さ云々よりも先に心が折れた方の負けだ。

 

(随分としぶといですね…手負い(・・・)であったというのによくやるものです)

 

 手負いというのはアルトリアが負わせた傷の事ではない。高台から確認した時に見えたのだが恐暴竜の背には幾つか矢が刺さっていた。この恐暴竜は手負いのまま、どこからか迷いこんできたのだろう。

 

「人が近くにいるのなら話を聞きたいものですが…!」

 

 矢を使うような存在は人間しかいない。或いはアルトリアの知らない人間に匹敵する知的生命体か。だがそれよりもまずは恐暴竜である。この戦いに終止符を打たなくてはならない。

 恐暴竜が二人を仕留めるべく龍属性エネルギーを込めたブレスを吐いてくる。今まで通りそれを跳んで回避するウェールズだがここでアルトリアは跳び上がった瞬間わざとウェールズから離れ槍を手に恐暴竜の眼前に立ち塞がった。食う事しか考えてない恐暴竜はアルトリアを喰らおうと大きく口を開けアルトリアに迫ってくる。それをアルトリアは避け槍で顔を幾度も突き始めた。この時点で場は整っていた。

 横から胸へ雷撃の一突き。アルトリアに気を取られた恐暴竜はウェールズ渾身の一撃に成す術無く倒れた。

 

「素晴らしい一突きでしたよ、ウェールズ。今日の大金星は貴方です」

 

 ウェールズに労いの言葉をかけるアルトリア。ウェールズも自分が止めを刺せてご満悦の様子である。

 

「おや…?」

 

 森の奥からこちらに近付いてくる鳴き声。あのアイルー達がアルトリアに寄ってきた。どうやら生き残ったのはこの三人だけのようだ。

 

(たった三人、されど三人。他にもう少しいたと聞いていましたが…)

 

 もう少し早く着いていれば。もっと早くに恐暴竜を察知出来ていたのなら。全てはたらればの事である。確かに救えたのだ。今はそれで良い。

 普段はアルトリア以外の者を乗せるどころか体を触らせないウェールズだったが事情を察したのだろう。アルトリアの前に三人が騎乗する。そうして集落に戻ろうと駆け出そうとしたその時───。

 

 アルトリアはほぼ直感、反射的に自身に向かってくる矢を槍で叩き落とした。

 アイルー達は何が起こったのか掴めないようだ。ウェールズは不意討ちされたのが気に入らないのか角に怒りの雷光を溜めている。

 矢の飛んできた方向を見ればそれは彼岸だった。だが放ったと思われる人物の姿は見えない。どうやら相当な射手であるようだ。

 

「…何者かは知りませんがこの借りは必ず返します」

 

 恐暴竜に刺さっていた矢の主かは分からない。だがこの恐暴竜と関係無いようには思えないアルトリアは静かにそう口にし集落への帰途に着いた。

 

 

 

 

 

「イビルジョーを取り逃がしたっていうからさ、わざわざ失敗したハンターに代わって出向いたらとんでもないのを見つけちゃったね」

 

 西の向こう岸。森の奥から弓の嵐の型、しゃがんだ状態から身を起こし女は嘆息する。恐暴竜は生態系に甚大な被害をもたらす危険なモンスターだ。取り逃がしたからじゃあ放っておこうで済むようなモンスターではない。だからこそこの女が二度目の恐暴竜討伐に出向いたのだ。

 

「これは…ギルドに報告物…だと思うけどどれだけ信じてくれるかな。人がキリンに乗ってイビルジョーと戦ってただなんて」

 

 龍弓[天崩し]を背負うその姿は一般のハンターが身に付けるような防具ではなく特別な役職を持つ者にのみ許された物だ。赤を基調としたその礼服には特徴的な印がある。本来なら帽子も被る物だが女は視界が狭くなるのを嫌ってか被らないようでいた。射し込む陽光が銀髪を明るく彩っている。

 

「さっきのは失敗したかなぁ。いきなり矢を放つとかどう考えても良くは見られないよね。でも全く後ろを見ずに叩き落とすとか只者じゃないかも。ちょっと面白くなってきちゃった」

 

 女───ギルドナイト、イリヤ・ムウロメツはそう一人ごち、未知の樹海をアプトノスの引く竜車で後にしていった。




与太話
レイア「ねぇ聞いて!夫からの話なんだけどあの青い人間が白い獣と一緒に余所者を倒してくれたって!」
ババコンガ「へぇ~。棲み家から距離あっただろうに。よくまぁ駆けつけてくれたもんだねぇ」
ドスイーオス「おっしゃあ!これで堂々と獲物を狩りにいけるぞ!部下に知らせてくるから俺はここで失礼するわ!またな!」
レイア「行ってらっしゃ~い。こっちもまたそろそろ夫が出かける時間だし私も巣に戻ろうかしら」
ババコンガ「いってら~。オイラはここでのんびりしてるよ。やっぱあの人間は凄いんだねぇ」

…序盤は、伏線を、撒いておくものだと思うのです。

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